ぬいぬい不知火?   作:KIKI的状況

9 / 10
ご無沙汰しております。
仕事を理由に筆を止めてましたが、アーケード始まってモチベが回復したので投稿させていただきました。


第9話

 

――それは、とても眩しいものであった。

 

 

太陽の煌めきでもなく。

水面に揺らめく照り返しでもなく。

たった一人の少女の言動が。

 

 

 

少女は駆けていた。

 

水面を滑るのではなく蹴飛ばして。

 

踊るように跳ねる長髪を遊ばせて。

 

右へのステップ/身体の軸はぶれることなく水面に対して垂直に。

左へのステップ/視線は落ちずに前のまま。

そして、最後にくるりと一回転。

フィギュアスケートのように綺麗な着水と同時、白い歯を満足そうに覗かせる。

 

頷きはひとつ。「よし! 異常なし」潮風と共に少女/朝霜は駆けていた。

 

 

 

 

「……知らなかったのか?」呆けたように/純粋な驚きを朝霜は言葉に載せる。

「基本からは大事だよ」ゆったりと/至極当然だと響は首をかしげてみせる。

 

集う視線。責めるでもない純粋な4つの瞳。

何が駄目と言うわけではなくとも、居心地の悪さから不知火は目を逸らす。

 

着任早々に艤装の整備を実施された朝霜+元の任地に戻る前に改造を終えた艤装に交換した響。そんな二人の海上公試の護衛を任された不知火の三人組。

柱島の南で行われた艤装の検証はつつがなく終了し、後は気楽に戻るだけ。

そんな矢先に起こした朝霜の全力疾走=船らしからぬ海上での動きに不知火は大声をあげていた。ーー何をしているのですか、と。

 

考えてみればわかること。水面で浮かぶことが可能だからこそできること。

歩くこと。

走ること。

そして、跳ねること。

 

 

帰路への進みを再開させながら、

「大声をあげてしまい申し訳ありません」不知火は朝霜へと頭を下げる。

思いおこせば、自分は跳んでいた/苦杯を嘗めたかつての演習で。

そして、彼女は舞っていた/神通は強敵として。

「気にすんなよ。ひび…ヴェルが言ったじゃねーか。まずは基本ってよ」

艤装/背中への衝撃とともによろめく数歩。

 

見せつける白い歯/ニヤリ顔。

励ますように/応えるように朝霜とヴェールヌイは首肯する。

「あたいも流石に跳び跳ねながらだと弾はほとんど当てらんねーし」

衝撃を受け止める場所のない空中/余計な遠心力、照準の定まらない攻撃は、簡単には当たらない/狙えない。

 

あくまでも手段のひとつ/ 今までの戦闘艦艇としての経験とは異なる、人としての身のこなし。

 

それでも、その手段を使えるまでの練度にない=だからこそ不知火は腕を組む。

「どれくらい……というのは個人差があるかもしれませんが……」

手札の増加/単純な戦力のプラスへと繋がる手段。

「少しですが、魚雷の直撃を避けることはできましたし、撹乱……狙いを惑わすことができるかもしれません」

秘書艦をやめてから膨らむ気持ち/さらなる強さへ/求める気持ち。

真面目にこれまでの訓練スケジュール/余裕のほとんどを削ぎ落とされた日課を振り返り、自分の空き時間から埋め込む時間を考える。

使用できる海面/時間帯/周囲を航行する民間船のタイムスケジュール。

報告すべき相手が納得できる説明を脳裏に描き、こくこくと自然と上下に動く頭のままに、力に惹かれる不知火の思考にブレーキはかからない。

ゆえに――ヴェールヌイは 息をつく。

「一人だけで考え過ぎることは良くないよ」

不知火の右手を掴む左手に力をこめて減速を。

前を向きながら、思考の霧中航行を続ける不知火に呼び掛ける。

「知ってるよ。どこにも負けない水雷戦隊を作りたいってこと」

両舷停止。

鎮守府に戻る時間が遅れることをわかっていながらも進みを止める。

「練度の低い私が強くなればそれだけで戦力は底上げされますが?」

第二艦隊に自分が組み込まれないことはわかっている。

だからこそ、残りの鎮守府にいる仲間の中から/編成されるであろうもうひとつの艦隊の己の位置は自覚させられる。

「それでも、あの動きで艦隊運動は難しいと思う……それに不知火はまだ、一人だけで戦えない。優先するなら」

「わかっています!」

自覚はしていても、端的に突き付けられれば自然と口調は強くなる。

「自己鍛練と同じくらい不知火にはみんなと訓練することも必要じゃないかな」

不満を宿す不知火に、見上げる二つの瞳は大きく訴える。

「私たちは艦隊で戦う。不知火を一人だけなんかで戦わせない」

らしくもない気迫を込めて/不知火の右手を包む両の手に力を込めて――。

 

瞬間。

 

「ひーびーき」

かつての呼び声とともに落とされる手刀。

困惑と僅かに滲んだ瞳を向けられようが、朝霜はニヤリと歯を見せる。

「やりたいって言うならあたいは付き合うぜ」

僅かに膨らまされた頬にやれやれと大袈裟に肩を竦めてみせて、朝霜は不知火に向き直る。

「まだ後一週間くらいはお客さま的な感じだろうしよ」

どうせ暇だ――と、もっともな理由を口に出し、満足そうに頷いて。

 

一拍。

 

二拍。

 

僅かに止まる時間。

「是非お願いします。と言いたいのですが、よろしいのでしょうか」

瞬時に不知火が言葉を出せない理由が胸中で沸き上がっていた。

確実に成長している/ミスも減った――そう言われながらも、練度の劣る自分をカバーするように誰かが動いていることくらいは知っている。

故に誰にも迷惑にならないように可能な限り一人で/誰もいない場所で/迷惑にならない時に続けた訓練は数知れず。

誰かの時間を奪ってしまうのならばと、今日も一人で海に出ようとしたところで提督に首根っこを捕まれて止められたのが今からおよそ半日と少し前。

そして命令されたのは、響とまだ自己紹介程度しか言葉を交わしていない朝霜の護衛任務。

 

「そもそも、まだ会って間もない相手に」

「期間なんてちんけなこと気にするなって。同じ鎮守府の一員になった仲間だろ」

海原に響く言葉は明朗に/即答/不知火の疑念、不安を両断する。

「仲間」――それ以外にある理由を教えてくれとばかりに見つめられ/「……ありがとうございます」答えに窮する不知火は、尻すぼみな言葉と共に首を横に振る。

 

「私は除け者かな」

「そんな訳ねーって」

冗談めかして悲しそうに俯いてみせるヴェールヌイを抱き締めて、朝霜は白磁の髪を右手でグリグリと撫でまわす/ワシャワシャと掻き乱す。

そして、 「ひとりぼっちは寂しいよな」差し出す左手で不知火に手招き数度。

釣られて数歩も行かぬうち、二人に手を引かれ /受けとめられて/撫でられる。

頭を朝霜がガシガシと。

背中を響がポンポンと。

不知火が一人ではないと二人は告げる。

一人にはしないと二人は笑ってみせる。

 

 

そして、過ぎ行く5分と少し。

「それでは改めまして、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

ボサボサになった髪を手櫛で直し、不知火は一礼を。

「おう」

ボサボサにやり返された髪をそのままに、朝霜は頷いた。

一拍。

 

「けど、さっきの動きは戦いのために練習したわけじゃあないってのはわかっといて欲しいな」

ふと、唐突に――突き付ける人差し指/その先が不知火の胸を軽く突く。

ついで/些細なことだと肩を竦めてみせるが、不知火の顔には疑問が宿る。

「だからこそ、朝霜は先程のように容易く動けるのではないですか」

海の上でも人のように撃つために。

「せっかく2本の脚があるんだから走ってもみたいじゃねーか」

海の上でも人のように生きるために。

 

見開かれた瞳に、それもそうかと朝霜は心の中で頷いた。

 

自然と視線は向いている――西の空へ/自分の言葉に/その理由を初めて聞いた艦娘の中で唯一嬉しそうに頷いた少女がいる場所へ。

敵は違えど、再び戦うために許された2度目の命――戦うためだけではなく、1度目の時には出来なかった己も仲間と共に生きること。

「人として、あたいはこの2度目の時間を使ってもみたいってな」

――いつまでもその願いが続くかはわからないけれどと朝霜はニヒルに笑う。

 

 

 

数拍後。

手拍子一つ/くるりと反転/足元から泡(あぶく)を産み出して朝霜は進みだす。

「それじゃあ、話がまとまったことだしよぉ。さっさと戻って間宮アイスでも食べようぜ」

「朝霜、間宮券を持っているのかい?」

話は終わりと背中で告げる朝霜に、響は苦笑と合わせて声をだす。

「不知火がくれるんじゃないのかよ、授業料で」

「前払制ですか?」

首を傾げる朝霜/純粋に疑問だ――と顔に張り付けて。

片手を挙げて答える不知火/しょうがないか――と間宮券の枚数を思い出す。

「ちなみに、授業料は一回につき間宮アイス一つ」

「それは困ります」

回答は迅速に/言葉は明瞭に。

そして、鼻と鼻がぶつかるくらいに近接を。

思わず横に膨らんだ航跡を修正し、朝霜は告げる。

「なら……一口でどうだ」

「善処します」

笑顔を咲かせ、満足げに頷き数度。

表情をコロリと替える不知火に、朝霜のいたずら心がむくりと起き上がる。

「やっぱり二口!」

「ダメです。一口と聞きました」

笑顔はドヤ顔に切り替わり、余裕を見せるかのようにゆっくりと不知火は首を横に振る。

「一口も二口も違わないじゃねーか」

「変わります」

朝霜の抗議を受け流し、行きますよとばかりに速力を上げて二人の前へ。

嘆息ひとつ。

困ったように息を吐き出すヴェールヌイに朝霜は舵を切る。

理由はわからずも、気遣わんと手を伸ばし――引っ込める。

彼女が見つめる続けるは、二人の先頭に立って堂々と帰らんとする不知火の背中。

一拍。

「……提督に一口二口食べさせてあげてるくせに」ヴェールヌイは言葉を射し込んだ。

「ひび! ……ヴェールヌイも変なことを言わないでください」

「否定しないってことは、『あーん』てしてるのかー。意外とやり手」

一面の赤と化した顔/再びの横列を整形し、ぬいっと迫る不知火に/数秒前との変貌に朝霜は思う。――面白い。

「違います!」

「違うのかー」

「はい」

初対面で感じた堅物真面目の鉄仮面の認識は露と消え、胸中に沸き上がるのは親近感+嗜虐心。

「仲間に嘘つくのは良くないぜ?」

「ごめん、朝霜。不知火は司令官に『あーん』もして貰ってるんだった」

「ほー」

ジト目+声音の暗さ=現場を目撃したであろうヴェールヌイの申告に、集う4つの視線は不知火へ。

言葉を止めた朝霜/ニヤニヤと。

瞳が座ったヴェールヌイ/ニコニコと。

 

左右を見渡して/何もいない。

いるのは2人=味方なし。

申し開きを望む仲間に向けて、不知火は言葉を紡ぎだす。

「……司令がそうしたほうがキラ付けが捗るなどとよく分からないことを言うので……仕方なく」

「ほー」

「そうです。仕方なくです」

自信に満ちない薄い胸を張り、視線はようやく見え始めた鎮守府へ/もっともな理由と司令の言葉というお守りで身を守る。

「ですので、不知火に落ち度など」

「それなら、司令官に食べさせる必要はないよね」

口調は優しく/声音は柔らかく――されど、ぞくりと冷たい笑みが不知火の背中を撫で上げる。

 

1メートル。

 

並走しているヴェールヌイ/僅かに不知火の航跡がふらつこうが変わらぬ距離でそこにいる/無駄に練度の高さを発揮する。

 

問いかける蒼い瞳の位置は変わらない。

ワクワクとしている朝霜が助けに入ることもなく、

「美味しそうに食べる司令を見ていると、不知火も嬉しくなって心の疲れもとれるので必要です」

不知火は宣言する。

とりあえずの理由を=故に気持ちは正直に/それがどれだけ恥ずかしい発言だったか気づかずに。

「それじゃあ、私も司令官に食べさせてもいいよね。アイスひとつ」

負けじと宣言するヴェールヌイ/新たに知った司令官へと甘える/密着できる手段=即決。是非もない。

「ヴェールヌイはこの後、新しい艤装の整備があるのでは?」

「もちろんさ。だから今日の夜、2200くらいに司令官のところへ行く予定だよ。もしかしたら、仕事も終わってるかもしれない。だからウォッカも持って行こう。最近、司令官は上との調整で忙しそうだから息抜きは必要だからね。不知火は……確か今日は、2200から訓練海面の予約をしてたから一緒に行けないね」

不知火の反論などさせないたばかりに饒舌に言葉を羅列する。

「ですが……」

示された理由は明確に/それでも、夜の執務室+度数の強い酒+二人きり=看過したくない事項/羨ましい。

無論、演習場の申請書は提出済み。

司令官と一緒に過ごしたいからと直前にキャンセルできるはずもなく。

渦巻く思考――響の言葉を/二人きりになることを阻止する名案は浮かばずに。

生まれる無言の時間。

 

笑顔の響/夜の過ごし方を夢想して。

苦悩の不知火/自分にとって最善の落としどころを思案して。

 

そして、対称的な仲間の表情を視界に収める朝霜は、どうしたものかと頭を捻る。

 

提督からの言葉/二人が忘れたひとつの事実――出発前に聞かされた今日から一泊二日で不在になることを。

 

どうしたものかと、朝霜は頭を捻るのだった。

 




そういえば、ぬいぬいってヴェールヌイも合わせてヌイぬいもあるよなーて気づいたつい最近。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。