東方庇護録   作:まほろばのーぶる

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第15話:彼女の名前は小悪魔


Asyl perspective

 

 ヴァルターが悪魔ちゃんにもふもふされて疲れ果て、倒れ伏したまま小刻みに震えている。

 その様子を見ていると、少し休ませてあげたほうが良さそうだ。

 

 私も私で魔法について知りたいことがある。

 この間に、悪魔ちゃんに色々と聞いてみよう。

 

「ところで悪魔ちゃん。ヴァルターに魔法を教えていた悪魔というのは悪魔ちゃんの事ですか?」

 

「……うぅ~。アズール様。確かに縮んでしまった今の私は悪魔というより、幼い悪魔みたいなものなので、悪魔ちゃんでも構わないんですけども〜……その呼び方、ちょっと恥ずかしいです〜。あと、ヴァルターさんに魔法を教えたのは私で間違いないですよ〜」

 

 ……おっと、確かに、初対面でいきなりちゃん付けは少し失礼だったかもしれませんね。

 

「では、どのようにお呼びすればいいですか?お名前は何というのですか?」

 

「う〜ん。私は本来、名を持たない悪魔なので、そのまま種族名の【悪魔】と呼び捨てで呼んでいただいても全然構いませんよ?」

 

「悪魔……ですか?うーん……」

 

 ……悪魔。

 その呼び方だと、あまりにもそっけない気がするし、なんだか寂しい感じがする。

 これから仲良くしていきたいし、名前がないとしても、せめてあだ名くらいは……。

 

 ……小さな可愛い悪魔ちゃん。

 

 ……小さな悪魔ちゃん。

 

 ……小悪魔ちゃん。

 

 ……あ、そうだ!

 

「では、貴方のことを小悪魔、【コア】さんと呼ぶことにしますね!」

 

 …………と悪魔ちゃんの見た目から連想して、軽い気持ちでそう呼んでみたのだけれど……。

 言ってから気づいたけど、小悪魔だなんて……逆に、何だかすごく失礼な言い方になっているような気がする……。

 

「っ!?」

 

 コアとあだ名で呼ばれた悪魔ちゃんは驚いたように目を見開き、唖然とした表情でじっとこちらを見つめてきた。

 

 ……や、やっぱり、いきなりあだ名で呼ぶのは不躾だったかな?

 ……なんだか固まってるし……もしかして怒ってる?

 

 ぞくぞく。

 

 ……ん?

 ……あれぇ?

 

「ん!?んぁ!?あぐぐぅぅ!?な、なんか力が抜けるぅぅ……」

 

「……アズール様は色々と規格外なお方のようですね〜。グニールさん以外で私に名を付ける方がいるとは思いませんでしたよ」

 

 ……うぅ。

 ……な、名付け?

 ……も、もしかしてコアという呼び方が名付け判定になってヴァルターに名付けした時みたいにごっそり力が抜けちゃったのかな。

 ヴァルターの時ほどじゃないけど、激痛と一緒に全身から力が抜けるような感覚もあるし……。

 

「……分かりました。私もこれからは名もなき悪魔ではなく、アズール様に頂いた【コア】という名を名乗るようにしますね。アズール様のお力を分けてくださりありがとうございます~。大切にしますよ~」

 

 少し嬉しそうに背中の小さな悪魔の羽をパタパタさせる悪魔ちゃん。

 事故みたいな感じであだ名が名付けになっちゃったみたいだけれど、どうやらコアという呼び方を気に入ってもらえたみたいだ。

 

「ご、ごめんなさい!悪魔ちゃん。私としては軽くあだ名で呼ぶつもりで『コア』と言っただけなのですが、まさか名付け扱いになってしまうなんて……」

 

「いえいえ。アズール様がお力を分けてくださるなんて、むしろこちらが申し訳ないくらいですよ?それに、私としても【魔力水晶】が破壊されて現世での力を失っていましたので、とても助かります。それに人間はともかく妖怪から悪魔に対する名付けは特殊ですし、あまり前例も公な記録がありません。そもそも名付けによる妖力の譲渡のメカニズムは、いまだ解明されていない謎多き研究分野なので、あまりお気になさらず~」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる悪魔ちゃん……もとい、コアさん。

 

 『大体の場合、名付けをしてしまった妖怪側が妖力の譲渡による【喪失の痛み】で狂ってしまったり、そのまま妖力を消失して存在が消えてしまうことが多いのですが……アズール様は流石伯爵様と同格の最上位吸血鬼な様子で平気そうですね~。良かったです』

 

 ——と、コアさんが何やらさらっと怖いことを言っている。

 私もあまり考えないようにしよう……怖くなりそうだから。

 

「改めまして、私は紅魔館伯爵グニール・スカーレット様の秘書兼、紅魔館の書庫の司書を務めております、コアという悪魔です。伯爵様はアズール様のことを大事なお客様……もとい、友人として対等に親交を深めたいとお考えのようですので、何かお困りごとや知りたいことがあれば、遠慮なくお申し付けくださいね~」

 

「ゆ、友人だなんて……すっごく嬉しいのですけれど……な、なんだか恥ずかしいですね……」

 

 初対面で何をそんなに気に入ってくれたのか、伯爵はどうやら、どう考えても他者目線で圧倒的不審者にしか見えない私のことを気に入ってくれたらしい。

 それどころか、『友人』だなんて言ってくれる伯爵とコアさんの真正面からの厚意に、なんだか恥ずかしくなってしまう。

 

 けれど、突然この世界に放り込まれ、記憶喪失の中ではあるが天涯孤独になってしまった私にとって、友人を得られることは正直、すごく嬉しいことでもあった。

 

 ——ここは、お二人の厚意に甘えさせてもらおう。

 

「ありがとうございます!これから、よろしくお願いしますね、コアさん!」

 

「ふふふ。コアでいいですよ~。こちらこそ、よろしくお願いします~」

 

「よろしくです!コア!」

 

 差し出してきたコアの小さな手を、これまた小さな私の手でぎゅっと握り、しっかりと握手を交わした。

 

 その瞬間、コアの表情がふわりと綻び、嬉しそうに背中の小さな羽をパタパタと揺らした。

 なんだか、その様子が友達が増えて無邪気に喜ぶ子供のように見えて、とても可愛らしくて、私も自然と笑顔になってしまう。

 

「それで、コア。実は私、魔法についてすっごく知りたいです!」

 

「おぉ~!魔法についてですか~?」

 

 コアが嬉しそうに目を輝かせる。

 

「はい!さっき、コアが使っていたあのキラキラした魔法、すごく綺麗でした!あれって、どういう仕組みなんですか?私も魔法を使えるようになりたいです!」

 

「ふふふ。アズール様は魔法にとても興味がおありなんですね~。私も魔法は大好きなので、その気持ちがとてもよく分かりますよ~」

 

 そう言ってコアは、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「魔法について、ですが〜……詳しくお話しするとなると、かなり時間がかかってしまいますし〜、今のアズール様は名付けの影響で少しお疲れのご様子です〜。それに〜」

 

 コアがちらりと視線を向けた先には、まだ床に倒れ伏したまま、ぐったりとしているヴァルターの姿があった。

 

「ヴァルターさんも、かなり消耗している様子ですし〜、そろそろ休息を取られた方がよろしいかと〜」

 

「あっ……そ、そうですね。つい魔法の話に夢中になってしまって……」

 

 確かに、コアの言う通りだ。

 名付けの影響なのか、身体の奥底に重たい疲労感が溜まっているのを感じる。

 それに、ヴァルターもまだもふなで腰砕けから回復していない様子だ。

 

「でも、魔法のお話、すっごく聞きたいんです!また今度、詳しく教えてもらえませんか?」

 

「もちろんです〜。アズール様が望まれるのであれば、いつでもいくらでもお話しさせていただきます〜。私も、魔法について語り合える方がいるのは、とても嬉しいですから〜」

 

 コアがにこにこと笑いながら頷く。

 

「ありがとうございます!それじゃあ、次はもっと詳しく教えてくださいね!魔法の仕組みとか、どうやって使うのかとか、色々知りたいです!」

 

「はい~。楽しみにしていてくださいね~。魔法は本当に奥深くて、素晴らしいものなんですよ~」

 

 ——魔法。

 

 その言葉を聞くだけで、胸の奥がわくわくと高鳴る。

 この世界には、まだまだ知らないことがたくさんある。

 

「ところで〜、アズール様。もう時間も夜明けです〜。この月光館には大浴場もありますし、それに入って魔法の基礎的なお話をして今日はもうお休みになられてはいかがですか〜?」

 

 確かにそう言われればそうだ。

 

 名付けの影響なのかは分からないけれど、どうやら今の私は少し疲れているようだ。

 

 それに、今の私は暫定的には吸血鬼。

 

 夜明けと共に眠り、夜更けに起きるのが普通なのだろう。

 

 大浴場もとても楽しみにしていたのだ。

 

 コアとは魔法の話で気が合いそうだし、ヴァルターとももっと仲良くなりたい。

 

 ということで、今日は3人でお風呂に入りながら、ガールズトークと洒落込もう!

 

「で……では、わ……私はその間……館の見回りでも……しときますね」

 

 息も絶え絶えのヴァルターが、這う這うの体で私とコアから距離を取りながら後ずさって逃げようとしている。

 

「もちろん、ヴァルターも一緒にお風呂に入りますよね!」

 

「ヴァルターさん。この館は魔法の力で守られてるので見回りなんて必要ないです~。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ〜」

 

「うぐぐ」

 

 しかし回り込まれてしまった!

 ガシッと両肩に私とコアの手が置かれたヴァルターの顔が引き攣る。

 

 もしかして、ヴァルターは一緒にお風呂に入るのが恥ずかしいのだろうか?

 あんなに恥じらいもせずに堂々と全裸でいたんだから全裸であることに羞恥心がないのかな、とも思っていたのだけれど……。

 それとも、お風呂が嫌いとか?

 

「……いえ、お風呂は初めてなので楽しみではありますよ。ただ、御二方と一緒に入るのは先程の事もあり、少々危険を感じており、怖いだけです」

 

 ……確かにここにいる2人はヴァルターの事を気持ちよくさせてしまった2人だ。

 そんな2人と裸で一緒にお風呂に入るのはヴァルターにとっては怖いのだろう。

 

 ……字面だけ見ると、すごくいかがわしい出来事があったみたいだが、実際はふわふわなお耳としっぽを思う存分もふもふしただけである。

 

「大丈夫ですよ〜ヴァルターさん。もふもふ成分を十分に摂取した今日の私にこれ以上もふもふ成分を過剰摂取する気はないです〜。これ以上もふもふ成分を摂取してしまうと中毒になってしまいますから~。私はただ、皆さんともっと仲良くなりたいだけですよ〜」

 

「そうですよ。ヴァルター。もっと親交を深めるためにも一緒にお風呂に入りましょうよぉ」

 

 そう言う私達2人に渋々といった様子のヴァルターはジト目を私達に向けてくる。

 

「絶対に変な事はしないで下さいね。お願いしますね。絶対ですからね?」

 

 ……絶対しないで、だとか。

 なんだか、変な事して下さいっていう意味にも聞こえてしまいそうな言葉だ。

 

 ふっふっふ。

 そんなに言うのなら、変なことをするのもやぶさかでは……。

 

「お嬢様?」

 

「も、もちろんですよヴァルター!変なことはしません!」

 

「……なら、そんな変なこと考えてちゃダメですよ?」

 

 そう言ってジト目で私を見てくるヴァルター。

 

 そうだった。

 ヴァルターには、ある程度心の声が漏れてしまう能力があるのでしたね。

 

 ……これからは変なことを考えてもバレないように気を付けないと。

 

 そうして考えを巡らせるほどヴァルターの視線がじとじとと痛みを増す中、私たちはわちゃわちゃとした雰囲気で月光館の大浴場へ向かったのだった。

 

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