ぬいぬい不知火?   作:KIKI的状況

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ご無沙汰しております。
この作品での設定等を練り直していたため、遅くなりましたm(_ _)m


5話 巡検

 いつもと変わらぬ執務室。

「巡検、ですか?」

 提督の言葉は確かに聞こえていたーーそれでも不知火は確認を行わずにはいられなかった。

 どこか職務に対する消極性を常日頃から言葉/態度/速度に滲ませる提督の意外な発言。

「いつも同じ場所にいると気が滅入るからな。鎮守府を見ていこう」

 おそらくは、提督がやろうと思ったただの思いつき。それでも、職務を自ら選び実行すると口にする提督の額に、不知火は手を伸ばさずにはいられなかった。「熱はないよ」憤慨ーー爪先立った不知火の右手を捕まえて、提督は息を吐く。

 

 先日の一件では、アイスを食べることができたものの、不知火の息抜きとなる時間がその日以降増えたという訳でもない。

 ただの休息を認めない以上、提督が選ぶ選択肢は一つ。鎮守府内の散歩をそれらしくできる巡検であった。

「本日の職務は?」

「今日は全力を出したから」

「何時も全力を出してください」

「人間、目標があれば頑張れる」

「今日は珍しく真面目に仕事をされていた思えば」

「というわけで、やることはやったし、出発!」

 目的は息抜き=巡検に見せかけたただのお散歩で、実際のところ提督の終えるべき仕事は完了していないーー全力を出そうがすぐには終われない。

 自然と口に出すことのできた嘘に気づかれぬよう、行動は速やかに/不知火の背中を押して執務室を後にする。

 

 執務室の扉を施錠し、灯した2つある懐中電灯の内、1つを不知火へ。

「準備がいいですね」

「海軍の軍人たるもの目先が聞いてスマートでなければな」

「スマートですか……中肉かと」

「そのスマートじゃない!」

「冗談です……賢さには時々疑問がつきますが」

 籠もり続けた執務室を後にした影響か、不知火の口から飛び出す軽口に提督の頬は自然と緩む。

「まずは、この管理棟を巡って一階の食堂だな」

「わかりました」

「俺は右側をやるからぬいぬいは左側の扉の施錠確認を頼む」

「はい」

 

2000

 

 提督と不知火。2人の夜の散歩が始まった。

 

 

 

 灯火管制の影響ーー灯りの消えた静かな廊下に2人分の足音が木霊する。

 2階建ての管理棟ーーいくつもの会議室、応接室を通過し、やがて階下の食堂へ。

「じゅんけーん!」

 入り口から食堂の奥ーー調理場まで届く珍しい提督の重低音。艦娘達は既に各々の部屋の中。閑散とした机と椅子の隙間を縫うように2つの光芒が伸びていく。

 提督が照らす。有るべき場所に戻され、整頓された壁掛け棚。

 不知火が照らす。チャンネル騒ぎの現況となり、時には雷を生み出す電源の切れた薄型テレビ。

 

 異常の無いことを確認し、更に奥、響く足音は厨房へ。

 何十人分もの食事を生み出すその場所もーー切り屑が一つとない床/それぞれの持ち場に整然と鎮座する調理器具ーー整理整頓のなされた場所である。

「異常ありません」

「了解」

 淀みなく進められる提督との巡検。

「珍しいですね」

 故に、感嘆の言葉が漏れ出したのは当然であった。

「どうした?」

「司令が真面目に仕事をされているので、つい」

「ぬいぬいはつまらないか?」

 待っていたかのように嬉しそうに笑みを浮かべる提督に、不知火は首を横に振る。

「粛々と物事が行われることはいいことです」

 食堂の扉に手をかけ/提督の遊びに付き合うつもりがないことを暗に告げ、向かうは次の目的地ーー艦娘が過ごす寄宿舎へ。

 

 食堂から片道の道路を隔てたその場所へと歩みながら、不知火はふと思う。

「司令は入られるのですか」

 即答。「変なことはしないって」

「不知火は何も言っていません」

「そう思っただろ?」

「……はい」

 予想はできていたとばかりに提督は動じることなく寄宿舎へーー玄関脇/管理役の戸を叩く。

 ノックは3度。「ほうしょー、巡検で寄宿舎に入るぞー」

 

 一拍。

 

「はい。どうぞー」

 ひょこりと顔を出した鳳翔から了承の意をもらい、提督は満足そうな笑みを不知火へ見せるのだった。

 

 ガラス戸を引いて屋内へ。最初に目指すは最上階/3階に向けて、玄関傍の階段へ。

 掃除が行き届いているのか、お菓子の包装紙や目視でわかる範囲でも砂や埃も見つからずーーされど、頭上から僅かに響いた話し声。

 3階にたどり着き、奧へと続く廊下/在室者のいる部屋の扉が開かれ、所々に光の筋を伸ばす廊下に目を凝らす。

「じゅんけーん」

 言葉と同時、音は消えていた。

 

「ていとくぅー、お話しようよ」

「覚えてたらまた今度な白露」

 

「司令官、お疲れさま」

「待ってましたぁー! 異状なし」

「阿武隈はもう少し落ち着きを持ったら異状なしかな」

「酷い!」

 

「おりょ? 提督めずらしいね」

「あ……司令官お疲れ様」

「最近疲れて癒やしが欲しくてな。睦月と弥生に会いに来た!」

「不知火怒っちゃうよそんなこと言ったら」

「けど、うれしい……です」

 

 部屋に入っては一人一人に声をかけ/一言二言言葉を交わしーーやや、非効率ながらも巡検を続ける提督に、不知火は静かに従い歩く。

「ちゃんと、この時間は静かにしないとだめだろ」

「合点だ!」

「返事は『はい』だ」

「はいよ!」

「まったく」

 

 気合いの入った返事にため息一つ。手を振り部屋を後にする提督は、次の場所/霞の閉じられた部屋を通過する。

「司令」

「どうした」

「霞は、今どこに?」

 ドアノブに掛けられた札/刻まれた『ト』を丸で囲んだソレを手に触れ問いかける。

 夕食の時には会わずとも、巡検を回る前に軍令部へ通信を終えた任務報告書ーー今日出撃した艦娘の中に、鎮守府にいる霞の名前は見ていない。

 

「霞は、明日の朝まで当直艦だ」

 視線が窓へ/屋外ーー艤装庫へと向けられる。

「ぬいぬいが担当出来るまでもう少しだから……たしか、まだ教えてなかったよな」

 僅かな間が開いて、やがてついて来るように手招きし、階段を降りながら、次の目的地ーー艤装庫を目指す提督は説明を開始する。

 

 もしもの際に備え、即時に出港できるように備えた当直(警戒)艦ーー艤装の装着時間+缶を暖め起動させる時間を省略するため、常に艤装を装着し、もっとも海に近い艤装庫の待機所にて1日を過ごす二人一組の艦娘。

 選ばれるのは、九割九分が駆逐艦。

 駆逐艦だからこそ発揮可能な速力/機動力を生かし、誰よりも先に現場へ赴き、状況を収集/時には夜戦を含めた戦闘をこなしてみせる。

 無論、役割は深海棲艦との戦いだけでなく、溺者の捜索/遭難した船のエマージェンシーに応える等も含まれて、単純に戦闘力だけで2人組が決められるというわけでもない。

 時雨には夕立を/五月雨には涼風を。

 互いの性格/経験/相性を合わせて決められた当直艦の役割を、鎮守府の艦娘達は納得し、責務をこなす。

「ぬいぬいは、もう少し夜戦の経験を積んでからだな」

「精進します」

 寄宿舎を後にし、艤装庫へ向けて/400メートルトラックの置かれたグラウンド脇を2人は歩く。

 

「ぬいぬいは確かに強くなってるよ」

「ありがとうございます。良い師匠を持ちましたから」

 これから目指す場所を数瞬見つめ、不知火は小さく笑う。

 珍しい不知火の笑みーー吊られ、提督はふと思う。

「ぬいぬいは、訓練中は霞を師匠とでも呼ぶのか?」

「いいえ。ですが、以前北上さんに頼まれて口に出した結果……」

「結果?」

「その日は、その後からずっと実弾射撃を使った水上戦闘訓練になりました」

 お陰で至近弾を気にすることなく戦闘に臨めるようになったと満足げに頷く不知火に、「そうか」提督は返す言葉が出なかった。

 

 それ以上に交わす言葉も見つからず/必要も感じず、2人が歩くこと十数秒。懐中電灯に照らされた地面は茶から紺色へと変化する。

 二人の正面。中央にトラック2台は並んで通れる入り口を構えた二階のないプレハブ建築。

 閉じられ大型シャッターの脇、一つの小さな人影が2人の来訪者を出迎える。

「珍しいわね。クズ司令官が仕事してるなんて」

「見直したか?」

「馬っ鹿じゃないの。巡検してるのに喋りすぎちゃうクズはクズでしかないったら! 不知火に変な影響与えないでよね。馬鹿が移るわ」

 フン、と鼻を鳴らす様ーー怒っていますと態度で告げる霞に対し、

「りょーかい。じゃあ、仕事するから中に入るぞー」

 罵倒を気にするでもなく霞の横を通り抜け、提督は艤装庫脇の待機所へ。

 ーーちょっとぉ!

 非難の言葉を受け止めながら、提督が扉を開けた先ーー簡易な装飾を施された10畳ほどの一室がそこにある。

 パソコンやFAX、畳一枚分はある大型液晶パネルが置かれる壁沿いに、艦娘が持ち込んだのか、ケトルや菓子袋、書籍の類が壁沿いに並べられ、そして中央ーー置かれた丸テーブルを囲むのは、3人の艦娘。

「みんな元気かー!」

「しれーかーん!」清霜/座布団から飛び上がり、提督の胸へと飛びついて嬉しさを全身表現中。

「はいはーい」村雨/鳶座りのまま、ゆっくりゆったり手を振ってお出迎え。

「霞達に何かご用なのですか?」春雨/小首を傾げ、今まで座っていた座布団を躊躇いなく提督の足下へ。

「清霜……一応巡検で来てるんだからせめて座ってくれ」清霜の髪を撫でながら、3人から出迎えに自然と提督の口角は弛まった。

「休みは満喫できたか?」

 抱きつく清霜をそのままに、問い掛けは2人の少女に向けてーー昨日のご褒美の結果を確認に、少女達は満面の笑みで答えるのであった。

「もっちろん。いい息抜きになったから、夜戦の訓練も捗りそう」

「すごく今、調子が良いです」

「2人がそんな調子だと、夕立と時雨は……」

 提督の視線は海上へ。

 そんな行為に2人の少女は頷いた。

「2人共昨日はアイスいっぱい食べて、今日は10時まで二度寝して」

「昼は外まで遊びに行ったけど、海沿いの公園で夕焼け眺めてたら夕立がウズウズし始めて」

「……中毒だな」

「その手綱を握るのは誰の役目かしら?」

 嘆く提督の背後から呆れたように言葉を突き刺して、霞は小さな肩をこれ見よがしに竦めてみせる。「当直と他2名は異常なし。他に用件は?」

 ムスッとした霞の発言に耳を傾けながら、提督の視界ーーふと、霞に続いて部屋へと入る不知火を認識。

 故に決断。

「ありません、師匠!」直立不動+脱帽中のため頭を下げる/教科書の見本になりそうな敬礼を/下の階級が先にすべき敬礼を実行してみせる。

「…ねばいいのに」三白眼+感情に吊られたように、すでに弾薬が装填された右手の12.7ミリ砲の砲身は上下に揺れていた。

 霞が砲口を向けることはないもののーー向けたところで、砲弾が人間に向けて飛び出すことはない。

 誰がそのシステムを作り上げたかは不明であれど、艦娘が上官である提督を撃った事例は存在せず/人間が撃たれたという報告もされてはおらずーー艦娘と提督との関係は明確なものであった。

 不敵な笑みを。「イレギュラーって言葉、知ってるかしら」

 満面な笑みを。「そう言いながらも、砲口を向けない霞は大好きだぞ」

「馬ッ鹿じゃないの!」

 真底嫌そうな顔を向けられようが、提督は笑顔で霞を見下ろしているのであった。

「や、やっぱり司令官は……」

「ドMさんだからね。罵倒されても嬉しそうだし」

「やはりそうですか。どうしようもありませんね」

「聞こえてるからな!」

「しれーかん、私は気にしないよ」

「うん。ありがとう」

 意見の一致をみせる白露型姉妹プラス1と癒やしの少女。

 霞からは巡検を続けるように怒鳴られ続け/不知火を盾にしようとすればつま先を踏まれーー。

 

 提督とのそんな平和の日常もーー。

 

 静寂を突き破る警報音。

 

 ーーあの存在には関係ない。

 

 

 瞬間。霞/清霜は飛び出していた。

 耳障りな音色を気にすることなく、艤装庫から目指すは海上へ。

 駆ける/背負う艤装から広がる重低音が潮騒を打ち消して。

 跳躍/1メートルの落差を気にするでもなく海面へ。

 着水/2人の中心から幾重もの波紋が広がった。

「霞、でるわ!」

「清霜に任せて!」

 ゼロから即座に2戦速/21ノット。

 夜闇に消える2人を最後まで見送ることなく、廃熱の熱が漂う待機所の中で提督は言葉を発していた。

「夕立、聞こえるか」

 その言葉は、この場にいる誰にでもない、はるか沖合にいる鎮守府第二艦隊旗艦ーー夕立に向けて。

「夕立、聞こえるか」

 数拍。再度の呼びかけに答えるように、少女の言葉が提督の脳内で木霊する。 

『感度良好、聞こえるっぽい。けど……どうしたの、提督さん?』

「聴覚のリンク確認、こちらも感度良好。敵がおいでみたいでな」

 夕立へ事の次第を説明する最中、大型液晶パネルの片隅に警報への第一報が映される。

「提督さん、いいよー」

 キーボードに指を走らせる村雨に挙手で応えると、提督は夕立への言葉を再開する。

「第二次防衛ラインのセンサーに反応があった。そっちにも衛星回線使ってデータを飛ばしたから確認してくれ」

『時雨にも伝えるね』

「頼む。それと、GPSだと2人が一番現場に近いが大丈夫か? 訓練弾だけだろ」

 心配そうな提督の問いかけは、沈黙で返される。

 待つこと十数秒。

 答えは返らない。

 

 嘆息。浮かんだ嫌な予想を提督は否定できなくて、確認する。

「夕立、視覚のリンクも繋ぐぞ」

 瞬間、頭に響く息を呑んだ音。

『……実は、酸素魚雷持ってるっぽい?』

 囁きに呆れると同時、もう1人の言葉が耳へと届く。

『……あ、白灯一つ。右30度に発見……漁船かな』

 時雨が夕立へと告げたからなのか、提督にも聞こえた新情報ーー運が良いのか悪いのか/護らなければならない民間船。

 艦娘の活躍は近海の制海権をほぼ回復させたものの、鎮守府から離れれば離れるほどにリスクは存在し、かつてのように沖合から遠洋へと向かう漁船の被害は増加傾向でもあった。

 舌打ちを一つ。

 優勢順位は決まっていた。

「時雨は漁船の直援。夕立は警戒艦だ。無事に漁船を避難させることが出来たら、今回の件は何も言わない」

『夕立頑張るっぽい!』

「それじゃあ、後は任せる」

 嘆息。一息ついて、提督は更なる言葉を紡ぎ出す。

「霞、聞こえるか」

『待ちくたびれたわよ。遅いじゃない!』

「悪い。理由は後で話す」

『それが良さそうね。で?』

 

 

 警報が鳴り止んで数分後、

「……以上だ。頼む」

『頼まれなくてもやるわよ』

 言うべきことを告げた提督は大きく伸びをする。

 

 村雨と春雨はもしもに備えて艤装庫に向かい、待機所に居るのは不知火と提督の2人のみ。

 次の指示を待ちわびるように不知火は視線を送り、気づいた提督は考えるように天井を数瞬見つめ、納得したかのように頷いた。

「じゃあ、巡検再開するか。ぬいぬい」

「司令!」

「だって、今やれることはやったしな」 言葉の/瞳の/袖を引く抗議に困ったように頬をかき、それでも待機所の出口へ足を向けていた。

「みんな優秀だし経験も積んでるから大丈夫だよ。1人で勝手に突っ走ったわけでもってないからね」

 振り返ることなく歩き出し、ーー数秒後には、駆け寄る足音と共に、一筋の光線が追いついていた。

「心配かもしれないけど、これを被ってる間はどこに居ても夕立と霞とのリンクは繋がってるよ」

 頭上の制帽を指差し、笑い、

「何か起きそうなら2人から報告は入るし……まあ、夕立には時雨も付いてるから大丈夫」

 提督は不知火の小さな肩を優しく叩いていた。

 

 2200

 

 

 巡検を終えて30分。

 護衛任務を完遂させた/侵入した水雷戦隊を撃沈させたそれぞれ2人を執務室で出迎えながらーー己を戦場へと出そうとしない提督への不満が小さく胸中でくすぶる不知火であった。




設定的なーー
制帽(特殊)ーーいつも提督が被ってる制帽にはそんな理由が! なんて妄想してみて作成。リンクするのは五感。提督と艦娘共に互いの感覚を共有できる便利物。ただ、複数人の情報を処理する都合、同時使用はあまり推奨されておらず、脳内への将来的な影響は不明のままであったりする。
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