亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

みなさんのおかげで素晴らしい一年になることが見えてます。
体が軽い…こんなに意欲的なお正月なんてはじめて。もう、なにも怖くない。


【FILE:89】永井圭のお正月

カララギへ向かう数ヶ月前。ルグニカ王国王都近郊にて。

 

 

珍しい相手からの招待を受けて王都へ向かう。

日時の指定までされた用件に向かうケイは、ぼうっと遠くを眺めていた。

そこは王都付近の穀倉地帯。麦畑に囲まれた街道である。

 

竜車の揺れに合わせて車輪の音が響き、黄金色の麦畑が風に揺れる。日差しに照らされた小麦の波はまるで大地が呼吸しているようだ。遠くには小さな農家や風車がぽつりと見え、鳥の影が青い空を横切る。

 

風が運ぶのは刈り取られた穀物の香りと湿った草の匂い。地竜が土を踏みしめ、舞い上がる埃が光の中できらめく。視界の先、地平線の空と麦畑が溶け合い、静かな美しさが広がっている。

 

このところ、暇な移動時間に限るが景色を見て色々なものを感じ取れるようになっていた。

人間よりも自然や動物を見ている方が面白い。

 

そんな風景もいつの間にか終わり、気づけば王都に到着していた。

 

ぜひ来てくれと招待を受け取っていたカルステン陣営一行はすでに馴染みのある場所。バーリエル邸へと足を運ぶ。

 

そこで出てきた鉄兜の不審者が初っ端から宣言した。

 

「今日は、お正月をしようと思います。はい拍手!」

 

 

その場を仕切るのはまさかのアルデバランである。

 

呼び寄せられたカルステン一行とエミリア一行は、何を言っているのかわからない。それぞれ一名を除いては。

 

「「「正月?」」」

 

疑問しか浮かばない一行から抜け出してスバルがアルの隣に並ぶ。

「なんつーか故郷の新年の祝いみたいなもんでさ、まぁ一緒にご飯食べたりゆっくりしたり。そんな感じの祭り、祝い事みたいなもんかな」

 

 

「それは、いつもと何も変わらないのよ。祭りとは言えんかしら」

 

「いや、それがあれだぜ初日の出を拝んだり、お参りに行ったり。いろいろやることはあるんだよ。俺は全部やらずに家で飯食べてたけど」

 

「すごーく楽しそう。きっと人気のお祭りなのね」

 

「それを人は日常と言うのよ。そんなにフワッとした祭りがあってたまるかしら」

 

「いや、案外そんなもんだって。初詣くらい行く人は多いかもだけど仕事も休みだし、テレビ番組も正月一色だし。でも、なんつーか寒くないと正月感薄れるよなぁ」

 

そこでようやく主催が声を上げてまとめ始める。

 

「兄弟とケイ君を見つけて俺はとっくの昔に捨てたはずのホームシックになってんのよ。お正月やるから一緒に盛り上げてくんね?ていうか元からイベントごとに熱心じゃねー上にいろいろ忘れかけてっからよ。若者たちのフレッシュな記憶に頼らせてくれや」

 

まさかの正月をやりたい。それが、この王選候補者を呼びつけての本題であった。

 

「すみません。皆さんの正月を止めはしないので、僕は帰っていいですか?」

 

異世界出身者を集めて情報交換をしたいと意味深に書くから来てやったというのに、正月かよ。

 

正月に限らず世のイベントごと全てに疎いケイにとっては非常にどうでもいい用事に成り下がった。

 

そもそもケイは正月が嫌いである。父がいた頃は親戚に付き合わされる面倒なイベント。

その後はやけに世間の動きが悪い時期としか思っていなかった。楽しんだ覚えはない。そもそも母が多忙になるのだ。

 

妹とどうにか過ごしていたことを思い出す。

 

 

「へっへ。そんなケイの塩対応も想定通りだぜ。なぁアル?」

 

「おうともさ兄弟。ケイ君の潮風にも錆びつかない素晴らしいお年玉ってやつを用意してあんだなこれが」

 

そう言ってアルはガチャガチャと兜を鳴らしながら怪訝な表情のケイに近づき耳打ちする。

 

「色々気になってんだろ?兄弟や俺のこと。NGはあるが、俺になんでも一つ質問できるってのが報酬だ。腹割って話せる機会って事でどうよ?」

 

 

なるほど、アルもこちらを探りたいらしい。こちらとしても好都合だ。

謎に包まれたこの自称異世界人についてずっと探りたいと思っていた。

 

「いいですけど、お正月なんて知識しかないですよ?」

 

「それが俺と兄弟にはないからこその最後のピース担当だろ。頼りにしてんぜ」

 

 

 

『おせち』

 

エミリア陣営。プリシラ陣営。クルシュ陣営に分かれてのおせち再現バトル。そう題された料理会がなぜか始まった。

 

器用なスバルと曖昧な知識を、個性豊かな陣営の者たちが好きにアレンジしていくエミリアたち。

 

「これ、もっと入れたほうがいいんじゃないかしら。すごーく色味が綺麗だもの」

 

「酸っぱいのは苦手だから、ベティーが減らしておくのよ。感謝するかしら」

 

仕上がったのは謎の創作料理である。おせちではないことは確かだった。

でも意外と味は悪くなかった。

 

 

プリシラ陣営はアルが指示を出して、シュルトが一生懸命に料理をしている。

 

「よいしょ。よいしょ。ふう。こんなものでいいでありますか?アル様!」

 

「シュルトちゃんよく頑張ってくれてありがとな。俺じゃボウル抑えらんねぇからよ。でも一切混ざってないから、もうちょっと混ぜてもらえるか?」

 

プリシラはすでに酒盛りに入っている。シュルトの頑張る姿を見ながらアルが苦労する姿は酒が美味いらしい。

 

最終的にはほぼペースト状になった謎の『栗きんとん』もどきが仕上がった。

 

 

クルシュ陣営は非常に組織的に料理を仕上げていく。ケイの指示能力は高く、こなす陣営のメンバーも手際が良い。

 

すでに手洗いと食器の消毒を終えて整列している。

 

和食に使う素材があまりないため、見た目だけはおせちに寄せたものを少しずつ作り上げていく。

 

「筑前煮は肉を一口大に切り、人参、ごぼう、蓮根を乱切りに。切り終わったら報告を」

 

「豆の煮汁は砂糖、醤油、の代わりにソースと塩を計量して準備。水と一緒に煮立てて、豆を入れたら中火で煮ます」

 

「伊達巻の卵をときます。卵5個、魚のすり身200g、砂糖大さじ3、調味料少々。攪拌したら型に流し込み、焼き始めてください」

 

この世界では食べ物の名称が微妙に変わってはいるが、訛りとして聞き取れない事もないレベルの誤差だ。ケイは気にしていないようだった。

 

同時並行で複数の品目が仕上がっていく。まるで指揮者のようなケイの様子は見ていて面白いし、効率的だが。遊びがない。

 

「なんか、軍隊みたいでどうなんそれ?こっちとあっちは幼稚園かもしんないけど」

 

スバルはその一糸乱れぬ様子に若干引いている。

 

「慣れると結構楽しいですよ?一体感があります!」

 

クルシュは手を動かしつつ笑顔で答えた。

 

やっぱり文化が違う…そうスバルとアルがハモる。

 

 

全部が揃えば、案外おせちっぽく完成した。

 

結局、重箱のような箱に多彩な種類の料理が入っていればおせちに見えるのだ。

 

 

ご飯と酒を飲みながら。お年玉をもらって、きゃっきゃっと笑う子供たち。

見た目や実年齢はこの際無視だ。各陣営が無垢な子どもと判断したものたちにお年玉が配られる。

 

純粋に喜ぶシュルトとエミリア。ちょっと複雑そうなクルシュ。そして明確に憤慨しているベアトリス。

 

フェリスにも渡そうとしたら、マナを縛られて死ぬところだった。そういうところがガキである。証明はできた。

 

 

 

『凧揚げ』

 

凧揚げをしようとすれば、なぜかワイト兄妹が出現した。

 

これはおかしい。基本的にロズワール邸かカルステン領の工房にいるはずなのだ。こいつらは。

なんだか空に呼ばれた気がしたと、休みを申請して王都に来ていたらしい。

 

凧をただ上げようとしたら待ったがかかる。

 

そこにいるのは狂人だ。凧に自身を磔にしたワイトが、妹によって台車で運ばれてきたのだった。

 

「あんたら正気かい?凧をあげるだけで満足なんて、バカ言っちゃいけない。人を空に飛ばしてこそだろう。さぁ風魔法を出して火魔法で上昇気流を作ってください。この至高の大型凧で空中に…」

 

不敬を見逃さないプリシラによって爆発が起こされ、空へ舞うワイト。

 

燃えながら上昇し、そして凧が端から燃え尽きて風を手放す。

 

重力に従って落ちる姿はまるで、かのギリシャ神話のイカロスのよう。ケイはその墜落に一切の感慨を抱かない。

 

フェリスは、こいつらを治療するのが結構嫌だった。

 

 

福笑いこそは安全に終わるかと思いきや。こちらも波乱が巻き起こる。

最初は良かった。大精霊福笑い。ということで、パックとベアトリスの絵を使って福笑いを行なって、子供たちが奮闘しただけだったから。

 

しかし、シュルトがとんでもない地雷を運び込んできた。

 

「これ、こちらでもやれるであります!飾らなくなったプリシラ様の肖像画、同じものがいくつもありますのでプリシラ様の美しいお顔でもやれるのでありますよ〜」

 

 

その時、アルに電流走る。

 

一瞬で退出しようとする彼の前にはすでに、陽剣を抜いたプリシラが妖艶に佇んでいた。相手が失神しそうになるほどの笑顔を貼り付けて。

 

 

陽剣を何度か振れば、見事に顔のパーツだけが切り取られる。

 

これを、目隠しして正確に並べられないとなれば、一体何が起こるというのか。

 

福笑いをさせられるのは死に慣れたイカれたメンバーに決定した。

全てはプリシラの勘である。

 

不死身の物書き、永井圭!

「もう帰りたい」

 

なぜか死なない道化。アルデバラン!

「これはもうダメかもわからんね」

 

死んでも問題ない凡愚、ナツキ・スバル!

「いや、ダメだろ!死んでたまるかこんなので!」

 

100回も死んでいない猫、フェリックス・アーガイル!

「クルシュ様がこんな奴らと並ぶくらいなら私、私が身代わりに…」

 

 

悲鳴が交わされ、プリシラの楽しそうな声が響く。

陽剣の風を切る音と何かを切る音。キルの音が屋敷に響くのだった。

 

 

 

 

「全てが終わって、皆が肩で息をするような状態になった。

絶対におかしい。こんなのは正月ではない。

 

でも、こんなのもいいか。なんてケイ君は思うのであった」

 

「勝手に代弁しないでください。プリシラ様にいつぞやの願いを使って黙らせてもらいましょうか」

 

勝手なモノローグを流されかけたケイは、この正月とは名ばかりの大運動会から早く撤退したかった。

報酬がしょうもない情報ならマジで覚えとけよこいつら。

 

 

「安心しろよ。その点はしっかりしてる。どちらかは間違いなく目的達成できるって。命、かけるぜ?」

 

今度はまるで心を読んだかのようにこちらの疑問に勝手に答える。本当に勝手な男だった。

 

 

 

片付けをして、日も沈んだ頃。いつぞやアルがケイを処刑させられた中庭に二人で出た。

 

 

「じゃあ、お互いに質問していこうぜ。俺の好みが気になるなら、姫さん見てくれればそれで大体合ってるぜ」

 

その冗談には一切付き合わず、核心的な問いを投げる。

 

「あなたは誰のために動くのですか?」

 

「お前は一体何もんだよ?一体どこの誰なんだ?」

 

 

 

その問いに、どちらもすぐには答えない。

 

ケイはあらかじめ考えていた。アルの能力についてはまだ謎が多い。この結果を元に検証の計画を立てようと。

 

アルは事前に決めていた。目の前の唐突に現れた異分子の正体をここで暴いてやろうと。

 

そしてアルが動く。いや、答え始めた。

 

「俺は…俺は姫さんのために動く。それだけだ。他は全部諦めたさ」

 

ケイはそれに答えない。きっと相手は答えを得ているのだろうと思って。無駄なことは必要ないのだ。

 

「ひとまず、俺の最悪の想定じゃないことはわかった。けどケイ君よぉ。諦め悪すぎね?姫さんとどっこいだろ。マジで怖えわ…」

 

 

その独り言を、ケイは軽口であるとは思わない。

アルの能力の一端を教えてもらうことができた。これで検証の計画が少しはたてやすくなっただろう。今日の収穫はこれでよしとしよう。

 




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