皆の意見や知識で動かせ戦国物語 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「本当に甲斐は鉱石の宝庫だな」
「その枡に入った黄色い匂いの強い粉は何ですか?」
「これは硫黄。火薬の原料の1つだな。硝石は自家生産だったが、硫黄は北条や他国の輸入に頼っていたから、これで火薬の完全自給ができるようになったよ」
金山の数カ所は北条に譲ることになったが、硫黄を産出する小串鉱山を始め、銅鉱山や亜鉛鉱山、秘湯が湧き出る温泉地帯は抑えることが出来ていた。
「あと温泉からこれが取れる」
岩室に俺は温泉から採取できる白い粉を見せる。
「何ですかこれ?」
「重曹と言ってこんな事が出来る」
俺は硝子コップに重曹とレモン汁、砂糖を少量と水をたっぷり入れてかき回すとシュワシュワと泡が沸き起こる。
「飲んでみ?」
「あ、どうも……!?」
コホコホと炭酸の刺激で少しむせてしまうが
「何ですかこれ!? 口内に刺激が溢れ出て、レモンの酸っぱさと砂糖の甘さでとても美味しいですが……何ですかこれ!?」
「炭酸汁(炭酸ジュース)だな。重曹を4分の1匁と果汁を少々入れると混ざり合う時に泡が発生する。それを水に溶かし、砂糖で味を調えればこれが出来上がるってわけだ。材料費的に温泉街で作れば2文もかからないと思うがどうだ?」
「温泉街の名物になりそうですね!」
「他にはこれだな」
「酒饅頭ですか?」
「いや、酒粕(酵母)の代わりに重曹を入れて蒸した饅頭だ。塩餡が入っているが」
「うん、これも美味しいですね」
「で、これに野菜や鶏肉等を味付けした具を蒸した肉饅がこちら」
「肉饅ですか……おお、ホクホクしていますし腹にたまりますね」
「小麦粉と重曹、あれば酒粕を少量入れて味噌で味つけした具を詰めて蒸すだけ……重曹は生地を膨らませる効果もあるので上手く使えば酒粕代わりになるんですよ……少し匂いが付くのでネギ等の臭い消しを加えると更に良いかもしれませんが」
「十分、重曹を使った特産品がこれで作れそうです。小麦粉を使った料理って他にありませんか?」
「そうですねぇ南蛮料理でパスタと呼ばれる小麦粉で作った麺を茹でた料理がありますよ!」
あとはほうとう汁やじゃがいもを使った酒(アクアビットやじゃがいも焼酎)を教える。
「パンやうどん、饅頭以外にも小麦を使った料理っていっぱいあるんですね」
「なんなら米より多いかもしれん。俺も南蛮料理は流れてきた書物を読んだくらいだけど」
「もしそういう書物があるのなら写本したいのですが……」
「俺の写本したやつなら今度持ってくるよ」
「やった!」
秋になり、芋や小麦が豊作で、浜松や尾張各地から安く米が流れてくることで米を作らなくても米を食っていけることがわかり、甲斐の農民達は喜んだ。
更に馬や牛の牧場や養鶏場を移転させたことで、食肉も広がりを見せて、肉を使った創作料理が数々作られることになる。
あと果樹園の本格的な移植も始まり、ちゃんと育てば養蜂もできるだろうと思われた。
「うう、それでも赤字だ……」
「鉱物の採掘が火薬を使うことで採掘量が増えているし、酒が完成する来年からはトントン、果樹園や養蜂が稼働すれば黒字予定か……まぁこの赤字は初期投資として割り切るしかねーわな」
甲斐滞在5ヶ月を超えて、こっちも遠征費で圧迫されているし、居城に帰れなくてストレスが半端ないが、堪えて岩室の屋敷で生活していた。
「そう言えば三好長慶が亡くなったらしいですね」
「三好長慶の兄弟も殆ど亡くなっていますから三好政権は機能不全を起こしたらしいな。まぁ将軍様が居るからまだ致命的な事は起こってないがな」
「でも三好が勢力を減衰させたということは次は六角ですかね?」
「いや、六角は観音寺騒動で内紛が起こって家臣と当主の主従関係が崩壊しているからな……信長様も機会があれば介入するでしょ。信長様は本気で日ノ本の武力統一狙っているし」
「なるほど……あれ? それならば北条はデカすぎるのでは?」
「畿内と中部地方の大半を押さえて、あとは中国地方経由で博多と太宰府を押さえれば抵抗できる勢力は無くなるから、あとは国替えを行って既存勢力の弱体化かな~。俺も浜松の利権がでかすぎるから将来の整備対象だろうけど」
「あれ? 私は?」
「岩室は信長様から甲斐一国を任せるって将来言われているから国替えは無いだろうな。加増としても北条と交渉して甲斐半国の残りを加増されるんじゃない?」
「なるほど……」
「まぁ北条も今がでかすぎるだけだから最初敵対する姿勢だけして本気で潰すことはせずに伊豆、相模、武蔵三国に抑えられる程度で済むんじゃね? その三国なら100万石あるだろうし……多分北条の監視として下総、上総、安房三国を合わせた大名置くんじゃねぇかな〜交渉次第では常陸含めた150万石にするかもだけど……」
「関東に誰が入るんですか?」
「……今のままだと俺かも……もしくは東北のどこか……浜松は没収だろうなぁ……」
「それでも良いんですか?」
「まぁしゃあないだろ。北条と上杉を東から抑える家は必要だし……北条と血縁だから駿河に信包様が転付で、織田血縁で北条を抑え込むって感じかもしれませんし」
「それは信長様の考えなのですか? 津田殿の力量なら京にもっと近い位置に所領を移すのでは?」
「いやいや、畿内一帯は最終的に織田家直轄地にすることは考えているらしいからそれ以外に譜代家臣を配置するとして俺は東国担当と言われているから……それで俺の権益を加増転付を考えるとそこら辺かな~って考えてね」
「なるほど……そこまで考えられてですか……ん? 畿内を織田家の領地に? あれ室町はどうなるのですか?」
「時期をみて潰すんじゃない? 正直邪魔だし」
「お、おお……」
「そもそも信長様の目標は日本の拡張なので日ノ本の外に所領を拡張していく事業が始まりますからね。あーそうなると北条を関東から東北に転付して東北を蝦夷地に転付の可能性もあるか」
「蝦夷とは米が作れない不毛の地だと聞いていますが」
「いや、南部では頑張れば作れる地域もある。畿内と中部地方丸々くらいの広さが蝦夷はあるし」
「それほど広いのですか」
「まぁ開拓事業は凄まじく面倒くさいから俺はやりたくない。できなくは無いけど……」
「なるほど……いやでも甲斐一国をもらえたとしても地獄のような領地経営を強いられる事になりますが……」
「とりあえず甲州街道の整備も冬の間に始めましょうか。さすれば物流も良くなるので商人の行き来が増えますから」
「融資してください……金がたりません……」
「仕方がないなぁ岩室殿は〜特別ですよ~」
そんな話しばかりしながら粛々と甲斐の開発を行うのであった。