ぬいぬい不知火?   作:KIKI的状況

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携帯で時間ある時に文字打ってるので、最近は一括コピペするとしばしば携帯がフリーズします(ノД`)


6話 同期

 1600

 

 おやつ休みを終えた昼下がり。

 いつもと変わらない/日常と感じるようになった午後の書類作業に取り組みながら、不知火は提督にふと視線を向けていた。

 

 鼻歌を刻みながら/万年筆を回しながら、提督は仕事を継続中。

 誰かを/不知火を弄ることなくにこやかな笑みを浮かべる提督に、

「今日はご機嫌ですね」

 気が付いた時には感想が/言葉が漏れていた。

「久しぶりに同期と会えるからな」

 握る拳/ガッツポーズ=上機嫌な提督の表情に釣れられて、自然と不知火の表情も柔らかさを帯びていく。

「それはいいですね」

「一年間の兵学校生活と数ヶ月の航海を共に過ごした大切な仲間だからな」

 兵学校での猛訓練/地獄の時間を共に乗り越えてきた同期の仲間。

「そういえば、昔は同期会をやるから……などと理由を付けては、上陸をされる士官の方もいましたね」

 海軍でも大切にされた同期の絆。

 同期と会う日には、終わりが見えない仕事であっても解放させられ、飲み屋で言葉を交わし、騒ぐことも許される。

 自分には未だ持ち得ないと考える絆の繋がりが羨ましくて/眩しくて、不知火の瞳は自然と細くなる。

「それに、こっちの道に進んだ奴だしな」

 兵学校を卒業した全ての者が、艦娘を率いる提督になるわけではない。実際の軍艦や潜水艦を動かす者。航空の道に進む者。後方で補給任務等をこなす者。

 それぞれに異なる戦う場所があり、その中で同じ提督となった同期の存在は/話せる相手は心強い。

「まあ、他の道に行った奴からは羨まれたり、妬まれたりもあるのは予想外だったけどなー」

「責任者として鎮守府を運営することは、容易なこととは思えませが?」

 本来であれば、部隊指揮は艦艇勤務を長年経験した者がその知識を以て行うもの。

 されど、深海棲艦という新たな敵/艦娘という新たな兵器が生まれた現在、表立った理由ーー柔軟性などの観点から若い士官にも実験的に部隊指揮を任せられている。

「……ぬいぬい」

「なんでしょうか」

「思い出してみろ。大戦中、不知火にいた乗員のことを」

「……己の責務に誇りをもって任務に臨む方々でした」

「そうだな。ベテランから若手までが一つになって艦を動かした。それは、今も変わらないと思う」

 出港すれば、その身は常に海の上。母なる海と呼ばれることがあろうとも、艦が沈めば広大な地獄の入り口に他ならない。

 絶対に沈まぬ艦など存在せず、いつ訪れるともわからない敵に神経をすり減らす日々。鉄板一枚を挟んであの世と接する彼らにとってーー。

「そんな人間にとって、大地に足着けて毎日女子供に囲まれて過ごす後方の鎮守府の提督っていうのはどう思ってしまうんだろうな」

 寂寥感を瞳に宿し/懐かしむように視線は外へと向けられる。

「ですが、提督の業務というのは」

「あいつらは……いや、ほとんど皆は知らないからな。だから、自分の見える範囲のことで判断してしまう。例えば……ロリコンとか」

 心配が僅かに表情へと浮き出した不知火に、提督はかつてのことを引き合いに笑ってみせてーー変わった渋面には、微笑みを投げかけた。

 

 

 過ぎる時間は1時間。

「久しぶりやな。オレのとこはみんな元気やけど、そっちはどないや?」

「久しぶり。みんな元気でやってるよ」

 執務室の隣ーー応接室/い草が香り、中央に置かれたテーブルを挟む形で置かれた座椅子に座る2人の男。

 共に海軍の制服を身にまとい、違うのは、胸に輝く記章の数だった。

 提督の傍に控えて座る不知火に、上座の男が差し出すのは30センチ四方の白い箱。

「ほい。お土産のたこ煎餅。駆逐艦の娘達には渋いかもしれんけど、そこは堪忍や」

「いいお土産。感謝します」

「ありがとう」

 深い礼の後、土産を丁重な動作で戸棚にしまい、

「けど、こんなとこまでどうした?」

 急須に手をかけた不知火は提督の手で制される/いつのまにか握られた日本酒の一升瓶。

 既に用意していたガラスのコップを満たしていきながら、提督は疑問を口に出していた。

「せっかく会いに来た友人に対してそれかー」

「暇人じゃあないだろ」

「それは否定せん」

 笑みを浮かべても、眼下の隈は/荒れた皮膚は、その存在を主張する。

「軍令部勤務とは聞いてたが」

「寝る場所は廊下にまで仮眠ベットがあるから問題あらへん。ただ、それに加えて今はとあるお方の副官やから……やばいな」

「流石、俺たちの出世頭」

 勤務状況/環境はどうあれど、確実に上への道を歩む友人へと告げるのは賛辞の言葉。

「まあ、ハンモックナンバーはなんとか席次一桁やったからな。仕事もせやけど、お偉いさんの会食に付き合わされたりで最近の部隊運営は秘書艦に任せっきりなんが頭痛の種や。自分の鎮守府戻るんが怖いで、ほんまに」

 返すのは、参ったとばかりに両手を上げた降参ポーズ。

 仕事よりも、秘書艦への応対を苦慮する同期の友人に提督は苦笑する。

「嫁さんに苦労かけんなよ」

「鎮守府の書類仕事で夜の演習が出来ひんから色々溜まってそうやねんなー」

 視線は不知火へ/ウインク一つ。

「オレが副官になる前夜の演習が懐かしいわ」

 意味深な視線を送られ、浮かぶ思想。「……なにを」瞬間、目を伏せる。

 僅かといえど、不知火を動揺させたことに満足したのか、黒い笑みを隠さず浮かべ、

「やっぱ真面目やなー。お前さんとこの秘書艦は」

「お前みたいな馬鹿話はできないし、するつもりもないよ」同様に提督も破顔する。

 男ばかりの生活で自然と交わされる/故に、男女比の逆転する提督業では息を潜めるある話題。

 賭け事か酒か、はたまた女。

 江田島の兵学校から解放された僅かな休日に、日頃の鬱憤を解消せんと広島の歓楽街へと繰り出す男は数知れず、提督もまた同類ではあった。

 

 懐かしさに浸るうち、思い出に割り込むノイズ/擦過音。

 視線を右に/座布団と共に距離を開ける不知火が目に留まる。

 呆れを乗せて嘆息。「夜の演習ってのは、そのまんまの意味だ」

「不知火は何も考えていません」

「だったら目を見て話せ」

「……見ました」

 表情は変わらずとも、1秒にも満たない目の邂逅。

「そうだな」

 ニヤニヤと楽しそうに傍観者を決め込む友人/視界の片隅に認めながら、提督は決める。

 両手は不知火の小さく細い両肩へ。

 瞬間、びくりと小さな反応を感じ取りながら、それでも答えを口に出す。

「これならわかるか? あいつの秘書艦は川内だ」

 

 数秒。

「……わかりました」

 表情の変化は乏しくとも、恨めしげな/突き刺さるような視線を感じ取りながら、提督は友人へと向き直る+不知火を座布団ごと引き寄せる。

「すまんなー」

「本当にそう思った時にその言葉を言ってくれ」

 風にのせるまでもなく飛んでいきそうな謝罪を一蹴し、空いたグラスに酒をつぐ。「といっても、俺の大切な秘書艦を弄りたかったわけでもないだろ?」今日の本題を促した。

 

「せやせや。つい話が逸れてしもた」

 コップの中身を飲み干し、胡座を正座へ/姿勢を正す。

「まあ、川内に夜戦ときたらあれだろう」

 酒瓶を差し出す友人を手で制し、懐の雑記帳に殴り書きすること十数秒。

 差し出され/記された提督の予定表に満足そうに頷いた。

「察しがええなー。実は、来週も少し時間を貰えてな、お前との夜戦演習の手土産を川内に持って帰ろうと思うたんや」

「夜戦がしたければ、他にもいるだろうに……なんで俺だ?」

「……水雷戦隊と戦いたかったからやな」

 歯切れは悪く、空になったコップを酒で埋めると言葉を吐き出した。

「実は、今度オレが参加する作戦で、上の艦隊の護衛をせんとあかんくなって」

「お前が護衛だと?」

「ちょいとな」

 言い悩むように瞳を落とし、酒を揺らしたと思えば一息に。

 そんな、何かを飲み込むように酒を飲み下す友人から、提督が予測できるのは1つのことだった。

 

「その話……あの作戦にも関係するのか?」

 浮かぶ予想ーー時折耳にする、東方海域へ向けた侵攻計画の存在が。

 南西海域の解放以降、豪州までの貿易が再開され、石油、ボーキサイト等の各資源の供給が実現ーーしかし、珊瑚海を挟んだ東方の制海権は未だに深海棲艦が握っている。

 珊瑚海の水深は20メートルに満たない場所も多々あるが、敵もまた艦娘と変わらぬ存在=船体であれば気にせずにはいられない喫水と海底の差を気にすることもなく/航路が制限されることもなく、自由自在な戦闘行動が可能。敵潜水艦もまた同様に、珊瑚海の海中を自由に闊歩する。

 

 いつ起こるともわからない襲撃に、護衛は常に必要でーーされど、全ての船舶に護衛をつけることなどできはしない/艦娘が足りはしない。

 予測不能な襲撃に艦娘を割き続けることはできず、哨戒活動が精一杯。その哨戒活動においても、東方海域に隣接する場所に練度の乏しい艦娘を派遣するわけにもいかず、護衛を担える鎮守府は数少ない。

「最近、東方海域に向けた威力偵察と哨戒行動が増えたことは知っている」

 敵の脅威を排除し、安定した資源供給の確立及び干渉海域を作り出すことが必要とされーー故に、噂に上がり始めた東方へ向けた侵攻戦。

「そういえば、先日の書類の中に」

「俺の部隊はまだまだだから断ったよ。……で、実際のところはどうなんだ」

 不知火の呟きに言葉を被せ、何でもなかったように提督は答えを促した。

「作戦については、否定はせーへん。せやけど、これ以上はなんも言われへん。今は当事者になる気はないんやろ?」

 己の感情を押し殺すように、日本酒を舌の上で転がす友人に、

「お前が護衛しないといけないようなお偉いさんか」提督/納得したと鷹揚に=馬鹿にしたかのように頷いてみせーー。

「馬鹿にはできん。一航戦に長門や武蔵を出すってまで言うんやから」友人/不機嫌そうに、釣られて言葉を吐き出した。

 

 数拍。

 

「それは、気が抜けないな」

 不知火からの冷めた視線を全身に浴びせられ、頭を抱えてうずくまる大の大人が一人=みっともない。

 呻き声を右から左に聞き逃しながら、聞くべきことを聞いた提督は、

「お前のためにも、俺の自信を持って送り出せる編成で受けてやるよ。何か得るものがあればいいけどな」

 昔のように/からかうように、思いついたことを言葉に乗せていた。

「それは怖いな。最近は、直接指揮を取ることも減ってもうたから」

 上げた頭に宿る表情は渋いもの。

 出世すればするほど現場から遠ざかり、1部隊だけではない艦隊の作戦計画を立案、実行する。現場にいつまでも残り指揮を取る提督は、権力争いに敗れた者か昇進を断る変わり者。もしくは、ハンモックナンバー/同期内での順位が低い者。

 皮肉ではあるが、現場を離れることこそが昇進への近道であった。

「ちょうど明日には、南西海域に派遣していた内の一人が報告で帰ってくるから、東方海域の音響データとかも手に入るさ」

「助かる」

 正座から胡座に崩れ/互いに杯を酌み交わし、ふと思いついたかのように友人が口を開く。

「そういえば、勝負ってことは、賭けるもんを用意せんとあかんよな」

「懐かしいな。飯を賭けたり、当番を賭けたり」

 賭けるモノは何でも良かった。缶ジュースやおかず一品の飲食物から教務で課される各科の課題に始まりーー時には男らしさを競う名目で、勝者を対象とすることも間々あった。

「せやろー」

 懐かしげに頬を緩ませる提督に、同様の笑みを浮かべた友人は、

「それでやねんけど、今度の夜戦に俺が賭けたいもんがひとつある」もったいぶるように口調はゆっくりと。

「今の俺たちが賭けられるようなものってあるか?」

「まあ……聞けや」

 

 楽しさに溢れた表情が静かに消え去り、確かな決意が取って代わる。

「この勝負、お前んとこの部隊を賭けにしたい」

 

 一拍。

 

「どういうことだ」提督/前に傾けた姿勢をそのままに。

「説明をお願いします」不知火/小さく傾げた首をそのままに。

 唐突故に困惑する2人に向けて、なんでもないように友人は言葉を紡ぐ。

「ここしばらく、前線への護衛任務さぼってるみたいやな」

「人聞きが悪いな」

「事実やろ」

 逸らした視線を留めるように、机上ーー広げられた幾重に重なる紙の束/一目見ただけでもわかる、ここ数ヶ月において提出し終えたはずの報告書。

「よく集めたな」

「これくらいのことやったらできるわ、アホ」

 小さく鼻で笑う友人に、僅かな苛立ちが顔にでる。

「何か? 俺が負けたらお前と同じように護衛に参加しろとでも言うのか」

「ちゃうちゃう。そんなことあらへん」 即座に否定で返されてーーだからこそ、賭けの意味が/理由が頭に浮かばない。

「じゃあ、なんなんだ」

 

 問いへの解答まで、数拍。

 悪戯を企む子供のように、友人は唇を吊り上げた。

 

「オレに勝ったら、お前も任務に連れて行く」

 

 一拍。

 

 呆ける提督に、友人は言葉を重ねていった。

「かなり真面目な任務や。哨戒任務でも気抜いたとこには轟沈艦が出てる。……そんな海域へ、オレ程度に負けるような奴を連れては行けん」

「それは、賭けっていうのか」

「さあ?」

 提督の抗議を受け流し/白い歯を吊り上げた口元から覗かせて、

「せやけど、勝負するて言ったよな」

「ただの口約束だ」

「そーか。まあ、嫌なら俺に上手く負けたらいいんとちゃうか。川内達は夜戦に勝って嬉しいし、自信になる。そっちも行きたくもない作戦に行かんでええ」

 簡単なことやーー浮かべた笑みをそのままに、提督を射抜く瞳の感情が消えていく。

「けど、お前が男の勝負に手を抜くとは思わへんし、我が身可愛さに手を抜くようやったら……同期の友達のよしみで言うけど、提督なんかやめてまえ」

 怒りでも/憐れみでもなく、事実を告げるだけの平坦な声音は、提督に決断を促した。「俺らの組織が、実力のある奴を遊ばせられる余裕がないことくらい、わかっとるやろ?」

 

 

 

「司令」

 賭けの話が上がった時から、ずっと気づいていた/無視し続けた不知火の視線。

「司令」

 今までのように、その負けん気から堂々と勝負を受けるべきと考えるであろう不知火に黙りを決め込んでーー考える。

 

「司令!」

 それでも尚、呼びかけることを止めない不知火を制止しようと振り向いて/それより早く、不知火は言葉を吐き出した。

「不知火は司令の艦娘です。提督の決断に従います」それ以外の意見はないと真っ直ぐな瞳を以て主張する。

「どうしたんだ急に」

 故に、提督は戸惑った。

 らしくもないと言いたげな感情が表情に表れていたのか、不知火は、言葉を紡ぐ。

「不知火は負けることが嫌いです。臆病風に吹かれることも嫌いです」

 ーー知っている。クール/鉄面皮に見せかけて、その中に溢れんばかりにたぎらせた負けん気を/熱い心を/強い誇りを抱えていることを。

「ですが、不知火は司令の艦娘です」

 そんな彼女が選んで告げるのは、

「不知火の勝手な言葉が、司令にとっての誤った選択となるわけにはいけません」

 あくまでも主への忠誠を。

 

 一拍。

 

 二拍。

 

「不知火には、まいってしまうよ。本当に」

 苦笑とため息が混じるのを自覚しながらもーー止まらない。

 不知火にとっては、考え抜いた末の提督の気持ちを大切にしようとするただ一つの想い。それでも、言葉の節々に覗いた遠慮/諦めは隠せていない。

 

 顔を伏せ、提督の答えを待つ不知火の頭の上に提督は思わず右手を乗せていた。

「決めたよ」

 不知火の顔を見ず、待ちわびたと告げる友の瞳に向き直る。

 らしくないーーそんな否定を表す感情に蓋をして、

「俺でよければ、相手を……させてほしい」

 後ろ向きだった気持ちを反転させた。

 

「よっしゃ。それやったら、俺が勝ったら何して欲しい?」

 予想できた友の破顔一笑。

 自らコップに残った酒を注ぎ込み、一息に飲み干す男に向けて、提督は静かに告げていた。

「そうだな……上官に、護衛なんてみみっちいことより主力艦隊に混ざりたいとでも言ってきたらどうだ」

 一発で思考停止した友ににっこりと笑いかけながら、

「俺に勝ったら、不安な水雷戦隊でも自信がつくんだろ?」

 ーーだったら他の編成は?

 唇をさらに吊り上げてーーただし、それ以外/声/瞳/表情は冷ややかに。

 上官の命令を蹴飛ばすことがどれほどのものかーーもちろん知っている。

 それでも、先程されたのと同様に求める答えはただ一つ。

「しゃーないか」

「ちょっとは思ってただろう?」

「思うのとやるんは違うやろ?」

 同意を求める問い掛けに、両者は互いに笑顔でもって首肯した。

 

「よっしゃ、じゃあ今日は前哨戦で」

 正座は胡座に崩れ、寝転がるように体を伸ばし、鞄から取り出したのは日本酒一升瓶。

「飲み比べといこうや」

「おい、俺が酒に弱いこと知ってるよな」

 提督が口にした量/乾杯した際の一杯と今ある飲みかけ少しが答えを示す。

 顔が赤く染まる提督からコップを奪い取り、差し出すのはもう1人の同席者。

「ええよー、無理そうやったら秘書艦に頼っても」

「未成年に飲ませられるか」

 手刀を落とされた頭を撫でながら、友人は眼を凝らす/不知火の身体を舐めるように数秒間。

「まあ、確かにまだ子どもやな」

「ふふ……不知火を怒らせたわね」

 毟るように酒瓶を取り上げて、

「不知火が提督の代わりに勝負を受けましょう」

 不知火は目の前の敵へ並々と酒を注ぎ込む。

「徹底的に追い詰めてやるわ」

 提督の静止を黙殺し、不知火の瞳は怪しく輝いた。

 

 

 

 管理棟の外/グラウンド脇の小さなベンチーー酒を煽り、火照った身体を冷やすには最適なその場所で2つのシルエットが重なっていた。

「次は……沈めてやる」

 揺れる言葉に揺れる頭。

「沈めたら、俺の部屋に寝かせないといけなくるからやめてくれ」

「なら……この場所にいる不知火は……飲み比べで負けたことにはなりません」

「ぬいぬい、相当酔ってるだろ」

「酔っていません」

「みんなそう言うんだよ」

「不知火に……落ち度でも?」

 目線を合わせるためか、這いずるように提督の腕/肩に手を乗せて、潤んだ瞳/赤い顔を見せつける。

 瞬間、高鳴った鼓動を落ち着けたくて嘆息。

「歩けなくなるまで飲んだだろうが」

「歩行は可能です」

「1人蛇行運動したくせに」

 言葉をはっきり告げてみせようが、蒼い線にしか広がらなくなってきた瞳/酒臭い息は隠せない。

 それでも抗議するかのようにもぞもぞと身を捩り、立ち上がろうとする不知火を提督は慌てて止めていた。

「じっとしているのは性に合いません」

「はいはい。取りあえずもう少し座っとけ」

「司令、『はい』は一回です」

「……はい 」

「よくできました」

 帽子の上から頭を撫でられながら、理不尽な指摘/怒られた理由を考えようとしてーーやめる/至極アホらしい。

 

 何も言い返してこない提督に満足したのか、不知火は鼻歌を/提督が刻んでいた音色を刻み出す。

 

 馬鹿みたいに酔って、楽しそうに/幸せそうに頭を預ける不知火に、酔っ払いでも/明日には今の記憶が消えていようとも、提督は言葉を告げていた。

「ぬいぬい」

「……はい?」

「ありがとう」

 眠いながらも顔をあげようとしたのか/柔らかい髪に頬を撫でられながら、

「これで、臆病な俺が変わることができるかは、わからないけどな」

 臆病だった理由を言えずとも、今ある気持ちを吐き出した。

 

 数拍。

 

 答えは返らない。

「それでもありがとう……て、寝てるのか」

 肩に感じる小さな重み/幸せそうに寝息をたてる不知火を、起こさぬように静かに抱き上げるーー通称、お姫様抱っこ。

 目が覚めたこの少女が、明日どのような有り様になるのかーーささやかな楽しみを心に宿し、向かうのは彼女の自室/寄宿舎へ。

 

 やるべきことを/夜戦の演習編成を/あるかもしれないそれから先の部隊運営を頭に巡らせながら、提督の足取りは確かに前へと進んでいた。

 

「……ハラショー」

「!? いつから居た!」

「なんだい? 司令官。私は都合がつくまで待っていたよ」

「ということは……」

「第3艦隊所属、特型駆逐艦響。15分程前に帰投した」

「……りょーかい」

「報告は明日にしたほうがいいかな」

「今、歩きながらでいいよ」

「スパシーバ」

 

 鎮守府は今日も平和だった。

 

 

 




 設定的なーー
 鎮守府ーー今でいう総監部(大湊、舞鶴、横須賀、呉、佐世保)に所属する派出所的なもの。主に、深海棲艦に備えて放棄された学校等の施設を改修して使用中。

 公式に意味ができたら、そっちに変更するかもしれません(o_ _)o
 そろそろ、主人公の名前決めないとな(汗
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