ぬいぬい不知火?   作:KIKI的状況

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2話 演練

 襟元の赤いリボンをはためかせ、ゆらめく水面を疾走するのは一人の少女。

 蛇行と直進の航程を繰り返し、やがて姿勢を安定させるためか、わずかに腰を落として重心位置を低くする。

 選択/右腕/12.7ミリ連装砲を起動準備。目覚めた砲身が伸びをするかのように上下に動いてみせる。

 起動完了。

 選ぶ速力/巡航速度=18ノット。

 速力を引き上げながら、真横に浮かぶ標的をインサイト。

 深呼吸/余計な雑念を吐き出すように。

 ーー18ノット。

 

 放つ。

 

 己と標的。互いにもたらされる波と風の外力を頭に入れての3連射。

 弾着確認/修正を。

 硝煙の香る砲身を小刻みに動かして再度の3連射。

 

 数秒後、僅かに上がる口角をそのままに、引き上げにかかった速力はこれまでの1.5倍。

 標的を中心に/距離を維持するために、円を描くような舵を切りながら。

 横からだった波浪に突っ込むように/正面から受ける風は正横に。

 波に乗り上げ、己の身体が今までよりも上下に揺さぶられるのを感じながら、不知火は再度標的へと狙いを向ける。

 身体にぶつかる波しぶきを気にせずに、深呼吸/熱くなる心の熱気を吐き出すように。

 ーー27ノット。

 

 放たれた3連射。

 途中、波長の変化に身体をとられ、悔いた時には不愉快な水柱/弾着結果が待っている。

 

 終われない/拳がきつく握られる。

 不知火は、新入りの立場を望まない/提督への宣言を果たすため。

 次弾を装填し、27ノットのままでのUターン/遠心力を胆力でこらえ、標的を再度インサイト。

 上1左2ーー方位/仰角の修正完了。

 

 瞬間/轟音。

 

 朝食までの残り一時間。不知火は一人、演練を繰り返すのであった。

 

 

 

 柔らかい陽光に包まれた食堂で、

「いただきます」

「はーい」

 割烹着で身を包んだ鳳翔他数名に声をかけ、不知火はプレートの上を食事で盛り付ける。

 

 0630

 

 鎮守府の食事の時間は変わらない。

 

 休日であろうとも、多くの者が味噌汁の匂いに釣られて目を覚ます=食堂の空席は限られる。 

 プレートの総ての窪みを白米、鮭の切り身、だし巻き卵、納豆、漬け物、味噌汁の椀でフル装備とし、席を探そうと不知火が周囲を見渡した矢先、

 笑顔で「ぬいぬーい」高らかに。

 細まる双眸に動じることなく、自分の隣の空席を指差す提督に不知火は決断した。

「北上さん失礼します」他の場所へ。

「いいよー」即答。

「ちょまっ!」

 そして、席を離れてまで目の前に来る提督に向けて言うべき言葉。

「不知火に何か落ち度でも?」

「……ありません」

 どこで何を食べるのかは個人の自由+海上部隊にとって食事は大切な娯楽の一つ。

 そんな時に、提督の権限云々で無理強いすることがないこと程度のことは、長い付き合いでなくとも理解済み。

 言いたい言葉を飲み込んだ=詰まらなそうな表情を浮かべて数拍。提督は元の席へと戻るのであった。

 

「騒がしくしてしまい申し訳ありません」

「いいって、いいって。ぬいぬいは気にしなくていいよー」箸を握る手を振って、

「ありがとうございます」

「ハイパー北上様はちょっとやそっとのことじゃ気にしないから」

 胸を反らし誇らしげに笑う北上に、しばし見とれる不知火であった。

 

 朝の団欒で語られるハイパーとなった北上の武勇伝。

 何よりも得難い教訓を/心得を記憶に刻む不知火にむけて、

「そういえばさあ」北上/思い出したかのように問い掛ける。

「なにか?」不知火/ご飯へ伸びる箸を両舷停止。

「提督、なにか言いたそうだったけどいいの?」

 不知火の背後。時折ちら見してきては、同席している艦娘に馬鹿にされる提督の姿/威厳も何もない。

「本当に言いたいことがあれば、気にせず口にしていると思います」振り返ることなく即答。

「へぇー」……よくわかってるじゃん。 口の中で言葉を留め、問い掛ける。

「いやー、提督がいつもの悪そうな表情してないのにぬいぬいが断ったからさー」

「いつも司令の思い通りと思われるのは癪なので」

 身から出た錆だと訴えかける瞳に北上は苦笑する。それは、無碍に扱われたれた提督に/小さな子どものようにムキになる不知火に。

「ほんとに子どもだねー」

「はい。本当に子どもです」

 何度も頷く不知火に、

「可愛いなー、もー」どうしようもなく言葉が漏れ出していた。

 不思議そうに見つめられ、北上は何でもないよと首を振る。

 思考に沈む十数秒。

「提督のどこが可愛いのでしょうか」

「そこ、拾っちゃうんだ」苦笑を1つ。

「提督は……やっぱり子どもっぽいとこじゃないかな? けど、ぬいぬいも覚えてるでしょ。男なんてみんな子どもだよ」

 北上が思い起こす前世の記憶。

 いつあるかわからない襲撃と鉄板1つを挟んだ地獄が足下にある中でーー歌って/喧嘩して/虐めして/馬鹿みたいに笑いあって/etc.……。

 ニヤリと笑う先/見つめるのは不知火のすぐ後ろ。

「否定はできないかな」声音/ばつが悪そうに。

 プレートを片手に食事を終えた提督がたたずんでいた。

「おはようございます」

「うん。おはよう」

 朝の挨拶を交わし、それでもこの場所を動かない提督に「何か?」不知火は問いかける。

 

 一拍。

 

「これは?」

 問いへの答え。プレートに置かれたのは、2つのだし巻き卵。

「休日でも朝から訓練に励むぬいぬいへの応援かな」

「偉いもんねー。ぬいぬい」

「俺に似て勤勉だからな」

「どこがー?」

「休みの日にも仕事に取り組む俺みたいに」

「それって仕事が終わらなかっただけじゃん」

「管理職は忙しいんだよ。……って、どうしたんだぬいぬい?」

 馬鹿みたいな言葉を掛け合いながら、提督の視線はやがて不知火へ。

「いえ、その……」

 膝元と提督を何度も見比べて、両手は胸の前で握られる。

 

 沈黙の理由を確認しようと提督が表情を覗き込むよりも早く、不知火は起立し向き直る。

「朝は司令に気付くことができず申し訳ありませんでした。それに、先程ほどは無碍に扱ってしまいました」

 深く頭を下げる不知火へーー提督は首を横に振る。

「もし気付いてたら、訓練に集中しろって怒鳴ってるよ。それに、常日頃からぬいぬいをからかい過ぎた罰だと思っておくさ」気にするなと小さく笑い、頭を上げさせる。

 

「それよりも、訓練の成果はどうだ?」提督/隣に腰を下ろし、

「まだまだです。戦闘速力での砲撃、雷撃の精度にはまだまだ改善すべき点がありました」不知火/引かれた椅子に腰掛ける。

 大戦での経験が記憶にあろうとも、今の姿とは大きく違う=艦娘としての経験が足りていない。

「となると……」

 不知火に今必要なことは、彼女の苦労に同調することではなくアドバイス。

 鎮守府にいる艦娘を思い浮かべていきながらーー決断。自然と浮かんだ該当者。

「霞に声でもかけたらどうだ」

「あー、霞っちか」

 悪くない、といいたげに頷く2人を見やり、不知火は考える。

「霞……ですか」

 朝潮型駆逐艦10番艦。先の大戦では、真珠湾から坊の岬沖海戦/海戦の始まりから終わりまでを生きた歴戦艦。

 不知火にとっても同じ駆逐隊に配属されたこともあり、知らぬ仲ではない。

「ですが、彼女は……」

 思い返される、霞の鎮守府での言動/主に提督への接し方。

 その理由ーー彼女の前世を思い返せばうっすらとではあるが考え至る。

 心配そうに見つめられ、

「口と愛想は悪いが面倒見が悪いわけじゃない」

 安心させるように、提督は破顔する。

「それに、このだし巻き卵の一つは霞からだ」提督/箸で掴むと不知火の口元へ

「霞さんからですか?」不知火/手の甲を抓りあげ、霞の卵を提督の箸から救い出す。

「ちょうど遠征帰りに頑張ってるぬいぬいを見かけたみたいでな。朝食は一緒だったんだよ」

「けど、よく提督も罵倒されっぱなしで怒らないよね」

 感心と呆れを言葉に乗せて、北上は頬を緩ませる。

「口は悪いけど、ぬいぬいと一緒で凄い真面目なだけだ。きっといい相談相手にもなってもらえるよ」瞳に自信を覗かせ、首肯。

 

「わかりました」

 2つの贈り物をお腹に納めた不知火は立ち上がる。

「ありがとうございます」一礼。

「どういたしまして。霞の部屋、わかるか?」

「……鳳翔さんに聞いてみます」

「まったく。霞は、ぬいぬいの部屋の3つ右隣の角部屋だ。迷うなよ」

 

 瞬間、時間が停止した。

「……なぜ提督は女子寮の部屋割りをご存知なのでしょうか」

 陽光に照らされながらも気温が低下する。

 北上からも呆れたような視線を向けられて、不知火の瞳に混じる侮蔑と軽蔑を取り除こうと、

「提督は艦娘の動向を把握しないと駄目だからな」提督はそれらしく言ってみる。

 

 

 待つこと十数秒。

「提督の変態さは今に始まったことではありませんでしたね」

 答えは、可哀想なものを見るような双眸。

「ぬいぬい!」

「安心してください。ロリコンとは思っていませんから。……失礼します」

 呼び止める暇を与えぬように、不知火は足早に+振り返ることなく立ち去った。

「提督って、ほんと考えなしだよねー」「……そうだな」

 後悔とともに、向かい合う北上の臑蹴りを受け入れる。発する言葉/命令一つでさえも、時には部隊の危険をもたらす指揮官だからこそ。

「けどまあ、霞っちをお勧めしたのはいいんじゃない?」

「霞がこの鎮守府にいてくれて良かったよ」

「提督とも付き合い長いから、いろいろ変なことも言われるかもねー」

 楽しげに笑いながら、北上はヤカンに手を伸ばし、

「出会ったのは、兵学校を卒業して遠洋航海に出た時からだからな」

 自然と弛まる頬をそのままに、提督はお茶を受け取った。

「提督がまだ若かりし頃のお話かー」

「まだ若いぞ」

「まだ、ね」

「一言多い」手刀は脳天へ。

「甘いね」瞬時に白刃取り。

 にしし、と笑う北上に、

「そうだな」

 残る手でデコピンを行うのであった。

「いい加減考えもするさ」

 してやったりの笑みを浮かべる提督に、額の痛さを忘れ、北上は噴き出した。

「ほんとに、子どもだねー」

 0700。鳳翔が食堂の片付けを始めるその時まで、2人は惰性の休息を続けるのであった。

 

 

 

 短音3回。

「どうぞー」気のない返事に促され、

「不知火、入ります」

 入った一室/ピンと伸ばされた背中が出迎える。

「なに?」

 振り返ることなく机に向かう霞に向けて、

「恐れながら、戦闘訓練の指導ご鞭撻をお願いに伺いました」一礼。

 瞬間。報告書を記すペンが停止する。

 椅子を回して向きなおり、

「陽炎は?」

「護送任務で昨日から不在です」

「なんで私なの?」

「提督に言われました」

「そう」

 問い掛けは終わり、霞は再び机に/不知火に背を向ける。

 

 秒針が進み。

 やがて長針も進み出す。

 

 嘆息。

 変わらず直立不動のままの不知火に問いかけた。

「ねえ、私が何も言わなかったらどうするつもり?」

「不知火はお願いすることしかできません」

「他の誰かなんて考えないの?」

「きっといい相談相手にもなると教えられたので」

「信用するんだ。あんなクソ司令官のこと」

「はい。それに、この部屋に入った時から霞さんであるべきだと考えました」

 一望。

 本棚に整然と並ぶファイルに綴じられた各書類。床に敷かれたカーペットの上には何かが散らばるということはない。

 

 女の子らしさが不足する部屋ではあれど、引き締まった空気は不知火に心地の良さを感じさせる。

「『さん』付けなんていいったら。霞でいいわよ霞で」

「では、霞……再びとなりますが不知火のご指導、ご鞭撻お願いします」

 深い一礼。求める答えを得るまでは引く気配を見せない不知火に、霞は決める。

「しょーがないわね。私も暇じゃないからいつもは無理よ」了承。

「はい」

「そうね……私がいない時は時雨に頼りなさい。夕立と違って感覚的に教えたりしないから」

「はい」

「それじゃ、明朝0500に艤装姿で第2突堤。自分から言ったんだから訓練での弱音は許さない」

「はい」

「いい返事ね」

 決まれば後は、流れるように速やかに。

 不知火は目標への一歩を踏み出した。




仕事の都合で投稿間隔広いかもしれませんがよろしくお願いします。

最近、霞かわいい
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