皆の意見や知識で動かせ戦国物語   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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1562年 家操29歳 防諜

 夏のある日、俺は多聞丸の屋敷に出向いていた。

 

「家操様、ここの防諜は完璧でございます。何を言っても外に漏れる心配はございません」

 

「うむ、はぁ……身分が大きくなると気をはらなくてはならなくてな。俺の一言で経済が大きく動くかもしれんからな」

 

「我ら忍び衆一同も心得ております」

 

 ヤカンに入れた麦茶を湯呑みに注ぎ、俺と多聞丸は話し始める。

 

「工場地帯の結界はどうなっている」

 

「北条の風魔の侵入は無くなりましたが、武田と思わしき忍びが侵入を試みることはあります。今のところ小物が盗まれることはございましたが、大物……特に旋盤は盗まれぬように細心の注意を払っております」

 

「まぁ基本地面に固定されているし、それごと盗まなければ技術解析もできぬ品だからな」

 

「まぁ工場地帯に侵入する賊は稀です。それよりも城に侵入する賊が多いこと」

 

「城か……妻子を人質にするつもりか?」

 

「いえ、どうやって攻め落とせば良いか城の穴を探していると見ます。妻子には我々忍び衆の侍女や護衛衆が命を課して守りますので安心してください」

 

「それは大丈夫だ。信頼している。それよりも城に賊が入り込んでいるのはどうなっている」

 

「既に15名は絞めました。伊賀や甲賀で競い合って技量を高めた戦闘を主目的とする忍びが地方の忍びに負けるわけございません。暗視もろくにできぬ者ばかりでしたので見つけ次第始末しております」

 

「次だ、他の作物はどうでも良いが、てん菜だけは諸国へ持ち出しは禁じているがどうなっている」

 

「農民達も少し高く売れる大根やカブの仲間だと思っており、砂糖の原料になるとは気がついておりません。やはり村々の物々交換で少しずつ広まっておりますが、砂糖になるとは気がついていない様子。砂糖の製法を知っているのも忍び衆が厳重に管理しております」

 

 多聞丸は続けて

 

「しかし、大黒屋の倅達がじゃがいもや林檎をばらまき始めましたが良いのですか?」

 

「食料は戦略物資だ。それは今も昔も変わらない……が、飢えが激しい北陸の子供達を飢えから救おう、金が全く無くて娘を売らなければ生活できない家族に林檎を植えさせることと芋で救えるなら俺は良いと思う。偽善かな」

 

「いえ、そういう甘さがあるから我々忍び衆は家操様に命を預けられるのです」

 

「そうか……」

 

「しかし、芋も津田家が広めた物であることには代わりません。何か罰を与えるべきでは?」

 

「多聞丸、俺は大名か?」

 

「はい?」

 

「俺はあくまで(織田)信包様の筆頭家老だ。そして信長様の部下だ。信長様が自由な商いを広めているのに商人を縛るのは勝手に関所を建てるごとき行いだ。俺が自由にやれているのは信長様と信包様の裁量の範囲内だからだ。だから津田家の領分を超えた法令や罪を犯してない商人を罰することはできんよ。てん菜だって砂糖を作る技術が秘匿されているだけで育てて勝手に食べるだけならどこの誰が作ろうが構わない」

 

「多聞丸、それよりも漏れたら困るのは他にあるだろ」

 

「硝石の製造法等でしょうか」

 

「ああ、津田家が秘匿しているのは基本技術だ。それも軍事に直結するな。硝石の製造法、旋盤の製造法、砂糖の生産法、この3つだけは軍事面や価格崩壊を起こす可能性から秘匿する必要があるが、別に火縄銃や大砲の技術も戦で使っていれば漏れてしまうものだし、末端の兵が他国に売る可能性がある。そうなっても発射するための火薬に必要な硝石、弾丸やライフリングを量産することの出来る旋盤の技術を押さえておけば他の技術が漏れても対処は可能だ」

 

「は!」

 

「それにな、いくら東北が力を付けても織田家を止めることは無理だ。あの複雑に絡み合った血縁関係で全く動けなくなっているからな。というかあの地域が発展しないと金が流れん。東北は砂鉄や銅等の鉱物資源の産地でもあるからある程度成長して人口が増えてくれた方が好ましい」

 

「出過ぎた真似を致しました」

 

「それに俺も信長様も天下統一は通過過程でしか無い。目的は日ノ本の拡大だ。人が増えるには20年はかかる。20年あれば信長様は天下を掴むぞ」

 

「なるほど……家操様の好きな投資ですな」

 

「ああ、投資だ。人へのな」

 

 

 

 

 

 多聞丸の屋敷から帰りながら考える。

 

 そもそも戦国時代の防諜で技術流出を防ぐのは難しい。

 

 それこそ技術を完全に秘蔵しようとしたら隔離都市でも作らないといけない。

 

 それをやったのが前田家の五箇山合掌の里の火薬製造だし、生産拡大を常に行う津田家で完全な技術秘匿は不可能。

 

 熱田や津島では石鹸工場を移転する際に一部工員が引き抜かれて製造が始まったりしている。

 

 まぁ米油の製造過程で出る廃棄油やオリーブオイルや椿油等の油の種類を変えることで大量量産と高級路線の双方に舵を切って価格競争で商売敵を倒しまくっているが……。

 

 俺は商売の自由競争を否定する気は無い。

 

 自由競争が停滞すれば新技術の開発も滞るし、座による値段の維持が発生するからだ。

 

 まぁ座も座で無いと困る場合もあるが、信長様は一度座を解散させて商売の競争をさせている。

 

 それが楽市令だし、自由競争によって新興商家の台頭で莫大な利益を享受している信長様も辞める気は無いだろう。

 

 俺も大黒屋を優遇しているように見えるかもしれないが、実際取引している商家は300を超える。

 

 ただ一番力を付けた商家故に諸国を跨る交易を任せているが、大黒屋も単独で利益を独占するのではなく俺の行っている商売の規模の拡大……パイ(業界全体)の拡大による利益の分散に理解を示してくれるから今の立場があるし……。

 

 ゲームで言うと自由経済、職業軍人、実力主義、宗教分離が津田家の家のスキルになるだろう。

 

 津田家というより織田家が上記のスキルをしているから家臣の俺もそれに従うしか無く、その中でスキルを最大効率が出せる産業構造に領地を改造したのが今だ。

 

 そりゃ商人が自由にしているのだから技術は漏れる。

 

 しかしそれ以上の銭と火力で殴る戦いができるのが織田家の強みだ。

 

 そもそもじゃがいもを輸出禁止作物にもしてないしな……育て方間違えれば大飢饉が発生する劇物だし……大黒屋の息子その危険性も教えてるんだよな? 

 

 じゃがいも壊滅からの米不足でじゃがいもで食事にゆとりができたから子供が増えたタイミングで米とじゃがいもが飢饉で壊滅したら……うん、考えるのはよそう。

 

「仕事仕事……」

 

 俺は城に戻って政務に注力するのだった。

 

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