スレッタとミオリネの静かな夜   作:黒 史

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前半から続きます。
皆様のご期待に少しでも添えればと思います。


スレッタとミオリネの静かな夜(2)

 

「じゃあ、始めてちょうだい……」

 ミオリネはさっと視線を外し、ベッドに横たわる体勢を整える。スレッタは緊張しながらも、ミオリネの身体に意識を向けた。

 ミオリネのパジャマは、シルクのように滑らかな手触りで、艶やかな光沢が淡い月明かりを受けて、ほんのりと輝いていた。パジャマの生地は薄く、肌にぴったりと寄り添うデザインで、首元からは控えめにミオリネの鎖骨が覗いている。肩のラインは柔らかく、薄手の生地が体の動きに合わせて微かに揺れるたび、その下に隠された柔らかな肌が透けるように見える。

 スレッタは、まずミオリネの肩に触れる。パジャマの袖口が広く、肩から肘にかけてのラインが美しく強調されていた。身体の袖を少しめくり上げると、スレッタの手がミオリネの肩に直接触れる。その瞬間、スレッタは自分の手がかすかに震えているのを感じた。

「大丈夫……私がしっかり……ほぐしてあげますから……」

 スレッタはミオリネの反応を確かめながら、身体の肩を優しく押し始めた。ミオリネの背中に寄り添い、細心の注意を払いながら、その力加減を調整する。次に、ミオリネの腰のあたりに手を移すと、パジャマの生地がふわりと腰回りにフィットし、しなやかな曲線を描いているのがわかる。腰のラインを包むパジャマの裾が少し上がり、スレッタはその下に隠れている肌の温かさを感じた。パジャマのシルクの質感が滑らかで、指先に心地よく伝わってくる。

「このあたり、こってますか……? 無理しないでくださいね……」

 スレッタの声は優しく、緊張を隠しつつも、ミオリネを気遣う思いが溢れていた。ミオリネは目を閉じ、素っ気なく「うん、大丈夫」と答えたが、その声には期待感がにじみ出ていた。

「スレッタ……もう少し、強くてもいいわ……」

 そう言われると、スレッタは少しだけ力を込めて、ミオリネの腰を優しく押しほぐし始めた。ミオリネの体から、少しずつ緊張が解けていくのが感じられた。

 スレッタの丁寧なマッサージが続くうちに、ミオリネは次第にリラックスしていった。肩や腰の疲れが溶けていくような感覚に包まれ、体が軽くなっていくのを感じていた。彼女はスレッタの優しい手つきに安心感を覚え、心の中でそっと感謝していたが、それを素直に口にすることはやはりできない。

「……ありがとう、スレッタ。悪くなかったわ……」

 ミオリネは素っ気なく呟いたが、顔にはほんのりとした笑みが浮かんでいた。体が十分にほぐれて、心地よさが全身に広がっている。ふと、彼女は思いついたようにスレッタに声をかけた。

「スレッタ……ちょっと、お願いがあるんだけど……」

 スレッタはミオリネの言葉に少し驚きながらも、すぐに前向きな笑顔で応じた。

「えっと……はい!なんでも言ってください、ミオリネさん……!」

 ミオリネは軽くため息をつきながら、横を向き、少し照れ隠しをするように続けた。

「耳かき……してほしいの。最近、仕事で疲れが溜まってて……耳の辺りもリフレッシュしたいのよ」

 その言葉にスレッタは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに首を振って、快く引き受けた。

「耳かきですね……!わかりました……任せてください!」

 ミオリネはスッとベッドの上で横向きになり、髪を整えながら耳をスレッタに差し出すような体勢になった。シルクのパジャマがふわりと落ち着いた光沢を放ち、彼女の優美さを際立たせていた。

 スレッタは慎重にミオリネの耳元に座り、少し緊張しながらも優しく手を伸ばす。ミオリネの耳にそっと触れると、柔らかな肌の感触が伝わり、彼女の緊張が少し和らいだ。

「それじゃあ……始めますね、ミオリネさん……リラックスしてください……」

 スレッタはミオリネの頭をそっと膝に乗せ、耳かきを始めた。彼女は慎重に細い棒を使いながら、ミオリネの耳の中を丁寧に手入れしていく。ミオリネは目を閉じ、スレッタの柔らかな手つきと優しい空気に包まれ、さらなる安らぎを感じていた。

「ん……悪くないわ……そのまま……もう少し続けて」

 ミオリネは再び素っ気なく言いながらも、その声にはリラックスした響きが混じっていた。スレッタはそんな彼女の反応に微笑みながら、さらに集中して耳かきを続けた。ミオリネの耳元に伝わる柔らかな動きが、心地よいリズムを刻んでいた。

 耳かきが終わり、スレッタは優しくミオリネの耳から手を離した。彼女はミオリネがリラックスできたかどうか、少し気になりながらも、安心した表情で声をかけた。

「ミオリネさん……これで、耳かきは終わりました。気持ちよくなれましたか……?」

 ミオリネは目を閉じたまま、静かに頷いて「うん」と答えた。スレッタはホッとした表情を浮かべ、ふとミオリネの頭を自分の太ももに乗せたままのことを思い出し、少し照れくさそうに尋ねた。

「えっと……その……ミオリネさん……私の太ももの感触って、どうでしたか……、筋肉で堅くなかったですか?」

 スレッタの純粋な問いかけだったが、その瞬間、ミオリネの顔が一気に赤く染まり、目を大きく開いた。しばらく沈黙が続き、ミオリネはスレッタをじっと見つめる。気まずい空気が流れた後、彼女は突然声を上げた。

「おばかっ!なんでそんなこと聞くのよ……!」

 ミオリネは急に体を起こし、少し照れ隠しのように顔を背ける。怒っているようにも見えるが、その表情は赤くなった頬から、明らかに恥ずかしさを隠そうとしているのが伝わってきた。スレッタはその反応に驚いて、すぐに謝った。

「あっ、ごめんなさい!ただ……気になっちゃって……その……」

 スレッタはしどろもどろに言い訳をするが、ミオリネは顔を背けたまま「もういいわよ」と言い、ため息をつく。それでも、その頬に残る赤みが、彼女が完全に怒っていないことを示していた。

「……とにかく、今日はありがとう……気持ちよかったわ」

 ミオリネは素っ気なく言いながらも、心の奥ではスレッタとの時間を楽しんでいた。スレッタはその言葉に少し安心し、また穏やかな笑顔を浮かべた。

「よかった……ミオリネさんがリラックスできて……」

 理事長室は広々としており、大きな窓からは外のコロニーが見渡せる。部屋全体に漂う洗練された雰囲気は、ミオリネの冷静で知的な性格を反映しているかのようだが、それとは裏腹に部屋の状態は決して整然とは言えなかった。

 デスクの上には、書類やデータパッドが積み重なっていて、各種レポートや契約書が無造作に置かれている。机の周囲には、読みかけの資料やホログラムディスプレイの映像がちらほらと散らばっており、ミオリネが忙しさに追われている様子が一目でわかる。

 スレッタは部屋に入るなり、その状態を目にして、少し困ったように眉をひそめたが、すぐに「手伝わなきゃ」と思い直し、こっそり片付けを始めた。彼女は一つ一つの書類を丁寧にまとめ、散らかったデスク周りを整理しようとする。

 しかし、ミオリネが仕事の合間に無意識に散らかしてしまうため、スレッタは黙々とそれを片付ける役目を自然と引き受けるようになっていた。

「ミオリネさん、またこれ……机の上にいっぱい……」

 スレッタは小さく呟きながら、そっと書類を整理していく。部屋の本棚にはいくつかの本やデータディスクが所狭しと並んでいるが、どこか無秩序な感じがあり、本棚の一角にはミオリネが一時的に置いた物がそのまま積まれている。

 デスクの横には植物の小さな鉢が置かれており、ミオリネが育てているトマトの苗が、かろうじて整然とした姿を保っている。これだけが、唯一きちんと手入れされているものだった。

 部屋の全体としては、ミオリネの頭の中にある無数の仕事や考えが、そのまま物理的に散乱しているような雰囲気だった。しかし、スレッタが丁寧に片付けを続けることで、少しずつ整えられていく。毎日のようにスレッタが手伝っているため、無秩序になりすぎることはないが、それでも仕事に追われるミオリネがすぐに散らかしてしまうのが常だった。

「うん……これで少しはスッキリしたかな……」

 スレッタは静かに満足げに部屋を見回し、いつものように自分の役割を果たしたことにほっとしていた。ミオリネに気づかれないように、こっそりと手を加えることが、スレッタの日常の一部となっている。

 スレッタが黙々と理事長室を片付け終わると、ミオリネはその様子に気づき、じっとスレッタの背中を見つめていた。部屋の散らかり具合が少し整っていく様子を確認しつつ、彼女はため息をつき、わざと素っ気ない口調で言った。

「……余計なお世話よ、スレッタ。私の部屋なんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに」

 ミオリネはそう言いながらも、声には怒気はなく、むしろどこか照れたような響きがあった。スレッタは一瞬その言葉に驚き、少し焦った様子で振り返った。

「あ、す、すみません……ただ、ミオリネさんが少しでも楽になるようにと思って……えっと……おせっかいだったらごめんなさい……」

 スレッタは申し訳なさそうに言いながら、気まずく立ち尽くした。しかし、ミオリネはその姿を見て、心の中で小さな笑みを浮かべていた。彼女は本当はスレッタに感謝していることを自覚していたが、素直に言えず、ついツンとした態度を取ってしまう。

「……まぁ、でも……少しは助かったわ。ありがと……」

 ミオリネは顔をそっとそむけ、照れ隠しをするように髪を軽くかき上げた。しかし、声に浮かぶ照れた響きが消えない。スレッタはその言葉に驚いて目を瞬かせたが、すぐに顔が赤くなり、胸の鼓動が高まるのを感じた。

「ミ、ミオリネさん……どういたしまして……!」

 二人はお互いに言葉を交わしながら、ふとした瞬間に視線が絡み合う。スレッタは自然とミオリネの方へ一歩近づき、ミオリネもまた、気づかぬうちにスレッタに向けて体を寄せていた。静かな部屋の中、二人の間には徐々に温かい空気が流れ始める。

 スレッタが少し緊張しながらミオリネの瞳を覗き込むと、ミオリネもじっとスレッタを見つめ返す。お互いの顔がゆっくりと近づき、二人の息遣いがほんの少し聞こえるくらいの距離まで縮まっていった。スレッタはその距離に驚き、頬が赤く染まるのを感じた。

 ミオリネも少し動揺しながら、何か言いたそうに唇を軽く動かしたが、言葉は出なかった。ただ、そのまま目を閉じるでもなく、スレッタを見つめ続けていた。

「ミオリネさん……」

 スレッタの声は震えていたが、二人の間に流れる温かさが、すべての言葉を超えて伝わっていた。

 ミオリネは、ここ数日、ガンダム株式会社の立ち上げに向けた資料作成に没頭していた。プレゼンの準備は膨大で、毎晩遅くまでパソコンと向き合い、睡眠不足のまま頑張り続けていた。その疲労の色は、彼女の瞳に少し影を落としていたが、ミオリネは決して弱音を吐くことなく、最後まで資料を仕上げた。

 その晩、理事長室でついにプレゼンの資料を完成させ、無事に提出を終えたミオリネは、ふと深い息をついた。頭が少しぼんやりして、ようやく緊張の糸がほどけていくような感覚が広がっていた。

 そんな彼女のもとに、スレッタがやってきた。

「ミオリネさん……お疲れ様です。無事に提出できたみたいで……本当に、よかったです……」

 スレッタの優しい声が耳に届くと、ミオリネは疲れた表情の中にも、ほっとした笑みを浮かべた。彼女の頑張りを誰かが見ていてくれたこと、その誰かがスレッタであることに、どこか安堵の気持ちが湧いてきた。

「ええ……なんとか、提出できたわ……スレッタのおかげじゃないけどね……」

 ミオリネは素っ気ない言葉を返しつつも、その言葉には温かさが込められていた。スレッタがそばにいてくれるだけで、いつの間にか自分の緊張が解け、心が軽くなっていくのを感じた。

「ミオリネさん……本当にすごいです。これで、きっとガンダム株式会社もうまくいきますよ……」

 スレッタの純粋な励ましの言葉に、ミオリネはもう何も言わず、ただ静かに微笑んだ。そして、スレッタの顔を見つめると、その優しい瞳が自分の疲れた心を包み込んでくれるような気がして、つい力が抜けてしまった。

「……もう、いいわ。少し……眠らせて……」

 ミオリネはスレッタの顔を見つめたまま、ゆっくりとまぶたを閉じた。理事長室の静かな空気の中、彼女はそのまま安心したように眠りに落ちていく。

 スレッタはそんなミオリネの姿を見て、そっと布をかけてあげた。穏やかな寝息が聞こえ、ミオリネがようやく自分の頑張りを報われたように見える瞬間だった。

「ミオリネさん……お疲れ様でした……ゆっくり休んでくださいね……」

 スレッタは優しく囁きながら、彼女のそばに座り、ミオリネが安心して眠り続けられるように静かに見守っていた。

 窓の外では、コロニーの人工的な夜空が静かに輝いている。その光が、眠るミオリネの顔を優しく照らしていた。スレッタは、ミオリネの寝顔を見つめながら、心の中で密かな決意を固める。

「ミオリネさんのために……私にできることを、もっと……」

 彼女は静かに立ち上がり、部屋の中を見回した。まだ整理されていない書類や、散らばったデータパッドが目に入る。スレッタは、眠るミオリネを起こさないように注意しながら、それらを丁寧に片付け始めた。

 一つ一つの書類を整理し、データパッドを充電器に接続し、明日のミオリネの仕事がスムーズに進むよう、細やかな気配りをする。その作業の中で、ガンダム株式会社に関する資料が目に入った。

「ミオリネさんの夢……私も、一緒に叶えたい……」

 スレッタは小さくつぶやきながら、その資料を大切そうに扱い、見やすい位置に置いた。

 作業を終えた頃には、夜も更けていた。スレッタは再びミオリネのそばに戻り、彼女の寝顔を見つめる。月の光に照らされたミオリネの顔は、普段の凛とした表情とは違い、柔らかく穏やかだった。

 スレッタは思わず、ミオリネの頬にそっと触れそうになったが、途中で手を止めた。代わりに、彼女は静かに微笑み、ミオリネの耳元でささやいた。

「おやすみなさい、ミオリネさん。明日も……一緒に頑張りましょうね」

 そして、スレッタは静かに部屋を出ていった。ドアが閉まる音と共に、ミオリネの唇が少し動き、かすかに「スレッタ……」とつぶやいた。

 理事長室には、二人の想いが静かに満ちていた。明日という新しい日に向けて、彼女たちの絆は、少しずつ、しかし確実に深まっていくのだった。

 

 




ひとまず後半もお送りできました。

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