ぬいぬい不知火?   作:KIKI的状況

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ぽいぬとぬいぬ

 

 

目が合うまでもなく、決めていた。

交わす言葉がなくとも、同意の意思は変わらない。

 

 

金曜日のカレーを食べて、自然と瞼が重くなる昼休み。

そして南からも陽光が射し込むその場所/執務室でありながら、精力的に働く者が一人いる。

珍しく=普段であれば机に抱きついて眠りたくなる誘惑に負けたはずの提督は、パソコンに向かい打ち込み作業+肩と頭の間に電話を挟んでどこかと連絡=調整中。

迷いなく/淀みなく。

かれこれ10分以上繰り返されるキーボードの連打音/ 気だるげでもないその音は、同じ部屋――秘書艦用に設えられた椅子に背を預けて休む少女には心地よい。

眺める横顔/ 一心に前を見つめる真剣なソレ。

今だけは誰にも邪魔されず独り占めできるこの時間/この空間。

視線の先は提督へ継続中/気づかれず/されど不満なし。

一心に前を向こうが、モニターの字を追いかける瞳は揺れる。

思考の際には首が動く。

電話口に触れそうな口は言葉毎に形を変える。

それは、些細な変化であれど、どれもが提督であり、その瞬間瞬間の姿を彼女は記憶に焼き付ける。

自然と背もたれから体は離れ、うっとりと前傾姿勢+頬杖を。

2つの蒼い瞳は全開に。

揺れるお下げはそのままに。

秘書艦/時雨は提督の姿を鑑賞する。

 

そして、次に提督がどんな動きを行うか。

いくつもの可能性の予測/妄想を繰り返してみては――的中/心の中でガッツポーズを繰り返す。

昼休みを使ってまで行う作業の理由を考える時間は惜しい=提督を眺めていたいという本能に追いやられ、答えを知るのは昼休みの終わり間際の30分余り先のこと。

心の休息/充実を実現した彼女は満面の笑みで提督に同意した。

 

 

鎮守府から離れた四国沖――深海棲艦が現れてからも変わらず使われる訓練用海面。

貨物船や客船の姿は今はなく、艦娘達がその場を占拠する。

「針路030に右一斉回頭」

潮騒を突き抜けるのは、縦列の先頭を駆ける旗艦霞の号令詞。

数瞬と経たずに後続4人は了解し、波間を抜ける一筋の線は歪みなく変わらない。

時速では40キロを越える風にも負けず。

東へ東へと押しやろうとする黒潮にも負けず。

「殿艦の北上さん、航跡を続行。各艦異状なし」

後方を一瞥/2番艦の不知火は旗艦へ告げる。

 

返されたのは、無言の首肯。

そして、1拍。

「さっき、舵の取り方が甘かったから針路が少し外れかけたわよね」

1つの指摘。

びくりと条件反射的に肩が震え、

「戦闘動作に入るときは気を付けなさいよ」

自然と拳はきつく握られる。

 

元は駆逐艦として大海原を駆け巡った経験があろうとも、終わることのない艦娘としての指摘がそこには待っている。

それは、例えば身体の違いが産み出す運動性のもの。基準艦の航跡を辿(たど)る術は知っていて――それでも、過去と同様に進めない理由/人間に利き腕があるように、艦娘にも左右どちらかが曲がりやすいというそれの違い。

駆逐艦の時と人の身でそれが同じな訳もなく+自分だけではなく、共に駆ける僚艦もまた艦娘。

 

繰り返される失敗毎に、罵倒はなくとも冷たい眼差しの指摘が待っている。

ジワジワと首を締め付けるように。

ゆっくりと精神への負荷を積み上げるように。

感情が爆発できるような/気持ちを吐き出させるような指摘はそこになく、行き場に戸惑う感情が不知火の気持ちを参らせる。

――それでも、気持ちは切らさない。

 

左前方の波間に覗いた人影2つ。

「艦娘2人、左60度ヒトゴーマル」報告は端的に。

万全であろうがなかろうが、それを言い訳にすることなく、やるべきことをやる。

 

「了解、夕立と春雨を視認したわ」

言葉のみの応答。

「今なら倒せます」

「そうね」

針路/速力/変化なし。

静観する5人の先を2つの影は左へ左へと進んでいく。

 

「霞ちゃん、いつでもいけるよ!」

清霜の弾んだ言葉が艦隊の中央から駆け抜ける。

数の上では5対2=2倍以上の戦力差。確実に大ダメージを与えられるチャンスを活かそうと、清霜の背後に続く朝霜は手に持つ10センチ高角砲を掲げてみせた。

 

1拍。

 

2拍。

 

「……霞?」

待てども言葉を/突撃命令を告げない霞に向けて、不知火は焦燥の混じる言葉を吐き出した。

「今ここで夕立と春雨を減らすことができれば、この後の戦いは楽になります」

第2艦隊と敵対する形となった海上演習。

その戦力の中核となる夕立を倒せるチャンスを見過ごせず、同じ意見の清霜と朝霜もまたじわりじわりと霞との距離を詰めていく。

 

嘆息1つ。

「だからこそよ」

旗流で令される陣形変更/複縦陣+各人距離間1メートル。

針路速力そのままに、霞は告げる。

「たしかに皆でかかればあの2人には勝てる。だから3人が倒そうと考えるのも間違ってはいない」

「だったら」

「けど、私達が本当に果たさないといけない作戦目的とは違うでしょ?」

思い出せと、2つの琥珀の水晶が一人一人の瞳に言ってやる。

「今回の私達の目的は、制限時間までに第2艦隊が護送している艦娘、響と鳳翔さんに被害をどれだけ与えるかなんだから」

それぞれに課せられた演習での目的――霞達は連携向上を目指すためのもの。

夕立達は、これから増えるであろう艦隊/6人での護送任務を念頭に置いたもの。

「2人を倒せても、私達に被害が出すぎても不味いのよ」

確実に相手を叩くため/艦隊の長として、霞は首を横に振る。

相手の一人は鎮守府一の戦いを楽しむ戦闘狂。

落とそうにも、確実に誰かが。それも複数以上が巻き込まれる可能性ははるかに甚大で、3人分の小さな肩が静かに沈む。

明確な理由の前に、やむ無しと少女達が霞の意見を受け入れようとして、

「確かに霞っちのほうが妥当だと思うけど……あたしは、ぬいぬい達と同じかな」

無言を貫いていた北上は、その空気を打ち消した。

 

「どうしてそう思うわけ?」

決まりかけた方針のちゃぶ台返し。

視線はぶつかり/交錯数瞬/ただの同情ではないと察した霞は言葉を促した。

「1つは、向こうの旗艦が夕立と決まったわけじゃないけど……旗艦がやられたら基本は相手の負けだよね。撤退しないといけないし」

告げる声は淡々と。

説得ではなく、事実を並べるように北上は意見を述べる。

「それと今回の演習は、2艦隊のための演習にしてあげようよ。先に戦線復帰するのはあっちだし、あたし達は深海棲艦みたいに、見つけたら突撃スタイルでいいと思うよ」

僚艦が被害を受けたときの動き/一時的には起こり得る、数の暴力をどう凌ぐのかetc……。

 

「霞っちがあたしたちの実力とこれからの方針を考えてくれてるのはわかるんだけどね」

お姉さんのように霞の頭をポンポンと叩き、グリグリ回して叩き返されながら北上は胸を張る。「提督のことはいつも考えているからさー」ふふん。と鼻を鳴らしてみせる。

 

演習での2つの目的と鎮守府として望むもの。

鎮守府/提督のために選ぶこと。

「霞っちには最近忙しすぎだったから難しかったかな」

「誰かさんがいつも真面目にしてくれないからよ」

「誰かさんに会ったら伝えるわ」

令する前から逃げるように最後尾へと移動していく北上へのため息を吐き出して/ついでに大きく深呼吸。

 

「陣形は単縦陣」

 

感嘆の吐息3つを聞き流し、

「とーりかーじ!」

今まで考えていた作戦を消去。

胸に残ったわだかまりを打ち消すように大声を張り上げた。

「右魚雷戦同航!」

「そうそう、そうでなくっちゃ」

「軽口叩くなら、ちゃんと当てなさいよ」

「善処しまーす」

 

気安いやり取りを耳に、残る3人も用意を開始する。

元よりやりたかったこと。俄然と気合いはみなぎって、

「用意よし!」

不知火の報告から数瞬、

「発射!」

戦いの火蓋は落とされた。

 

 

迷いなく/乱れなく敵へと向かう魚雷達。

背後からのT字を狙う霞の背中を追いかけながら、視線は目視ではっきりとわかる2人に向かう。

 

確実な戦果を祈られ放たれた20の猟犬。

避けることは難しく、可能とするならば魚雷と並ぶように、この海域から大きく逃げていくだけだいう結論をもちながら、ゾクリと冷気が不知火の背中を駆け抜けた。

 

視線の先で、金色の髪が楽しげにふわりと揺れている。

踊るように。

嬉しそうに。

まるで、興奮のあまり跳び跳ねるワンコのように/獲物を見つけた狼のように。

 

眼前。

夕立/躊躇うことなく迫り来る20の魚雷に向けて取り舵を。

定めた針路上/正面に向けて、4本全ての魚雷を吐き出した。

 

瞬間、増速。

先を駆ける魚雷に遅れて数秒。

構える改装された12.7センチB砲から続けざまに針路上へと発砲を繰り返し、

「パーティー会場へようこそ!」

2本の随行する魚雷を従えて、爆煙の中から飛び出した。

避けるでもなく、魚雷の群れを突き抜けて現れた目標/5人を映す瞳を爛々と輝かせ、犬歯を剥き出し微笑む少女に不知火の思考は停止する。

 

「解列! 右翼面舵一杯」

それでも、霞の号令が染み込んだ身体がとるべき動作を実施する。

縦列から2列へ。

「目標、夕立」

左右の列に別れ、挟みこむように5人は主砲を指向。

同士討ちのない、目標が全員の背後を過ぎたところで「射ち方はじめ」一斉射――同時に、

「クラッカーみたい!」

夕立/発射管から魚雷を抜き出して、水面に投てき。

着水と同時/夕立に撃ち抜かれた火薬の固まりは盛大な水の防壁を産み出した。

 

自分に振りかぶる爆煙をものともせずに、更にと前へ。

「まずは、あなたがお相手してくれる?」

飛び出した先にいた不知火へ囁いた。

1拍。

 

眼前の2つの丸い穴/瞬間、右足の推力を全力の後進へ。

右膝の悲鳴をこらえ、不知火は半身を捻っていた。

ペロリと舌なめずり。

「凄いっぽい」

右肩のあった場所を切り裂く弾丸。

避けられたことが嬉しそうに/人懐っこい犬のように夕立は列から外れた不知火を追いかける。

普通の戦闘ではありえない、腕を伸ばせば手と手が届く距離/すべての火器を躊躇いもなく指向する。

「それじゃあ、これは?」

「問題ありません」

逃げるのをやめて、溜め1つ。

躊躇いもなく跳躍/夕立に向けてその身を飛び込ます。

霞のように突き出す右腕/備え付けた高角砲に狙いは必要ない。

 

まだこの時間を楽しみたいのか、回避を優先したために緩まる狙い。

不知火は掠めるように夕立の側から離脱する。

 

「え?」

 

振り返ることなく全力で。

背中を見せることに躊躇いもみせない逃避行。

呆けるのと同時、夕立の全方位から弾丸の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

 

左。「だいっ勝利だね! 霞ちゃん」

右。「今回はぬいぬいのおかげだろ。ちゃんと誉めてやれよー」

左右から清霜と朝霜に両腕を捕まれて、よろよろと霞は蛇行する。

「それじゃあ、ただ戻るのはつまらないから、この不規則な動きをする霞っちの後を一緒に蛇行運動で追いかけよう」

「それじゃあ、私が一番最初に」

「しなくていいわよ!」

演習は2艦隊の敗北で終了し、2列っぽい縦列を作りながら皆は鎮守府への帰路を進んでいく。

前方では終わらぬ喧騒が。

 

「私が夕立にちゃんとついていけたら」

「普通は魚雷に向かって突撃して回避なんてしませんよね」

「逆に良かったじゃん。夕立は魚雷に向かって舵を切るって実践前にわかったんだからよ」

「魚雷を迎え撃つ方法といっても……」

 

中央では反省会/今後に向けての意見交換が。

そして、

夕立/右肩を不自然に前へとだして、パタパタと襟を震わせて。

不知火/戦闘との気配の落差に唖然とし、戦闘に対する講評を聞けずに言葉を探す。

 

「その……何をしているんですか」

行うべきは現状の把握。

「こうしたらぽいぽいって聞こえるっぽい」

言葉は噛み合わない。

鼻歌まじりに言葉を跳ねさせ、不知火は指先で示す。首もとずっと。

 

「ね」

「そうですね」

話が組み立てられず、ひとまず吐き出したのは同意の言葉。

それでは不味いと考え、同調だけではだめだと自分の意見を口に出す。

「パタパタでは?」

 

1拍。

 

2拍。

 

沈黙は数秒間。

 

笑顔は曇り、膨らむ両頬/尖らす唇。

「ぽいぽい」

「……パタパタでは?」

恨めしげに見つめられ、どうしてそうなったのかという思いを押し込めて、不知火は事実を告げる。

 

悩むこと数秒。

頷く夕立に不知火は安堵の息を

「ポタポタ!」

飲み込んだ。

「どうしてそうなるんですか!」

思わず上がる声量に、

「おせんべい?」

夕立は小首を傾げてみせる。

「ぬいぬい、お腹空いたっぽい?」

右手をポケットに入れて数秒/差し出されたのはあめ玉3つ。

「提督さんが私にくれたものだけど」

「……お心遣い感謝しますが……違います。それと、ポから離れてください」

さ迷った右手/左手で捕まえて不知火は視線を逸らす――ポケットに戻されたあめ玉を追いかけながら。

「ぽいぽいでも、ぽたぽたでもないなら」

対する夕立は静かに目をつむり、もう一度耳を澄ませてみせる。

1拍。

 

数拍。

 

「……パイパイ? 」

移動する視線の先は必然で、

「ぬいぬい変態っぽい」

武装のない腕で不知火の視界から両胸を隠す。

残念な人を見る目で見つめられ、どうしてそうなるのかと脱力せずにはいられない。

僅かに互いの距離は広がって/夕立の警戒心は変わらず不知火へ。

腕を組み、頭を悩ます相手を見つめ/自分を見下ろし――合点する。

「けど、確かに夕立にはあるっぽい 」

載るものと載らないもの/落差の違い。

「いいでしょう。貴方のその不真面目さ、不知火が直します」

「それは嫌っぽい。けど、戦いなら受けてたつっぽい!」

火蓋は落とされた。

 




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