亜人:ゼロから始める異世界生活   作:ZAT23

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さあ、ケリをつけようぜ。


【FILE:96】悪役令嬢たちから運命の皇子を救うのは私!?

主人公とは一体誰のことだろうか。

 

当然ながら、王選に深く関わる者以外にも貴族はいる。むしろそちらの方が大多数である。

彼らにも彼女たちにも人生があり、それぞれに矜持も歴史も持っている。最終的に王になるもの以外は全て端役というのは暴論だろう。

 

けれど語られぬ彼らは主人公になれるだろうか?語られることの多いものは主人公なのだろうか?

 

ケイは自身を決して主人公などとは思っていない。世界は自分を中心に回らないし、不可欠でもないと信じている。

それは同じ世代の若者たちとは明確に異なる価値観だった。

 

同年代の貴族令嬢たちとケイが関わる上で、この無理解の溝はあまりに大きい。

 

 

『豊穣』セリナ・グリーフィル

グリーフィル公爵家は、王国南部に広がる豊かな農地を管理し、ルグニカの食糧事情を支える大家である。公爵令嬢としてセリナ自身も多くの食べ物を食べて学んでおり領民から『豊穣の女神』と敬われたいと思っている。

豊かな領地の食糧に育てられた体はしっかりと育っており、その豊満な体つきによって男性からは注目されることも多い。同性からの評判は良くない。この世界の女性たちの平均よりはだいぶ太め。

 

 

『烈火』 カレン・レイムス

武門としてはアストレア家があまりにも強く、他家はその影に隠れがちになってしまうがそれでも次席を巡る争いには常に参戦しているのがレイムス家だ。その三女であり恵まれた体格を活かして武に傾倒したのがカレンである。女性の騎士にも一定の需要はあるがその才能は並。華々しい戦いで名を上げたいと思っている。レイムス家は三男が白鯨討伐に参加して帰還しており、事前情報においてはケイから唯一悪印象を持たれていない。

筋肉質で体格が良いため異性からはあまり相手にされず、同性からは結構モテる。貴族女子としての力は低い。

 

 

微風(そよかぜ)』エレイン・フルール

新興貴族としてほとんど家格は無に等しいフルール家であるが、エレインの美貌は王都でも指折りであり多くの男性が好意を寄せる。どんなわがままでも叶えてもらってきたため性格はプリシラから実力と思慮を抜いたような仕上がり。

異性からは求められ、同性からは憎まれている。フルール家の成り上がりを邪魔に思っている敵も多い。

 

 

『水晶』アリア・ルナクレスト

彼女が行う占いには多くの顧客がおり、不思議な一派が出来ている。『顔色の加護』を持っており、相手の体調などに気づくことが可能。それを占いに使っていたが、段々と自信が暴走し自らも占いを奇跡と信じるようになっていった。信徒は増えて、顧客は減ったが彼女は止まらない。運命の出会いがあると占いに出たため、皇弟は自分のものであると確信。周囲からは胡散臭いと思われている。敵も味方もあまりいない。

 

 

このように全員が異なる背景と信条と性格を持っている。しかし、彼女たちには共通点があった。

 

まず一つ。自らこそが物語の主人公であると疑わない絶大な自信。

 

次に一つ。周囲に存在する他の令嬢たちは自分という主人公の活躍のために倒されるべき敵か支援する味方のどちらかであり、周囲の令嬢はいわば悪役のようなものであるという認識。

 

さらに一つ。全員が全員、異名は自称であり派閥の取り巻きからしかそうは呼ばれていない事実。

 

最後に一つ。あのヴォラキアの皇子を射止めること。それこそが運命の物語の始まりであるという確信だ。

 

自らの物語の序章は終わり、いよいよ運命が動き出す確信に胸が高鳴っている。

 

 

「「「「悪役令嬢たちから運命の皇子を救うのは私だ」」」」

 

 

同じ志と確信を持った四人の少女が一堂に会する。

セリナの主催した社交パーティーにおいて、誰よりも女性であることを自負する四雄(雌)が並び立ち、激突する。

 

その中心には攻略対象である黒髪の皇子。それを囲い自らの陣営に引き込んだ狡猾な女公爵がいる。

 

 

まずは、緒戦として他の三人の悪役令嬢を打ち払い、皇子の目を覚まさせる。そして最後の敵であるカルステン公爵からあの人を奪い取るのだ。

それが彼女たちの夢想する物語であった。

 

物書きと呼ばれることもある渦中の男は、何も知らない。知ろうとしていない。普通に狙われているだけだと思っている。

現実から目を背ければ、最悪の形で牙をむかれるのだと。分かりきった事実に打ちのめされることになるのだ。

 

後に貴族社会において『四大令嬢事変』と呼ばれる事件が起こったのはとある社交パーティーであった。

 

 

きっかけはグリーフィル家から約束履行の要望がカルステン家に届けられたところから始まる。

白鯨討伐の折に、即座に1000人を超える食糧の大部分を賄い支援した。その対価としていくつか約束した中に娘の社交会における協力という一文が存在していた。

 

ケイはその時に、その文言の危険性には一切気付いておらず。それは要求した相手方も同じであった。娘のわがままを入れる余地があったので入れただけ。それくらいの気軽さである。

 

しかし、状況が変わりこの一文が発揮する効力は増していた。クルシュが協力することで一目置かれるくらいの想定が、貴族社会で話題の中心であるあの黒髪の貴公子を大手を振って協力させることができる切り札へと育ったのだ。

 

これが実現するとわかった時、年頃の乙女たちの反応は劇的であった。この社交会にはどんな対価を支払ってでも参加したいと殺到した。

 

まずそこで前哨戦が行われ有力者以外は弾かれた。

あからさまに他の参加者を排除してしまっては以降の社交会に参加者がいなくなる。だからこそ、対抗馬というか実力の拮抗している令嬢たちが揃ったのだった。

 

しかし、彼女たちは全員が一様に自分の勝利を確信している。相手はあくまで端役や悪役。主人公である自分の引き立て役なのだと。

 

 

なので、当然ながら彼女たちはぶつかった。

 

『豊穣』セリナと『烈火』カレンが対立し、家格の差でセリナが言い負かす。

セリナに聞こえるように『微風』エレインが陰口を叩いてそれに激昂。

そんな隙をついてケイにアタックを仕掛けた『水晶』アリアは、カレンに八つ当たり気味に当たられて決闘騒ぎに発展。

 

騒ぎに乗じて胸を押しつけられて責任を取らされそうになったり、恋文を渡されたり、大声ですでに恋仲であると虚言を話されたり、決闘騒ぎで服が破れたりと散々の出来事が立て続けに起こった。

 

その全ての裁量を全員がなぜかケイに求めてくるのだった。

どちらが悪いか。どちらの味方をするのか。誰に優しくするのか。あなたは誰の味方なのか。

 

ついにケイの我慢の限界が訪れる。いくつかの計画を破棄してでもこの場を壊すことにした。

 

堪忍袋ごと弾け飛んだ勢いのままに宣言する。

 

「はっきり言っておきますが、ここにいる皆さんと僕は身分違いです。平民ですからね、恐れ多いので話しかけないでもらえますか?カルステン家に忠誠を捧げてもいますので、この手の話は僕の仕事ではありません。いい加減にしてください。僕はあなた方と何一つ話すことなどありません!」

 

そうはっきりと、何一つ恐れ多さなど感じる様子もない男が言い放つ。そんなことができるのは平民ではあり得ない。そんな確信を周囲に追加で与えつつも、それを上回る非礼を行いその場を破壊した。

 

 

…はずだった。

 

しかし、運命に恋する乙女たちの思考回路によって事実は容易く曲げられる。

 

きっと彼はカルステン公爵に、こう言わされているのだ。

彼の顔と声色を見ればわかる。あの苦痛の色は助けを求める表情だ。

 

 

『『『『私が守護(まも)らねば』』』』

 

 

そこでなぜか盛り上がる令嬢たちは一致団結して、最後の敵であるカルステン公爵を問いただす。

全ては貴族的な婉曲表現と例え話での追及であり、そこは貴族らしく迂遠にいやらしく攻めていった。

 

「彼の給与は支払われていますの?その成果に見合った褒賞を与えたという話は聞けないので心配ですわ」

 

「それより彼はいつお休みになられているので?休日すらないように思えますね」

 

「彼の人相からは疲労の相が強く出ています。ちゃんと睡眠を取れていないでしょう」

 

まとめると上記の内容であった。

 

最後にセリナが小声でクルシュにだけ聞こえるように突き刺す。

 

「魔獣の食糧。その調達は彼任せであると聞きました。どんな能力があってもそんな苦役を許すなんて、陣営の長として、いえ。人として信じられません」

 

 

圧倒されるクルシュ。全てはケイの意思で行っていることであるが、指摘の大半は事実であり責任者はクルシュだ。

少し気に病んでいた部分でもあるため、気圧される。

 

ケイは自身の望んだことだとずっと主張しているが、もはや誰も聞いていない。

 

可哀想に。私が助け出しますからね!ともはや人間としての扱いをされていなかった。

 

 

『ピーチ姫もこんな気持ちだったのかなぁ?』

 

たしかに…。いや、うるさい。黙っててくれ。いや、こいつらの妄言を聞くくらいなら佐藤の方がまだマシか?

 

 

「一体どんな手を使って彼を繋ぎ止めているのか知りませんが、あまりに秘密主義が過ぎるのではなくて?」

 

この社交会においては盛り上げることを約束していた。それに、根も葉もない悪意ならまだしも、根も葉もある話であった。いくつかの要素が重なり、クルシュは動揺してしまった。

 

怒涛の貴族子女たちに押されてその日は気付けば解散していたが、とんでもない疲労感だった。クルシュは自身の無力さに少し落ち込んだ。

 

この夜の事件は四大精霊がぶつかり合うが如き、凄まじい争いであったと皮肉げに語られ笑いが起こるのだが、実際にケイに与えたダメージは四大精霊の三日三晩の殺戮よりも上回っていたことはケイ自身もまだ知らないことだった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

その後に提案されたリリシアからの婚約の話は、これまで以上に魅力的に聞こえている。

正直言ってケイはかなり傾いていた。

 

いや、これは負け惜しみだ。ほとんど詰まされていた。

 

一体どうすれば良いのか。

 

なんか嫌!というのは流石に自身の矜持に関わる。それに、そこまで嫌悪感はないのだ。

自分らしくないというか、何か抵抗感がある。

 

 

『本当に追い詰められてるみたいだね。知らないよ。そんなの。でも、永井君の子供はどんな子になるんだろうね。それは少し楽しみだなぁ』

 

脳内の亡霊は戦闘以外に役に立たない。そんなことは知っていたのに頼ってしまった。もう末期だ。

 

その後のカララギを経て、水門都市の騒動を乗り越える頃には頭からすっぽりとこれらの些事については消えていたが黒竜の認可を得るために王都へ舞い戻った際には思い出さざるを得なかった。

 

しかしその方面に向けてのケイの動きは鈍い。

というよりケイは賢人会の説得という仕事があったためそんな時間はなかった。

 

幸いにも忙殺されており、仕事をこなすだけでその方面に触れずに済んでいる。

 

この後の問題を片付けたらやろう。そんな一般的な学生のように目の前の出来事に注力するのだった。

 

 

 

 

その間にクルシュがすべきこと。それは健在のアピールである。より多くの貴族の目に以前と変わらぬどころか、左手を失ってなお強くなった姿を見せなくてはいけないのだ。

 

実のところ、水門都市周辺ではすでにいくつか噂が流れ始めていた。

カルステン公爵は再起不能である。彼女は王選から落第したという噂だ。

 

ケイは鼻で笑っていた。

 

「これが色欲なりの対抗策なら可愛いものですね。きっと龍の血にはそれだけ自信があったんでしょう。普通なら詰みと言ってもいいほどの呪いでしたしね。あなたの健在は本当にカペラにとっても想定外になっている。クルシュさんは…」

 

ひと睨み利かせると、ケイは少しなれない様子で言い直す。

 

「クルシュは英雄らしく振る舞って安心させてやってください」

 

なんだか違和感がある。敬語も取るべきではなかろうかと話し合っているうちに王都に到着した。

 

そんな誤解を解きつつの王都への凱旋は上手くいった。嘘を伝える必要もないため、堂々と黒竜に乗っての登場をするだけで良いのだから。

 

そして王都の地に降り立った後に何をすべきか。そうだ。ついでにあれを片付けてしまおうと自然とそう思えた。

 

 

セリナに声をかけ、社交会を再び開かせることになった。なんと開催は三日後だ。こんなことは異例である。

 

しかし、大罪司教を複数人葬り、蘇って腕を失ったというクルシュの話題性は圧倒的である。

 

開催されたそこには王都中の貴族が殺到したのだった。

 

クルシュは天翼を着込んでいる。畳まれて自らの体を包むようになっている翼はドレスに見えなくもない。

 

今は窓に一番近い席を確保させて、ヴィルヘルムを伴い警戒をしている。

以前の自分はどこまでも無防備だったと反省しきりである。

 

パーティーが始まり少しの時が経ち、主催のセリナが挨拶を済ませたそのタイミングでクルシュは仕掛けた。

 

「よければこの腕の話など、みなさま聞きたいのではありませんか?」

 

人だかりが彼女を囲む前に、階段を上がり先程挨拶を行った場所に自らも立つ。

 

令嬢たちに緊張走る。

 

クルシュという人物の分析は凄まじい労力をかけて行っていた。その分析結果と今の彼女の様子は一致しない。

前回は分析通りにこちらのペースに巻き込むことは容易だったというのに。

 

 

クルシュは語る。水門都市での激闘を。

 

それは現実的な実際の話というよりも、耳触りの良い形に脚色された話だ。

悔しさが込み上げるが、それは今ここでは不要な感情である。グッと堪えて聞きたい話を語って聞かせてやる。

 

蘇生と治療の話など、美しくまとまりすぎていてもはや別人の話かと思うほどだが語り切った。

あの地獄の苦しみは、言葉なんかで語れるものか。

 

蘇生の情景を伝えてやれば、令嬢たちは口をパクパクと開閉させて言葉を失っていた。

 

 

「私は今回の件で思い知りました。命というのはいつ終わるかもわからない。だから後悔のないように生きねばならない。私は思ったことを言って考えたことを実行できるようにしています。貴族女性としては良くないかもしれませんが、『竜殺し』でもありますのでどうかご容赦くださいね」

 

そんな、思ってもいない言葉をおいて本題を話す。

その目は怒りに燃えており激情が空気を熱していると錯覚するほどだ。

 

全然違う。前とは全く別人である。

 

 

「私は、王になります。死してなおそう思えるのです。きっとこの想いは誰より強い。皆様は応援をしてくれますか?」

 

 

それは奇しくも、以前の戦勝報告会の時と同じ問いかけだった。

お前たちは一体誰の味方であるのかと。そう問いかけている。

 

あの時と同じ問い。しかし、状況が違いすぎた。

 

記憶を失い、稚拙な一手としての前回。あれは失敗だったとこの場の多くが認識している。

 

今はどうか?

 

結果は眼前の光景だ。

 

 

多くの者が、その場に跪いた。

 

 

会場に驚きはない。それほどまでにこの一年で積み上げた実績が大きすぎて、多すぎた。理性と打算を以って跪く者たちが以前と違って多くいる。

水門都市の一件がなくとも支援者は多かっただろう。そして追加でこの大戦果である。

 

魔女教大罪司教が5人も同時に襲ってくるなど、王都であっても蹂躙されるに決まっている。

最後はきっと剣聖が倒すのだろうが、王城は残らないであろう。それくらいは皆がわかっている。

 

それだけの布陣に奇襲されて、一人を捕縛、二人を殺害。手傷を負わせて敗走させたのだ。

 

彼女たちは英雄だ。当然彼女一人が成したわけではないしそれは重点的に語られたが、ここにいるのは彼女一人である。

 

 

そして、クルシュ・カルステン公爵は今、明らかに過去の彼女よりも確固たる自我をもって覚悟している。

それは目敏い有力者たちが見抜く。記憶を失う前の彼女にもどこか浮ついたところがあった。それが白鯨討伐及び記憶の喪失に繋がったのだと考察できるものも認めるほどの覚悟がそこにある。

 

 

熱が場を支配する。風が彼女に従っている。

 

 

前回散々に捲し立てた四人の令嬢のうち、三人はすでに跪いていた。

 

『微風』と『水晶』は単純に恐ろしかったからだ。

『烈火』は女公爵の威容に憧れたからだ。

 

そして残るは『豊穣』のセリナ。彼女は公爵家を背負っている。簡単に頭を下げるなどできはしない。

ここは一旦中立を保って逃げ切る。そう判断した時に、声がかかった。

 

「セリナ。このような場を開いていただき感謝します。友人であるあなたに、私からの心からの贈り物を用意しています。あなたほどの人物が結婚をしていないというのは王国の損失です。なので縁談を用意いたしますよ。カルステン家の誇りにかけて素晴らしいものにしてみせます。社交界における手助けをするという約束を果たさせてください」

 

それは、あまりに非常識な提案。

 

断っても良い。断るのが当たり前だ。このような縁談など、本来なら王族から言われることであって、公爵家から紹介されることなど、相当に仲が良くなければありえない。そうであっても事前に合意を取るものだ。

 

しかし、まるで王からの言葉のように響いている彼女の言葉を無礼であると糾弾できるような空気ではない。

彼女を王として跪くものが大多数のこの場所において、この誘いを跳ね除けることは大きすぎる意味を持つ。

 

セリナは半ばパニックだった。しかしそれでも最高の教育を受けた令嬢である。無様は晒さないし負けたりはしない。

 

「け、ケイ様は?彼はどうなるというのですか?私、彼に恋してしまっているかもしれません。ぜひ受けたいと思いつつもそんな乙女心についてはご配慮いただけませんこと?」

 

自身を可能な限り曲げずに、敵対もせずにどうにか切り返す。

 

とはいえ動揺した公爵令嬢と、一切動じぬ公爵家当主。それはすでに平等な戦いでもなかった。

 

「彼にも縁談を用意しました。なのでそれは叶わぬ恋というものですよ。そもそも公爵家どころか、上級貴族が平民と結ばれるなどあり得ません。そうでしょう?」

 

彼は皇族だろうが!そう言ってやりたい気持ちもどこかにあったが、それは最後の反抗心ともいうべきものであって彼女をどうにか支えている怒りだった。

 

「ちなみにですが、以降はケイを社交界には出しません。彼は多忙を極めていますので、何かあれば当家までお伝えください。これに関する意見の一切も当家にて受け取ります。これはすでに決めたことです。どなたか異論があれば聞きますが………どうやら無いようですね」

 

そこまで言って、クルシュはその場を離れ始めた。

カルステン家の剣たるヴィルヘルムが後に続く。

 

「それでは皆様。良い夜を」

 

ケイの周辺のうるさい令嬢たちを鎮めることは自らの利益にはならない。珍しく嫌がるケイをこちらで囲ってしまおうという考えが思いつかなかった訳ではない。理も利もあるとはわかっている。

 

それでも、これはきっと正しくない。そして正しくないものをケイは嫌うだろう。

 

ならば堂々と、王たる姿で彼を正面から手に入れよう。王配でも家族でもどんな形でも構わない。

 

これも色欲を殺すのと同じくらいに絶対だ。

 

クルシュは不敵な笑みを浮かべて退室した。まるで獅子のごとき威圧の表情。それを見て声をかけられるものなどいない。

 

そう。あまりにも力技だった。論理としては突ける隙はいくらでもあった。

しかし、その隙に差し込む勇気と力を持ったものはいなかった。

 

竜を殺し、地獄の苦しみを経て一度死んで蘇った英雄。そんな彼女に立ち向かえるものなど一人たりともいる訳がない。

 

そこで彼女たちは気づいたのだった。この物語において、主役になりたいと思うなら命を投げ捨てるような覚悟と冒険が必要なのだと。

 

それが無いうちは彼女に並べば端役になり、時に悪役になってしまうのだ。

年若い彼女たちは、クルシュ・カルステンを見て圧倒されどこかに憧れ、従ってしまう。

 

つい先日の自身の行いすら忘れ、今からでも仲良くしてくれるだろうか。そんな都合の良いことを彼女たちは考え始めていた。

 




以降はケイへのアタックはある程度鎮まりますが、それはクルシュ主導の流れになっていきます。
若干ローズの想定から外れつつも、リリシアのとの婚約話は生きています。

彼女たちが一体どうするのか、乞うご期待!
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