のんびり木霊の異世界転生記 作:でぇだらぼっち
ゆらゆらと木の根が揺れる。
(それにしても、ラムスラが移動出来て良かったな)
(まあねぇ。何事も使い方次第だよ?)
枝や気根や蔦が複雑に絡み合った球体の上、五枚の大きな葉の上に水色のスライムを乗せてラムスラ=テンペストはそんな事を言う。
彼の種族である木霊は、本来宿った木から動く事は無い。
だが、ラムスラは木霊と呼ぶにはかなり特殊だ。彼には、スキルとして『樹木操作』と『植物憑依』が存在する。これらスキルを利用する事で、枝や気根、蔓などを動かして地面を這うように進む事が出来た。
二人が洞窟を進むのは、無論この洞窟を抜けるため。
だが、ヴェルドラに愛想を尽かしたわけではない。今の彼は、リムルの腹の中だ。
彼のスキルと、ヴェルドラのスキル。この二つを利用して外と中の両方から『無限牢獄』を破る事にした。その為に、ヴェルドラを『無限牢獄』ごと“捕食”して解析中なのだ。
そして、リムルがラムスラの上に載っているのは偏に、彼の身体強度の低さにある。
(まさか自分で吹っ飛んでおいて、怪我するとは思わないよ)
(ちょ、ちょっとミスっただけだし!……とりあえず、体を頑丈にしなくちゃな)
(頑丈にするのは結構だけど、当てはあるの?というか、リムルって戦う手段とか持ってる訳?)
(うっ……一応、考えてはいるぞ!?)
(本当~?)
(よしっ!だったら、見せてやる!)
天性煽りストなラムスラに対して、リムルはフンスとその体を持ち上げた。
そうして、二体が向かったのは洞窟内に存在する地底湖。
(見てろよ~)
リムルは念話でそう伝えると、近くの岩場へと向けて水を撃ち出した。もっとも、その威力は鉄砲水。どうやら噴出孔が大きすぎたらしく、その小さなぷよぷよボディは踏ん張る事も出来ずにラムスラの上から吹っ飛んでいた。
勢いそのままに地底湖に飛び込んでしまう水色。その様を、緑の光が眺めていた。
(うーん……凄いね?)
(言うな……何も、言わないでくれ……!)
ぷかりと水面に浮いてきたリムルは、血を吐くような念話を送って水面を漂う。ついさっき失敗したばかりだというのに、この体たらく。穴があったら入りたいとは正にこの事。
とりあえず、次はもっと勢いを調整する事を決めて、リムルはついでに魔素の操作をトレーニング。
一方、岸に残ったラムスラは徐に蔦の一本を操作して自身の視界の中へとその先端を持ち上げた。
(ん)
僅かに力を込めれば、その先端に青白い火が灯る。
彼の持つスキルの一つ『怪火』の効果だ。
青白い火を灯した蔦を、鞭のように振るって突き立った岩の一つへと叩きつければものともせずに砕くと同時に黒い焦げ跡を刻む。
それだけではない。火を消して、今度は自身を構成する樹木へと意識を向ける。
バキバキと足元の岩盤を砕いて現れる、生い茂る木々たち。縦横無尽に動き回り、近くの岩場を更に砕いた。
リムルと違って、ラムスラは種族のお陰もあるのか攻防共に隙の無いスキル構成となっている。
特に『樹木操作』はその応用性の幅も相まって実に強力。
(おーい、ラムスラー!)
(んー?)
念話を通じてリムルがラムスラを呼ぶ。
地底湖へと視線を動かせば、そこでは水中や水上を自由自在に動き回るリムルの姿があった。
(『水流操作』と『水圧推進』のスキルを合わせたんだ!)
(おー、凄いじゃんリムル。それじゃあ、僕も)
そう言うと、ラムスラを構成する枝葉が動き出す。
十本ほどの細い枝の先端に大量の葉が生えると、それを地底湖の水面へと乗せたのだ。
すると、ふっくら葉で膨らんだ枝の先端に対して水面が不自然に凹んだ。
そこから器用に自身の体を空中に浮かせて、十本の先端に葉を茂らせた枝を支えに水面に立ったラムスラ。
更に、目の役割をしている緑の光が灯った隙間の反対側から大きな三枚の葉が生えてくると、プロペラの様に回りだす。
ホバークラフトの様に、ラムスラの体は水面を滑っていく。その光景に、リムルは驚愕を浮かべた。
(ええええ!?何でもありだな、お前!?)
(応用だよ。葉っぱは、表面張力で水を避けさせて、僕の重さも枝十本で分散してるからねぇ)
原理としては、アメンボ。因みに、水を弾く植物は蓮の葉を参考にしている。
スイーッと水面を移動するラムスラ。僅かに足の傾きを変える事で、緩くカーブを曲がる事も出来る。オマケに、小さな波程度では転覆する様子もない。
そのまま、リムルの攻撃技を習得するまでの一週間ほどを、二体は地底湖の傍で過ごす事になる。
「ぁ……ぁぁ……あ゛!!」
(良いよなぁ、ラムスラ。人化がデフォルトかぁ)
「獣に゛も゛っ、成れる……よ」
リムルの練習の傍ら、ラムスラは自身のスキルを確認ついでに行使中。
人化すれば、小学生ほどの緑髪の性別の分からない子供に。鬼化すれば、緑肌に一本角の鬼に。獣化すれば、緑色の毛並みを持った狐へとそれぞれその姿を変じる事が出来た。
尤も、変われることが分かってもラムスラは元の樹木が複雑に絡まった姿に直ぐ戻ってしまっていたが。
曰く、この姿が落ち着く、という事らしい
何よりこの木の絡まった姿は、扱いやすい。
気根の触手を多数伸ばす事が出来て、その一本一本が精密動作が可能な程度には器用。更に、エクストラスキルである『樹木操作』の行使もしやすいときた。
スライムの体が便利とは言えないリムルとしては羨ましい事だが、どうする事も出来ない以上ひがんでも仕方がない。
ついでに、彼はある事も知れた。
(大賢者)
《告。何か御用でしょうか》
(ラムスラの寝てる奴はスキルって話だけど。いったいどんなスキルか分かるか?)
《解。ラムスラ=テンペストが用いるスキルは、『
(中身は?)
《解。ユニークスキル『
睡眠者の保護を目的とした構成となっています
睡眠状態の安定:悪夢などを見る事無く如何なる環境でも最上の睡眠を堪能可能
睡眠者の保護:如何なる外的要因に対しても睡眠者を保護し、精神干渉などを遮断します
外敵排除:一定範囲内における睡眠者への接近を阻みます。これは害意の有無は関与しません
補足として、本来睡眠を必要としない木霊であるラムスラ=テンペストの睡眠を可能とする効果を有します》
(何というか……現代サラリーマンにとって夢のようなスキルだな。というか、大賢者は何でここまで知ってんの?)
《解。ラムスラ=テンペストからの攻撃から、学習しました》
スキルは語る。
発端は、しばらく前のヴェルドラに出会う直前の事。
リムルは不用意に近づいた結果、体の15%を損傷するほどの痛打を受ける事になった。
この一発を基に、解析が成されたらしい。中々どうして、チートっぷりを発揮しているスキルだった。
リムルが自身のスキルに驚いていた時。同じくして、ラムスラもまたリムルの情報は得ていたりする。
(『
《ユニークスキル『記入者』起動します。ご用件をどうぞ》
(リムル=テンペストの情報)
ラムスラの指示に、スキルが起動する。
ページの捲れる音共に、彼の思考に情報が羅列された。
~~~~
ステータス
名前:リムル=テンペスト
種族:スライム
加護:暴風の紋章
称号:なし
魔法:なし
固有スキル:『溶解』『吸収』『自己再生』
ユニークスキル:『大賢者』『捕食者』
コモンスキル:『水圧推進』『水流移動』
耐性:熱変動耐性ex/物理攻撃耐性/痛覚無効/電流耐性/麻痺耐性
~~~~
情報は、関与すれば記される。魂の繋がりは、この点に関しては特に大きなものだろう。
特に、スキルに関して知れる事はあらゆる面で優れているだろう。もっとも、ラムスラ自身はあまり興味が無いのだが。
(それじゃあ、魔法を作ってみようか。『記入者』)
《『記入者』の魔法錬成を開始します。キーワードを選択してください》
続いて起動する別の機能。同時に、ラムスラの思考に数式のようなモノが浮かぶ。
(ふーん?……それじゃあ、岩+炎+人形=……っと)
《キーワードを確認、魔法――――『
イメージは、電卓か。
果たして、岩盤が砕けて煮え滾るマグマで形成された大きな腕が現れる。
腕が岩盤の上に突き立てられ、体が引き上げられる。
体の大部分を岩石で構成されながら、その一方で両腕は煮え滾るマグマによって象られている。
五メートル程のマグマ人形だ。この登場に焦ったのは、リムル。
(ちょ!なんか出てきてるんだが!?)
(大丈夫。僕の魔法だよ)
(お前、魔法使えたのか!?)
(スキルの副産物でね)
騒ぐリムルに念話を返しながら、ラムスラは数本の気根を持ち上げて出現したマグマの人形へと突き立てた。
本来ならば燃え尽きている所。しかし、彼には外的要因耐性が存在する。これは、言うなれば外部から齎される様々な状態異常などへの耐性を複合したもの。リムルの持つ耐性各種のみならず、斬撃や射撃、衝撃、毒、睡眠、精神汚染その他諸々etc.
この耐性によって、ラムスラの樹木は火の中に突っ込んでも燃えない。裏を返せば、燃料などにも使えないという事ではあるが。
突き刺した枝をマリオネットの糸代わりにして動かせば、ぼたぼたとマグマを零しながら人形が動き出す。
その動作は緩慢だ。だが、放つ熱気と粘性から生まれる遠心力と重量を加えた打撃は、巨岩を砕ける。
(うん、いい感じ)
(俺も大概だけど、ラムスラも相当だな……)
引いたようなリムルの呟きが湖畔に響くのだった。