亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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おら!本日二話目投稿だ!まいったか!


【FILE:9】はいぱー決闘たいむ

ケイは場の進行を見守りつつ考える。考え続ける。

考え込むと周囲が見えなくなるのは、自分の悪癖だ。

 

このところ考えるべきことが多く、小言をもらう頻度が高い気がする。

とはいえ無意識下では情報を拾っており無駄と思えばスルーをしている。

フェリスが女でなく男であったことも先ほど聞いたが、別にどうでも良い。

 

クルシュの演説を聞いてからは別のことを考え、仕事をしていた。

具体的には白鯨の能力想定の洗い出しなのだが、その作業は中断される。

 

「ふん、やっときたか。はいぱー妾たいむじゃな」

 

今こいつはなんと言った?

反射的にスバルを見れば、彼も驚いた様子で口をあんぐり開けて反応している。スバルの差金ではない。

 

その横の怪しい風体の男がサムズアップを掲げて前に出る。赤い女の横に立ち、主従で異世界の言葉を続ける。

 

「ふん、さっそくごーじゃすな妾に有象無象の卑しい視線が集まっておるようじゃな」

 

「いい感じに使いこなしてんな、姫さん。だいぶアッパー入っててイカしてるぜ」

 

そうか。ということはあれも日本出身か。どうりでスバルが懐いていたわけだ。

 

賢人会とプリシラとのやりとりを聞き流しつつ今はこの偏りに思考を回す。

異世界人3人がこの王選の5陣営に分かれて属している。これは偶然ではあり得ない。

各陣営に一人ずついるのではと想像する方が自然ですらある。

 

そしてこの三人の異世界人に共通する点は、誰もがわかりやすい力を持っていないという点だ。

スバルに比べれば自分などは分かりやすいが、ラインハルトやフェリス、最優の騎士のような存在が普通はつくもの。

 

あのアルという傭兵崩れも武力が自慢でないという言を信じるなら何かある。

エミリアとプリシラ。この両陣営が底が見えないという点で警戒すべきであると結論づける。

 

さらに聞き逃せない一言を放つプリシラに再度意識を引き戻される。

 

「なにせこの世界、妾の都合の良いことしか起こらない。故に妾こそ王たるに相応しい。否、妾以外にそれは務まらん。ただ貴様らは平伏し、付き従うだけでよい」

 

クルシュを見れば、事前に取り決めた合図を出していない。誰かが嘘を言えば、手を握り締めるように依頼していたがそれがないということはこれは真実を語っていることになる。

どんな魔法ならそんなことが可能なのか、いや加護というのだったか。

 

これは非常に警戒すべき情報だろう。無敵とは思わないが、彼女の性格や計画を知らなければならない。

 

その後も候補者の所信表明は続き、その表明に対しての分析を求められていたためメモしておく。

途中でスバルの失態や巨人族の男が強襲してくるなどの事件もあったが特筆すべきこともない。この剣聖頼りの杜撰な警備体制を見れば、恥ずかしくはないのかというクルシュの指摘も頷ける。近衛は誇りを叫ぶよりも先にすべきことがあるだろう。

 

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【ケイのメモ】

 

クルシュ・カルステン

「龍依存の王国運営からの脱却」

→既存の権力構造や組織の大幅な改革が必須。一部保守派からの反対必至。それを加味しても優勢。龍を欠いた状態で帝国に抗する必要があるため剣聖が存命のうちに軍事の強化が必須。

 

プリシラ・バーリエル

「政治制度の変更はなし。独裁強め」

→現状維持に近く保守派からの支持を得る可能性あり。傲慢な物言いだが、実際は候補者の中で最も無難な主張。カララギの介入を避けたいなら一考の余地あり。

 

アナスタシア・ホーシン

「政治制度の変更はなし。帝国主義へ」

→カララギとの繋がり含め経済においては最も有力。クルシュを離れる保守層や財力に影響を受ける浮動票は集めやすい。

※王国を得た後も満足しないと発言しており、侵略戦争の危険性が高い。戦争は商人にとって絶好の好機でもあるため軍権を持たせるのは危険。

 

エミリア

「公平さを求める」

→公平さを求める先には身分制度の廃止がある。公平、平等を掲げる政治形態がその理想を達成できたことはない。龍や大精霊を使った圧倒的な独裁なら実現可能性はあるか。王候補としての所信表明ではなく個人として夢を語っている印象。

 

フェルト

「貴族制廃止、民主主義へ移行」

→下層階級以外からの反発が予想される。市民革命の下地ができておらず混乱必至。龍や剣聖に頼って民主を実行するとすれば自己矛盾に。亜人戦争以来の内乱の危険あり。

 

 

【分析】

多くはカルステン公爵を支持し、対抗はアナスタシア・ホーシンに集まると予想。両者とも軍事への傾倒が懸念。

 

龍権君主制とも言える政治形態のこの王国を根本から変えるかどうかで二分される。

現状変更:クルシュ。エミリア。フェルト。

現状維持:プリシラ。アナスタシア。

 

プリシラとアナスタシアが組めば脅威となるが、プリシラの言動から可能性は低い。

エミリアとフェルトの理想は近いが、剣聖以外に特筆すべき点はない。

現状変更を望むエミリアとフェルトを味方につけつつ、三つ巴に持ち込み地力で勝利するのが現時点では有効か。

極論、アナスタシア以外の陣営とは協力の可能性あり。

 

【注意事項】

エミリア陣営のスバル。プリシラ自身とその従者のアル。この3名の能力や加護が不明。要調査。

 

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賢人会の長。マイクロトフから王選開始の宣言が行われお開きとなった。候補者と関係者は会議室に移動し詳細を詰めているところに同行しメモをまとめる。

すると焦った様子の衛兵が駆け込んできた。

 

「報告いたします。現在、練兵場にて騎士ユリウスと…エミリア様の従者である、ナツキ・スバル殿が木剣にて模擬戦を行なっております」

 

「…え?」

 

呆然としたエミリアの困惑の声を聞くまでもなくケイは動き出した。

すぐに部屋を出る。城と周辺の施設の位置や構造は一通り頭に入っている。

 

最短を駆けて目的の場所に到着した。

 

練兵場の中央にはアナスタシアの騎士、ユリウス・ユークリウスとスバルが対峙しておりフェリスが立ち会いを務めているようだ。

よくやった。あとで始めから詳細を聞いておこう。

 

しかしその光景は異常であった。詰めかけている近衛騎士たちの数は多いがあまりにも熱がない。

誰一人声を発しない練兵場に、木剣を打ち合う音。否、木剣で人を打つ音だけが響きわたる。

 

「これ以上は命に関わると思うが?」

 

「…このぐらいで死ぬわけねぇだろうが。知ったかぶりしてんじゃねぇよ」

 

「まるで経験者のように語るのだね」

 

「この世界で誰よりも、俺はそれを知ってる男だよ」

 

スバルが突撃し、ユリウスが切り捨てる。

 

「美しくないな」

 

そのやりとりを眺めるフェリスはつまらなそうだ。

打ちのめされてスバルは倒れ込み、血反吐を吐いて横たわる。

 

ケイは特にスバルに思うところはない。先の醜態も今の惨状もバカにしか見えないが、まだ何も終わってはいないのだ。

最後まで何が起こるかなどわからない。

 

おそらく申し込まれて戦いを受けたのだろうが、受けた以上は何か勝機があるのだろう。

後ろから、別の足音が聞こえてくる。慌てて走る女性、きっとエミリアだ。

 

「スバル!スバル!」

 

遠くからの声は届かない。ならばとさらに近寄って呼ぶ。

 

「スバル!」

 

聞こえているはずの距離。しかしスバルの耳には入っていないようだった。

エミリアはいよいよ練兵場の中に入って呼びかける。

 

「スバル!!!」

 

「ーーーシャマアァァァク!!」

 

自身を呼ぶ声を掻き消すように、スバルが叫ぶと黒雲が吹き出した。

確か、あれは陰魔法の初級。ほとんど使い手がいないということで実物を見る機会はなかった。

しかし、それだけでは…

 

切り札を纏って、スバルは一撃を見舞うべく最後の突撃を行った。

 

結果は予想通りに無惨なもので、一切が通じず効果が通るわけもない。

吹き飛ばされ、いよいよ気絶したようだった。

 

常識として、覚えたての魔法は熟練者に及ばない。そればかりか、相手は『最優の騎士』である。

6属性の精霊を行使する精霊騎士であり、この国において彼を魔法で上回るのはメイザース辺境伯くらいであろうと評判だ。

 

当然それも知っての仕掛けかと思えば、本当に何もなかったようだ。

一体どういうことだろうか。困惑し、理解できないでいる。

 

彼には何かあると予想していた。

しかし今日見たものは、あまりに救えない結果のみ。

 

最後まで戦っている姿勢はとっていたが、あれはエミリアのための戦いには見えなかった。目的が見えないため理解し難い。

 

エミリアの制止を振り切って他陣営に頼ってまで会場に入り、何度もその場を停滞させた。

最後には騎士を侮辱して主従の喧嘩別れを見せつける。

これだけでも理解不能であったが、さらにこの決闘騒ぎである。

 

エミリアの評判を落とすことにかけて彼よりも成果を上げたものはいまい。

 

調査も思考も続ける。続けるが現時点での結論は明確だ。

ナツキ・スバルは、これまで見た中でもとびきりのバカである。




【加護について】
世界から与えられた祝福と言われる力。常時使い続けるものや任意で発動するものなど効果も発動方法も様々。
誕生した時から手にしており、加護を持つ者は必然的に自らの加護を自覚しているがコントロールができるかは別。
複数の加護を持つことは基本なく、一人につき一つである。
現時点でケイは加護を自覚していないため、加護は所持していない。
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