※あと前回pixivの方でコメント頂いて確認したのですが、多分グレースのエージェント秘話後の話かな、木曜朝の黒雁街跡地のゲート(?)付近の会話で ピッパ「パイルドライバーのドリルが壊れないか、心配だなぁ。」リー「大丈夫だ。あやつのドリルは、あれで中々しっかりしとるからのう。」 とあり、パイルドライバー(フライデ―)が多分復帰してるんだなというのがわかりました。が、どういう感じで復帰してるのかは詳細わからない為、当二次創作ではこの会話踏まえつつ彼ら(3機)についてはふわっとした感じでお送りします。
それでは本編どうぞ↓
静かな室内に金属が擦れる音が響く。
この密室の空間にいるのはグレースと、ビリーの二人きり。
「んー……なるほどここの摩耗が激しいわけだ。それなら新しいパーツに……」
視界に入るのが邪魔なのか、グレースは黒い横髪を耳にかけた。
その間も真剣な表情でビリーの右肩部を見つめている。
修理されている側のビリーはぼんやりと窓の向こうを見ていた。
隣の建物の壁が見え、外からは幼い子どもが笑っている声が聞こえる。
ここはグレースとクレタが暮らしている自宅。何故白祇重工ではなく、彼女の部屋へビリーが出向いたかと言えば――クレタから懇願の電話が来たからだ。
『――お前には悪いと思ってるけどよ、姉貴はここんとこ仕事詰めで全然家に帰ってねーんだ。会社で寝るったって、良くてソファだろ? もしあんたがいることで少しでも寝てくれるなるならせっかくだしベッドで寝てほしくてよ。良ければ修理は姉貴の部屋でして、タイミングが合えばそのままベッドで寝かしつけてやってくんねーかな……頼む!!』
と、電話向こうで頭でも下げていそうな勢いだったからか、ビリーは思わず「いいけどよぉ」と承諾してしまったのだ。
(でも、俺といることでぐっすり寝れる……なんて変な話だよなぁほんと)
修理されている手前体を動かすことはないものの、ビリーは心の中で首を傾げた。
「うん、これでどうかな」
とん、とグレースに肩を叩かれるとビリーは具合を確かめる為に自分の右肩をぐるりと動かした。
「おお、いい感じだぜ! サンキュー!」
グレースは今回修理した部分の交換パーツについて長らく語っていたが、ビリーはそれを話半分に聞いていた。その時ふと、以前彼女が言っていたことを思い出した。
「――前によぉ」
ビリーが話し出すと、グレースはきょとんとした顔で彼を見つめ返す。どこか悪い箇所でも他にあるのだろうかと思ったのだ。
「あんたがほら、子どもがどうとかって話……してたろ?」
「えっ? ああ……ハンスとグレーテルとフライデーのことかい?」
「あー名前は憶えてねーけどよ。そいつらって……その、壊れちまったのか?」
ビリーの心配そうな声色にグレースは口元を緩めた。
「彼らならこないだまでちょっと遠いところにいたんだけど、今は帰ってきてるよ」
「何!? 無事なのか!? 俺はてっきり壊れてもうスクラップにでもなってるのかと思ったぜ……」
「あはは、そんなことにはなってないさ。浸蝕が酷ければそうなってたかもしれないけどねぇ」
「浸蝕か。ホロウん中で作業する奴らなのか?」
「そうだよ。ウチの看板メカたちは論理コアを搭載したホロウ内特殊作業重機なのさ。訳あって元の状態に復旧するのに時間がかかっていてね。少し前までは検査の為に遠くにいたってわけ。復旧にかかりっきりになりたいところだけど……別の企業と提携している仕事もあって最近は大忙しさ。そのせいかウチの社長はいつも私の体の心配ばかりというわけ」
そう言うと、グレースの視線はドアへと向く。
ドアの向こう――正しくは部屋を出て廊下の先のリビングで、白祇重工の現社長であるクレタがテレビを見ている。クレタにとっても今日は休日だが、グレースがビリーに対して非人道的行為(無許可での分解など)を行わないかの監視目的でそこにいる。
「私はこんなに元気なのにねぇ?」
グレースはそう言って笑うと肩をすくめた。
しかし彼女の目元にうっすら見えるクマが日々忙殺されていることを物語っている。
ビリーはグレースの顔を何も言わずに見つめていた。
「……でもあの子のおかげで、君とのこの時間は本っっっ当に癒しになっているんだよ! だから是非とも修理以外に……気になっているパーツを眺めさせてもらってもいいかなぁ!?」
「ええ~……俺は修理してもらうだけのつもりだったんだけどよぉ……」
わくわくとした様子のグレースに、ビリーは片手で額を押さえた。
修理を格安でしてもらっている手前お願いを無碍にするのも悪いか――と思うのはビリーの心根が優しいからか、それとも押しに弱いのか。
「聴覚モジュールは元のままかい? それとも変えたりした?」
「おお、よくぞ聞いてくれたな! 実は今までに何回か取っ替えててよぉ、今のは断然グレードアップしてるしめちゃくちゃお得に買えたんだぜ~」
「へえ……少し見てもいいかい?」
ビリーが許可すると、グレースは彼の右耳に当たる部分へと手を伸ばした。工具を使って丁寧に外していく。
パーツ一つ一つを確認していくと、ビリーが言う『グレードアップした』部分がわかりグレースは唸り声を上げた。
「なるほど、確かに良質なものだろうけど……少しバージョンが古いんじゃないかな」
「一個前のバージョンだから安く買えたんだよ」
「うーん……安かろう悪かろうとは言わないけれど、最新バージョンにする方がやっぱり良いと思うなぁ。まあ、それはまた今度にしても、せっかくだからもっと聴こえが良くなるように改良してあげようか?」
「そんなことできんのか!?」
「少し弄るだけだけどね」
グレースはにっこりと笑うと、足元に置いているミニコンテナボックスからパーツを取り出した。
***
グレースがビリーの真横に立ち、聴覚モジュールの設定をしている。一番外側のカバーパーツをカチリとはめると、グレースは満足そうに頷いた。
「うん、これで良し」
「もう終わったのか? あ、あー、確かに前より聞きやすい気がする!」
「良くなったのは遠くの音の聞き分けと、あとは近くの音の細部の拾いやすさかな」
「近くの音?」
「うん。ええとね――」
グレースは少し屈むようにして、ビリーの右耳部分に口を寄せる。
小さく息を吸う音が聞こえた。
「……こういう、
聴き取りやすくなったんじゃないかな?」
――ぞわわわわわっ!
と、
全身に静電気を帯びたような感覚がビリーを襲った。
「!!!???」
「あははは、その反応は良好ってことだね!」
「な、なんだぁ今のは!? なんつーか、空気を音で感じるっつーか、聴覚モジュール自体に温度の知覚機能はねーはずなのに生暖かさみたいのを感じるっつーか!」
「うんうん、的確なレビューだね。そんなに喜んでもらえてお姉さんとっても嬉しいよ」
「これすっげぇな! もしかすっと、モニカ様の声も今まで以上に細部まで聴き取れんじゃねーのかぁ!? フゥ~~~ッ!!! 帰ってからが楽しみだぜぇ!! ……ま、邪兎屋でのテレビ争奪戦に勝てたらの話だけどよぉ」
嬉しそうに椅子から立ち上がり飛び跳ねんばかりの少年然としたビリーに、グレースは首を傾げる。
「君はそのモニカ様っていうのに恋をしてるのかい?」
「あ? あー……ま、まーなぁ。へへっ、ただの憧れだけどよ~~」
恥ずかしいのか照れた様子のビリーはすとんと椅子の上にまた腰を下ろした。グレースはそれを微笑ましく見ながら工具を片づけている。
「ふむ……グレーテルの初恋は真白くん――建築物だったわけだけれど。機械人が人間に恋をすることもあるんだなぁ」
「真白くん? 建築物??」
「ああ、ウチのホロウ内特殊作業重機がね、真っ白な建物に恋をしたんだよ。最後には真白くんはウチの子を自分の命と引き換えにその広い胸で守ってあげてね。いやぁ、あの時はとても深いラブストーリーを見せてもらったなぁ」
「あー……何言ってっか俺にはわかんねーや」
ビリーは理解しがたいことを表すように目を細めてグレースを見つめた。工具の片づけが終わったグレースは不思議そうに数回瞬きをしてベッドに座り込む。
「ええっ? 君だってそうだろう? 自分と全く違う“生物”に恋をしている。もし君がそのモニカという女性とお付き合いすることができた場合、君たちは一体どんな恋愛をすることになるんだろう?」
「そりゃーもちろんモニカ様と一日中デートするに決まってんだろ!」
「どんなデートだい?」
「モニカ様の行きたいところに連れてってよぉ、ショッピングなんかもいいよなぁ、映画も観に行ったりして? 喜ぶモニカ様の顔を間近で見てよぉ」
「なるほど。それじゃあ君はモニカという女性の観察をしたいわけだ。私と似ているね。私もかわいこちゃんの構造を観察するのが好きで――」
「いやいやいやいや、観察ってなんだよ!? デートだぜ? デートっつーのは好き合ってるもん同士がよぉ、こう……」
ビリーは自分の中にある『デートというもの』を説明しようとしたが……続きの言葉は出てこなかった。静まり返る機械人にグレースは興味深そうに目を細めた。
「ふむ、もしかすると君は人間という生物がする行動を真似たいのかな」
「へ?」
「例えば同じ行動をして感覚を共有したり、はたまた接触しては温度を感じてみたり、あとは生殖行為に勤しんで種を残すことを目的としてみたり」
グレースの言葉に、ビリーは「うーん」と唸り首を傾げた。
「生殖行為ってよぉ。俺様は機械だぜ。そういうのはできねーのわかるだろ」
「そうだね。いやでも万が一君が君という種を後世に伝えたい、または更に進化した形で新たに開発したいというのならそれは君が憧れる人間ではなく……まさに私が適任じゃないかな」
「…………何だって?」
「ほら、君が子どもを作りたい時は私を頼ってくれればいいということだよ。もちろん現段階では君の技術を全て把握することは不可能だが、いつかはきっと君のことを全部理解してみせるその時は――
私と君で可愛い子どもを作ろうじゃないか!」
「なぁ、その台詞すごく誤解を生みそうだと思うのは俺だけか?」
まるで憐れむようにビリーは肩を落としグレースを見た。しかし彼女の方は何か新たな目標でも見つけたかのように目を輝かせて何事か呟いている。
(このまま放っておくと本当に俺の後継機を作りそうな勢いだな)
しかし<火力制圧用高知能戦術素体>である彼の後継機が……一体どんな目的でどんな用途で作られるのか。ビリーはしばし考えたのち、結論を出すのをやめた。
***
「おいおいもう帰んのか? 姉貴の寝かしつけはどうなったんだよ」
「うわやべっ、そうだった……!」
修理を終えたビリーが玄関先へ向かう所を、リビングから慌てて走ってきたクレタに呼び止められた。そうだ、ビリーは今日グレースをベッドで寝かせる為に自宅で修理をすることになったのである。
「寝かしつけってなんのことだい?」
グレースの問いかけにクレタは黙って頭を抱え、ビリーは両掌を合わせて謝罪のポーズをクレタに向けた。
「あー……その、修理担当さんよ。俺の修理は癒しになるんだよな? ほら、良い感じに眠くなったところで今日はしっかり休んだらどうだ? 休日なんだろ?」
「ええ? 休むわけないじゃないか。君の体を弄るのは私にとって癒しではあるけれど、それと同時に新たな発見との出会いでもあるんだよ! 今日も君の体は興味深かった。これを活かすべく今から実験室に戻って試したい事が山ほどあるんだよ! ああ~、全く時間がいくらあっても足りないね!」
「………」
ビリーの修理はグレースにとって逆効果になってしまうかもしれない、とクレタは自分の決断を後悔した。だが、楽しそうにあれこれと話すグレースを横目にもうやめろと言えないのは――喜ぶ姉の顔が見れて嬉しいという感情がいくらか体の中にあるからである。
「……ま、姉貴が家に帰ってくる理由ができたのはいいことだ。悪いが、これからもウチまで来て修理されてやってくれないか?」
「俺は別にここまで来るくらいいいけどよぉ……」
「ありがとうな。それじゃ、気を付けて帰れよ」
「ああ。んじゃ、社長さん、修理担当のねーちゃん、世話になったな!」
ニッと笑顔を見せてビリーは彼女たちの自宅を出ていった。パタン、と扉が閉じればグレースはくるりと体を反転させてすぐさま出かける支度を始めようとする。
「おい姉貴、ほんとに実験室に行くのかよ!」
「当たり前じゃないか。時間はあっという間に過ぎていくんだよ?」
「休日は体を休める為にあんだぞ、ったく……」
「……ふふっ、おチビちゃんには感謝してるよ」
「え?」
「彼の修理や分解してパーツを眺めることはとても気分転換になってるんだ。いつものように一人で実験室にこもってるだけじゃ、新しい発想に辿り着けなかったりするからね。だから、私の心配してくれてありがとう、おチビちゃん」
「……別に心配なんかしてねーよ、ばーか」
照れ隠しか、クレタはグレースを追い越してリビングへと向かって行く。そして点いていたテレビを消すと、何やら出かける用意をし始めた。
「クレタも出かけるのかい?」
「あたしも気分転換しに行くんだよ。そんで、明日からまたしっかり仕事がんばらねーとな」
「うんうん、良い心がけだ! それじゃ、途中までお姉さんと一緒に行こうか」
「おー」
支度を終えた二人は玄関の扉を開け、外に出る。
鼻歌を歌いながら鍵をかけるグレースを、クレタは横から見上げた。グレースはそれに気づいて彼女に笑いかける。
「クレタのおかげで私は今日重大な目標を手に入れたんだよ」
「ほー、あたしのおかげか。そりゃ気分がいいな。で、重大な目標ってのはなんだよ?」
「ふふふ、それはね?
これからも実験や研究に勤しんで、
私はいつかビリーと可愛い子どもを作れるように励むってわけさ!」
「……姉貴、まーたわけわかんねーこと言ってんぞ」