なんか、元気な産声が聞こえた。魂が震えるようなそんな気がした。
あーそうそう、俺は成人になって仕事に就いた。まあ俺は兵士タイプだから就ける仕事が限られる。警備兵か、クリプトン軍だ。軍はゾッド将軍がいるから論外。あの人めっちゃ怖いんよな〜直属の部下には優しいらしいけど、末端とかには超厳しい。だから俺は、警備兵になった。
警備兵は、要人の警護だったり、施設の警備だったり、元老院の近衛なんかをする。正直警備兵の方が自分の時間が取れる。軍の場合はやれ訓練やら、遠征やらで家には殆ど帰れない。ファオラはしょっちゅう俺とトレーニングしていたが、彼女はゾッド将軍直属の配下なので、ある程度時間が取れたようだ。
じゃあお前もゾッド将軍の直属の配下になればいいじゃん!楽勝だろ!と思うかもしれない。確かに楽勝だ。俺の力を持ってすれば配下どころかこのクリプトンの王にだってなれるかもしれない。だけど俺は、そういった地位とか名誉とかに興味ない。今は亡き父や母が言っていた然るべき時が来るまで、俺は普通のクリプトン人でなければいけない。
というか然るべき時っていつなんだろう?なんなんだ?大戦争とか起きる気配とかないし、クリプトンはずっと平和だ。
いや、もうすぐ平和じゃなくなるかもしれない。というのも、俺の足下。クリプトンの地下奥深く、星の核を見ると今にも爆発しそうな感じがする。ぐつぐつと煮えて、時折り大きく膨張している。なんかヤバそうな雰囲気だった。
まあ、クリプトン星はもう終わりだ。元老院達は何もする気がない。今のうちに宇宙船でも作って他の星に逃げていれば助かるのに、いつも議論してばかりで進展がない。ほら、今もあーでもないこーでもないと議論していたら、有名な科学者のジョー=エルさんがやってきた。
俺は一応元老院を守護する警備兵なのでジョーさんを止める。
「ジョーさん、元老院に何か用ですか?」
「ヴー君、そこをどいてくれ。元老院にこのクリプトンの未来について大事な話があるんだ」
「……ちょっと教えてもらっても?」
「クリプトン星はあと数週間の命だ」
「マジで?ど、どうぞ!」
とんでもない事を聞いてしまった。なんとクリプトン星は数週間で滅亡するらしい。
やっぱり俺の見た星の核の状態は異常だったんだな。最近は天然資源が枯渇したとかで、ものすごい深さまで採掘してたもんな〜
あ、ジョーさんが元老院の爺さん婆さんに報告してる。俺は身体を向けて話を聞いた。というかなんか外が騒がしいな。
「クリプトンの地核は崩れ始めている。この星はあと数週間の命だろう。採掘は自殺行為だった、崩壊を早めてしまった」
「エネルギーが尽きたのだ。他にどうしろと?」
元老院が言った。尽きる前に星を出てれば良かったんだよ!マジでどうすんだろう……俺は宇宙空間でも生きられるから星が爆発したってビューンと飛んでっちまえばいいけど、この人達はどうにもできないでしょ。
でも実は俺、脱出用に宇宙船を購入してあるなんて誰にも言ってないんだけど……父と母を逃すように買ったんだけど、病気でポックリ逝っちゃったから今は家の倉庫で埃被ってる。
「祖先の様に宇宙に目を向けよう、我々の移住に適した星がきっとあるはず」
ジョーさんが逃げようって言ってる。
「全員でこの星を脱出するのですか?」
婆さんが言った。この元老院の婆さんはいつも答えを出すのが遅い。そしてジョーさんが言った。
「いや、我々はもはや助かるまい。コーデックスを託してくれ、子孫は守る。この手で実感したのだ」
えっ!助からんの!?あ!!!!
俺の目の前で爆発が起こって扉が吹き飛んだ。あ〜ゾッド将軍だ……
やべ、俺にエネルギー弾が飛んできてる。とりあえず当たって死んだフリしとくか。
「ごほお」
俺の身体にエネルギー弾が当たり、俺は吹き飛ばされたフリをして倒れた。
そしてゾッド将軍と直属の配下達がゾロゾロと部屋に入って行った。あ、ファオラが立ち止まって俺を見てる。やっぱバレたか。
俺は口パクでファオラに伝える。
「(おい!こっちを見るな!)」
「(フッフッフ、貴様……ちゃんと仕事をしろバカ)」
俺と10年共にトレーニングをしたファオラ。彼女には俺の力の事がバレてしまった。それから俺が散々手加減していた事を怒り、1年間サンドバッグにされた。嫌な思い出だった。
ファオラとはそれから更に仲良くなった。俺とは10年歳が離れているわけだが今では対等の関係となっている。
「ファオラ!どうした!」
「ハッ只今!(後でな)」
ファオラがゾッド将軍に呼ばれ行ってしまった。行く間際俺にウィンクをしてきたが、俺は無視して頭だけを元老院の方へ向けた。
「元老院は解散だ」
ゾッド将軍が元老院に言う。クーデターか!
「誰の権限で?」
婆さんは黙ってろよ!殺されるぞ!
「私だ」
あ、婆さんがゾッドに撃たれて死んじまった。
「他の者も裁判にかけ処罰する」
婆さんに裁判はなしかよ……可哀想に。まあ人の話を聞かないし、最近ボケてたから元老院クビになりそうだったけどさ……
「ゾッド!何をしている!」
ジョーさんが止めに入った。ジョーさんとゾッドは確か友人関係にあったはずだ。何回か一緒にご飯を食べてるのを見た。あの時は仲良さそうだったのにな。
「やるべきことだ。話し合うだけの元老院がクリプトンを衰退させた!」
「確かに……そうだが!滅びゆく星を支配してどうする?」
「手を貸せ、我々で種族を立て直そう。星を滅ぼした奴らの血は根絶やしにする」
「その選別は誰がやる?……お前か?」
「よせ、エル。お前とは敵対したくない」
「志は同じと思ったが、お前は同胞に剣を向けた。もはや友ではない、お前は怪物だ」
「……連れて行け」
ジョーさんが配下に連れて行かれた。そして、残ったゾッド達は元老院を縛っていく。事が済むまで此処に放置するようだ。
早くいなくなってくれないかな…死んだフリって意外と辛いんだ。
すると部下の1人がゾッドに駆け寄り報告した。
「ゾッド将軍、ジョー=エルが逃亡しました。コデックスを回収し、船に乗って逃げる気かと」
「なに?すぐ向かうぞ!」
ジョーさんが上手い事逃げたようだ。そしてコデックスを盗んだのか…本気だな。コデックスにはクリプトン人10億人分の遺伝子データが入っている。もしクリプトン星が滅んでも、コデックスとジェネシスチェンバーがあれば何処かの星でクリプトンを再興できるだろう。
「ゾッド将軍、私は警備兵の遺体を弔います」
「そうかファオラ。丁重にな」
「ハッ!」
ファオラも上手い事言ってゾッドから離れた。
そして俺に近づいてくる。
俺はゾッド達がいなくなったのを確認して立ち上がった。立ち上がった俺を見て元老院が驚くように声を上げた。
「ファオラ、遂に始まったな」
「ああ、貴様の言う通りだった。まさか将軍がこんな蛮行に走るとは思わなかったが……」
俺はファオラに星の核が危うい状態である事を話していた。そして脱出する事も。
「俺は行くぞ。ファオラはどうする?ゾッドについていくのか?」
「この星は終わりだ。そしてクリプトンも。私は貴様と行くぞ」
「そうか。じゃあやる事やってお暇するとしよう」
俺はそう言って、身体の防具を全て剥ぎ取り、マントとボディスーツのみの格好になると、元老院達に近づいた。彼らに巻かれている縄を引きちぎり、1人ずつ椅子に座らせてあげた。
そして、彼らの前で俺は立ち浮かび上がった。
「な!!!なぜ!!!」
「どういうことなのだ!!」
元老院達が突然浮かび上がった俺に驚き声を荒げる。
「俺はヴー=ロリ。元老院さん、今までお世話になりました。最後だけ仕事をして辞めさしてもらいます」
「し、仕事とはなんだね?」
「ゾッドを捕えます」
俺はそう言って、元老院を離れるとファオラを抱き空を飛んだ。
空でファオラに告げる。
「ファオラは俺の家で待っててくれ」
「分かった」
そうしてファオラを抱きながら空を飛び、俺の家に着地すると、ファオラを中に入れた。
「将軍は今ジョー=エルの邸宅だ。急げ」
「了解」
俺は勢いよく空へと飛び上がり、ジョーさんに家を目指した。
そしてあっという間に近くに来ると、ジョーさんの家から
あれは…
中を見ると赤子が1人乗っていた。まさか!さっき聞こえた産声はあの子か!?自然交配で産まれたのか?
「撃ち落とせ」
ゾッドの声が聞こえた。そうはさせるか。
俺は発射されたポッドの後ろを付け狙う船目掛け飛んだ。
「ロックオン」
パイロットの声が聞こえる。
俺はそのまま超高速で船の動力部に向かって体当たりをした。そして船を突き抜けると同時に爆発を起こし、ポッドはそのままファントムドライブを起動させ宙に消えた。
「あ、アイツはなんだ」
ゾッドの声が聞こえる。空を浮かびマントを揺らす俺を見て驚いている。
俺はゆっくりと、ゾッドやその配下達に近づいた。
「な、何者だ!」
銃を持った者が俺にそれを向けてくる。
当たっても痛くも痒くもないが、一応無力化させてもらおう。
俺は両手を広げ彼らに向かってパンッと叩いた。すると俺の両手から衝撃波が起こり人をドミノの様に倒していく。
ゾッドはその中でも両腕をクロスさせ防ぎ、衝撃波を耐えていた。将軍はやはり強いな。
「投降しろ。お前たちは包囲されている」
一度言ってみたかったんだよな。
俺がそれを言うと同時にゾッドの息のかかっていない軍が周りを包囲した。
「貴様はラオからでも力を得られるのか…なぜ!なぜ元老院に従う」
「別に従っちゃいないさ、ただ最後に一仕事しただけだ」
そうして、正規軍がゾッド達を捕らえていく。
俺はそれを見てから、ジョーさんの家に入った。
「ララさん……」
家に入り中央部へ行くと、開けた場所で倒れたジョーさんを抱くララさんがいた。
ジョーさんの心臓は動いていなかった。
「あら…ヴー君じゃない。夫はあなたが死んだと言っていたけれど」
「俺は少し特別なんです。お二人の息子さんの様にね」
「ジョーは…死んだわ…カルも…」
冷たくなったジョーさんの胸に顔を埋め泣いていた。
「カル=エルは無事です。ちゃんと飛び立ちました。それとゾッドも捕らえられました」
「そう…良かった」
ゾッド将軍のクーデターは瞬く間に鎮圧された。彼らによって殺されてしまったクリプトン人はかなりの数になった。ゾッド将軍とその配下は大量殺人と大逆の罪で拘束され、40年にも及ぶファントムゾーンへの追放となった。
そしてクーデターから1週間後、今まさにゾッド達がファントムゾーンへと追放される。俺はそれをララさんの後ろで見ていた。今回は警備兵ではなく、ロリ家の当主としてだ。
元老院の爺さんがゾッド達に告げる。
「ゾッド将軍、大量殺人と大逆の罪により反乱軍メンバーと共に300サイクルの間ファントム・ゾーン追放刑に処す。最後に言い残すことは?」
クリプトンを混乱に陥れ、あまつさえ元老院の婆さんを殺したのにファントム・ゾーンへの追放で許されるとは随分と寛大だ。俺と同じ事を思ったのか、ゾッドが拘束されながらも元老院の爺さんに近づき、唾を吐きかける。
「なぜ殺さない!?手を汚したくないからファントム・ゾーンへ幽閉か?はっ実に愚かだな!ジョー=エルは正しかった。お前らは全員バカ者だ!」
まあ確かにな、それは俺も思うよ。元老院は最後まで愚かだった。議論するだけで全く前に進まない。星が崩壊するというのに、呑気にくっちゃべってばかりだった。民を導く存在であるのに、その権力を持て余し堕落した。
ジョーさんの様に星の崩壊を予期した者達は早々にクリプトンを捨て何処かへ去った。だがそれもほんの一部の者だけ…大部分の民達は今も普通にクリプトンで暮らしている。
だが……クリプトン文明はもう滅びるべきなのかもしれない。ジョーさんはそう元老院に言っていた。選択のチャンスや夢がない
「そしてお前…!お前だヴー=ロリ!なぜお前はそれ程の力を持ちながら民を導かない?お前がいればきっと……」
「俺がなぜ正体を隠したと思う?」
俺は異端だ。兵士として調整されたにも関わらず柔軟な思考を持ち、一つの考えに捉われない。クリプトンではそう言った者達は捕まり追放か処刑だった。
「俺が正体を明かせば異端者として捕まるだろう。お前はジョーさんとララさんを異端者と罵っただろう?元老院もお前らも、その思考がこの星を破滅させたんだ」
「ふんっ!いいか?必ず!必ずお前を殺し、そしてララ!お前の息子も必ず見つけるぞ!必ずだ!!!!」
ゾッドはそう言って台座に戻され、反乱軍と共にジェルに包まれ固まった。そして射出され宇宙船へと格納されると、宇宙へと飛び立った。
「ララさん」
「ヴー君、達者でね」
ララさんはそう言って足早に去ってしまった。どうするつもりなんだろうか?ララさんの家には一隻の船が停まっていたはずだから脱出はできるだろうけど…
まあいいか!俺も家に帰ろう。
そして家に帰った俺は、中にいたファオラに事の顛末を報告した。
「そうか」
一言そう言っただけだった。
ファオラはゾッドの配下で腹心だった。しかし、俺の進言によって赦された。
「ファオラ、行こうか」
「ああ」
俺とファオラは必要な荷物を纏め、宇宙船に搭乗した。そして星を脱出して軌道上にやってきた。
「ゴンザカ、他に脱出者は?」
俺は側に佇んでいたナノボットに聞いた。俺の執事ボットだ。
「確認できません」
「え?マジか……元老院は最期まで言わないつもりなのか?」
「あの愚かな元老院がそんな面倒な事をするわけないだろう」
「そうだけどさ…」
じゃあララさんも、もしかして脱出していないのか?
「ゴンザカ、ララさんは?」
「未だ邸宅にいらっしゃいます」
「嘘だろ」
「本当です」
俺は星を見た。今にも爆発しそうだ。
「此処で待っててくれ。ちょっと行ってくる」
「助けにいくのか」
「ああ」
俺は宇宙船のハッチを開けて外に飛び出した。
急いで星に突入していく。高速で飛んでララさんのいる場所へと向かった。
途中で大地が膨れ火が噴き上がった。急がないとマズい。
俺はスピードを上げた。
ジョー=エルの妻でカル=エルの母、ララ・ロー=ヴァンは遠くの大地から火が噴き上がるのを見ていた。一つや二つではない、無数の巨大な火柱が大地から噴き上がり、あらゆるものを破壊し、迫っていた。
揺れで家の壁が崩れていくのを気にせず、ララは佇んでいた。
「ララ様、此処はもう危険です。避難されては?」
側にいたナノボットが言った。
「逃げ場などないわ、キロア。夫の言った通り…終わりよ」
全てに絶望した表情で迫り来る破滅を見据えながらナノボットに言った。夫の死、そして少しの間しか感じることが出来なかった愛する息子の温かさ。
涙を流し、これから1人過ごしていく息子を想い、祈った。
「いい世界を作って、カル」
「その世界を見にいきましょう。ララさん」
「あなたは……!」
ララの前に1人のクリプトン人が現れた。宙を浮き、黒いマントを揺らした大きな男だった。男がララとナノボット2体を抱き寄せると、懐から機械を取り出しララの首元につけた。ララの顔全体を覆うように膜が現れ、ララの呼吸を確保した。
そして男、ヴーは外へと出て一気に宇宙へ飛び上がった。音速を超え衝撃波を伴いながら大気圏を突破し、軌道上に待機していた船に飛び乗った。
そして、近寄ったナノボットにヴーは言った。
「行け!!!!」
「かしこまりました。ファントムドライブ起動、ジャンプします」
船が一瞬の揺れと光に包まれクリプトン星から姿を消した。そして船が消えてすぐ、クリプトン星が大きく赤くヒビ割れ、一瞬大きく膨らむと超新星爆発を起こした。