皆の意見や知識で動かせ戦国物語 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
外を歩き回ってお腹が空いたのでお昼ごはんが楽しみで仕方なかった。
津田家では1日3食が基本らしく、正午頃に昼食となる。
私達は食堂に移動して食事の準備を始める。
おぼんが渡され、そこに盛り付けられたご飯は朝と同じ麦飯、鶏肉じゃがと呼ばれる鶏肉、じゃがいも、人参、和名抄(さやえんどう)、しらたきの入ったオカズに肉団子の汁物、漬物と麦茶が出された。
「いただきます」
出汁と醤油が効いていてとても美味しい料理数々にうっとりしてしまう。
あっという間に料理を食べきってしまい、少し物足りなく感じてしまう。
「希望すればおかわりもらえますよ」
「本当!?」
「ええ、おかわり口と呼ばれる場所がありますので一緒に行きましょうか」
麦飯のおかわりが欲しかったのでおかわり口で食事を作っている方に頼むとご飯を再びよそってくれた。
「おかずのおかわりは厳しいですが、米と汁物のおかわりはできるのですよ」
「なるほど」
おかわりをもらってご飯を食べ終わる。
「麦茶も美味しかったわ」
「茶葉の収穫時期には茶が出たり、果汁が出ることもあるんですよ」
「へぇ!」
「午後は何かやりたいことはありますか?」
「でしたら弓道がしたいです!」
「わかりました。準備をしますので部屋でお待ち下さい」
部屋では外出した時に買った瓦版を詳しく読んでみる。
そこには相撲番付が書かれており、町の中にある相撲部屋の力士の番付や落語の演目、オススメの酒の銘柄や料理のレシピと様々な事が書かれている。
津田家の外交情報等も書かれていて良く調べられている。
「1部10文以上の価値はあるわね……」
「淡様、準備が整いました」
「ねぇ大喜、この瓦版って多くの部数を書いていると思うけど結構な人が書いているんじゃないの?」
「はい、戦や何らかの事情で怪我をして働けなくなった者や作家見習い、単純に金を稼ぎたい者が瓦版を書いています。基本記事を記者達が書いて、それを各人が写していく形になり、10文では全く利益は出ませんが、津田家が援助をして町人に書かせているのです」
「何の利益があるの?」
「家操様曰く情報の操作ができると言っていましたね」
「情報の操作?」
「はい、忍びでも行う流言の類を瓦版を使えば一気に広めることができるのです」
「それが何の役に立つの?」
「うーん、効果がいまいち私も説明しにくいのですが、家操様は流言や噂という情報の広まり方や集めるのに気を使っている方なのだと思います。忍びを重用するのも情報を集めるためですし」
「ふーん、まぁ私にとっては娯楽になるから良いけど」
私は弓道場に移動するのであった。
「絡繰弓?」
「はい、津田家の弓は普通の弓ではなくこちらの弓が基本になっていますね」
私は弓に滑車が付けられた弓を手に取る。
滑車が付けられているだけで他に違いは無さそうだけど……。
「引いてみれば違いに驚きますよ」
大喜に言われて弓を構えて引いてみる。
「おおお!?」
いつもより力を入れなくてもすんなり引けるし、弓を構えていてもいつもより安定する。
そして弓を放つといつもよりも矢が速く放たれ、狙った位置よりも少し上に命中する。
「お見事」
「なにこれ!? なにこれー!? 凄い軽く引いたのに強く飛んでいく!」
「絡繰弓は滑車の力で引く時は軽く、放つ力は強くなる弓でございまして、剛の者以外はこの絡繰弓で鍛錬をします。実戦でもこれを使う兵も多いのですよ」
「へぇ……欠点とかは無いの?」
「滑車の部分が壊れやすくなっていますので、戦で乱雑に扱えば簡単に壊れてしまうのが欠点です。頑丈さは通常の弓に劣ってしまうのです」
「なるほど……でも訓練とかには良いね。女の私でもここまで気持ちよく矢が放てるのは気分が良い!」
「気に入ってもらえて良かったです」
すると私の後から誰かが弓道場に入ってきた。
「ん? あれ? おーい望!」
「やぁやぁ淡、君も弓術の鍛錬か?」
現れたのは貴族出身で家操様の側室仲間である望だった。
「貴族の望も弓術やるんだ」
「貴族だったのはもう過去さ、武家に嫁いだのだから武家の習いに慣れなければならないし……ここの食事は美味しすぎてね。食が細かった私もおかわりしてしまって肉付きが良くなってしまいそうだよ」
「肉付きが良い方が良いんじゃないの?」
「家操様はある程度は肉付きが良い女性は良いらしいが、引き締まった女性の方が好みらしいし、適度に運動をしていたほうが安産になりやすいと五位様が仰ってね」
「五位様……尾張の公卿様か」
「散位だけど教養のある立派な人だよ。家操様の師匠でもあり、私の師でもある」
「へぇ……家操様とは前から繋がりが?」
「いや、私が五位様にお世話になったのは今川が滅んでからだから、その頃家操様は常滑の領主だし、幼かったからあまり会うことはなかったね」
「そうなんだ」
「でも津田家は凄いね。武家の城ってどこもこうなのかい?」
「いや、小田原城はこんなに便利ではなかったね」
「家操様が特別なのか……うん、良いところに嫁いできたかな」
「それは私もそう思うわ」
互いに弓術に励み、一刻半(3時間)。
汗を拭いて少し休んでいると侍女から奥方達で茶会をやるのでお誘いが来ましたがと言われたので、奥ノ院の広間に集まる。
「あらあら」
「来たわね!」
「新人3人もそろったわね……お茶会にしましょうか。あぁ、そんな緊張しなくて良いのよ。お茶を飲んでお菓子を摘んでお喋りをする場所なのだから」
小麦様にそう言われて、私達は用意された座布団の上に座る。
侍女達が奥方全員にお茶の入った湯呑みを置いていく。
「こ、これは……」
茶器に疎い私でもこの茶器……湯呑みは超高級品だと分かる。
乳白色かつ光沢があり、普通の湯呑みとは違い触っても熱くないように持ち手部分がある。(普通のティーカップ ボーンチャイナ製)
菓子が入った平皿にも恐らく同じ土を使った乳白色で光沢のある物が使われている。
私には価値を正確に理解できないが、さっき喋った貴族出身で目利きがある程度できる望が真っ青な顔をして冷や汗をめちゃくちゃかいているのでどんだけヤバい品なのだろうか。
「こ、この茶器は」
「ああ、浜松で新しく量産される茶器や皿になるわ。先行量産品を貰ってきたの。あまり気にしちゃ駄目よ。茶器はあくまで菓子や茶の味を引き立てる物だから」
と千秋さんが言うが、そうは言っても1皿で何十貫するか分からない皿を普段使いするのは気が気でない。
「ではいただきましょうか」
先輩奥方の4人は普通に茶会を始め、私達新人3人は手を震わせながらお茶を飲む。
「「「!?」」」
飲んでみたお茶は今まで飲んだことの無い味で甘かった。
「甘いですね」
「紅茶と言ってね、茶葉の新しい飲み方らしいわ。普通の茶葉が収穫したら直ぐに蒸して綺麗な緑色のままにするのに対して、こっちは収穫した茶葉を一度しおらせて、揉み潰して茶葉が褐色になるまで乾燥させてできるのよ。普通の茶葉が年に1回しか収穫できないところを、紅茶は生えた茶葉を次々に取るから年に3回から4回収穫できるらしいわ。それに砂糖や蜂蜜をいれるとこんな味わいになるの」
「さ、砂糖ですか……」
砂糖はとてつもなく贅沢品だ。
それを惜しげもなく使うなんて……
「あ、私が焼いた焼き菓子にも砂糖を少々使ってるわ。みかんで作ったジャム? ていう漬物か蜂蜜を付けて食べてみてね」
恐る恐る霞さんが作った焼き菓子を食べるとこちらも甘い。
「お、美味しいです」
「それは良かったわ!」
金持ちだと思っていたけどここまで凄いとは……津田家恐るべし。
金をそのまま食べているような感覚に陥る。
私も美味しいというより恐ろしいという気持ちになっているし、望は真っ青通り越して真っ白に、隣の巴は場違い過ぎるためか震えが止まらなくなっている。
「巴大丈夫?」
「だだだ、大丈夫です」
カタコトみたいになっているが本当に大丈夫なのだろうか。
北条の姫として上杉の姫に優しくできるか不安だったが、この家では新人3人で協力しなければ生きていけないとも思った。
価値観がおかしくなる。
「望ちゃん、淡ちゃん、巴ちゃん、城はどう?」
「とにかく凄いとしか……北条の小田原でもここまで便利で快適な城は無いかと」
「春日山でもそうです」
「僕は初めての城なので……やっぱり他の城とは全然違うので?」
「家操が作る城はだいたいこんな感じね」
というのは一番長く家操様と苦楽を共にした智さんだ。
何気に産まれた時からの付き合いらしい。
「農民だった頃の家操様のお話を聞いても良いですか?」
「そうねぇ……発明がとにかく得意で、最初は川魚を取る罠を作ってたわね」
智さんの話を聞くと本当に家操様は農民から成り上がったというのがよく分かる。
織田家は農民だろうが能力があれば出世できるらしく、家操様の義弟……智さんの弟の秀吉さんも家操様の力添えは多少あったらしいが城持ちになったし、家操様についてきた農民達がいまでは津田家の重鎮をやっているらしいから、出身の中村は農民の出世村として尾張だと伝説の村扱いらしい。
他にも常滑で家操様に敵対してほぼ族滅になりかけた一族が海軍の棟梁に成り上がったり、三河で没落した武家が家操様のお陰で再び裕福な暮らしができるようになったりと家操様には親族や旧臣と呼べる人が皆無なので成り上がり伝説ばかりらしい。
信長様に家操様が認知された時も刀を持った暴漢を素手で倒したことで認識され、更に雑用を行う中で気に入られて、武功を立てて出世したという庶民から憧れの人、蹴落とすのではなく自らの力で成り上がった人というのが一般的な家操様の評価だ。
義に厚く、同盟の北条の為に飢饉の時には安く米を売り、窮地に陥れば助けてくれる。
良く出来た人だ。
智さんから聞く家操様は昔から凄く、神童と村でも呼ばれていて、智さん曰く、家操様が出世するのは当たり前と村の皆も思っていたらしいし、付いていけば自分達も出世できるかもしれないと思っていたらしい。
事実付いてきた皆出世している。
「私も本来なら今頃畑を耕して農民の旦那と結婚していた生活だったかもしれないけど、家操が全部変えたからねぇ。感謝しているよ。子沢山なのもね! あんたらも頑張りなさいよ。今年は体ができてないから避けられているけど、来年からは私達も歳で産みにくい体になってきてるからね! 家操は夜凄いから覚悟しておきなさい」
「「「は、はい!」」」
そんな話をしながら茶会は進んでいくのだった。
もう1話続きます