The perspective of the silver-haired girl?
The butterfly dream still continues
「…………あ。…………じ、人狼に……お、落ちこぼれのはずの、わ、私が……人狼に……」
全裸の美少女の姿で呆然と立ち尽くすヴァルターに、慌てて声をかける。
「ヴ、ヴァルター!?とりあえず何か着ましょう!全裸はマズいです!ほら、こっち向いて!」
けれど彼女はただただ放心状態のまま。
まるで魂が抜けた人形のように、ピクリとも動かない。
さっきまでのもふもふで大きな狼人間から、すべすべもちもちの美少女へ――あまりにも衝撃的な変化に、名付けでヘロヘロだった私も思わず倦怠感を忘れてしまう。
と、とにかく、今はこの子のエrじゃなくて服をなんとかしないと!
慌てて私が羽織っていたローブをヴァルターの肩にかけてあげる。
「と、とりあえずこのローブでも着て……って、丈が足りない!!」
今のヴァルターは私より1回り背が高いから、ローブの長さが全然足りてない。
このままじゃ色々と見えちゃいけないものが見えそうだ……。
せめて、ローブがもう少し伸びれば――。
そう思った瞬間、不思議なことにローブがスルスルと伸びて、まるでヴァルター専用の服みたいにヴァルターをぴったり包み込んだ。
……不思議なローブだなぁ。
でも、今さら何が起きてもそう簡単には驚きませんよ、私は。
空から焼き魚が降ってきても「あ、今日のご飯はこれにしましょう」くらいの反応しかできないくらい奇想天外展開はもう慣れっこですよ!
とにかく、これで美少女の全裸は隠せたし、一安心だ。
「ぐすんっ」
「ヴァ、ヴァルター!?な、なぜ泣いているのですか?」
安心したのも束の間、ヴァルターがその神秘的な赤い瞳からぽろぽろと涙をこぼし始めた。
突然泣き出したヴァルターに、私はどうしていいか分からずおろおろしてしまう。
と、とりあえず、泣いてる子には――
「……よ、よしよし」
「……」
少し背伸びして、ヴァルターの頭を優しく撫でる。
ヴァルターの綺麗な茶色の髪は見た目以上にさらさらで、指先に心地よい感触が広がる。
自分よりちょっと背が高い子の頭を撫でるのは、なんだか不思議な気分だ。
……あああああぁぁぁ!
な、なんかすごく恥ずかしい!!
ヴァルターも泣き止んだけど、きょとんとした顔で私を見てるし……。
泣いてる子を慰める方法が頭なでなでしか思いつかない自分がもどかしい。
しかも、なんだか撫でてるうちに「小さい子をなでなでしたい!」って欲求が出てきちゃって、慰めてるのか自分の欲を満たしてるのか分からなくなってきた……。
罪悪感で、思わず自分をひっぱたきたくなる。
「お嬢様!」
「え!?……あ。うぇ!?お嬢様!?」
小さい子を撫でる至福の時間を満喫……じゃなくて、なんとか思考を切り替えようとしていたら、ヴァルターが突然私を「お嬢様」と呼び始めた。
その言葉に、思わずよろけて転びそうになる私を、ヴァルターが素早く支えてくれる。
さっきまで泣いていた面影はどこにもなく、その動きは驚くほど機敏だ。
「お、お嬢様!?だ、大丈夫ですか!?」
ヴァルターの顔には真剣な心配の色が浮かんでいる。
「ヴァ、ヴァルター。……そ、その……呼ばれ慣れてないので、お嬢様はやめて頂けると……」
「お嬢様」なんて呼ばれるのは、どうにも小っ恥ずかしい。
おぼろげに残る記憶でも私の生活は普通の貧乏家庭のような生活だったし、お嬢様なんて高貴な響きの言葉とは無縁の人生を送ってた気がするし……。
か細い声で上目遣いにお願いしてみるけど、ヴァルターには届いてないみたいだ。
まるで「お嬢様」以外の呼び方など考えられないとでも言うように、真剣な眼差しで私を見つめている。
私ならロリっ子に上目遣いでお願いされれば何でも言う事を聞いちゃうのだが、か細い声だったからか肝心の本人にはそんなお願いが聞こえていないようで……。
「お嬢様!私〖ヴァルター〗は、生涯、貴方に尽くす事を誓います」
ヴァルターは右手を胸に当て、左手を後ろに回し、上半身を軽く前に倒して優雅にお辞儀をした。
まるで何百年も貴族に仕えてきた執事のような完璧な仕草だ。
……どこでそんな作法を覚えたんだろう?
というか、さっきまで全裸で泣いていた子と同一人物だとは思えない。
「う、うぅ。……魔性のロリっ子の上目遣いが効かないだなんて……お、お嬢様は恥ずかしいですよぅ……。あ、あと生涯尽くすとかそんな大層なこと…………うぅ……よろしくです。」
私のことをキラキラとした宝石のような瞳でヴァルターが見てくるので、ヴァルターの魔性の瞳に屈して何でも言うことを聞いてあげたくなってしまう。
「お嬢様!さっそくですが、聞きたい事があります」
「な、なんでしょうか?」
「お嬢様のお名前は、何と仰られるのですか?」
「……あ」
な、名前かぁ……。
どうしようかな……。
前世の名前は忘れちゃってるし……。
前世の名前……。
脳内を必死に探ってみるが、自分の本名だけが霧の中に消えたように思い出せない。
……あ、そうだ!
「……アズール」
「……?」
ヴァルターが首を少し傾げる。
その仕草が、まるで子犬のように愛らしい。
「ヴァルター、私の名前はアズールです!これからはアズールと呼んでください。」
自信を持って宣言すると、ヴァルターの瞳が一瞬輝いたように見えた。
「かしこまりました。アズールお嬢様」
アズール――それは、前世(前の記憶のことをこう呼ぶことにした)でオンラインゲームのアバターにつけていた名前。
本名は忘れてるのに、ゲームのキャラ名だけは覚えてるなんて、ちょっと変だけど……。
まるで自分の本当のアイデンティティはこっちだと言わんばかりの記憶だ。
でも気に入ってる名前だから、これでいいです。
そのゲームでは、確か2人の友人にこの名前をつけてもらった気がする。
その2人は大切な友人だったような……。
「お節介焼きにもほどがある」って、よく呆れられてたっけ……。
……う〜ん。
それ以上は思い出せそうにない。
記憶の糸をたぐろうとすればするほど、逆に遠ざかっていく感じだ。
……まぁ、とにかくこれからはアズールとして、この人生、いや、妖怪生を楽しんでみよう。
……それはともかく。
「ところで、ヴァルター。聞きたいのですが貴方はなぜ、女の子の姿になったのですか?」
さっきまで狼男だったはずなのに、今は綺麗な茶色の髪の可愛らしい美少女。
この変身は一体どういうことなのだろう。
「私にも良く分かりません。1つ言えるとしたら、お嬢様に名前を頂きお力を頂けた事で、私は種族としての狼男から人狼へと進化したようです。これはわたしにとってはとても嬉しいことでございます!お嬢様には感謝してもしきれません!」
ヴァルターは嬉しそうに両手を胸の前で合わせ、目を輝かせながら語る。
「な、なるほど。分からん事だらけですが、とりあえず、進化おめでとうございます」
進化はめでたいことだし、とりあえずお祝いしておく。
でも、狼男だからてっきり男だと思って、執事っぽい名前をつけちゃったけど……。
今目の前にいるのは明らかに女の子。
しかもとんでもなく美少女。
今から改名するのも変だし、ヴァルターのままでいいのでしょうか?
そんな私の心配を察したのか、ヴァルターは小さな体で誇らしげに胸を張って、嬉しそうに宣言した。
「私の名前はヴァルター。アズールお嬢様に生涯忠誠を誓い、お嬢様を最大限サポートする執事です!これからよろしくお願いいたします!」
その後も、好きな食べ物や嫌いな食べ物とか、ヴァルターに質問攻めにされたけど――お嬢様呼びは結局、改めてもらえなかった。
一度、魔性のロリっ子ぶって『お嬢様じゃなくてアズールって呼んで欲しいな♡』とか、語尾に♡が付きそうなくらい媚びた感じでお願いしてみたけど、ヴァルターは「では!アズールお嬢様!」って満面の笑みで呼んでくる始末。
……もう、二度と人前であんな媚びた声なんて出さない。
恥ずかしすぎて、顔から火が出ますって!
結局、諦めてお嬢様呼びを受け入れたところで、ふと気づけば辺りがしらみ始めていた。
夜の闇が少しずつ薄れ、東の空が微かに色づき始めている。
どうやら夜明けが近いみたいだ。
……今の私は、ヴァルターが言うには吸血鬼なんですよね……。
吸血鬼と言う事は、今まで食べたパンの枚数を気にしている某石仮面の吸血鬼のように、日光を浴びると消滅してしまうかもしれない。
ちなみに私は和食派なのでパンは生涯で20枚程しか食べた事が無いけれど……。
……本当にどうでもいいことは覚えてるのに、大事なことが思い出せない記憶喪失ってタチ悪いなぁ。
……とにかく日光でハイに……じゃなくて灰になっちゃうのは絶対にイヤだ!
せっかく第二の人生(妖怪生?)が始まったばかりなのに、朝日で「ギャー!」ってなるのはご免こうむりたい。
「ヴァルター。まずは拠点となる場所を探しましょう」
私は少し焦った様子で提案する。
空が明るくなるにつれ、本能的な不安が胸に広がっていた。
「拠点……ですか?」
ヴァルターは首を傾げ、きょとんとした瞳で私を見上げる。
その仕草があまりにも愛らしくて、一瞬話の続きを忘れそうになる。
「……はい、拠点です! これから生活していく中で、野宿はさすがに日光もあるし、雨ざらしは精神的にもキツいし……。雨風をしのげて、できればお風呂とかあれば最高ですね」
少し焦りながらも、理想の住処について語る私。
日本人だった前世の記憶によれば、お風呂は人生の癒やしだ。
つまり、妖怪生の癒やしになるはずだ。
「分かりました。……1つ質問してもよろしいでしょうか?」
ヴァルターは真剣な表情で、小さな手を胸の前で組んだ。
「はい。なんですか?ヴァルター」
「おふろとはなんでしょう?」
「へ?」
一瞬、耳を疑う。
まさかヴァルター、お風呂知らない系妖怪!?
でもさっき運ぶとき、お花みたいな良い匂いしてたし……。
やっぱり美少女は風呂入らなくてもいい匂いがするのか!?
強すぎる……超ずるい。
これが美少女特権というやつか。
「お風呂はお湯に浸かり、体を洗い清めて、疲れを癒やす場所のことですよ」
できるだけ分かりやすく説明してみる。
「……あぁ!そのことでございましたか!」
ヴァルターの顔が明るくなる。
……良かった。
さすがにお風呂そのものを知らないわけじゃなかったみたいだ。
単に「お風呂」という言葉を知らなかっただけかもしれない。
「……ところでヴァルター、ここは何処で、今は西暦何年になりますか?」
今さらだけど、ヴァルターの常識が現代とズレてる気がしたから、素直に聞いてみた。
「申し訳ありません、お嬢様。せいれき、というものはよく分かりません。ただ、人間が記録している“宗主の起源”を0とした紀年法では、たしか400年ほど経っていると聞いたことがあります。場所は、最近の話だとローマ、ガリアと呼ばれるところが近くにあると……」
……宗主の起源?はよく分からないけど、つまり西暦400年くらいってことですか?
めちゃくちゃ昔じゃないか!!
え、マジで?
タイムスリップってやつですか!?
てっきり【記憶喪失+吸血鬼化(他称)=異世界転生】だと思ってたのに、まさかの過去へのタイムスリップだったとは……。
空気の澄み具合とか、混じり気のなさとか、確かに昔っぽいな~とは思ってたけど、まさかここまでとは……。
しかもここ、ヨーロッパですか。
確かに狼男や吸血鬼っていったらやっぱりヨーロッパですよね。
イメージ通りです!
……それにしても、西暦400年のヨーロッパか……。ふむふむ。
たしかその時代には――
「その時代なら人間達が作った公衆浴場があるはずですよね。ちょっと恥ずかしいけれど、そこに入らせてもらえれば……」
ローマ帝国の公衆浴場!!
あの有名な漫画テルマエ・◯マエで見た通りの世界が目の前にあるのでしょうか!
ぜひ入ってみたいです!!
「お嬢様、我々は妖怪です。人間とは畏れを頂きながら生きていくもの。あまり人間に近づきすぎるのは、お互いに良い感情は持たれないかと……」
ヴァルターは少し心配そうな表情で諭すように言う。
その真剣な眼差しに、私の浴場への期待は一気に崩れた。
そうか、ここでは妖怪と人間は共存できないのですか……。
「む、むぅ、ヴァルターが言うならそうなのでしょうね。……まぁ仕方ありませんね。」
少し残念そうに肩を落とす私に、ヴァルターは優しく微笑んだ。
「それに、身体を洗い清めるのであれば洗浄
その言葉に、私の耳がピクリと反応した。
「まほう?ま、魔法!!?く、詳しく!詳しく教えて下さい!ヴァルタアァァー」
魔法という単語に、私のテンションは一瞬でMAXに!
前世でオカルト研究しながらずっと憧れていた魔法が、この世界では実在するのか!?
「お、お嬢様!?きゅ、急にどうしたのですか!?お、落ち着いて、落ち着いて下さい、お嬢様ぁぁぁああぁ、そ、そこはだ、だめですお嬢様ぁぁ///」
興奮のあまり、私はヴァルターの首元に飛びついて、話の続きをせがむ。
その小さな体は思ったより軽く、抱きしめるとふわふわとした感触が手に伝わってきた。
ついでに、ずっと触りたかったヴァルターの耳をもふもふ!
耳の裏や付け根、真ん中あたりをギュッと押さえて、あらゆる方法でもふもふ!!
うわぁ、ふわふわだぁ……。
なにこの手触り、癒されるぅ……。
「ひゃあぁ!?...///やめ...///ん、んいぃ♡!?」
赤面しながら、頭や耳を撫でられる、中学生くらいの少女の姿のヴァルター。
字面だけ見ると犯罪的でコンプライアンスに引っ掛かりそうだが、今の私の姿も小学生くらいの見た目だし……。
一見すると姉妹みたいな女の子同士がじゃれてる様にみえるはずである。
アウトかセーフかでいえば、これはセウトです!
たぶんギリギリ問題なし!
しばらくヴァルターのもふもふの耳やしっぽを堪能して、幸せに浸っていると――。
ふと、知らない世界に放り出された時の孤独感が、少しだけ薄れていることに気づいた。
ヴァルターにとって私が、妖怪としての死からの救いだったように、私にとってもヴァルターは孤独からの救いだったのかもしれない。
初対面はすっぽんぽんで食われそうになるという最悪の出会いだったけど、いまや家族みたいな存在だ。
……これからも、何があっても守っていきたい。心からそう思う。
なんて言ったって、今世の私はこの地域では敵無しの強者らしい吸血鬼。
ちょっとやそっとの脅威からなら、家族を守れるはず!
だからといって、吸血鬼という立場に甘んじてはいられない。
また、あの時みたいに油断してはいけないのだ。
……………………ん?
……なんだ?
思い出せない記憶が、ふと浮かんでは消えていく。
まるで前世に大切なものを置き忘れたみたいに、思い出せそうで思い出せない。
手のひらからぽろぽろとこぼれ落ちていくような、そんな喪失感。
今まで感じたことのないような焦燥感が、頭の中をぐるぐる巡っては霧散していく。
「お、お嬢様?ど、どうされたのですか?」
少し変な心情になっていた私の気持ちを悟ったのか、撫でられてヘロヘロになっている様子のヴァルターが心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでくる。
「……まあ、いっか」
「あぅ!!……はぁ...///はぁ...///へ、変なとこを撫でないでください///お嬢様!」
なくした記憶に今さらこだわっても仕方ないし、気長に戻るのを待てばいい。
それより、今はヴァルターと一緒に生きていくことに集中しよう。
過去に囚われるより、これからの時間を大切にしていこう。
「お嬢様?本当に大丈夫ですか?なんだか……」
意味もわからずに思案に耽っていた私にヴァルターが顔を赤くして息を荒らげながらも心配そうに問い掛けてくる。
私はヴァルターを安心させるようににっこり微笑んで、ふわふわな尻尾に手を伸ばしながら答える。
「大丈夫です!問題ないですよ?……それより魔法の話を早くぅ!」
「……っ!そ、そこはだめです!しっぽは!ひっぽをしゃわらないでぇぇ///」
変な心配をさせるのはヴァルターにも悪いし、この問題は私自身が背負うべきものだ。
だから、ヴァルターの前ではあまり深刻にならないようにしないと。
そうしてしばらくの間、尻尾をもふられるヴァルターの嬌声が、月夜の草原に静かに響き渡った。
そんなヴァルターの声が響く静かな草原の空の上――。
まんまるなお月様は、夜明けが近づくにつれて、その微笑みを隠すように陰りはじめていた。
さっきまで綺麗だった夜空も、今は星屑たちが夜に逃げる準備を始め、満月はそそくさと舞台から降りるために夜の帳を開け始める。
その月明かりの中、私は一瞬、自分の影が2つに分かれたように見えた気がした。
まるで、もう一人の自分が存在するかのように。
だが、それも一瞬の幻。再び見た時には、ただの1つの影が月明かりに照らされているだけだった。
何か大切なことを忘れている——その感覚だけが、心の奥底に残り続けていた。
【あとがき】
第4話です!
今話ではオオカミ耳美少女となったヴァルターちゃんがさっそく主人公アズールにセクハラされるシーンが多かったです。
そして今話でようやく主人公の名前が登場しました。
以下主人公アズールの簡単なキャラ紹介をしておきます(≧▽≦)
アズール
この物語の主人公であり記憶喪失でもあるので謎多き主人公。
本人は謎多き自分のことに難儀している。
だが、最強メンタルの持ち主であり、今いる世界が異世界だと推測したときにも呑気に異世界生活を楽しもうと考えるほど。
作中ではこの世界における最上位存在である妖怪の吸血鬼とヴァルターから想定されており、身体能力や思考速度などが並外れており、他にも身体スペックは軒並みとんでも性能をしている。
吸血鬼(?)としての思考加速能力と前世からの人間としての精神力、つまりはメンタルが作中最強でありいわゆるチートキャラでもある。
平和主義者なので手荒な真似は基本的にはせず専守防衛的な立ち回りを好む。
能力は
『???程度の能力』