グレースが学会の立食パーティに参加することになり、そこへビリーを連れていくお話。
※作者は理系を通ってきていないので会話内容や設定に見苦しい部分があるかもしれません。目を瞑っていただけるとありがたいです……。あまりにも無知が露呈していたら修正しますのでどうぞコメントでお知らせください。
「は? パーティ?」
「そう、パーティだ」
ビリーが訊き返したことに対して、グレースも同じように言葉を繰り返した。
――今日は定期メンテナンスの日。
グレースの家へと訪れたビリーは彼女の
あとは交換したパーツのテストをすれば完了だ。
「一昨日参加した学術会議で、知能機械の権威が主催するパーティに出るよう言われてね。小難しい挨拶も大してないただの立食パーティなんだ。非常に面倒で出来れば参加を断りたいわけだけど……今後私の研究発表時間を半分にするぞなんて脅されていてね? いやぁ確かにかなりの頻度で時間をオーバーしてしまう私に非があるんだろうけどさぁ」
「それで、そのパーティが俺になんの関係があるんだよ?」
「うん、私の恋人として一緒に出てくれないかい?」
「はい……?」
ビリーはグレースの表情を再認識する為に
「実は私の恋人がロストテクノロジーである火力制圧用高知能戦術素体だという話は学会中に広まっていてね。ついつい私が自慢したくて君の構造について語ってしまった為なんだけれども」
「勝手に俺の体のことベラベラ喋ってんじゃねーよ」
「仕方ないだろう? 私一人で考えるよりもやはり他の研究者の意見に耳を傾けた方が良い結果が出ることが時としてある。私としては悔しいけれども。それでだ、そのパーティに君も一緒に出てほしい」
「それってのはあれか? 俺を自慢したくてってことか?」
「そうだとも! 君を見せびらかして私の恋人はこんなにも素晴らしいフォルムで美しい構造をしていて更には将来的に全てのパーツを私が設計開発するんだと言ってやるのさ! あ、もちろん君と私で作る
「最後のは言わなくていいだろ別に……」
「何を言ってるんだ、言った方がいいに決まっているだろう。絶対に羨ましがられる」
「ほんとぉ……??」
ビリーの訝し気な表情パターンに、グレースはにっこりと笑う。
「それに、一緒に行ってくれるなら次回の修理代もサービスしてあげるとも」
「そう言われちゃしゃーねぇな~。行ってやるよ!」
機嫌を良くしたビリーにグレースは満足すると、今しがた交換を終えたばかりの足先の関節部分を持ち上げてよくよく眺めると「うん」と頷いて立ち上がった。
「それじゃ、立ち上がって確認して。その後はさっき交換した肩関節の確認を少し外に出てしようか」
「わかったぜ。……っと、それでそのパーティってやつはよぉ。いつもの格好で行っていいのかぁ? パーティってのには出たことが無いからわかんなくてよぉ」
「そうだね……君のボディを自慢することを考えれば何も着ないで連れていく方が私的には好都合だけれど……」
「全裸で行けって言うのぉ!? 頭おかしいんじゃねーの!?」
「いやいや、服なんかでその美しいアウトラインを隠す方がどうかしているね。……っとまあ、君の意見を尊重するならば、スーツを着てもらうのが妥当かな」
「スーツなんて俺持ってねぇよ。そんなんホロウに入るのにゃいらねーし」
「確かにそうだね。それなら私が用意してあげよう。君のサイズはどこもかしこも計測済みだ」
「その言い方セクハラにならない?」
「まあまあ、私もスーツを着るし……これが『お揃いコーデ』とか言うやつだね! 当日はデート気分でいてくれていいよ! 帰りにはジャンクパーツショップにでも寄ろうじゃないか。好きだろう? そういうお店」
「おお! それならいいぜ! でもいいのかぁ? ジャンク品なんて絶対使わせないって言ってたろ」
「それはそうだけれども、過去に製造されたパーツを眺めて今後の設計に生かすのも私の仕事さ」
「あ、買うんじゃないのぉ……?」
しょんぼりとしたビリーを目の端に置き、グレースは台の上に置いていたビリーのメンテナンスチェック項目に次回の点検項目を書き加えた。
***
グレースの言っていたパーティが行われる日の夕方、ビリーはルミナスクエアへと足を運んでいた。グレースではなくクレタから連絡があり、やってきた次第である。
「――送られてきたスーツは着てきたけどよぉ……あいつはどこにいんだ? ニューススタンド近くにでもいろって言われたけど。全然姿が見えやしねぇ」
普段着慣れないスーツに違和感を感じてどうにもそわそわとしてしまうビリー。ネクタイは締めなくてもいいとのことだったので、ラフに胸元は少し開いている。
「こんなもんを毎日着て仕事に行ってる人間の気が知れねえぜ……」
ビリーがぼやいていると、少し離れたところから「おーい!」という声が聞こえた。
声の主は、白祇重工社長のクレタだ。
「おー、グレースはどこだ~?」
と、声をかけてすぐ。
クレタの後ろにある美容サロンから――ドレス姿のグレースが出てきた。
「え……」
いつもと様相の違うグレースにビリーは一瞬言葉を失う。
が、
グレースはビリーを見つけるなり「ビリィーーー!!!!!」と物凄い絶叫を上げて駆け寄りしがみついてきた。
「うわあっ!?!? 何すんだよ!?」
「聞いてくれビリー! うちのおチビちゃんが! 私に酷いことをするんだ! 姉に対してこんな仕打ち……どう叱ってあげればいいのか!」
うっうっ、と泣くグレースにクレタは「化粧が落ちるから泣くんじゃねぇ!」と喝を入れる。
「毎日徹夜するせいで姉貴の顔面がやべーからあたしが気ぃつかってやったんだろ!?」
「だからって何時間も恐ろしい場所に閉じ込めておく必要は無いだろう?」
「美容サロンで肌と髪の手入れしてもらったんだろうが! ただ閉じ込めたわけじゃねぇ!」
「ううっ……おチビちゃんがこんなふうに育ってしまったなんて、姉である私はふがいないよ……」
「そうだよ姉貴がふがいないからあたしがしっかりしなきゃなんだろ……」
クレタはうんざりしたように項垂れると、すぐ体を起こしてビリーに向き直った。
「よれよれのスーツ着てくなんて言うからよぉ、とりあえずあたしとベンで見繕ったドレスを着せておいてやったぜ。あとヒールなんて普段履かねぇから文句垂れるかもしれねーけどよ、ま、あとはお前にまかせた!」
バシバシとビリーの腕を叩き、クレタはにかっと笑った。
妙に楽し気なのは、普段振り回してくる姉を逆に振り回してやったからかもしれない。
ビリーもなんとなくその気持ちがわかって笑い返す。
「おー、まかしとけ! って、パーティってのはどこでやんだぁ?」
「ここから地下鉄ですぐだよな、姉貴? っておい、いつまでぐずってんだよ」
「うう、だって、こんなことにお金をかけるくらいなら研究費用に充てた方が絶対に良いと思って……」
「いいんだよバカ姉貴! ちったぁ自分のことに使え!」
「うう、うう……」
化粧が落ちないよう涙を堪えるグレースを残し、クレタは颯爽と帰っていった。
してやったり、と言った顔をしている様子からは多分このあといろんな社員たちにグレースの様子を触れて回るのかもしれない。
ビリーは呆れてため息をついてしまいそうだったが、隣のグレースを見てしばしの間感心する。
「……人間ってのは、見た目が変わると印象も変わるよなぁ」
「え? 何だい……?」
「いやいや、普段のあんたとよぉ、今のバシッと決めてるあんたとじゃあ天と地ほどの差があるよなって話」
そう言うとビリーはグレースの頭の先からつま先まで視線を往復した。
グレースの肩までの髪はまとめ上げられ、ワンポイントになる髪飾りがあしらわれている。
普段化粧っ気のない顔は、クマが消え、目元は主張の強すぎないアイシャドウで彩られ、チークによって血色も良く見えるし、唇はふっくらとして落ち着いた赤が映えていた。
ドレスはそこまで華美ではないものの、普段のパンツスタイルからは想像できないロングドレスで、彼女の身体のラインをしっかりと際立たせている。
そして極めつけは朱色のハイヒールだ。デザイン自体はシンプルだが、それによって全体を締める役割もしている。
グレースの装いをじっと見つめ、ビリーは「なるほどなぁ」と唸った。
「モニカ様には劣るかもしれねぇが、あんたも『美人』ってやつなのかもしんねぇな」
「美人? 何の話だい?」
「いやーいいなぁ人間ってのは。俺もスターライトナイトみたいにかっこよくバシッと決めてぇぜ!」
「スターライトナイトか……君の外装を一新するには手間と時間と費用がかかるだろうね」
「一新しちゃうのはちょっと後がこえーなぁ」
「でもスターライトナイトなんかより、君の今のフォルムの方が断然かっこいいさ」
唸るビリーに、グレースは少しだけ元気を取り戻したのかくすりと笑う。
そして小さなバッグの中を確認すると「それじゃあ行こうか」と地下鉄駅を指差した。
***
パーティはグレースが言っていた通り形式ばったものではなかった。一番最初に主催者の簡単な挨拶があったものの、それ以降は立食形式でそれぞれが各々の会話に興じている。会話内容はどれもこれも自身の進めている研究内容や、先達て出た知能機械の画期的なデータ集積方法について、ボンプに積む新型論理コアの量産方法についてなど、ビリーにとってはそこまで興味の惹かれるものではなかった。
そんな中、グレースもまた自身の研究内容について熱心に他の参加者と語り合っている。
(いくら俺が人間と違って疲れない体だってもよぉ、隣に突っ立ってただ黙って聞いてるってのはなかなかにしんどいぜ)
ビリーはそんなことを考えながら知能構造体用にと渡された飲み物が入っているグラスをくるくると傾けた。これが一体自身の機体にどんな作用をするのかはわからない。説明はグレースが受けていたがあまりにも難解な単語がずらずらと並んでいたため、ビリーは早々に理解するのを諦めたのだ。
「――ではそちらの機械人はハワードさんと専属契約していらっしゃるんですね。いいなぁ、私もそういう方に出会えたらもっと研究が飛躍的に発展しそうなものですよ」
「確かに彼のような機械人はなかなか出会うことがないからね……本当に運が良かったよ」
グレースは何者かにニコリと笑いかける。そして隣のビリーを見上げると、「ね」と同意を求めるように小首を傾げた。ビリーはというと、「はあ」とだけ返事をしてまたくるくるとグラスを回す遊びを始めた。
グレースはいつもよりも三割増しで上機嫌だった。
それがビリーを自慢するのが楽しいゆえなのか、
研究者たちと語り合うこと自体に沸き立っているのか、
ビリーには判別がつかなかった。
そしてそれがどうにもむずむずとした感情を抱かせている。
(別にこいつが楽しそうにしてんの見るの嫌じゃねーけどさ)
ビリーがグラスの中の飲み物をじっと見つめ、一口飲んでみようかと思っていた時だった。
「――おお、グレースくんじゃないか。君がこういった場に来てくれるなんて珍しいね」
ふと彼女の名前が呼ばれ、グレースもビリーも咄嗟に声の方向を向いた。そこに立っていたのは最初に挨拶をしていた恰幅のよい男だった。顔の皺からは歳を感じさせるものの、実際の立ち振る舞いからは衰えはあまり感じられない。そしてどうやら知能機械の権威とは彼のことらしい。
「君が機械人の……しかもロストテクノロジーによるものだということは聞いているよ。グレースくんじゃなくても君の機体を隅々まで調べたい人間はここにわんさかいるだろうね」
「うわあ、すっごい怖いこと言ってやがる……おっさんに弄り回されるのはごめんだぜ」
ビリーがげんなりとすると、男は口を豪快に開けて笑った。
「いやぁそれにしても……グレースくん、以前から君のことは気にかけていたけれどもとうとう戻れないところまで来てしまったじゃないか」
「何がでしょう?」
グレースが答えると、目の前の男も、近くにいた他の壮年の研究者たちもくすくすと笑い始めた。この状況にビリーは違和感を抱き、様子を静かに伺った。
「君の研究は目を見張るものがある。しかしだ、君には研究以外にもやらなければいけないことがあるだろう? 研究が好きなことはもちろんだが、それならば他の男性研究者と一緒になって支えてあげることも必要だろうに。それが――ようやくできた恋人が機械人とは……滑稽と言わずして何と言うのか」
「滑稽?」
グレースはきょとんとした顔で首を傾げた。
「何をおっしゃっているんですか、私には彼以外ありえませんよ。彼が素晴らしい機械人であることは一目瞭然でしょう? 私が彼と共に研究を推し進めることで知能機械や論理コアの飛躍的発展は約束されたも同然ですよ」
「はははははっ!!」
男は笑う。
近くにいた者たちも。
ビリーは苛立ちを感じてついホルスターに手をかけようとしたが、身に着けていないことに気が付いて肩を落とした。
「いやぁ、君が家庭に興味を持たないことはわかっていたが……せいぜい研究を頑張るといいさ。次の発表でも期待しているよ。ああ、私の息子が進めているプロジェクトだが、もしかすると君にも声がかかるかもしれないね」
「それはありがたいお話ですね。こちらの研究や仕事に空きがあればお手伝いしたいところですが……今は少しばかり時間がないので良いお返事はできないかもしれませんねぇ」
「……何、君の手が空いていればでいいんだよ」
男は作り笑いを浮かべると「パーティを楽しんで」と行ってしまった。
彼が去った後で、周りからは嘲笑と、悪口が聞こえてきた。
「――人間の恋人も作れないなんてこれだから女性研究者は」
随分な言いようだ、とビリーは思った。そして隣に立ちシャンパンを一口だけ舐めるグレースを見遣る。
「……なあ、大丈夫か?」
「え? 何がだい?」
「ヤ~~~なこと言ってたろ。さっきのおっさんも、周りのじーさんたちもよぉ」
「ああ……うーん、聞き慣れているからねぇ」
「凹まねぇの?」
「何をへこむことがあるんだい? 私にはこんなに素晴らしいダーリンがいるのに!」
「ちょっとは凹んでくれハニー……」
ビリーはがっくりと肩を落とす。そう、グレースはこういう人間なのだ。自分の興味があること以外には我関せず。例え自分を貶めようとする言葉であっても、それは彼女の範囲外だ。しかし、ビリーはこの苛立ちを抱えたままこの会場にいるのはどうにも不快であった。
ビリーは持っていたグラスを傾け、全ての液体を機体に流し込んだ。
「――グレース、ちょっとばかし我慢してくれよ」
「え? 何が……うわあっ!?」
ひょいっ、とグレースの身体が宙に浮く。
ビリーが肩の上に担ぎ上げたのだ。
そしてそのまま会場を駆け抜けると笑いながら言った。
「わりぃな! 俺、急いでこいつに体見てもらわないとだから~、連れて帰るぜ~!」
グレースを抱えたままスタコラサッサと楽し気に走り抜けるビリーを、パーティの参加者たちは可笑しなものでも見るように視線を向けていた――。
***
――パーティ会場を離れ、ビリーは街灯の下にあるベンチへとグレースを下ろした。外はすでに暗くなっており、仕事帰りの人々が道を歩く様子が伺える。ビリーは満足気にグレースの横にどっかりと座ると、ベンチの背もたれに体を預けた。
「いやー、ははっ、すまねぇな。どうにも俺様はあのパーティってのが合わなかったみたいだぜ。もっとあそこにいたかったか?」
「うーん、いいや。私も早く帰りたいと思っていたんだ。あそこにいても研究は進まないしね」
「ま、だろうな」
体を起こし、ビリーは隣に座るグレースの顔を覗き込む。グレースはしばし足元を見つめていて、小さくため息を吐いた。それからハイヒールを脱ぐと、摩擦で赤くなった足をばたつかせた。
「こーんなかっこしてさ、馬鹿みたいに種類のある料理を食べて、美味しくもないお酒を飲んで……一体何が楽しいのか私にはわかりかねるよ」
「だよなぁ」
「もしかすると君、私を思ってあそこから連れ出してくれたのかい?」
「それ以外何があんだっての!」
「あ……はは、そうか」
グレースは小さく笑い、それから堪え切れないとでも言うように大きな口を開けて笑い始めた。
「あっはは、あっははははは! いやあ、ははっ! そうか、君は私が愚弄されたと思って助けようとしてくれたのか! あはははっ!」
「おいおい何がおかしいんだよ……」
「ふふっ、いやぁね、なんというか……実に人間らしい行動に思えてね。私なんかよりもよっぽど」
「そうかぁ?」
「……ああ、いいね。君のその思考回路を少し覗いてみたい。きっと私とは違う電流の流れ方をしているんだろう。ふふっ、君はいつも私に驚きをくれるよ」
グレースはそう言うと、ビリーの身体にぎゅっと抱きついた。
ビリーは突然のことに何も言えず、ただそのまま黙っていた。
静かな空気が流れる。
通りを歩く人が減り、二人きりになったところでグレースが口を開いた。
「……スーツが邪魔だな」
「もうちょっとムードのある言葉言えねぇの?」
「だって邪魔じゃないか、君の魅力はそのメタリックフォルムだというのに!」
「はぁ、そりゃどうも~」
ビリーは呆れかえりながらも、グレースが触れている部分の熱が上がってきていることに気が付いた。排熱が上手くいっていないのかもしれない。先日メンテナンスをしたばかりなのになぁ、とビリーは首を傾げた。
「そういえば君、さっきのアレは全部飲んだのかい?」
「あ? アレって?」
「ほら、最初にもらったグラスに入っていただろう?」
そう言われ、確かにくるくると回していたグラスの中身を、グレースを抱きかかえる前に全て飲み干し近くのテーブルに放ったことを思い出す。
「……飲んだなぁ。あれってなんだったんだ?」
「おや、聞いていなかったのかい? あれは知能構造体向けに配合された化合物で、主にバイオマスエタノールから成っていてそこへニトロフューエルと微量のエーテル物質を混合させてできた新発見の――」
「もっとわかりやすく言ってくんない?」
「ふむ。簡潔に言うとだね、知能構造体用のお酒だ」
「お酒?」
ビリーは首を傾げる。
人間が摂取する酒はもちろん知っているし一度口にしたこともあるが、それは機械人である彼の機体に何かしら作用することはない。全て分解されるからだ。しかし今はいつも感じたことのないような――動作の鈍りを少し感じていた。
「へぇー……これが、酒ってやつの感覚なのか」
「私はそんなもの必要ないと思うんだけどね、世の中には『知能構造体をもっと人間らしく扱おう!』なんて奴らがいるのさ。知能構造体にもストレスは溜まる、それを緩和させる為に動作を遅らせて起動中もスリープに近づけて一部機能をほぼ停止させる……なんて。普通にスリープした方が手っ取り早いと思わないかい?」
「そりゃごもっとも」
「こんなものは必要かどうかではなく、結局のところ必要ではないモノをいかに必要にさせて経済を回すかという話なのさ。どうだい、無駄なことばかりする人間の考えそうなことだろう?」
グレースは可笑しそうに笑う。
その様子はいつもよりも子どもっぽくて、ビリーは不思議に思った。
「なあ、あんたも酒が入ってんのか?」
「え? ああー……飲んでるように見せようとして何度か口をつけていただけなんだけど。もしかすると酔ってしまったのかもしれないね」
「あんた酒弱ぇんだな」
「摂取する機会がほぼ皆無なんだよ」
そう言うとグレースはハッと何かに気が付くようにビリーから離れると、輝かしい表情でポンと手を打った。
「酒に酔った君なんて滅多に調べられない良い機会じゃないか! 今すぐ帰ろう! 帰って私の部屋で隅々まで見させてくれ!」
「ええ~……なんか言い始めちゃったよこの人……」
「ほらほら早く立ち上がって! ……おっ、とと……」
立ち上がろうとしたグレースが、よろける。ハイヒールを脱いでいたことを忘れていて痛みで体勢を崩したのだ。ビリーはそれを慌てて支えると、彼女をベンチに再度座らせた。
「……それ脱いでんのはよぉ、この赤いとこが痛いからなのか?」
ビリーはグレースのかかと付近を指差し、訊く。
「あ、ああ……あはは、こういう靴は、慣れないからね」
「ふーん」
そして何か考えたようにすると、ビリーはグレースをひょいと横向きに抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「わっ、ちょっとどうしたんだいビリー!」
「足が痛ぇんならよ、俺が持ってってやるぜ。ほら、あんたはこの靴持てよ」
「ええ~? 君だって今酔っている状態なのにこのまま歩けるかい?」
「大丈夫だっての! まかせとけ!」
「あははは! ほんとかい?」
グレースは可笑しそうに笑うと、ビリーの首にぎゅっと抱きついた。
いつも冷たいボディが、少しだけ熱を帯びていてグレースは感心する。
「これはよくないね、飲むもんじゃないよあんなもの」
「もう飲まねーよあんなもん」
「ふふっ、そうだねぇ。……あー、なんだか楽しくてたまらないなぁ。お酒ってのもたまにはいいもんだね! でも帰った頃にはアルコールが抜けていてくれないと、研究に支障をきたしそうだ!」
「それじゃーのんびり帰るとするぜ。そうすりゃアルコールってのも少しは抜けんだろ」
「ふふっ、でも早く帰りたいよ。――今日は朝まで君を調べ尽くそう。どれくらいで君の“酒”が抜けるのか経過観察しないとね!」
「朝までコースは勘弁してくれぇ~」
楽しそうな声が街中に響く。
機械人に抱き上げられた人間が嬉しそうに笑う様は、
周りからは奇異の目で見られたことだろう。
しかし本人たちだけが知っている。
自分たちは恋人なのだ、と。
「グレース」
「なんだい?」
「パーティ途中で抜けたからって次の修理代サービスはなかったことにならないよなぁ?」
「それはこの後の協力次第だね!」
――機械人と人間の不可思議な関係はこの先も続いていく。
<了>