カルが乗っていたポッドを担ぎながら俺はカルに言った。
「カル君、あの飛んでいったやつはお前に任せる。俺はコイツをゾッドの宇宙船にぶん投げてくる」
「…わかりました、これがコマンドキーです。ヴーさん…気をつけてください」
カルはそう言って俺にコマンドキーを渡すとワールドエンジンの方へ飛んで行った。
さて、これから俺はゾッドの宇宙船にコイツをぶつけにいく。ポッドのファントムドライブとゾッドの宇宙船のファントムドライブで特異点を生み出し周囲の物を根こそぎファントム・ゾーンへと追放するんだ。理屈はよく分からんが、ジョーさん曰くファントムドライブが過反応を起こしてどーたらこーたらでファントム・ゾーンが開くそうだ。
そしてその際は全力でその場から離れないと吸い込まれて異次元へと飛ばされ二度と帰ってこれなくなると言っていた。それは非常にまずい。
だから宇宙船にポッドを投げる役は俺がする事になった。1番力があって速いし、ポッドを担ぎながら飛べるのは俺だけだったからだ。
人間の輸送機で運び上空で落とす案も出たがこれは俺達クリプトン人の問題で、地球人を巻き込む訳にはいかなかった。だから却下となった。
ファオラ、ララさん、今さっき合流したカーラは街で救助活動に当たる事になる。
そして今まさに起動したワールドエンジンが地球のテラフォーミングを始め、ゾッドの宇宙船が地球の反対側にあるワールドエンジンに向かって重力ビームを照射していた。
宇宙船から一定の範囲内の車や建物の瓦礫、そして人間達がビームが照射される度に上空に持ち上げられ叩きつけられた。既に中心部は壊滅していて無数の人々が死んでしまった。急がなければもっと犠牲者が増えるだろう。
「いくぞ」
俺が声をあげると街に向かって3人が飛んでいった。
そして俺もポッドにコマンドキーを差し込みファントムドライブを起動させた。あとはこれをメトロポリス中心部に浮かぶ宇宙船に投げてぶつけるだけだ。
街を見下ろしながら宇宙船へ向かっていると、次々と人々が救助されていくのが見える。重力ビームの余波が届かない遠く離れた場所、港や郊外に人を両脇に抱えたファオラ達が物凄いスピードで動き飛んでいた。
外に出ている人のみならず、建物内にいる人も全て救助している。遮蔽物なぞ関係ない、俺達の目は物を透視でき、その膂力を持ってして縦横無尽に飛び回って救助できた。
俺はそれを見届けると宇宙船に真っ直ぐ飛んで行った。
しかし宇宙船の周りには重力フィールドが張られていた。アメリカ軍の戦闘機によるミサイル攻撃は全て逸れ街に飛んでいってしまっている。街に飛んだミサイルは救助の片手間でファオラたちが弾き返していた。戦闘機も何機か落ちていったが、それも全て受け止められ街に堕ちる事はなかった。
あの重力フィールドがある限りいくら俺でもポッドを担いだまま近づく事はできない。カルがワールドエンジンを破壊すればテラフォーミングが終わりあの重力フィールドも消えるはずだが……
そんな事を思いながら上空で様子を伺っていると宇宙船が煙を吐き、周りに浮かんでいた瓦礫が全て落ちていった。
「やったか!カル!」
カルがワールドエンジンを破壊した様だ。
宇宙船に近づこうとした時。
「痛い!!!」
背中にエネルギー弾がぶち当たった。危うくポッドを落としそうになった!危なかった。
後ろに振り返ると北極で放置していた筈の探査船が浮いていた。
操縦席にゾッドが見える。アイツ……
俺の担いでるポッドにエネルギーキャノンが当たりでもしたら大変だ。そう思ったのも束の間、探査船からエネルギーキャノンが放たれる。
「危ねぇ!!!」
ヒョイとなんとか避けるが、このままだとジリ貧だ。
しかしあの船にはジョーさんがいたはずだが……ゾッドが操縦していると言う事はコマンドキーを上書きして消去したのか?ってことはジョーさんの意識は俺が担ぐポッドに差し込まれたコマンドキーに残っているだけとなる。
俺が宇宙船にポッドを投げ込めばジョーさんは完全に消えてしまう。ポッドのファントムドライブは既に起動しエネルギーが充填されている。今更コマンドキーを抜いて俺のコマンドキーを使ったところで間に合わないし、それをする暇もない。
エネルギーキャノンを避け続けていると空が割れる音と共に何か近づいてくる気配を感じた。
「カル!」
ワールドエンジンを破壊したカルがこちらに飛んできて探査船に体当たりし壁を突き抜け中に入っていったのが見えた。
そして中から声が聞こえる。
「よせ!この船を破壊すればクリプトンは完全に滅びる!」
ゾッドの焦る声だ。あの探査船にはジェネシスチェンバーが搭載されている。破壊すれば完全にクリプトン再興の手段が消え去り、文明が消滅する事を意味する。
「自ら招いた運命だ!!!」
カルの声が聞こえ赤い熱線が船の内側から貫通した。そしてそのまま船が街へと墜ちていく。
「よっしゃ!!!いくぜ!!!」
これで邪魔をする奴はいなくなった。俺はポッドを
そしてポッドを投げようとした。
「オラアアアアア!!!あれ」
思い切り全力で担いだポッドを投げようとしたが何かに突っかかる。んー!?あーーー!!!!俺のマントが引っかかってやがる!!!!
俺の纏うエネルギーで超強化されたマントがポッドの隙間に挟まり、引き千切ろうにも硬くなってて無理だった。目から
隙間に完全に噛んでる。ヤバいどうしよう。しかしこのまま悠長にしていたら宇宙船のファントムドライブが停止してポッドをぶつけても特異点が発生しない!ヤバい悪寒が止まらない。こんなに焦ったのは生まれてから一度もなかった。
「ど、どうしよう!!!!」
街にいた地球人をあらかた救助したファオラは空を飛び、宇宙船の方角を見ていた。
ゾッドの操縦していた探査船が街に墜ち、ヴーが街の中心地で浮かぶ宇宙船の近くで何やら焦っているのが見えた。
「あのバカ!何をしているんだ!」
ヴーの大きなマントがポッドの隙間に引っかかり、必死にそれを取ろうとしているのが見えた。
ファオラはそこへ急いで飛んで行った。そしてめちゃくちゃ汗をかいて必死にマントを引っ張ったり目から熱線を放ち焼き切ろうとしているが一向に取れず青ざめた顔をしているヴーがやってきたファオラに気づいた。
「ファ…ファオラ」
「おい!バカ!早く取れ!」
「ファオラ、もうダメだ。取れないし引き千切ることもできない」
「なにぃ!?」
ファオラはポッドに挟まったマントを掴み本気で引き千切ろうとするが、ヴーの纏うエネルギーによって超強化され異常な耐久性を誇っている為何もできなかった。
「ぐぬううううううう!!!」
ファオラが歯を食いしばり全身の筋肉に力を入れマントを引っ張る。だが全然抜けない。
それならとマントの挟まっている機械部分をこじ開けようとするが、ビクともしない。ヴーの膨大なエネルギーが伝わり機械部分までも強化されていたからだ。
「ダメだファオラ、逃げろ。もう……やるしかない」
ゲッソリした顔でファオラに言ったヴー。ファオラは今までこんなに具合が悪そうなヴーを見た事がなかった。
「き、貴様……」
「元気でな、地球を頼んだ」
ヴーがそう言って宇宙船へと超スピードで向かった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ヴーは雄叫びと共に宇宙船の外壁に突っ込みそのままファントムドライブにぶつかった。
そして一瞬の眩い光が周囲を包み込んだ次の瞬間、宇宙船が内側から吸い込まれる様に消えていく。ファントムドライブの暴走で青い炎を伴った大爆発が起きるがそれすらも異次元に吸い込まれている。
膨大なエネルギーが迸り、何もかもを飲み込んでいく。
近くにいたファオラは消えていく宇宙船を凝視し、ヴーの姿を探したが見つけられない。そして徐々にファオラは自身も吸い込まれる感覚を覚えた。手を見ると自身の皮膚から薄く蒸気のようなものが出ている。
「こ、これは…!」
ファントムゾーンの猛烈な吸い込みによって宇宙船は崩壊し、潰れるように吸い込まれていく。宇宙船に乗っていたクリプトン人が嘆きの表情で消えていく。
「ヴー!!」
ファオラはヴーの名を叫ぶが、彼の声は聞こえなかった。
「ファオラさん!」
カーラが近づいてきた。そしてファントムゾーンへ飛ぼうとしているファオラを羽交締めにして止める。
「駄目です!逃げなきゃ!」
「クソッ!!!!!」
存在ごと引っ張られるような感覚だ。とカーラは思った。そして全速力で離れた。
離れたビルの屋上に降り立つ頃には特異点は消え、先ほどまで巨大な宇宙船があった場所にはもう何も無かった。ヴーの姿も。
「ファントムゾーンに生身で吸い込まれればもう二度と帰ってこれません……あのヴーさんでも……」
「……わかっている」
ファオラは涙を流さない。兵士として調整され産まれた故に情緒というものを極限まで無くしているからだ。血が滲むほど拳を握り締め、身体を震わせた。
「愚か者め…」
ファオラはそう言って飛び上がり空へと消えていった。
カーラはファオラを止める事なくそれを見送ると、宇宙船のあった場所を見た。街の中心地は尽く破壊され、空高く伸びていた高層ビル群は瓦礫の山と化していた。
そしてそこにゆっくりと降り立つカルが見えた。
「カル……!」
カルの姿を確認したカーラは直ぐにそこへと飛んで行った。
宇宙船からの重力ビームが当たっていた爆心地にカルは立っていた。カーラが側へ降り立ちカルに声をかける。
「カル」
「……」
しかしカルはカーラの声に反応せず前を見据えていた。カーラもカルの見ている方向を見た。
「ゾッド……」
吸い込まれた宇宙船に乗っておらず探査船に乗っていたお陰でファントムゾーンからゾッドは逃れていた。
忠実な配下達は全て消えた。そして守るべき民も。
ゾッドが地面に跪き土を手に取った。
「見よ、クリプトン再興の夢が水の泡だ。お前達は同胞より人類を選んだ」
手にとった土を捨て、ゾッドが立ち上がりながら鎧を剥ぎ取っていく。
「私はクリプトンを守るために存在する、産まれた理由はただそれだけだ。いかに暴力的で残酷に振る舞おうと、それは全て同胞のためだった」
ゾッドが目を閉じ身体を震わせる。両の拳を握り締め、言葉を漏らしていく。
「だがもはや守るべき民はいない……」
周囲の砂粒や小石が揺れ動き浮いていく、ゾッドのエネルギーが干渉を始め、身体が浮いていく。そして橙色に目を輝かせカルとカーラを射殺さんばかりに睨みつけた。
「……我が魂……それを、お前達は私から奪ったのだ!!!!!」
そしてゾッドがカルとカーラに向かって飛翔する。
恐るべきスピードで、向かってきたゾッドに対しカルも浮き上がり迎え撃った。
ゾッドとカルがぶつかった瞬間、途轍もない爆発音と衝撃波が起こり周囲の瓦礫を吹き飛ばした。カルは離れたビルの中にまで吹き飛んでしまう、そこに追い撃ちをかけるようにゾッドが目を輝かせ熱線を放つと、高層ビルが両断され崩れ倒れた。そして浮き上がりカルの元へ飛ぼうとした時、飛んできたカーラによって殴られ地面へと叩き落とされる。
ゾッドはビルの残骸に身体を打ち付けるがすぐに立ち上がり、目を輝かせカーラに向けて橙色の太い熱線を目から放った。カーラは同じ様に目から赤い熱線を放ち相殺しようとするが、押し負け大きく吹き飛び瓦礫の中に埋もれてしまった。
瓦礫からすぐに飛び出しゾッドに向かって拳を振り上げながら飛んで行くカーラ。
ゾッドはカーラの攻撃を見切り腕を掴み地面に叩きつける。何度も何度も叩きつけジャイアントスローで投げ飛ばした。
投げ飛ばされたカーラを、飛んで現れたカルが空中で止め地面に下ろした。
ゾッドが2人に言う。
「私は戦士として産まれ、ひたすら腕を磨き続けてきた。お前達はどこで鍛えた?農場か?」
そしてゾッドが地面を踏み締め一気に接近し、腕を振り上げた。
カルとカーラはその速度についていけず、反応が遅れた。そしてゾッドの拳がカルに届く時、ゾッドの腕が何者かに横から掴まれ止められた。
「そこまでよ」
「貴様は……!!!!」
ゾッドの腕を掴み攻撃を止めたのはララだった。
「母さん!」
「ララさん!」
ララがゾッドを投げ飛ばした。
しかし途中で制止して空中で留まると、ララを睨みつけた。
「ララ・ロー=ヴァン、また私の邪魔をするか……」
「あなたにもう私の家族を傷つけさせない」
「兵士でもない貴様が私に勝てると思うのか?」
「あの時の私とは違うわ」
ララが拳を握り脇を締め浮き上がる。
「ハアアアアアアアアアアアア!!!」
そして叫び気合いを入れるとゾッドに向かって飛び出す。
一瞬のうちに音速を突破しゾッドすら反応できない速度で後ろに回り込むと、両手を合わせゾッドの脳天にダブルスレッジハンマーを叩き込む。そして地面に落ちる前に下へ瞬時に移動すると次はゾッドを蹴り上げ上空に打ち上げた。
それを見ていたカルとカーラは、ララの強さに驚き慄いた。
「強い…!」
「ララさん…!」
ララが打ち上がったゾッドを見つめ全身に力を込め地面を蹴り上げて跳躍した。地面が揺れヒビ割れると同時にララの姿が消え、次の瞬間にはゾッドの目の前にいた。
「ガハッ!!!」
ララがゾッドの鳩尾に拳を放ち更に上へと飛ばす。
そしてゾッドに追いつき胸ぐらを掴むとスピードを上げて熱圏を通り過ぎ大気圏を突破して宇宙へと飛び出た。そのままゾッドを掴みながら月へ移動しゾッドを離すと蹴りを放ち、月の表面に蹴り落とした。
「トドメよ」
ララがゾッドの元に降り立ち胸倉を掴み目を輝かせた。
ゾッドの心臓に視線を合わせ膨大な熱量を持った熱線を放った。
「グアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
ゾッドの纏うスーツが焼き切れ皮膚が見えた。そして皮膚を焼き赤く染め融解させるとララは更に力を込めた。
ララの目から放たれる熱線が徐々に細くなり収束していくと紫色へと変化していく。そして同時に周囲の砂や小岩が熱によって融解を始め溶岩へと変わっていった。
紫の熱線がゾッドの皮膚を溶かし貫き心臓を焼いた。
「グボオオオハァッ!!」
心臓を熱線が貫いた事で盛大に吐血し、身体を仰け反らせ悶えた。だがそれでもゾッドは生きていた。地球に適応し少しの間だが太陽の光を浴びて強靭なエネルギーを得ていたからだ。
それを知ったララは熱線を収めると拳を握り締め筋肉に力を込めた。
「なんなのだ…!兵士でもない貴様が…!ガハァッ!」
「何年鍛えたと思ってるの?
そして先ほど貫いたばかりの心臓に向かって腕を振り翳し拳を叩き込んだ。
ララの本気の叩き込みによって拳はゾッドの胸に風穴を空け大地に触れた。ララの力が大地に伝播し大きく揺れ地割れを引き起こしクレーターを生み出した。
「夫の仇……!」
そうしてララはゾッドを殺し、頭を鷲掴みにして持ち上げ地球に向け飛び立った。
カルとカーラは胸に風穴を空け息絶えたゾッドを片手で持ち、こちらに近づいてきたララを見ていた。
「ララ母さん!」
「ララさんそれって…」
「夫の仇は取ったわ。2人とも!行きましょう」
ララがゾッドの遺体を投げ捨てるとララは2人を抱きしめ浮かび上がった。
そして宇宙に残った唯一のクリプトンの家族はメトロポリスを去っていった。
「ゲホ!ゴホ!うぇ!?ここどこー?」