俺はダンジョンでレベルを上げたいだけなんだよ! 作:ハックション
豊富なキャラクリ要素と、多種多様なビルドが魅力のハクスラダンジョンRPG『迷い路の深層』。
通称『メイソウ』と呼ばれるそのゲームを、俺はもう何度もプレイした。
隅から隅までやり込んだと言ってもいい。
そんなゲームに、今回は『今の俺が考えうる最強のビルド』で挑もうかなーなんて思って。
キャラ作成を終えたのがつい先程。
んで、一瞬意識が暗転したと思ったら、俺は自分が作成したキャラで『メイソウ』の世界に転生していた。
いやぁ焦ったね、気がついたらどう見ても異世界って感じの街の中に立ってるんだもの。
幸いだったのは俺自身の転生ではなく、俺の作成したキャラでの転生だったおかげで周囲から変なものを見る目で見られなかったことか。
とはいえそれは、スウェット姿の冴えないオタク男性が転移するよりはマシというだけの話。
チラチラとこちらを見てくる人の視線は感じられた。
まぁ、結構特殊なビルドだからね、仕方ない。
んで、そこからは早かった。
なにせ、異世界に転生してもやることなんてろくにない。
娯楽だって前世と比べて大した事ないし、そもそもカネがないから生きていくのも大変だ。
だったらなるしかないよね……冒険者!
『メイソウ』はゲーム部分以外は非常にシンプルな作りになっている。
ギルドがあって、冒険者がいて、みたいな。
そんなわけだから、俺は特に苦労もなく冒険者になることができた。
異世界モノはそこそこ嗜んでいるのである。
後はひたすらダンジョンに潜る日々。
朝起きたらダンジョンに行って、帰ったらギルドで要らない素材を換金して。
宿に戻って飯食って寝て、起きたらまたダンジョン。
そんな感じの日々だが――これが中々楽しかった。
というのも、普通にレベリングがめちゃくちゃ楽しかったのだ。
正直、ここ最近『メイソウ』をプレイしていても最初のレベル上げは作業でしかなかった。
セオリーは完全に確立され、とりあえず最低限レベル10になるまでレベルを上げて。
そこから各種スキルツリーが解禁されるので、スキルを割り振っていって。
と言った感じで、レベルが10になるまではやることもほとんど同じだったのだ。
まぁ、レベル10になってスキルツリーが解禁されればぜんぜん違うんですけどね。
じゃあ、何が楽しいのかと言えば。
「オラァ死ね!」
俺は、モンスターの首を手にした得物――初心者向けに支給されるボロい剣だ――で切り飛ばしていく。
それによってモンスター――ゴブリンが死んだのを確認すると、振り向きざまに迫ってくるダンジョンバット――コウモリ型モンスターを視認する。
それに対しても、剣を一閃。
一歩で
「よし、全滅」
そう言いながら、剣を振るって少しカッコつけつつ鞘に収める。
本来ならこれは血を振るって落とすような意味があるのだろうが、ダンジョン内だとモンスターは倒せば痕跡ごと消滅する。
完全にカッコつけてるだけですね。
なお、倒した後には素材と――光の玉みたいなものが残る。
前者は言うまでもなく、後者はいわゆる経験値だ。
この世界では”マナ”と呼ばれている。
マナを体内に取り込んで、体内のオドを強化することで強くなっていくとかそんな設定があったはずだ。
「んじゃ、次行くか。《瞬発強化》」
俺はスキルを口にすると、
――何が楽しいか。
決まってる。
モンスター相手に大立ち回りすることが、だ。
最初のうちは不安があった。
タダのオタクが冒険者なんてできるのか? と。
しかしやってみれば、その不安は一瞬で拭われた。
なにせ、前世と比べてこの世界の人間は身体能力が
今みたいに、ちょっとした身体強化だけで車並のスピードを出すのは序の口。
本気を出すと――というか、極まってくると音速を越えた速度で戦うことができるのがこの世界の常識。
動体視力や反射神経も、それについていけるくらい強化されている。
結果として、俺はその規格外の身体能力を満喫していた。
思うがままに体を動かすというのは、こんなにも楽しいことなのか、ってね。
「レベルが上がったらこれ以上にすごいことができるようになるって考えたら、やめらんねぇや」
そうこぼしながら、俺はモンスターを斬り殺していく。
――本来なら、がむしゃらにモンスターを倒すことは効率の上で考えるとそこまでよろしくはない。
俺がいる第一階層のモンスターで、もっとも経験値効率がいいのはコボルトである。
コボルトだけが集中的にPOPするエリアがあり、そこでレベルが10になるまでコボルトを狩るのがセオリー。
しかし今は、とにかく何でもいいからモンスターを倒すことに集中していた。
これには一応合理的な理由があるのだが、ぶっちゃけ一番の理由はただモンスターを斬り殺したいからである。
楽しい、楽しくてしょうがない。
もうこのままレベル10になるまで無双するのも悪くないかなー、と思いつつ俺は今日もモンスターを斬り殺すのだった。
と、まぁ。
それに関しては、いいのだ。
前世に対する未練こそあるものの、今はこの爽快感あふれる体感型無双ゲーに夢中になっている。
成長すれば、更にすごいことができるようになるのもいい。
俺がやり込んだゲームだから、仕様を隅々まで把握していて楽ができそうなのも、いい。
ただ、一つ。
ゲームとしてこの世界を体感していた時は気にならなかった問題に、俺は
そのうちひとつが――ぶっちゃけて言えば周囲の評判だった。
+
最近、一人の冒険者がギルド内に入ってくると、ギルド内は緊張に包まれるようになっていた。
そして今日も、”彼”がギルド内に入ってくる。
冒険者とギルド職員が、思わず息を呑んだ。
”奔走鬼”ノワル。
それがその冒険者の名前である。
少し前にこのギルドにやってきたかと思うと、冒険者登録を求めてきた人物である。
その特徴は、何と言っても容姿。
そして何より、鋭く尖った耳。
一般的に、
エルフ、というのはこの世界では普遍的な種族だが。
ダークエルフ、というのは非常に貴重な種族だ。
山奥にひっそりと暮らし、人との付き合いを持とうとしない隔絶した種族。
そんな種族の男が、一体どうしてダンジョンなんかに?
誰もがそう思ったが、最初のうちは踏み込もうとするものはいなかった。
いくらダークエルフが希少とは言え、それで差別やらが発生する世界ではないからだ。
何より、最初のウチはノワルもそこまでおかしなことはしていなかった。
というか、ダークエルフにしてはかなり人付き合いはする方で、ギルド職員とのやり取りも自然なものだったという。
そりゃあ、中身は異世界モノに慣れ親しんだオタク男性なのだから当然なのだが。
そんなノワルが異様だと認識され始めたのは、それから少し経ってのこと。
ダンジョンの第一階層で、休むことなくモンスターを狩り続ける冒険者がいる。
そんな噂が立って、ノワルがそうではないかと推測され。
思わず問いかけてしまったギルド職員にノワルが。
「まぁ、多分」
と答えたことで、それがノワルだと認識されるようになった。
おかしいのは
普通、冒険者は休み休み少しずつダンジョンを探索する。
一日中ダンジョンを走り回り、狂ったようにモンスターを狩ったりはしない。
精神がつかれてしまうからだ。
この世界の住人は、ノワルの前世と比べて高い身体能力を持っている。
病気等にも強く、頑丈だ。
だが精神は違う、人間である以上精神は疲弊する。
対するノワルは、モンスターを倒すことが楽しすぎて精神の疲弊がほとんど発生していない。
むしろ、楽しすぎて毎日が充実しメンタル面は前世の社畜生活より大幅に改善しているほどだ。
故に両者はそのすれ違いに気付くことはなく。
周囲の人間はなぜああもノワルがモンスターを倒し続けるのか、推測した。
ダークエルフという希少な種族、モンスターに対する強い執着、そして彼が持つとある
復讐だ。
こう、故郷とか焼かれたんじゃね? と思われたのである。
外の世界のモンスターが、ノワルの故郷を襲ったのではないか。
そんな推測は、ノワルの周囲から同時多発的に湧いてでて。
気がつけば、完全に事実として扱われていた。
創作によくある”勘違い”である。
とはいえ、さすがにノワルもなぜか同情的な態度を周囲から取られるようになったり。
奔走鬼なんて二つ名がつけられるようになれば、その勘違いにも気がつく。
ただ、気がついた時にはすでに訂正できなくなっていただけで。
というか、ノワルの中の人も、ノワルがどういった人生を送ってきたのかがわからないのでどうしようもないだけで。
ゲームの設定的には、中の人が意識を覚醒した瞬間に”発生”したと考えるべきなのだが。
それもあくまでファンの推測にすぎず。
絶対にそうだという根拠は、残念ながらなかった。
というか推測を周囲に話したら、間違いなく頭のおかしい奴扱いされるのでノワルも話すに話せないのだ。
他にも、ノワルの勘違いは止まらない。
彼は、自分の考える最強ビルドのために、色々と設定的にこれはどうなんだみたいなキャラクリをしている。
他にも彼には、他者にはないゲーム知識という武器があり、それによって周囲から見てありえない行動を取ったりする。
ゲーム知識のせいで、本来だったら助からないはずの人物を助けたりもできてしまう。
結果、やたらとすごい人物に目をつけられたり。
厄介事に巻き込まれたりするのだが。
本人は、あくまでレベルを上げたいだけなのだ。
そうして最強ビルドを作り、誰にも負けない冒険者になること。
それが目標である。
ただまぁ、そうなれば周囲からの注目を集めざるを得なくなり。
結果として、ノワルはダンジョンを巡る
これは、そんなレベルを上げたいだけの転生者と、それを放っておいてくれない周囲の物語だ。
というわけで、割と安易なダンジョンゲー転生です。
よろしくお願いいたします。