装備を整え俺達は輸送機に乗り込んだ。
離陸を待っていると、顔が半分隠れるマスクを被り一本の刀を携えた女が慌てて乗り込んできた。
「遅いぞ」
座席に座りベルトを閉めていた部隊を指揮するフラッグ大佐が、乗り込んできた女に向かって言い放った。
知り合いか?
「ヨウガアッタ」
日本語か!刀も持ってるし、日本で有名な侍という戦士だろうか?一度会って見たかったんだ。それにあの刀…すごい気配を感じる。なんというか…吸い込まれそうな…そんな感じだ。
「彼女はカタナ、俺の護衛だ。一太刀でお前ら全員真っ二つだ。斬られると魂が日本刀に吸い取られるぞ」
「マジかよ」
思わず口に出てしまった。斬られると魂が吸い取られる?なんでそんな危ない物持ってんだよ…俺でも斬られたらヤバいかな?怒らせない様にしよう。
でもカタナの佇まいは一切隙がない。かなり強い戦士だな。頼りになりそうだ。
向かいに座るハーレイが手を伸ばしながら声をかける。
「ハーレイ・クインよ!いいニオイ、血生臭いけど」
お前よりかは断然マシだよ。可愛い顔して看守を何人も殺してるの知ってるぞ。
「コロスカ?」
カタナが手に持った刀を抜こうと構える。こえーよ!
「落ち着け、とりあえず座れ」
フラッグが制しカタナを落ち着かせると、隣に座らせた。
そして輸送ヘリが離陸を始める。一瞬の浮遊感を感じて、窓から外を見ると先程俺たちがいた空港が離れていくのが見えた。
「カタナちゃんはイイ子ね…!」
ハーレイが笑顔で頷きながら隣に座るチャトに言った。チャトが困った顔をしながら向かいに座る俺を見る。
分かるよ、分かる。ハーレイはアホだ。だけど俺を見んな。
ハーレイは元は精神科医だかでゴッサムシティにあるアーカムアサイラムという精神病院に収監されていたジョーカーを担当していた。
まぁ…そこでジョーカーに上手いこと洗脳されて狂気に堕ちた。それから色々あってバットマンに捕まりベルレーヴに収容された訳だ。
可愛い顔してジョーカーと共にゴッサムで暴れに暴れ人を殺しまくってるイカれ女だが、ピュアなとこもある。プリンちゃんと刻まれた金のネックベルトを大事そうに抱え首に巻きつけていたし、看守長のグリッグスに携帯を渡されジョーカーと連絡を取り合っていたり、本人は気づかれない様にしているみたいだが、フラッグ以外は皆んな気づいている。
それに今もジョーカーから連絡があったようで携帯を取り出しメッセージを見ていた。
目に反射で画面が写っている。画面には今から助けに行くぞベイビーと映し出されていた。助けに来てくれるのか!良かったなハーレイ。
隣に座るフロイドが画面をチラッと見てハーレイを見た。ハーレイがそれに気づき小さな声で「内緒よ」と言うと、更に向かいに座る俺に向かってウィンクを飛ばしてきた。オッフ。
そんなこんなで飛び続けているとミッドウェイシティが見えてきた。空港からはそれ程離れていないが、外は既に日が落ちて夜になっている。街は至る所から火の手が上がっており、更に妙な気配を複数感じる。
そして目的地へと向かう最中、街に潜むその気配は一段と濃くなる。
「皆んな、掴まれ」
「え?何事?」
「なんだ?」
俺がそう言った瞬間、下方から無数の銃弾が飛んできた。ヘリは次々に被弾していき、パイロットまで撃たれ操縦不能となってしまう。
「マズいぞ!墜落する!」
「おい!誰か操縦できないのか!?」
操縦席を見ると操縦士と副操縦士はどちらも被弾し死んでいた。操縦棍が身体に押されて機体が急降下を始めた。
「旦那ぁ!!」
「任せろ」
俺は猛烈な揺れの中でも平然と立ち上がり、開いたハッチから外に出ようとする。
「おい!逃げるな!」
フラッグが声を張り上げた。逃げねーよ!
「逃げないさ!機体を支えるだけだ、掴まってろ」
そのまま墜落するヘリのハッチから飛び降りると、ヘリの前方に移動して落下を止めゆっくりと降りていった。
地面へとヘリを下ろして、ハッチに回り込んだ。
「大丈夫か?」
「ヒィ〜助かったぜ。流石だヴロリーさん」
「ガッガ!ナイスだ」
先に出てきたフロイドとウェイロンが俺にそう言った。2人は外に出た後周囲の警戒を始めた。
フロイドが懐からアイパッチ型のゴーグルを取り出し周囲に敵がいないか見渡している。
俺はヘリから出てくる人に手を貸し、地面に降ろしていく。
全員を降ろし終えると、フラッグが集合の合図を出した。
「もう一機は無事に着陸できたようだな。これからHVT1の確保に向かう。行くぞ!」
歩いて移動を始める俺達。
街は荒れ果てていて、車がひっくり返っていたり溶けていたり、飛行機やヘリが墜ちていたりとメチャクチャだった。しかし人・の気配が全くない。建物を貫通して透視すると、よく分からない人型の生き物が見えたが……
大通りに出ると、通りの先の空に光り輝く渦の様なものが見えた。なんだあれは?見た事ない物体が渦の周りをグルグルと回っている。それに凄まじいエネルギーを感じた。
あそこへ飛んで確認に行きたいが、部隊の側にいろと厳命されている。
暫く街の中を進んでいくと俺の後ろからコソコソと声が聞こえてきた。
「おいこれはハッタリだ」
「何が?」
「首の爆弾だよ、本物なわけがねぇ。俺たちはハメられたんだ」
「本物だったら?」
「ありえねぇ…ほら見ろ今なら逃げれる。俺は行くぜ」
ブーメランがスリップノットにコソコソと喋りかけている。首の爆弾がハッタリだとかなんとか言って逃げようとしていた。
うーん…爆弾は本物だと思うけどなぁ…前を進むフロイドやウェイロンの首に埋まってるカプセルをよく見ると小さな回路が見える。爆弾かどうか確信はできないが、何かしらの機械である事は間違いない。
「あ」
ブーメランが近くにいた兵士を殴って、乱闘を始める。その隙にスリップノットが手に持っていた銃をビルに向けた。
その横ではブーメランがカタナにあっという間に鎮圧されて壁に追い込まれ直ぐに降参している。
「何やってんだよ…」
スリップノットの銃から鉤爪とロープが射出されビルに突き刺さる。そして装置を作動させるとロープが巻き込まれ飛び上がった。
「撃つな!」
兵士の1人が銃を向け撃とうとするがフラッグに止められた。
俺達の頭上を舞い上がり、ビルに掴まりそのまま逃げようとしたところでフラッグが腕についているタブレットを操作した。
パァン!と乾いた爆発音が聞こえ、スリップノットの頭が吹き飛んだ。ビルに身体を打ち付けそのまま宙吊りになり、血がボタボタとビルを汚していく。
「マジか」
頭ぶっ飛んだぞ。凄い威力だな。
「いいか!逆らったり逃げようとしたらこうなる!次はお前か?それともお前か?」
「脅すのか?」
フラッグが頭が吹き飛んだスリップノットの死体を指差しながら俺たちに言い放った。フロイドが怒りを滲ませながらフロイドに詰め寄る。
「ああそうだ。脅しだ」
「はっは!おい聞いたか?」
フロイドはそう言って俺達の元に戻った。そして歩き出したところで俺はフロイドに話しかけた。
「おいフロイド…あんま喧嘩すんなよ。みんな仲良くしようぜ?任務を成功すれば俺達は帰れるんだ」
「ヴロリーさん、あんな奴らに従うのか?」
「そうよヴーちゃん!あんたがサクッと殺せば直ぐに帰れるのよ!」
側にいたハーレイがバットで俺のケツを叩きながら言った。
「オッフ……ダメだ…!いいか皆んな、俺はできれば人を殺したくない。任務を成功させれば皆んなハッピーで帰れるんだ!そうだろ?俺は遺恨を残したくないんだ」
「俺は旦那に賛成だ」
「オレもダ」
チャトとウェイロンが俺に賛同してくれた。フロイドは腕を組み思案を始める。
「プリンちゃんが助けてくれるわよ?首の爆弾も解除できる!ほら!連絡がきてるもん!」
携帯を俺に見せてくるハーレイ。携帯の画面にはジョーカーから「爆弾解除装置を手に入れた。今から行くぜ!」というメッセージが届いていた。
「ハーレイ…ウォラーがそんな甘い奴だと思うか?首の爆弾以外にも二重三重に策を張り巡らしてるはずだぞ」
それこそ今この場所にミサイルを撃ち込んでくる可能性だってある。俺は死なないが、コイツらは全員死ぬだろう。それに俺の暗黒の歴史が全世界に発信される事にも繋がる。
俺はなんとしてでもあの映像を抹消しなくてはいけない!ウォラーは言った。任務が成功すれば願いを叶えると…
「分かった。ハーレイ、ヴロリーさんの言う通りだ。カッとなったが任務優先で行こう」
「はぁ…!?まぁ…いいけど!」
「止まれ」
先頭で銃を構えながら進んでいたフラッグがハンドサインと声を上げ俺達を止めた。
前方を見ると、先ほど見かけたよく分からない生き物が屯していた。
「なにあれ?」
バットを肩に担ぐハーレイが小さな声で言った。
俺は前方で警戒するフラッグに近寄り声をかける。
「人間じゃないな、空に見えた光の渦とあのバケモノ。地下鉄でテロは嘘だな?」
「……あくまで任務はHVT1の救出だ」
そうかい。
にしても気持ち悪い生き物だ。
頭は原型をなくし、無数の目玉が蠢いている。身体もよく分からない粘液に包まれていて、辛うじて人間だったという事が分かるぐらいだ。
闇と恐怖で転じたパラデーモンとはまた違う異質さだ。それに知・性・を感じない。命令通りに動く人形みたいだ。
「アレはなんだ?」
フロイドも気になって前に出てきた。赤い片目ゴーグルを取り出し奴らを観察している。
銃を持っている者や、建物に取り付けられた消防斧を持っている者がいた。目の前に屯している者はどれも武器を手にしている。俺達が乗っていたヘリを攻撃したのはアイツらだろう。
「《切り抜けて》」
フラッグの耳に付いているイヤホンからウォラーの声が聞こえた。
「やるしかないみたいだな」
俺がそう言うと、兵士達が銃を構えて奴らに照準を定めた。フロイドも肩にかけていたカスタムした銃を構える。
そしてそれを感知したのか奴らが一斉にこちらを向いた。360度全てについた小さな目玉がギョロギョロと動き俺達に攻撃を始めた。
「撃て!!!」
兵士達が一斉に射撃を始める。後ろにいたハーレイ達もこちらに向かう音が聞こえる。さっと後ろに振り向くと、ブーメランが缶ジュースを手に車の陰に隠れたのが見えた。アイツ…まあいいか。
「奴ら銃を撃ってくる、当たらないよう気をつけろ。チャトは無理しないでいいぞ」
「旦那、俺も戦うよ」
チャトがそう言うと、壊れた車の上に乗って両手を前に突き出した。
「俺の炎を喰らえ」
翳された両手から膨大な熱を持つ炎が噴き出しこちらに近づく奴らを焼き尽くしていく。
「うひょー!!スゴイわ!やるじゃない!」
バットを振り化け物の頭をぶっ飛ばしながらハーレイが言う。
そしてそれを皮切りに俺達も戦い始めた。
俺は少し浮かび上がり、遠くにいる銃を撃っている奴に対し熱線を放った。そして敵が密集している場所に突っ込み拳を地面に叩きつけた。
フロイドはアサルトライフルで的確に敵の頭を撃ち抜き、ウェイロンは近づいてきた敵を掴み引きちぎったり噛みついている。フラッグの護衛のカタナは手に持つ日本刀を引き抜き奴らを一刀両断していた。
フラッグの部下である特殊部隊の連中も善戦している。
しかし、敵は妙な動きをしている。フラッグを囲む様に動いている気が……
「あ」
「グッ!離せ!!!」
攻撃の間を縫う様に現れた複数の敵にフラッグが囲まれ連れ去られそうになった。
敵を両手に掴みながらそれを見ていた俺は、掴んでいる敵をビルに向かって投げてフラッグの元に飛んだ。
5人の敵に掴まれ引き摺られるように連れ去られそうになっているフラッグは、腰から抜いたハンドガンを敵に向かって撃ちまくるがまるで効いていない。
俺はそこに移動するとフラッグを掴む敵に向かって腕を振るった。腕に当たった敵の身体がゴッソリ消し飛び倒れていく。
「大丈夫か?」
倒れているフラッグに手を差し出す。
「た、助かった」
「いいんだ」
お前に死なれると俺が困るからな。
フラッグを立たせて周囲を見渡すとうじゃうじゃと沢山いた敵は殆どが俺達の手によって倒されていた。犠牲者もいない。
「まったく!気持ち悪い奴らね!」
倒れた敵に向かってバットを叩きつけるハーレイ。
「もう死んでるぞ」
「まだビクってしてたわよ!」
確かにビクッとしてた。ハーレイの言う通り気持ちに悪い奴らだった。
「見ろ、コイツ3,000ドルもする時計をつけてる。おいコイツらは街の人間だったのか?」
フロイドが倒れている敵を検分し、フラッグに詰め寄り言った。
「元人間だ、今は違う」
やっぱり人間だったのか。
あの光の渦、そしてこの変異した人間。
一体この町で何が起こってるんだ…?
「おい盗るな!」
追い剥ぎをするブーメランにフラッグが激怒した。