のんびり木霊の異世界転生記   作:でぇだらぼっち

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 木山春樹。面倒くさがりのサボり魔少年。

 トロンとした垂れ目を眠気で更に蕩めかしながら、彼は仰向けのまま天井を見上げた。

 だが、彼の周囲はそんな穏やかなものではない。

 

 赤が空間を彩り、熱気が頬を撫でる。ぱちぱちと万雷の拍手の様に炎にまかれた木材などが弾ける音がする。

 今まさに、彼のまどろむ家は火事に見舞われていた。原因は、彼にも分からない。

 

 直ぐにでも逃げ出さなければならない状況で、しかし木山春樹は火に巻かれる事を選ぶ。

 彼は、疲れていた。(よわい)十七歳にして、その雰囲気は疲れ切ったサラリーマンのソレ。

 炎が服に燃え移ってきた。肉が焼かれる感触は、想像を絶する痛みを彼に与える。

 しかし、少年は身動ぎの一つもしなかった。腹の上で両手を組んで、ボーっと炎に彩られた天井を眺める。

 

(もしも生まれ変われるのなら、今度は植物とかが良いな……動いたり食べたりしなくて良いだろうし)

 

《確認しました。植物を基盤とした肉体を作成します………………成功しました》

 

(ああでも、植物って周囲の環境に弱いんだっけ……ソレは嫌だな。枯れちゃうし……)

 

《確認しました。環境耐性を付与。外的要因に対する耐性を獲得………………成功しました》

 

(息が、苦しい………やっと、死ねるかな………)

 

 炎にまかれた熱さも、息苦しさも遠退いて、意識が漆黒の(うろ)の底へと落ちていく。

 少年が願うのは、この生の中で付き纏ってきた体質の事。

 

(穏やかに眠りたい………静かに…………ゆっくりと…………)

 

《確認しました。ユニークスキル『安臥者(ユリカゴ)』を獲得………………成功しました》

 

(それから………この体質を消してほし――――)

 

《確認しました。ユニークスキル『記入者(シルスモノ)』を獲得………………成功しました》

 

 

 この日、一人の少年が炎にまかれて命を落とした。

 そして、魂は世界の壁を飛び越える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、A⁻ランク相当の魔物が多数存在する場所。

 かつて勇者に封印された暴風竜を封じた封印の洞窟と呼称されるその場所で、ある時小さな命が芽吹いた。

 

 ごつごつとした洞窟の岩肌を突き破って、最初に双葉の目が顔を出す。

 この洞窟には、ヒポクテ草と呼ばれる珍しい薬草が群生しているのだが、この顔を出した芽は少々毛色が違う。

 洞窟内に充満した豊満な魔素を取り込んで成長し、同時にその広く深く張り巡らされた根が、この世界の最下層を流れる力の流れを掠め取る。

 膨大な量の栄養を受けて、双葉は瞬く間に急成長。

 岩盤を砕き枝が伸び、気根が伸びてそれらが複雑怪奇に絡み合う。

 やがて形成するのは、とある形だ。

 

 ボウリングの球程度の大きさの絡み合った気根によって構成された樹木の球体。その下部からは球体を支えるようにして気根と枝の絡み合った山型の小さな土台。

 土台とは逆に球体の天辺には五方向に生えた五枚のシュロの葉のような深緑の葉が揺れる。

 不意に、木の軋む音が響き、球体の一部に空間が空いた。

 真っ暗なそこに灯るのは、小さな緑の光だ。

 灯った光は、キョロキョロと動き回り。それからこの木の塊は首をかしげるように動く。

 

(…………僕、死んだんじゃないの?)

 

 振り返る様に、自身の記憶を遡ろうと意識を向けて、

 

《ユニークスキル『記入者(シルスモノ)』を使用しますか?YES/NO》

 

(………なに?)

 

 頭の中に響く声。いや、この場合は絡み合った樹木球体の内側か。

 とにかく、声の出所は分からないがこの変な生物?は声を聞いた。

 

(とりあえず、YES?)

 

《ユニークスキル『記入者(シルスモノ)』起動します》

 

 声に返答を返せば、更なる声が返ってきた。

 同時に、樹木球体の脳裏?に本が開かれる様に情報が走った。

 

 

~~~~

 

 

名前:木山春樹

種族:木霊(コダマ)

称号:なし

魔法:なし

ユニークスキル:『記入者』『安臥者(ユリカゴ)

エクストラスキル:『樹木操作』『植物憑依』『怪火』

コモンスキル:『獣化』『人化』『鬼化』

耐性:外的要因耐性

 

 

 

~~~~

 

(なんだか色々ついてるなぁ……木霊って?)

 

~~~~

 

 

 木霊:下位精霊の一種。主に樹木に宿る存在がこれに該当する。山林などに多く存在し、不用意に木霊の宿る樹木へと手を出すと神通力によって捻じ曲げられたり報復を受ける事になる。樵の天敵

 

 

~~~~

 

(へぇ~………僕って人間じゃなくなったんだ……まあ、こんな見た目ならねぇ)

 

 緑の光が動き、自身の体を見下ろすようにして樹木が蠢く。

 人間の時とはまるっきり違う。同時に、再び脳裏?を過ったのは、先程の情報と似たようなノイズ。

 

~~~~

 

 

 

 熱、炎、服が燃え、肉が焼け、皮膚が焦げ、神経が焼け、血液が焼け、髪が燃え、眼球が沸騰し、骨が焦げ、爪が燃え、

 

 焼ける、熔ける、焦げる、煮える

 

 潰れる

 

 

 

~~~~

 

(うーん、唐突なグロテスクレポート。ナニコレ………………あ、記入者って奴?)

 

~~~~

 

 

 

 ユニークスキル:『記入者(シルスモノ)

 

 スキル保有者の意識的無意識的問わず、経験した事象を全て記録、管理、閲覧を可能とする

 スキル保有者が間接的にも関与した対象にも効果を発揮

 記録した事象を基に、魔法を錬成可能

 記録された魔法を練度関係なく行使可能

 魔法の行使には、スキル保有者の魔素を一定量消耗する

 

 

 

~~~~

 

(Oh、チート。というか、これって僕の記憶力が関係してる感じ?)

 

 ザワリと樹木の絡まりが軋む。

 木山春樹は、完全記憶能力の持ち主だった。だからこそ、人生にうんざりするような事態に陥って結果的に事故自殺を行ってしまったのだが。

 幸いというべきは、能力がスキルとして隔離された結果、彼自身の記憶力は優れている、止まりとなっている位か。

 色々と考えが頭を過り、しかし直ぐに面倒になってその思考を打ち切る。

 

(考えたって仕方ないよねぇ………今は眠いや)

 

 ざわざわと蠢いていた樹木が止まり、球体部分に灯っていた緑の光が消える。

 

《ユニークスキル『安臥者(ユリカゴ)』――――起動します》

 

 安眠の守護者が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《告。前方に魔素の反応を確認》

 

(魔素の反応?それって、俺みたいな魔物って事?)

 

《解。エネルギーの反応から、精霊に類する存在であると推察されます》

 

(精霊?)

 

《解。精霊とは、自然エネルギーの欠片が集まり自我を持つ様になった存在です》

 

(成程ね)

 

 ふむふむともっちり水餅ボディを動かして、小さなスライムは内心で頷く。(スライムは本来無性なのだが、その中身は転生者であるため便宜上彼と称する)

 彼には現在五感が存在しないが、その代わりに彼のスキルが現状の目の代わりとなっていた。

 そのスキルからの警鐘。

 今の今まで他生物に出会って来なかった為に、彼は興味本位でそちらへと近付いていく。

 

 それが間違いだった。

 

(!?なに!?弾かれた!?)

 

《解。精霊からの攻撃を確認。樹木を用いた鞭による打撃です。損傷率15%》

 

 スライムのプルプルボディが弾かれる。

 彼には見えていないが、スキルの告げた精霊の周りの岩盤を砕くようにして複数の太い根が出現しておりそのうち一本が不用意に近づいたスライムを引っ叩いたのだ。

 

(い、一撃で15%!?さっき転んだのより強いの!?)

 

《解。自動迎撃による攻撃であるため最小のダメージで済んだものと推察されます》

 

(こ、これで最小………)

 

 やはり、中身は違えどもスライムはスライム。その身体強度はたかが知れている。

 彼は頭を回した。

 

(考えろ、考えろ!情報は、『大賢者』が出してくれる。そこからの取捨選択は俺の仕事だ)

 

 思考が加速する。

 便利なものに頼りきりにならない。それは、彼の美点だろう。一応、思考の加速は彼のスキルの効果の一つだがそれはそれ。使い手がヘボなら宝の持ち腐れとなる。

 

(自動迎撃による、木の鞭。逃げるに越した事は無いんだろうけど……どこに逃げれば……ん?()()()()?)

 

 加速した思考の中で、違和感を覚えた。

 

(『大賢者』。さっきの攻撃って自動迎撃って言ったよな)

 

《解。その通りです》

 

(それじゃあ、その精霊はどういう状態なんだ?)

 

《解。睡眠状態に入っていると思われます。無防備な状態を自衛するための攻撃状態であると推察されます》

 

(睡眠……精霊って眠るの?)

 

《解。いいえ。エネルギー具現体であるため、精霊には本来睡眠は必要とはしません。スキルによる意図的な休眠であると推察されます》

 

(スキルで態々寝てんの!?それはまた何というか……)

 

 人間臭い。彼はそう思った。

 生物の三大欲求である睡眠欲。人間のみならず、動物は皆持ち合わせている能力だろう。

 だが同時に、無防備な瞬間を晒す状態である事も相まって野生動物などは極端に短い睡眠を一定間隔でとったり、或いは身を隠して睡眠をとる場合が殆ど。大っぴらに寝れるのは、それこそ頂点捕食者位のものだろう。

 何となく、彼はこの自身の少し先で眠っている精霊は自分と同じ境遇なのではないかと思った。無論、根拠は無いのだが。

 どうしたものか。思考を続けていると、不意に声が響いた。

 

(聞こえるか?小さき者たちよ)

 

 

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