刑務所での生活は思ったほど悪くない。飯はちゃんと出てくるし、1人の時間もあるし、1日必ず外に出る時間もある。基本的に独房の中に入れば何をしていたっていい。独房の中でひたすら自重トレーニングをする事だってできる。
今日も日課の筋力トレーニングを行い、独房の中で天井を見ながら寝ていた。
すると独房を閉ざしていた鉛の扉が開き、通路から人の気配と声が聞こえた。
「いつものグリッグスと他に知らない奴が数人いるな、それに妙な気配を感じる」
この気配はなんだろうか?人ではあるが、どこか異質なものを感じる。
それにいつもより人数が多い。毎日行われる看守の巡回は看守長のグリッグスとその取り巻きだけだが、いつもとは違う声が聞こえる。
「あそこだ」
「彼ね?」
「スーパーマンと違ってあんな奴役に立たないと思うがなぁ、食って寝るだけだぞ?」
そして俺の独房の前にガヤガヤと人だかりができて、見知らぬ女性が前に出て声をかけてきた。
「ジョン・ヴロリーね?私はアマンダ・ウォラー」
俺は床から身体を起こし、胡座をかくと扉の先に居るアマンダと名乗った女性を見据えた。俺を前にしていても随分と落ち着いている。自信に満ち溢れ、恐れを感じない。グリッグスなんて来る度心臓バクバクだぞ。
「そうか、俺に何の用だ?」
「あなたを部隊に迎えたい」
「部隊?」
「最凶の部隊を作ってるの」
「ふむ……俺が素直に入りますと言うと思うか?」
「これを見てくれるかしら」
ウォラーがそう言うと、懐から1発の弾丸を取り出した。
「おいそれは…」
「あなた達の弱点…クリプトナイトを混ぜ込んだ弾丸よ。これであなたの仲間を…」
クリプトナイトか……俺に使われてる物とステッペンウルフが持っている槍…どれだけ地球に存在しているんだ?ワールドエンジンが着陸した南インド洋の海中で生成されたと聞いていたが……
「はぁ…」
思わず溜め息がでる。
そしてウォラーは更に数枚の写真を俺に見せてくる。
その写真にはファオラやカーラ、更にはララさんまでもが映っていた。クリプトンのスーツを着ていない状態の、人間社会に紛れこんでいる時の姿が映っている。アマンダ・ウォラー…この女は俺達の事をかなり調べているみたいだな。
めんどくさい奴だ…
「それとこれも観てほしいわ」
ウォラーがそう言って鞄からタブレットを取り出し、画面を俺に向けてきた。
画面には夜の公園を見渡す様に映っていた。
そして次第にカメラが音声を拾っていく。
俺の研ぎ澄まされた聴覚がその音声をキャッチした。
「止めろ」
「あら…早いわね?まだ
俺の制止を無視して再生を続けるウォラー。
ダメだ、それを俺に見せるな!!!!
公園に1人の男が現れた。全裸で踊りながら奇声を上げている。
「《裸で何が悪い!裸で何が悪い!裸で何が悪い!》」
「やめろ!!!!やめてくれーーーーー!!!!」
ウォラーがタブレットを鞄に仕舞うと俺に言った。
「私の指示に従ってもらう。もし私に何かあればこの映像は全世界に拡散されるわ」
あれは俺の葬られるべき暗黒の歴史……カルが見つからずイライラしてる時に酒を浴びるほど飲んだ日に起きた事だった。本来であれば酒になんか酔うはずのない俺の身体はイライラと焦燥でおかしくなっていた。酔った俺は全裸になって……グ……!!まさか公園に監視カメラがあったとは…!
「クソォ!!!俺に何をさせるつもりだ!?世界か!?世界がほしいのか!?」
「そんなものはいらない、普通の人間では対処できない事態を解決してもらいたいだけ」
もしあの映像を利用して世界を手に入れるなんて言ったら殺してるところだ。地球を滅亡させる事なんて容易い。亜光速で地上スレスレで飛びまくればソニックブームだけで全人類を滅ぼせる。そうすれば俺のあの映像は誰にも知られる事なく消滅する。
しっかし、犯罪者を使って何をやらせようってんだ?俺ならまだしも、ちょっとした能力を持つ
「そんなのそれこそスーパーガール達にやってもらえばいいだろう…俺や此処にいる奴らじゃなくてもな」
「スーパーガール達は米国政府の都合よく動くわけじゃない。頼んでも従うかわからないでしょう?そのかわりに死なんて恐れない犯罪者部隊タスクフォースXを危険な任務に就かせる」
まぁ…確かにファオラやカーラが従順になる想像がつかない。俺みたいなアホをやらかすとも思えない。
「捨て駒ってわけか」
「あなたは死なないかもしれないけど、概ねそうだと思ってもらって構わない」
「死ねと言われて死ぬ奴はいない。何か条件があるんだろ?頼むそうだと言ってくれ」
「ええ勿論。そうね……あなたのお友達のフロイドは従うかわりに娘に一流の教育を受けさせろ!だとか、親権を寄越せとか、色々条件を出したわ。他の人も減刑や叶えられる範囲の願いなら叶える」
「そうか……」
うーむ……
やはり俺の願いはあの映像の抹消だ。ゴンザカに頼んでネット上のデータを抹消するのは容易い…しかしネットに繋がっていないアナログの媒体に保存されていれば破壊しない限り残り続ける…俺達の事を調べ上げているウォラーのことだ。二重三重に策を練っているはずだ。
それに断ればファオラ達の命が危ない。ただでさえステッペンウルフに狙われている今の状況に、人間達からも狙われるような事があればどうなるか分からない。人間に後れをとる可能性は万に一つもないが、カルのように意識外からの攻撃で死ぬ可能性はできるだけ減らしたい。
ステッペンウルフはカルを殺してから姿を見せていない。ファオラ達には常に警戒しろと言ってあるが……
「お前の話を受ける。あの映像は消せ…それと」
「それと?」
「見張っている3人の監視を引き続き頼む」
「それはなぜ?」
「スーパーマンを殺した奴に今も狙われている」
ウォラーの目が一瞬開き、すぐに戻る。そして口を開いた。
「分かったわ、じゃあ契約成立ね」
ウォラーがそう言うと他の人間達と共に独房から離れていった。
ガシャンと独房が鉛に閉ざされ外が見えなくなり静かになると、俺は床にまた寝転がり天井を見つめた。
あの映像……あれがある限り俺は奴に従わなければいけない…ちくしょう…
「おい!ジョン!早く外に出ろ!!!」
「え?え?え?」
寝ていると、いきなり鉛の扉が開き兵士達が雪崩れ込んできた。
「どういうことだ!?」
身体をガバッと起こして俺を囲む兵士たちに言う。
「お前らの出番だよ!!!」
兵士の1人が銃を構えながら俺に言った。
出番?え?昨日話したばかりだよな?もう出番きたのか?早くねーか?
「わ、分かったからそんな殺気立たないでくれ。言われた通りにするから」
「立ち上がれ!!」
兵士に言われた通り立ち上がると、四方を兵士に固められ身体を縄の様な物でぐるぐる巻きにされ車椅子に座らされた。
そして半ば強引に独房から出されると、兵士に押され移動を始める。
周囲の音を聞くと俺と同じ様に兵士達に連れられる囚人の怒声が聞こえた。車椅子にフロイドやウェイロン、外の独房にいるチャトの声だ。そして車椅子に乗りながら周囲を見渡すと兵士たちが忙しなく動き囚人達を捕らえていた。
あれはウォラーに選ばれた囚人だろうか?おいおい…ウェイロンのとこで1人死んでるじゃねーか…喰われたのか。
それから上階へと移動して刑務所内の医務室に連れて行かれた。
医務室では迷彩柄の軍服を着た人達が俺を待っていた。その内の1人が小さな黒いケースを開き中からハンドガン型の注射器を取り出した。注射器の中身は液体ではなく、何かカプセルのような物だ。なんだろうか?
ケースを横目で見るとヴァンクリスラボとウェイン産業と書いてある。
ウェイン産業…ブルース・ウェインの会社だ。
車椅子を押され医務室の真ん中に置かれると、注射器を持った女性が俺に近づく。
「おい待て」
俺の首元に注射器を近づけ引き金を引く。プシュッと音がしてガスが出るが、何も感じない。
「おかしい、針が刺さらない」
「クリプトナイトが効いていないのか?」
「拘束はできているぞ?」
兵士達がざわめく。
マズいな……俺にクリプトナイトが効かない事がバレちまう。バレたところで問題ないんだけど、これは俺に残った唯一のアドバンテージだ。まだウォラーにバレるわけにはいかない。
極限まで力を抜いてみるか?
「フゥゥゥー……」
息を大きく吐き、力を抜く。針ぐらいなら通るだろう。
いや、多分無理だな。
仕方ない。
「おい、もう一度やってみろ」
「え?」
「はやく」
俺がそう言うと再度注射器を首にくっつける。そして引き金を引いた瞬間、俺は超スピードで動き注射器の当たる皮膚に自らの爪で傷をつけた。
そして世界のスピードが元に戻り、注射器の針が俺の首に入り異物が注入された。
女性がスキャン機器を俺の首に当ててカプセルが入った事を確認する。
「入ったようね!次!」
なんとかいけたな。
兵士が俺の車椅子を押して部屋を出る。後ろから甲高い女の声が聞こえた。アイツはハーレイか…綺麗な奴だが中々イカれてる女だ。
部屋を出て、そのまま刑務所の外に出るとヘリポートに大型の輸送機が停まっていた。どこに運ばれるんだろうか?
刑務所の外はどんよりと暗い。そして俺の耳が遠くの騒音を捉えた。あの方向はミッドウェイシティか?
「何が起きてる?」
そうして俺とその他の部隊に選ばれた囚人が輸送機に乗せられ刑務所を飛び立った。
ヘリの中には見知った顔が何人もいる。
フロイド、ウェイロン、チャト、ハーレイ。
「ヴロリーの旦那…あんたも部隊に?」
隣に座るチャト、通称エル・ディアブロが俺に話しかけてきた。
「あぁ、脅されてな。仕方なく入った」
「そうか…旦那を脅すなんてあの女やるなぁ…」
アレを考えると今でも冷や汗が出る。
暫く飛んでいると着陸のアナウンスが聞こえた。
そして禍々しい気配と何かを破壊する音、人々の喧騒な声、様々な音が近くなる。
輸送機が着陸すると、兵士に車椅子を押されて輸送機から降ろされた。
外は空港だった。人々で溢れごった返している。怪我をして担架に寝ている人や、医者によって治療を受けている人が見える。そして人々が次々に飛行機に乗り込み、空港を離れていく。まるで街を捨てたかのように。
ミッドウェイシティからは今もなお争う音が聞こえる。街から大勢の人々が避難する程の事態か…本当に何が起きているんだ?
車椅子を押されて開けた場所に集められ、沢山の兵士に囲まれた。そして拘束を外され車椅子から解放され自由に身体を動かせるようになると、兵士達が俺達を何か珍しい物でも観察するように見てくる。
「はぁ〜あ」
解放された囚人達が身体を伸ばし息を吐く。俺も久々に拘束を解かれバキボキと骨を鳴らしながら身体を伸ばした。いつの間にか日が昇っていて俺の身体を照らす。
正直めっちゃ気持ちいい。久々に陽光を浴びた。大丈夫か?スパーク出てない?出てないわ。
「うふ!ハーレイ・クインよ!」
ハーレイが真っ白な手を伸ばし兵士に声をかける。しかし誰も反応しない。ハーレイはああ見えてかなり可愛い。声をかけられれば少しくらいドキッとすると思うが、兵士達はよく鍛えられているのか誰も反応していない。ちなみに俺はちょっとドキッとした。
ハーレイは突然虚空を見つめながら声をあげる。
「何?ブッ殺して逃げろ?あ…ごめーん天の声が聞こえたの…何もしないわ…今はね」
………マジで可愛いよな。ジョーカーが羨ましいぜ。ファオラもこれぐらい愛嬌があればな……
フロイドを横目で見れば、やれやれという顔をしている。
それから別の場所から袋に入った人間と車で運ばれてやってきた人間が合流した。
袋に入っていた人間はキャプテン・ブーメランという男だ。髭面でコートを着た男だった。赤いビリビリする奴に捕まったらしい。赤いビリビリか…カルが死んでから数ヶ月のうちに出てきたヒーローだったか?稲妻を纏いながら街を走っているのを何度か見た事がある。
車で運ばれて来た男はスリップノット。どこにでも登れるらしい。なんだ?どこにでも登れるって?俺は飛べるぞ。
そして兵士の集団から1人の男が出て俺達に語りかける。
「俺はフラッグ大佐、お前達を指揮する者だ。聞け、お前達の首に埋め込んだのは極小のナノ爆弾だ。米粒大だが威力は手榴弾と同じで俺に逆らえば死ぬ。それに俺を激怒させたりイライラさせたりしたら死ぬ、ムカつかせたりしても死ぬ」
「わたしイラつく女ってよく言われる〜」
「黙ってろ!」
ハーレイが茶化す様に言ったのをフラッグが声を張り上げ怒る。おい死ぬぞ!
というかアレ爆弾なのかよ!や、やべーじゃん…首の中で爆発したら俺どうなるんだろう…経験がないから分からんな。
そしてフラッグはハーレイを睨みつけると、話しはじめる。
「お前たちは危険な場所で敵と戦う。死ぬかもしれん。だが…死ぬまでは俺の部下だ」
「気合いを入れたわけか?」
フロイドがフラッグの前に出て言う。
「そうだ、向こうで…支度しろ。すぐに出発だ」
「そうかいそうかい、いいか、士気をあげたきゃフィル・ジャクソンさ。名コーチに学べ。攻撃の基本は三角形だ」
なるほど…三角形か…
そうして指示された場所へ向かうと、それぞれに大きなケースが用意されていた。
ハーレイが小走りで近づき箱を開けると中にはハーレイの服や装備が入っていた。
「うきゃーー!!」
ハーレイが喜びの嬌声をあげた。
ほぉ…持ち物を返してくれるのか。
俺も用意されている箱に近づき蓋を開けた。
そこには俺が逮捕時に着用していたお気に入りのカーキのシェルパジャケットと白いシャツ、デニムパンツ。そして中に着込んでいたクリプトンのスーツが入っていた。
俺はスーツを引っ張り出し見つめた。
「スーツか……」
胸の部分に施されたロリ家の紋章を見る。俺の家の紋章の意味は不撓だ。アルファベットのBに似た紋章は何事にも屈せず諦めず志を貫くという意味を持つ。
「……ふっ」
紋章を握り潰すようにスーツをクシャッと丸めて箱の中に戻した。そして超スピードで着ている囚人服を脱ぐと、箱に入っていた私服に着替えた。
「一瞬だな…」
隣で着替えていたフロイドが言った。フロイドは仕事をする時の服だろうか?赤を基調とした戦闘スーツを着ている。手には白いマスクを持っていた。
着替え終わったハーレイがフロイドに近づき言った。
「ダッサいマスクね!着ないの?デブった?」
「うるせーよ、これを着けると人が死ぬんだ」
「え?別にイイじゃない」
「ハッそうだな…早く着けたいよ」
にしてもハーレイはいやらしい格好だなぁ…これから危険な場所に行くってのに、随分と肌の露出が多い。武器は拳銃とバットか?
「諸君!神の声だ」
フラッグ大佐が俺達にタブレットを見せながら言った。
タブレットの画面にアマンダ・ウォラーが映し出された。
「私はこの部隊を作ったアマンダ・ウォラー。ミッドウェイシティの地下鉄でテロが発生。現場に急行してHVT1を救出して」
「待ってくれ、悪いがチンプンカンプンだ。なんだ?HVT1って」
「決して死なせてはならない最重要人物よ。救出に成功すれば減刑、失敗すれば死ぬ。それにフラッグ大佐に何かあれば全員殺す。逃げても殺す。常に見張ってるわ」
「怖いな」
救出任務か……俺がビューンと飛んでいって救出しちゃダメなのか?
「いいか?」
俺は手をあげて言った。
「ジョン、なに?」
「俺1人で十分じゃ?」
「確かに!旦那なら楽勝だぜ」
「ガッハッハ」
「間違いねぇ」
画面の中のアマンダがハァと溜め息を吐き俺を見る。
「あなたの単独行動は許さない。必ず部隊の側にいて」
「えぇ〜……」
「アレ流すわよ」
「分かりました」
「だ、旦那…?」
それは困る。あれを流されれば俺は終わりだ。なんとしてでもこの任務を成功させるぞ!!!!!!!!!!!