東方庇護録   作:まほろばのーぶる

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第13話:巡る運命、廻る歯車


Count Scarlet's perspective

 

 能力で見た運命の通り、悪魔の魔力水晶を破壊した狼男を館の外のまどいの森に追放して、執務室に戻る。

 運命が改変されていく様子の狼男を見て、何だか少し羨望に似た感情を抱いた。

 

 ——変わっていく運命。

 ——動き出す物語。

 

 それは僕が長い間、渇望し続けてきたものだ。

 

 廊下を歩きながら、僕は自分の胸の内に湧き上がる感情を確かめる。

 権能を失った喪失感よりも、予定調和から解放された安堵感の方が、遥かに大きかった。

 

 ——もう、あの絶望的な未来を見なくて済む。

 ——もう、無力感に苛まれることもない。

 

 執務室の扉を開けると、椅子にもたれかかって待っていた悪魔が、紅い瞳でこちらを見つめてきた。

 

 いまだに改変されつつある運命に困惑しながらも、溢れ出る期待感を抑えられず、スキップしながら友人の悪魔に報告する。

 

「あの不思議な少女と関わった狼男を中心に、運命がどんどん改変されていく……もしかすると、彼女が僕たちが求め続けていた存在なのかもしれない」

 

「それはそれはよろしいことです〜。それにしても嬉しそうですね〜伯爵様。……私はこんなちんちくりんな姿にされちゃいましたのに〜……」

 

「……ご、ごめんて。……それにしても随分と可愛らしい姿になっちゃったね」

 

 律儀に執務室の僕の椅子にもたれかかっていた悪魔の姿を見て、内心驚いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 悪魔の姿は、先程と比べて綺麗な真っ赤な長い髪や瞳は変わらないが、背中にある悪魔の翼は一回り小さくなっていて、体格も随分と幼い姿へと変化していた。

 

「……まぁ、これは避けられる運命ではなかったようですし、仕方がないことですよね〜。それでも、こうなるって先に教えてほしかったですよ〜……まったく〜」

 

 小柄な少女の姿に変化した悪魔が、小さくなってしまった身体を自分で抱きしめながら、ちょっと恨めしそうな目でこっちを見てくる。

 

「……ほんとにごめんて。あとで埋め合わせはするよ。……でも、これで不思議な運命の歯車が回り出したようだよ。その証拠に、君がそんな姿になっちゃったのは()()()()()()()()()()()()()()からね」

 

「え!? 伯爵様の能力でも分からなかったんですか!?」

 

 彼女は付き合いが長いから、僕の能力を誰よりも信頼していたのだろう。

 とても驚いた様子で呆然としている。

 

「びっくりだよね?」

 

 【運命を覗く程度の能力】が徐々にうまく機能しなくなっていく。

 今まで何もせずとも、自分の周囲の未来の運命は否が応でも能力で知らされていたのに、今では知ろうと思わなければ能力が発動しなくなってしまった。

 さらには覗き見える運命の光景も、まるでモヤがかかったかのように見えにくくなっている。

 

 ……それでも、権能が破壊され、自分の能力までもが弱体化してしまっている状況なのに——僕はそのことが嬉しくて仕方がないかのように、未来が、予定調和が見えなくなったことに感謝すら覚えている。

 

 権能が破壊されたことに危機感を持たないことは【調停者】としては失格だろうが、このことは今まで【予定調和】という【運命】に縛られていた僕には、救済とも言えるほどに嬉しいことなのだ。

 

 それに……あの少女は……もしかして……遠い未来に予見されている【終末】にも変化を与えてくれるのかもしれない。

 

「……さてと、じゃあ、僕は狼男が連れて来る謎の少女とカリスマ溢れる初対面を演出してくるよ。……君には悪いけど、一応この執務室でもう一度待機しておいてくれるかな?」

 

 そう言って、小さくなってしまった悪魔にお願いをする。

 すると、小さくなった悪魔はニコッと屈託のない……ような可愛らしい笑顔を浮かべて、僕の服の裾をきゅっとつまんできた。

 

「分かりました〜。……でもその前に……」

 

 ——あ、まずい。

 

 「じゃ、行ってくるね」

 

 悪魔が何かを言いかける前に、服の裾を掴んでいた悪魔の手をサッと振りほどいて、足早に執務室を出発しようとする。

 

 ——しかし、回り込まれてしまった。

 

「伯爵様? 行かれる前に1つのお願いと、先程埋め合わせをすると言っていた1つの対価をいただきたいです〜」

 

「……」

 

 ……まずい。

 この悪魔に借りを作るとろくなことにならないし、どさくさに紛れて逃げちゃおうかと思ったが——流石、長い付き合いなだけあって、逃げる気配を感じたのか、逃がしてもらえそうにない。

 

「……じゃ、じゃあ、まずはお願いから聞こうかな?」

 

「結局、私の【魔力水晶】を破壊したのは……」

 

 狼男です!

 

 狼男には悪いが即答しておく。

 見えた運命では、追放したはずの狼男がこの館に戻ってきていたし、黙っておく必要もないよね……。

 

「やはり、狼さんでしたかぁ〜。後で狼さんにも対価を貰いに行くとして〜……では、伯爵様には私をこんなはちゃめちゃな運命に巻き込んだ対価をいただきますね〜……」

 

 「……ゴクリ」

 

 問題はこれだ。

 こいつの対価は、まず間違いなく今の状況に対して最悪なことを望むことが多い。

 

 長い付き合いなだけに、一番被害を被っている僕が言うんだから間違いない。

 

 この間は、人間国家に依頼された辺境で暴れていた野蛮な吸血鬼共の粛清が面倒くさくて、こいつに丸投げで任せたら、その対価として僕に1年間、女の子が着るようなひらひらとした可愛らしい服を着ることを強制してきたし……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ついこの前も、めんどくさそうな人間との協定の話し合いをこいつと()()1()()()()()()()()()に押し付けたら、()()()()()()が何故か持っていた、ふ、ふしだらなピチピチの薄い謎の服を着させられて、真夜中の人里で1日徘徊させられたし……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 …………とにかく、こいつに対価を要求された時は、だいたいろくなことに……。

 

「これから100年間、お客様や家臣に対して、吸血鬼の伯爵としてカリスマ溢れる口調で話してください〜」

 

「……へ? それだけでいいの?」

 

 ……あ、あれ?

 思ったより普通のお願いだった。

 

 それに、家臣相手にはいつも吸血鬼の伯爵としてカリスマ溢れる口調を意識した話し方をしているし、こんなの全然簡単に……。

 

「一人称は【わし】、それで、語尾に【のじゃ】とか付けてみましょうか〜」

 

 ……どうやら簡単ではなさそうだ。

 

「……あんまり分からないけれど、それってほんとにカリスマっぽい?」

 

「えぇ〜。もちろんですよ〜伯爵様。これからお客様が来られるのでしょう? 流石に初対面、自己紹介の際にカリスマ溢れる口調で話してしまうと相手を萎縮させてしまうでしょうし〜、自己紹介後の会話からカリスマを意識して、一人称は【わし】、語尾に【のじゃ】と付けてみましょうか〜」

 

 ……悪魔がニコニコ笑って、すごく生き生きとし始めた。

 

 ……絶対カリスマっぽい口調じゃないな、これ。

 でもまぁ、拒否権はないし仕方ないな……。

 

「……分かったよ。これから100年間はその口調で話し続けると誓うよ。とりあえずその契約を結んどいてね」

 

「……はい〜。分かりました〜。伯爵様〜」

 

 最近顔を見せない古い友人を思い出す、胡散臭そうな笑みを浮かべながら、紅い悪魔は椅子に座って先程言った契約内容の契約書をしたため始めた。

 

 ……怪しい。

 あとで契約書をちゃんと確認しておかなければ……。

 

 悪魔への対価の支払いは、概ね【契約】によって支払われる。

 悪魔は【契約】を司る存在のため、悪魔にしか【契約】を結ぶことはできない。

 そんな悪魔にとっての【契約】は、人間にとっての【信仰心】や妖怪にとっての【畏れ】と同じように、自分の存在意義としては大事なものらしい。

 

 だからこそ、本来、人間たちや家名を持つ吸血鬼お抱えの悪魔達から送られてくる大量の契約書の確認を、この悪魔に任せたいのに……。

 他人の苦しむ姿を見たい、といったもっともな悪魔らしい趣味を持つこいつは、あえて大量にある周辺国家や吸血鬼達との契約書の確認を僕にさせてくる。

 

 こいつほどしっかりと悪魔やってる悪魔は見たことがない……。

 

 そうしてそんなこんな時間が過ぎていたら、不可思議の運命の役者としての僕の登場時間が近づいてきたようだ。

 

 契約書をせっせとこしらえている悪魔を尻目に、執務室を出て紅魔館の門の近くへと移動する。

 

 夜の廊下を歩きながら、僕は改めて思う。

 

 ——不思議な少女によって、変わるはずのない【予定調和】の未来が変わった。

 このことは、この世に存在してから今まで変わることがなかった【予定調和】に絶望していた僕に与えられた——希望だ。

 

 だから運命を変えられた狼男に嫉妬をし、少女が僕や、この館の運命も変えてくれると期待もしている。

 

 何でも見える【権能】による退屈に耐えかねて、出て行ったっきり帰ってこなくなった——困った愛しい放浪者。

 

 近い未来、【予定調和】として勃発すると予見されていた妖怪と人間の大戦争。

 

 そして、その後訪れる全てを消滅させ、世界を無に帰す破滅の光による終末。

 

 今までの僕は、ただただ、変わり映えのないそれらの悲劇を、観客席から見ているだけだった。

 そんな僕の不甲斐ない【運命】を変えてくれるきっかけを、この不思議な少女は与えてくれた。

 

 ——あとは、僕が勇気を出すだけだ。

 

 館の正面玄関へと続く廊下を抜け、重厚な扉を開ける。

 外に出ると、満月の光が優しく僕を照らしていた。

 

 先程までとは違う、希望に満ちた月明かり。

 

 門へと続く石畳の道を歩きながら、僕は胸の高鳴りを感じる。

 これから出会う少女は、一体どんな存在なのだろう。

 そして、彼女は僕たちに何をもたらすのだろう。

 

 期待と不安が入り混じった感情を抱きながら、僕は門の前で立ち止まった。

 

 能力を使って、狼男と少女の接近を確認する。

 ——もうすぐだ。

 

 深呼吸をひとつ。

 そして、僕は覚悟を決めた。

 

 変わらない運命に縛られた日々は、今日で終わる。

 これからは、自分の意志で未来を切り開いていく。

 

 そう心に誓った瞬間——門の向こうから、2つの気配が近づいてくるのを感じた。

 

「着きました。ここが、私が以前お世話になっていたご主人様……スカーレット卿の住まう館、紅魔館です」

 

 随分と可愛らしい声になった狼男の声が聞こえる。

 そして、もうひとつ——不思議な、優しくて柔らかな、少女の気配。

 

 決心と勇気を胸に——今まさに館の門をくぐって来訪してきた2人の少女に向けて、僕は足をもう一歩踏み出した。

 

「ようこそ、紅魔館へ」

 










【あとがき】

第12.13話です!
今回少し変更点があり、スカーレット伯爵の能力を【運命を見る程度の能力】から【運命を覗く程度の能力】に変更しました!

今話は主人公に対する第三者サイドのお話として伯爵様サイドのお話でした!
第一章はこういった主人公以外の視点から主人公がどのように映っているのか詳しく描写するために、主人公以外の視点が多くなっています。
といいますのも、本作の主人公アズールは記憶喪失という特性を持つ以上、主人公視点での地の文でも主人公の謎さ加減が強すぎて作者も描写を執筆するのに困惑してしまうので、第三者視点から見た今の状態のアズールを描写しています!

そして、旧作に引き続き、スカーレット伯爵は主人公の面倒を甲斐甲斐しく見守る面倒見の良いお兄さんポジションで、ヴァルターと同じく不憫いじられキャラで、カリスマ吸血鬼を目指すかりちゅま男の娘吸血鬼です!そして、もう少し後で登場しますが、そんな伯爵と相性の良さそうなSっ気のある夫人:レーヴァが登場します!
お楽しみに!
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