カルと共に地球を何周も飛び回り、思う存分楽しんだ後。俺とカルはジョーさんの待つ船に戻ってきた。
船の搭乗口にファオラが見えた。
ゆっくりと着地して船に近づくと、突然ファオラが雪を舞上げながら一瞬の内に近づき俺に拳を振るってきた。
「危ねぇ!!!」
俺はそれを間一髪避けると、ファオラの腕を掴み地面に押し倒した。
「チッ今日もダメだったか」
「チッじゃねーよ!出会い頭いきなり殴ってくるのもうやめてくれよ!」
「お前の顔を見ると無性に殴りたくてな」
ファオラが立ち上がり、服についた雪をパッパとはたいて落とすとカルを見た。
「……ファオラ、彼が俺達が探していたカル=エルだ」
「どうも……」
カルがファオラに握手を求めようと手を伸ばす。しかし、ファオラはそれを叩いてしまう。ファオラの手がカルの手に当たると衝撃波が周りの雪を吹き飛ばした。
「うぇ!?」
「おい!ファオラ!」
「ふんっ貴様がクリプトン星最後の息子カル=エルか……まだまだ弱いな」
あの……兵士タイプ特有の戦闘狂出すのやめてもらっていいかな?俺も兵士タイプだけどさ、なんで兵士タイプのクリプトン人ってこんな横暴なんだよ?道徳とかないんか?
あ、そう言えば無かったわ!コイツらって思考まで戦士として調整されてるから道徳とか一切ない殺戮マシーンだったわ〜。身内には優しいけど知らん赤の他人に対しては、ありえないくらい冷たく接する。
「船の中でララが待っている。さっさといけ」
「お前なぁ……ごめんなぁカル、コイツはゴリラなんだ。とりあえず船の中で待ってる人がいる。いってくれ」
「あはは………」
カルが手を摩りながら船の中に入っていくのを見送った俺とファオラ。
「おいヴー。ゴリラとはなんだゴリラとは」
「言ったまんまだろ」
「名誉の死をくれてやる。やるぞ」
ファオラが構えた。はぁ……会う度毎回これだ。俺とトレーニングをしたがる。いや、トレーニングと言う名の殺し合いだ。毎回俺が勝つけど。
「はいはい、ここは船があるからよ。あっちでやろうぜ」
俺とファオラは少し跳躍して船から離れた島に着地した。
そしてお互い少し離れて拳を構えた。
「いくぞ!!!!!」
「こいや!!!!!」
ファオラが声をあげると、跳躍し真っ直ぐと拳を振り上げながら俺に向かってきた。
俺はその拳を腕で受け止める。ファオラの力が俺の腕を伝播し、発散され周囲の雪や砂が吹き飛んだ。そのまま俺は拳を受け止めた腕を払い、ファオラの顔面に向かって拳を放つと、それをファオラは左手で止めた。俺の拳に込められた力が衝撃波として周囲に広がった。
俺達クリプトン人がこうやって母星以外の場所で戦うと周りの被害が酷くなる。
大地は抉れ穴ボコだらけになるし、建造物があれば瞬く間に衝撃波で吹き飛んでしまうだろう。
どちらかが拳を受け止める度に轟音が鳴り響き衝撃波が起きて周りの雪や砂が吹き飛ぶ。
そしてファオラが縦横無尽に高速で動き回り始め、俺に殴打を続ける。
人間が見ればファオラが瞬間移動をしながら拳を振るっている様に見えるかもしれない。
俺は
そうして何回か打ち合うと、ファオラが高速バックステップで離れ、目を赤く輝かせた。
ビィンという音と共にファオラの両目から熱線が放たれる。俺もファオラが目を輝かせるのを見て目から熱線を放った。
俺とファオラの熱線がぶつかり合い拮抗する。
周囲の雪が熱線の熱で溶けていく。俺は更に少しだけ力を込めた。俺の熱線が少し太くなり、ファオラの熱線を押し返していく。
「ググググググ……」
ファオラが歯を食いしばりながら熱線の照射を続ける。しかし俺の方が強い為、どんどん押し返されていく。そして遂にファオラの熱線を突き破り身体に当たった。
「グハァッ!!!!」
俺の熱線で吹き飛び地面を抉りながら岩に当たり止まった。
「俺の勝ちだな」
「クソが」
俺はファオラに近づき、手を伸ばした。俺の手をファオラが掴み立ち上がると俺の腰に腕を回し抱きついてきた。
「お前……」
「油断するなよ」
「はぁ?」
「ウオオォァ!!!」
ファオラが雄叫びを上げ倍近く大きい俺を持ち上げた。コイツ!!ジャーマンスープレックスを決めるつもりか!!
「あ」
俺は持ち上げられ、頭から地面に叩きつけられた。痛え……。
目を開けると何も見えなかった。どうやら頭ごと土の中に埋まってしまったようだ。やりやがったな。
俺は拳を叩きつけて地面を破壊し、そのまま宙に浮かんだ。
俺のお気に入りの上着が土だらけだ。コイツは絶対に許さない。
「おいファオラ。覚悟しろよ」
「おい、今回は私の勝ちだろう?少しは年上を敬いたまえよ」
「うるせぇ」
俺はファオラですら視認できないスピードで近づき抱きついた。
「おいぃぃ…まさかぁぁ」
「お仕置きだ」
ファオラの両腕を包むように抱き上げ、地を蹴り一瞬で空へと飛び上がった。
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
1秒にも満たない時間で音速を超え、亜光速へと到達。一筋の流星と化し宇宙へと飛び出した。ファオラの顔を見ると亜光速の圧で鼻水やら涎やらが溢れ、大口を開け鼻の穴が大きくなり目を瞑れずに白目を剥いていた。
そして俺はファオラを抱えながら太陽の中へと突入した。
その頃……
カル=エルが船の中に入り、通路を進んでいく。そして暫く歩いて最奥にあるジェネシスチェンバーまで辿り着いた。
そこには先程出会い、カル=エルの出自と使命を教えたカルの父親の意識と、見知らぬ女性がいた。
カルはジョー=エルと話すその女性の後ろ姿を見た時、言いようもない感情に支配された。初めて会ったはずなのに、心が暖かくなった。悲しくないのに涙が出てきた。
「ララ……君は本物なのか?」
「ええ…星が爆発する直前にヴー君に助けてもらったのよ。彼はクリプトンでも空を飛んでいたわ」
「なんだって?やはり彼は……」
「そう、彼こそ伝……ん?」
ジョーと話していた女性、ララ・ロー=ヴァンがカルに気づき振り向いた。
そしてカルに向かって声を発した。
「カル=エル」
たった一言、自身のもう一つの名前を女性が発した時、カルの身体に衝撃が走った。そして涙が一気に溢れた。
「あら…泣いているの?」
ララがカルに近づいていく。そして優しく顔についた涙を拭い、抱擁した。
「母さん…?」
「フフフ……やっと会えたわね。私はララ・ロー=ヴァン」
ララがカルから身体を離し、ジョーの隣に立った。
「私はあなたの母親。カル……あなたを育てることができなくてごめんなさい」
そうして、カルは自身の本当の父親と母親に再会した。
カルは自身を育ててくれたジョナサンとマーサの事、そしてこれまでの思い出を話した。ジョーとララはそれを一生懸命聞き、時には質問をして長く話した。
「さっきから外が煩いが……何が起きている?」
3人で楽しく話しているところで外から何回も轟音が聞こえた。その音に覚えのあるララが答えた。
「あぁ気にしないでジョー。ヴーとファオラがいつものじゃれ合いをしているだけよ」
「じゃれ合い……?」
そして一際大きく音がして船が揺れた。
「なんだ…!?」
カルが驚き身構えた。
「もうすぐ決着ね」
暫くすると3人がいるジェネシスチェンバーに、ファオラを横抱きにしたヴーが入ってきた。
「話は終わったかな?」
「ええ、ありがとうヴー君。そちらも終わったようね」
「ヴ、ヴー君?その人はファオラ少将じゃないか!一体何を…」
「あぁトレーニングですよトレーニング!心配ないです」
ヴーがファオラを床に下ろし、3人に近づいた。
「彼女は大丈夫なのか?」
「え?大丈夫ですよ。今はエネルギーを処理してるところです」
「エネルギー?」
「太陽で遊んできたんでね」
「はい?」
ジョーは空いた口が塞がらなかった。
さて、ララさんとカル、そしてジョーさんが再会できた訳だが、俺達の長期的な任務はこれで終わった。33年にも及ぶカル君大捜索が終わったんだ。まあ任務というよりかは善意の人探しだ。何度も言うが33年だ。俺はもう53歳だぞ?
いやぁ長かったな。俺も年を取ったよ。まあ老けることはないけど……
「これからどうする?」
俺は此処にいる4人に聞いた。ファオラはいつのまにか起き上がり、壁にもたれかかっていた。
「僕は地球の父さんと母さんを紹介したいです」
カルが言った。そうだよな、彼は地球で育てられたんだ。彼をこんな立派に育てた人達を見てみたいな。
「私もカルの事を育ててくれた地球人に会いたいが、私は此処を離れられない。ララ、よろしく伝えといてくれ」
「ええ、勿論よ。フフフッ楽しみね!」
ララさんが嬉しそうに笑う。ジョーさんやカルもそれを見て笑った。
いやぁ本当に良かった。あの時ララさんを助けて良かった。
俺の死んだ父と母も、きっと喜んでくれているに違いない。エル家とは親交があった。生前は良く食事をしたり、唯一兵士タイプとして生まれた俺が皆んなに稽古をつけたりした事もあった。ジョーさんは科学者タイプなのにメキメキと強くなっていって凄かったなぁ。ゾッドに捕まった時も俺の教えた格闘術で上手く逃げ出せたと言っていた。それに家ではゾッドと戦い勝ったとも言っていた。あのゾッドに近接戦闘で勝つなんて相当強いぞ!もし生きて地球にいたら、もっと強くなれただろう。
そういえば、エル家にはカーラという女の子がいたはずだが……ジョーさんの弟の子供でカルの従姉弟に当たる彼女は、利発的な女の子で自分の宇宙船を持っていた。俺はよくドライブについていった事がある。今の今まですっかり忘れていたが、彼女が星の爆発に巻き込まれるような性格には思えない。もしかしたら何処かで生きているかもな。
あ〜そうか〜先にカーラ・ゾー=エルを探していればもしかするとカルももっと早く見つけられたのか?従姉弟の事を知ったら大喜びで探すのを容易に想像できる。次は彼女を探してみるか。
「ジョーさん」
「どうした?ヴー君」
俺はジョーさんに声をかけた。カーラの事を何か知っているかもしれない。
「カーラは…」
「……ゾーの子か、彼女にはカルの事を話したが……私が最後に見たのは元老院の元へ行く時だ。その時にカルの事を話したのが最後だ」
「カルの事を知ってるんですね?」
「ああ、間違いない」
そうか、なら確実に彼女は星を脱出した筈だ。そしてカルを追って地球へやってきているかもしれない。だけど俺達はカルの事を探して散々地球を巡ったが、クリプトン人の痕跡は見つからなかった。
宇宙の何処かにいるのか?うーん……もう一度しっかり調べて見るか。
「俺とファオラはカーラを探してみます」
「な!私もか!?」
「暇だろ」
「ヴー君、私も協力するわ」
「ヴロリーさん、僕も探しますよ」
「助かるよぉ!」
俺とファオラだけじゃあ100年かかるかもしれない。みんなで探せばあっという間だ!多分。
「……その前にいいか?」
ん?どうしたんだファオラ。腕を組んで神妙な面持ちでこちらを見ていた。
「カル=エル、貴様は弱い。お前はクリプトン人の戦い方を知らないだろう?私が直々に鍛えてやる。いくぞ」
「あ、おい!ファオラ!」
コイツー!!俺に負けたイライラをカルにぶつけるつもりだな!?いいか?カルは真面目だからお前の……
「ええ!是非お願いします!」
「いいの!?」
「ふんっみっちり鍛えてやろう」
ファオラとカルが外に出ていった。それを唖然と見ていると、ジョーさんが声をかけてきた。
「ヴー君……大丈夫だよな?」
「お、俺も行ってきまーす……」
宇宙の何処か。
「ゾッド将軍、地球という星でクリプトンの船の反応を検知しました。奴かと」
「そうか、遂に見つけたか……ファントムドライブ起動!地球へいくぞ!」
ゾッド将軍が部下から報告を受けていた。
カルが地球にあったクリプトンの探査船を起動させた事で発信装置が起動、ゾッド将軍の部下の科学者に捉えられた。
「奴の息子が持つコデックスを取り戻し、クリプトンを再興するのだ」
ゾッド将軍と配下達はファントム・ゾーンを脱出後、クリプトンの残骸から偶然にもファントムドライブを見つけた。そしてそれを船に搭載すると、かつてクリプトンが入植した星々を巡った。
しかし、そこは全て滅亡し、死の星へと変わっていた。
入植地であった星々でクリプトンの武器や船を手に入れた。惑星をテラフォーミングする為のワールドエンジンをも手に入れた。
そうして憎きヴー=ロリと異端者の子、カル=エルを見つける為に33年もの間宇宙を彷徨った。
「必ず、必ず見つけてやる」
ゾッド将軍の心は燃えていた。復讐、再興の2つの感情に………