亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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襲撃編の最終話です。


【FILE:74】RE:未知からの脅迫

悪逆の徒に蹂躙されゆく都市に、抗う意志を絶やさぬものたちが居合わせる。

 

善悪は明白、正義と悪も明瞭。光と闇もまた言い淀む必要なく分かたれた両陣営が衝突し、『水門都市』の明日が決めようと、白か黒にどちらに塗り潰されるのかを決めるため戦いが始まろうとしていた。

 

しかしそこに本来いるはずのなかった別の色が混ざる。

 

その色はひどく曖昧で、両陣営を白と黒で表現するなら『それ』はまさしく灰であろうか。

 

奴らを夜の闇、彼らを昼の光と言うなら『それ』はまさしく黄昏であろうか。

 

灰色の黄昏が、水門都市の決戦に人ならざる声で介入する。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

この都市を救うべく動いた戦士たちは、すでに目的地へ向かって移動していた。

ケイは対話鏡に話しかける。

 

「アナスタシア様。非戦闘員は庁舎に収容できましたか?」

 

『問題なく隠せたわ。魔女教でもちょっとやそっとじゃ見つけられんはずや』

 

「叡智の書と人工精霊もそこなら安心ですね。もし奴らがきても空の庁舎にしか見えない」

 

『奴らの要求なんて、一個たりとも飲めへんもん。目指すは完勝。そんなふうに気張ってる男の子がおるもんね』

 

そこまで言うと、対話鏡がまた雑音にまみれて使えなくなった。

 

ケイは、その場から動かない。対話鏡は一つも音を発しない。

それでも都市中の情報がケイの元に集まり続ける。

 

ケイはそれの取捨選択を繰り返し、最後の盤面を構築する。

 

これからやることは人の説得。

 

そしてそれが終われば、いよいよ自身でも動く時が来る。

 

リリアナの歌が始まった。

やれるだろうか。いや、やれるかではない。やるんだ。できると断言する。

 

『可能なら実行し、不可能でも断行する』

 

バカみたいな格言を思い出しながら、ケイは最後の詰めにかかる。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

残った都市庁舎には非戦闘員しかいない。そしてその中でも特大の任務を渡されていた歌姫は、緊張で吐きそうになっている。

 

 

イェーイ、こちら現場のリリアナでーっす!

 

はいはい、今ぁ、私たちは都市プリステラの中央! 都市庁舎にあるミーティア。それを使った歌の披露に挑戦するところでござぁい。

魔女教に占拠された四ヶ所の制御塔! その制御塔を奪還するために、都市に集った最強の顔ぶれが動き出し、四ヶ所同時攻略の作戦に大挑戦!

いずれ劣らぬ兵たち揃いの中、なぜかただの可愛い歌い手である私までもが堂々の参戦、こいつぁ予想外! だけど、引くわけにゃぁいかんぜよ!

 

それじゃぁ、これからこの作戦に私リリアナ・マスカレードと一緒に参加してくれている、イカれた面子を紹介するぜー!

 

なし!!この広い部屋には私リリアナただ一人!!

 

 

寂しいぜ。侘しいぜ。心細いぜ。

 

そして怖いぜ!ちょっと漏れたかも。

 

リリアナはこれから起こることを知らされていた。そしてどうすべきかも知っている。

 

 

でもそれもこれも全部!歌を歌わなきゃ始まらない!

 

 

 

「さあさあ、遠からん人は音に聞けぃ! 近い人は踊りも見にこい! もっと遠い人にはもっと大きい声を出すからそれを聞けぃ!! リリアナ・マスカレード、歌って奏でて踊ってやります! 聞きさらせぇ! ――朝焼けを追い越す空!!」

 

――こんな熱い想いの丈を全部、ぶちまけてやろうじゃぁないですか!

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

放送が始まり、歌姫の熱唱が都市を包む。

 

 

歌と共に各所での戦いは始まった。

 

 

 

たった一人を除いて忘れ去られた『最優』が戦友とともに『暴食』へ切り掛かる。

 

剣鬼恋歌の一幕のような再会があった。

 

『闘神』に挑む若者がいた。

 

新郎を吹き飛ばす勢いで、結婚式会場の扉は蹴破られた。

 

『憤怒』に『太陽姫』はその首を切ると宣言する。

 

 

 

それらの全てが、リリアナの歌に包まれていた。

 

そこからも歌う。歌い続けて、時間が来た。

 

予定よりも一曲多く歌い切って、大きな声で宣言する。

 

『まだまだ!すぐに戻ってきて歌いますのでお待ちくださいよ皆様!!お手洗いに直行しないといけませんので、すぐに、すぐに戻って参ります〜!』

 

歌が途切れても、その効果は消えたりしない。

水門都市は歌の余韻を楽しんでいる。

 

 

その数分後のことだった。都市の住民は思い出すことになる。

余韻など、楽観など、希望など、その全てに丁寧に唾を吐きかけるものがいることを。

決して他者が注目されることを許さないものが到着したのだった。

 

 

『さぁ〜て皆様お待ちかね〜!カッペラちゃん様どえ〜す!!お待たせ!待ちやがってくれてました?やだーもー。クズ肉どもの下半身カピカピでいやがるんじゃねーですか』

 

最も聞きたくない声が都市に響く。

 

剣聖が一変させ。新たな英雄が安定させた空気が蹂躙されていく。

 

リリアナが丁寧に温めて育てた大切なものが凍りつく。

 

『舐めた放送してくれやがってましたからねー。きちゃった!てへっ!』

 

『どうやらまぁーだ性懲りも無く諦めていやがらねえみたいですからねえ。ここら辺で本気ってやつを見せてやりますよ。アタクシ様だって本意じゃねーんですよ?でもあんまりしつこいし、躾はしなきゃいけねーでしょ。きゃははは!』

 

躁鬱を行ったり来たりと感情が安定しない。その乱高下に都市の空気は飲まれていく。

 

『はぁ。まず今から避難所を回って家族を捕まえます。目に入れても痛くない。食べちゃいたいくらいって言うでしょう。それを、やるんですよ。母親を目玉の化け物に変えて、大切にしてるとかほざいた子供を襲わせます。え?どんな意味でって?物理的にも性的にも食わせます。おっきな目ん玉に何挿れられるんでしょうね。アタクシ様が治してあげますから食わせ続けますよ安心してください』

 

一息にそこまでを酷く低い声で言い切った。そして怒声に戻って感情をぶちまける。

 

『てめーらは!その壮大な音楽を聴いて気持ちよくなってりゃいいんですよ!てめーらみてーなクズクズクズ肉どもはアタクシ様を見ながら聞きながら!一生泣きながら腰をヘコヘコしてりゃあーいいんです!』

 

恐怖が嫌悪がそれが街を覆い尽くす。

 

『アタクシがいないところは、寂しいですもんね。いろんなとこに魔女教徒や暗殺が得意な子供たちを紛れ込ませてますから安心してくださいよ。周りを疑え。誰が殺人鬼でしょーか?その中には子どもを攫うのが大好きだったり。虫にたからせて殺すなんてできるのもいるんでおっ楽しみに〜』

 

恐怖が、猜疑が、懐疑が芽吹く。

 

 

殺意が人々に舞い戻る。

 

 

そうして、暴走が始まろうとした時に別の音がした。

 

???

 

 

『ズブリ』と湿った音がして、不快な声が止む。

一部のものにはわかった。あれは刃が人を刺す音だ。

 

そして、打って変わって落ち着き払った声がする。

 

それは決して安心できる様な声ではない。まるで人でないようなどんなモノが出しているのかわからないほどの掠れ声。

 

黄昏の如き灰色の声が、水門都市に響き渡る。

 

 

 

水門都市の皆様へ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

は!?

 

 

 

 

都市のほぼ全員が絶句する。それは存命の大罪司教も含めてだ。

 

勘違いしてくれるな、色欲は一時的に意識を奪っただけだ。もうすぐ起きて暴れ出すとも。私たちが殺したのは別のものだ

 

宣言は全てを置き去りに続いていく。

 

君たちを色欲の悪辣な脅迫から解放してあげようじゃないか

 

笑っているのだろうとわかる声色で、信じられない言葉が続く。

 

これ以上色欲に与するならば、都市ごとお前たちの人質を殺す。ちなみにだが、魔女の遺骨が持ち去られた場合も都市は機能不全を起こし水没する。魔女教に従うのはどのみち人質を死なせる道だと理解しろ

 

ちょうど王選候補者が揃っている、変異させられても後で龍の血による救済を嘆願すれば良い。生かして変えるという脅迫と都市ごと殺すという脅迫、どちらが致命的かはわかるだろう?

 

さも当然と言った風に、一息に脅迫を行った。皆が聴いていたが、理解が追いつかない。

 

カペラの子供たちに告ぐ。まず贈り物だ。相手が色欲かどうか確かめる方法を教えてやろう。簡単な合言葉だ。「カペラは誰からも愛されない」これは色欲が口にできない言葉だろう。ぜひ活用してくれ

 

まぁ本人に言わせようとすればそこでキレて変異させられるだろうが、そいつらがどうなろうとどうでもいい。

不和の種を蒔いておくだけでも十分だ。

 

そして君らを受け入れる準備がある。離反するなら今だ。すでに1年以上『魔獣使い』は離反したのに殺されていない。こちらは他にも色欲を判別する手段を持っている

 

大罪司教は不死でも無敵でもない。それをこの街で証明しよう。どのみち奴らに長く付き合えば殺される。それくらいはわかるだろう?

 

 

改めて、水門都市の皆さんへ要求する。何もするな。探し物をするな。暴れるな。争うな。もし破れば水門を破壊して魔女教をこの都市ごと殺す

 

私は魔女教の敵だ。君たちの味方ではない

 

 

再びの絶句。誰もが追いつけないままに最後の宣戦布告までを終わらせた。

 

最後に魔女教徒の皆さんへ。せいぜい水門を守りきってみたまえよ

 

 

 

続くのは意識を取り戻したカペラの発狂と『は は は』という笑い声。

 

大きな何かが暴れる音がして、放送は終わった。

 

 

困惑が、都市を支配している。

 

 

都市に響いた二人の英雄の声は住民たちに勇気と希望を与えた。

 

次に響いた色欲の声は絶望を。暗い影を落としたのだが。

 

今の不気味な声は、ただ事実を述べそして脅迫を行った。

その事実に希望を見出すものもいる。しかし混乱の方が大きい。

 

だからこそ人々は、動くことはできなかった。

 

水門都市の熱気は向かう先を見失ったように混迷し続けている。

 

 

 

 

そんな停滞する都市の中を全速でかける白い人影がある。

 

白い外套を脱ぎ捨てて、エルザは笑った。生まれて初めてかもしれない。声を出して大笑いをするなんて。

 

同時に各所の水門で爆発が起こる。

 

生まれて初めてだ。こんな気持ちは!

 

笑いながら水門都市の屋根上を走る。走る。走る。

 

善悪の境が曖昧に、光と闇が混ざり合った混沌を飛び越えて、ただ駆ける。

 

 

その刃でやるべきことを果たすために。

 

 




次から反撃編です。大変お待たせしました。

そして反撃編ですが、以前はアニメ3期の後半が終わってからにしようかなとか思ってましたが、あまりにも先すぎるなぁと言うことでどうにか更新する方法を考えました。

ネタバレにできるだけ配慮しつつも更新はします!その目で確かめてくれ!

年の暮れまで毎日更新じゃい!
いっぱい感想とか評価とかお気に入りとか頼みます〜


さて、死んだ大罪司教は誰でしょう?
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