驚愕。端的に表すならこの二文字だろう。
なぜ、エルザがこんなことをするのかわからない。再度混乱の渦へと飲み込まれるライトが、言葉を詰まらせながらも疑問を絞り出す。
得物を顔の前まで持ち上げ、恍惚な表情をするエルザから一歩後ずさってしまうライトとは対照的に、
「おい! どーいうことだよ!」
叫び、前に踏み出してフェルトは声を張り上げた。彼女は黒服の女性、エルザに警戒を強める。
「持ち主まで持ってこられては、商談なんてとてもとても。だから予定を変更したのよ。」
ドス黒い殺気が、血生臭く感じる気配が目の前の女から放たれる。
フェルトが殺意に濡れた瞳に見つめられ思わず下がるのをエルザが腰に手を当て、もう片方で夕日に反射するククリナイフを持ち上げ微笑。
「この場にいる関係者は皆殺し。あなたは仕事をまっとうできなかった。口ばかり達者なだけでお粗末な仕事ぶり」
恐怖で小さくなっていくフェルトを愛おしげに見下して、
「所詮は貧民街の人間ね」
艶やかな唇を動かした。
フェルトの顔が苦痛に歪む。それは恐怖ではない。別の感情が入っているようにも見えた。
この言葉が彼女の琴線に触れてしまったのかわからなかったが、
「てんめぇ、ふざけんなよ!!」
目の前の殺意を忘れるくらいスバルを怒らせがなる原因にはなった。
スバルの叫びにエルザが冷たい視線を向けることで、ライトが怖気付いてしまう。それでもなお彼の口からこの世の不条理を嘆き抗うのは止まらなかった。
「こんな小さいガキいじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!! フェルトだって精一杯強く生きてんだよ! 予定狂ったからちゃぶ台ひっくり返して全部オジャンって、ガキかてめえは! 命を大事にしろ! 腹切られるとどんだけ痛いか知ってんのか、俺は知ってますぅー!!」
──この状況でなんで……?
「……なにを言ってるの?あなた」
今一番同じ思考を持ちたくない相手と心の声がハモってしまった。
だが、そんな気色悪さも放棄するくらい、スバルの注目を集めるという命を投げる行為の方に脳が考えろと強制する。先ほどまで、目の前の交渉相手兼殺人鬼に怯えに怯えた彼がするものとは思えない。それではただ挑発して相手の神経を苛立たせるだけだというのに。しかし、貧民街の泥の件といい、スバルの暴挙にはきっと何か意味があると確信するライトが、この短い時の間に頭脳帯を刺激。
そして気づいた。これは定番ーー決め手となる味方が技を貯めに貯め放つという、某宇宙の帝王相手にやっていたあの行為だと。
「自分の中の思わぬ正義感と義侠心に任せて、この世の理不尽を弾劾中だよ!俺にとっての理不尽はつまりお前でチャンネルはそのままでどうぞ」
「昴、もしかしてあれ!?」
「わかってくれるか来翔! じゃあ時間稼ぎ終了で相棒のために答え合わせだ──やっちまえパック!!」
軽口を叩き唾を飛ばすスバルは勢いのままに拳を突き出し、エルザがハッと顔を上げる。
彼女の動きに釣られるままにライトが銀髪の少女の真上に注目。
「後世に残したい見事な無様さだったね。──ご期待に応えようか」
目に飛び込んだのは立ち尽くす彼女を全方位にわたって取り囲む大量の氷柱。その先端は少女の展開していたものとは違う、対象を穿ち命を奪う殺意マシマシのものだった。
「まだ自己紹介もしてなかったねお嬢さん。ボクの名前はパック。名前だけでも覚えて逝ってね」
直後、全方位から氷柱がエルザに押し寄せ、全身に叩きつけた。それはもはや弾丸の速度。当たった相手の体は穴だらけとなり床に刺さる氷柱は血濡れと化すだろう。室内に白い霧が巻き上がり彼女の姿が見えなくなり、目の前で一人の命が消えてしまったのだと後悔してしまう。それが例え甘い考えだと自覚していても。
そんな心が足を引っ張ったのかはわからないが、
「やりおったか!?」
「そのフラグ立てんなジジイ!」
今まで沈黙を貫いていたロム爺が肝心な時にお約束を口走ってしまうことで自身の失態に気づいたライト。
スバルの叫びに反応するように、
「──備えはしておくものね」
氷の塊が内側から破裂するように破られ、黒い外套を失ったエルザが白煙を切り裂いて飛び出した。大技を受けたとは思えないレベルで軽やかにステップをし長い黒髪を躍らせる彼女に目立つ外傷はない。
「まさか、コート自体が重くて、脱ぐことで身軽になる感じの展開!?」
「敵がキャストオフして強化なんて、なんて理不尽だよ」
声が裏返りかけながらもそれぞれが敵の強化イベントに嘆く。特撮で見た心踊る展開が、敵となればこんな絶望的になるなんて思いもしなかった。
「それも面白いのだけれど、事実はもっと単純なこと。──私の外装は一度だけ、魔を払うことのできる術式が編まれていたの。命拾いしてしまったわね」
懸念に丁寧に応じたエルザが笑みを浮かべ低い姿勢で刃を突き出す。
その刃の先に立つのは大技を打ったばかりの少女だ。リキャストタイムでもあるのかその場で足に根が生えたように動かない彼女の胸に、今まで犠牲者の血を吸った鉄が突き込まれようとした。思考よりも叫びがライトとスバルの口から飛び出したかけた時、
「精霊術の使い手を舐めないこと」
焦りの顔を浮かべない少女が胸の前で手を合わせる。その正面に氷の盾が幾重にも展開され、凶刃を易々と防いだ。刃を止められるとすぐさまバク転を選択したエルザが華麗に回避。
それを追うように床に氷柱達が連続して突き刺さる。銀髪の少女が生成した氷柱には劣るサイズのものを指揮者のように手を振り巧みに操るのはパックによるものだ。
「攻撃と防御の分担……数ではあの子が有利だけど」
「アレが精霊使いの厄介なところじゃ。片方が攻撃して、片方が防御。片方が簡単な魔法で時間を稼いで、もう片方が大技をぶっ放す。小僧が心配してることはわからんでもないが思っているようにはならんよ。『精霊使いに出会ったら、武器と財布を捨てて逃げろ』ってのが戦場でのお約束じゃからのう」
「すごい……ありがとうございますロム爺」
機動力はエルザに武がある分このまま掻い潜るように迫って仕舞えばどうなるのかと冷や汗を浮かべるライトにロム爺が重々しくつぶやく。
感謝を伝え再び戦場へ。その言い分に納得するほど目の前で繰り広げられる戦闘は少女と一匹に傾いてるようにさえ見える。
見守る二人の少年の片方がロム爺の動きに気づいたようで、
「ところで、爺さんは何しようとしてんだ?」
「隙を見て、エルフの娘に助太刀をな。まだ向こうの方が話が分かりそうじゃ」
突然何を言い出すのかと思えば、馬鹿げたことを抜かす老人に二人が慌てて止めにかかる。
「待て待て待て待て待て待て待て! やめとけって! 絶対、足引っ張るだけだから! 右腕と首を切られてやられんのがオチだ、ジッとしてよう!」
「待ってください! 今はまだ見ていた方がいいですよ! 大体そんな大きな武器であの人に当てられるんですか!? 空打ったら狙い撃ちにされますよ!?」
「儂を舐めるでないわ、小僧! ……そんなに不吉なこと言い出されれば行く気も失せると言うのに」
あの動きに大ぶりな攻撃が当たるのかと予想立てるのだが、超えるように嫌に具体的な内容を冗談の中に混じらせるスバル。
首と右腕を押さえるロム爺も見たり、フェルトが困惑して眉を上げたりしてるやり取りの中でも現在進行形で戦闘は続行中。
無数の氷柱雨が降り注ぐ中、両者の隙という隙はいまだに見出せずにいた。
もはや人間とは思えないエルザの動きに顔が引き攣るのを覚えるライト。地を這うように身を伏せ、時に壁を足場にして重力無視の回避。彼女の身のこなしはライトの知る限りの人智を超えていた。
「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」
流石にここまでのやり手とは思わなかったと感嘆を露わにするパック。
「あら女の子扱いなんて随分と久しぶりなのだけれど」
「ボクから見ればたいていの相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても、不憫なくらい強いもんだね、君は」
「精霊に褒められるなんて恐れ多いことだわ」
讃辞に喜びつつもその回避は止まらない。飛んでくる氷柱を刃が打ち払う。
放った氷柱は数えきれないが、初撃を除いてエルザに届いたものはない。物量で押しているパックだが、いまいち決定打に欠けている。
「このまま物量で押し込めば消耗戦で勝てると思うけど……不安が尽きねぇ」
「魔力切れとか、そういうのはないんですか?」
魔力が切れれば最悪肉弾戦に持ち込まれる。あの子がどこまで魔力を持っているかわからないが、片方がガス欠を起こせば均衡が崩れてしまう。その最悪を思い描き、ライトが長期戦は不利だとロム爺に訴えた。
「精霊使いの戦いでマナの切れる心配はいらん。じゃが……」
「……なんなんですか? 教えてください」
ロム爺が次の言葉に言い淀む。勿体ぶる彼に我慢できず顔を覗き込むとこちらを見て目を苦しげに細めた。
「精霊がいつまで顕現できるかが勝負じゃ」
「えっ」
「うげ、そういやそうだった! そろそろ五時を回るか!?」
ライトが目を見開き窓の外を見ると、空模様は赤みがかっていて、夜の顔がチラ見せしている。目に見えても日が落ちかけていた。
戦闘を始めてからはそれほど時間が経っていない。だが、顕現にもマナが必要だと判明した今、こうして氷柱を連発するパックの容量も残り尽きるのではないか。
そんなライトとスバルの不安は、戦闘で表れていた。
「あら、せっかく楽しみになって来たのに、つれないわ」
パックの放つ氷の弾幕に間が開いたことでエルザが呟く。
剣のように鋭かった氷柱は粗末なものに変わり、それを軽々と弾かれた。軽いステップと的確に弾くその姿は見切り、余裕を醸し出しつつある。
「モテるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でもほら、夜更かしするとお肌に悪いからそろそろ幕引きと行こうか」
雑な形の氷柱を放つパックと回避するエルザの目が絡み合う。
「あっ、は?」
踏み出そうとした瞬間、エルザが立ち止まる。彼女のミスにライトたちが驚くと、その右足が凍結した床に張り付けられていた。
今まで砕かれていた氷塊が降り積もり彼女の動きを拘束。
「無目的にばら撒いたわけじゃにゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
「オヤスミー!」
勝ち誇るように胸を張り、少女の肩に降りたパック。
一人と一匹が両手を前に突き出し目の前の空気が歪む様は必殺技を放つようだった。
そしてーー照射された。
それは氷というにはあまりにも不定形だった。大きく、膨大で、そしてそれは純粋なエネルギーだった。
青白い光が射線上を凍てつかせ、盗品蔵を氷の世界に染め上げる。
エネルギーが直線的にエルザを通過し、入り口の扉も弾き飛び、氷の花が咲いた。室内が氷点下に急激に低下し、皆が凍土の中へ放り置かれている。
この必殺は人間すらも氷像にしてしまうこと間違いない。
もちろん。
「ああ、素敵」
「死んじゃうかと思ったわ」
当たっていれば、だが。
どうやって氷の拘束を破ったのか。ライトの目がエルザの体で彷徨い、一つの場所に止まる。
足だ。血塗られた足。黒のストッキングは足の裏だけでなく肉の方まで破れ千切れ、皮膚から滲み出る血液がほのかに湯気を出して床板に染み込んでいる。
「女の子なんだからそういうのは僕、感心しないな」
「パック、まだいける?」
「ごめん、すごい眠い。ちょっとなめてかかってた。マナ切れで消えちゃう」
少女の言葉に、あくび混じりに答えるとパックの体が淡くぼんやりと輝き、奥の景色が見え隠れする。霊体のように消えかけるその姿からも、もう時間が残されていないようだ。
「あとはこっちでどうにかするから、今は休んで。ありがとね」
「君に何かあればボクは契約に従う。いざとなったらオドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ」
労わるように銀色の鈴の音を震わせる少女に、パックがそう言い残し体が霧状と化して、消えた。
「──ああ、いなくなってしまうの?それはひどく、残念なことだわ」
はがれた足裏に氷塊を押し当てて、足の高さを揃え終えたエルザが、足を床に叩いて確認。ナイフを構え直し少女に襲い掛かる。
銀髪の少女は手のひらを合わせ、氷塊の生成に集中している。それに呼応するように氷の障壁と氷の剣が現れるが、その数はパックに比べると明らかに、かなり減っていた。
左右の足が揃わなく機動力を削られたエルザが相手でも、勝算がかなり厳しいことが素人目でもはっきりとわかった。
「そろそろただ見てるだけというわけにはいかんな、フェルト」
ライトの予感していた事態になった今、棍棒を握り締め重い腰を上げるのはロム爺。
「わかってるっつーの。逃げるにせよ、そろそろ動かねーといけねーってな」
エルザの言葉からここまで、一口も利かなかったフェルト。ロム爺の隣に並ぶと、ライトの隣にいるスバルの方を見た。
「さっきはなんだ……ちょっと、救われた」
「あ?」「え?」
「ちょっとだけだけどな。つか、ガキとかいうんじゃねえよ。アタシはこれでも十五だ。兄ちゃんとほとんど変わんねえだろ」
「お……俺は今年で十八だ」
「えっと、俺は十七だ」
「──え? 白い兄ちゃんはともかく、見えねーガキすぎ。もうちょっと人生刻んどけよ面に」
スバルはライトよりも年上だったようだ。だが、今年でという言葉で小骨が引っかかったような違和感。
年相応だと言われるもそれでも気にかかる。自分よりも年が小さいフェルトがライトの前に立っているのだ。膝が震えて立ち上がるこのできないライトに。
多分、いや確実にここで最も弱いのは自分。逃げ出したいのにこうして怯えて目を背けようとしているのは誰が見ても弱いと罵倒されても文句を言えない。
「足が震えて動きゃしねぇ。……覚悟も足りねぇときたもんだ」
あの場で挑発したスバルでさえもこうして立ちすくんでいる。もはや参加以前の問題で、少年二人はこの戦闘に関わることもできない。
ロム爺ならその太い腕から出る怪力。フェルトならどうなるかわからないが動き出す勇気に勝るものはない。そしてハーフエルフの子は魔法力で挑むことができる。だが、それでもエルザを凌駕も互角にも追い込むというビジョンが見えない。現に、
「押され始めたのぅ」
ロム爺の淡々とした感想が戦況を物語った。
耳に障る高音。氷の悲鳴だとわかると、音の先に目が動く。少女がエルザの動きに翻弄されている。
障壁で流される刃の勢いを利用して、気持ちが悪いぐらい滑らかに少女の後ろに回り込むエルザ。
不意に飛んでくる後ろからの斬撃を少女は障壁を展開するが、甘かったのだろう。障壁は耐え切れず割れ、脇腹に足が刺さる。飛んだ先で刃を躱すが商品棚に激突し、目に見えて戦況が変わった。
加勢が必要不可欠なものへと。
「いくぞーッ!」
雄たけびを上げるロム爺がククリナイフを回し遊ぶエルザに特攻する。
振り上げる棍棒には豪風が巻き込まれ、回避するエルザがナイフと交差させ火花を生み出した。
「あら、ダンスに横入なんて無粋じゃないかしら?」
「そんなに踊りたければ最高のダンスを踊らせてやる! フンッ!」
釘棍棒を大きく振りエルザがこれをナイフで受け流していく。部屋が火花で照らされるなか、彼の重い攻撃を涼しげな顔でエルザは捌いている。
それを見て不利と考えたロム爺が線から点へと攻撃範囲を変更。
それでもロム爺の剛腕から繰り出される連撃を、エルザがナイフで応じるのを数回繰り返すと、彼女が距離を取りさらに離れていく。
「そら、きりきり舞えぇぃ!」
渾身の力を込めて解放。振り切った棍棒が氷華を打ち砕き氷の結晶が祝福するように舞い散る。
だが当たればミンチになるその暴力を無慈悲に、羽のように回避したエルザが、
「な、何じゃそらあぁぁーっ??!」
その棍棒の先に降り立った。その圧倒的な身体能力にロム爺は驚きが隠せず、大柄な身体に大きすぎる隙を生じさせていた。
「あなたが力持ちだからこんなこともできたのよ」
ロム爺の頭頂部へ凶刃が迫る。
「させっかーっ!」
振り下ろされる斬撃を叩いたのは、フェルトが投げたナイフだ。
だが、
「ぐぉぉ」
狙いが甘く、左肩に斬撃が届いてしまった。巨漢が支えを失い、鈍い音を立てて倒れ込む。
「ロム、爺ぃ」
「悪い子」
身軽に着地して、視線だけで振り返るエルザがフェルトを写しこむ。
ロム爺を致死の刃から救ったのは間違いなくフェルトの投げたナイフだ。床に倒れ伏すロム爺の口が僅かに苦しみで歪ませているのが何よりの証左。
「戦う覚悟もない。ならばせめて部屋の隅で小さくなっているべきだったのに」
エルザがフェルトに近づいてくる。ナイフを横から真上に構え直して。
どうする。どうしたらいい?どうしたらこの状況から脱することができる。
膝が笑ってその場で辺りを見渡すことしかができない自分が情けない。息を呑む声が聞こえて顔が動き、思考が真っ白になった。
見えて感じた。いや感じてしまった。
「来翔、やめろ……」
「あら、やっと立つのね。でもあなたはここにいる人の中で誰よりも弱いのに、どうして挑もうとするのかしら」
エルザのあの笑みは、今目の前で命が刈られようとしているフェルトの夢を嘲て嗤う、その内に眠る可能性すらも否定するものだ。
体が勝手に動く。だが、不思議とその行為は間違いではないと心の中で思うもう一人の自分がいる。
立ち上がるライトはただ聞きたかったのだ。
「あなたは──あんたは……どうして、人を殺すんですか」
「命が消える瞬間の輝き、それを私は愛しているの。命が消える音がとても心地よくて、また聴きたいから殺すの。あなたはどんな表情を見せてくれるのかしら?」
疑問符をつける間もなく、さも当然かのように目の前でフェルトへ近づく歩みを緩めるエルザが呟いた。考える要素もない心情風景がさらに真っ白になるのを感じるが、ただ一つ、沸々と湧き立つものがライトにはあった。
「聴きたい? わからない……俺にはわかりませんよ。どんな理由があっても、こんな……一方的に人の命を奪うのは、そんな権利なんて誰にもないんだ!」
怒りだ。命を軽視し、さも人生を彩るための画材のように言うエルザに全てを、例え辿々しくても思ったこと全部吐き出さなければ、さっきまで動けなかった自分が情けなくなる。
だからライトはその双眸に緑色を宿して、
「フェルトちゃんは必死でやってるんですよ……必死に!! 例え目の前に困難があっても彼女は歩き続けてきたんだ! どんなに泥臭くて、しがみついてでも生きてるんだ、これが生きてるってことなんだよ!! そんな必死に今を生きている子供を嗤うなッ!!!」
「っ」
息を呑む声。こちらに目も向けないで歩みを進めるエルザの先にいるフェルトだ。
何もできないと踏んでただ上っ面で物事を語る弱者とライトを判断して視界の端でしか見なかったエルザが、蛇に睨まれたカエルのように動かないフェルトにナイフを振り下ろしーー
「この……わからずやァァアッ!!」
咄嗟にフェルトの前に立ちナイフと共に振り下ろすエルザの腕を掴み受けたのは、その場で一歩も動けなかったライトだった。
少女の夢を、可能性を守るために。
「兄ちゃん……?」
『可能性という内なる神を──』
頭の中で雑音めいた声が痛みとして出力されるが、それがいい刺激となったライトは掴み耐える力へと変えた。
耐えて俯いていたライトの顔が正面にいる狂人を断固として見つめる。
「人を──人の持つ可能性を、あんたに奪わせないッ!!」
「この子っ」
女の腕を強く掴み感情のままに力を入れる。その腕から骨が軋むような音が鳴り、僅かにエルザの目が歪んだのをライトは見た。
戦闘単位に入っていなかった者からの妨害。それを勘定に入れてないエルザの目が、初めて忌々しい感情を乗せて目の前の男に向く。
それを隙だと思った男が少女の手を、
「フェルトッ!」
床にへたり込むフェルトの手を握ってこの場から離れるのはスバルだ。無事後方に撤退したことを横目で確認し、思わずホッとしてしまい腕に加わる力に空白が生じてしまった。
「まさか手向かうとは思っていなかったのだけれど。でも素敵、あなたはどんな腸をしているのかしら。きっと綺麗な色をしてるんでしょうね」
「来翔、避けろ!!」
「うっ!?」
急激に体が引っ張られ言語にもならない声がライトの喉を震わせる。視界が部屋全体を映し急激な変化で脳が麻痺を起こしたと思えば、次に来るのは足の衝撃。体が床へと引っ張られるところでようやく自覚した。自分は今、エルザに絡め取られ床に叩きつけられたのだと。
床へとモロに背中で受けたライトがえずき、目を開ける。飛び込んでくるのは頬を上気させて自身の腹の中身を見ようとするエルザだった。
刃が近づいてくる。まずい、避けないと。でもどうやって。
死に際で時間が引き延ばされる中、刻一刻と内臓を求める鈍色が接近している中、体が動けず焦りが耳へと募り熱くなるのを感じる。ライトが取ったのは縮み上がった肺を大気を吸って元へと戻す。これだけでナイフとの距離が十も満たない所へ。
間違えた。この土壇場で、身を翻せば良かったものをライトは取る選択を誤った。ここで避けても服ごと切り裂かれ内臓がダダ漏れになるのは必然。
ナイフが空気を破って服が揺れるのを感じた時に目にしたのは、ライトの迫る死を走り駆け寄って防ごうとするスバルと、届くはずもない手をこちらへと伸ばすフェルトだった。
何も感じない。死んだのだろうか。あれだけ大口を叩いて一人の可能性を一時でも守ったと言うのに、あっさりとした最期だった。でもこの背中から伝わる冷たい感触はなんだ。今、自身はどうなって──
「しっかりしろ来翔!!」
「──ッ!」
大声に目が強制的に開眼され青い光がまばらに飛んでいくのが見える。光が追うのはさっきまで内臓を見たいとナイフを振おうとしていたエルザで、ライトは状況が飲み込めない中こちらに死に物狂いで駆け寄るスバルに左手を差し出して──掴んだ。
「グっ、来翔重い!」
「ごめん昴っ……助かった」
「礼言うなら、地べたで寝転がってたお前を助けたあの子に言っとけ」
スバルが顎で示した所へライトが撤退しながらも見たのは、カウンターから体を乗り出して手から氷柱を射出する銀髪の少女。見ず知らずの自身の命を救ってくれた彼女に感謝の念が絶えない。
腰が抜けて力の抜けた足の感覚が戻っていくのと同時にフェルトが待つ部屋の隅へと移動が終わっていた。
「フェルトちゃん。良かった無事で……」
「なんでアタシを庇ったんだよ! 見捨てればよかっただろ!」
「体が動いたんだ! それに……フェルトちゃんを、君を見捨てることなんて俺にはできないし、借りも返したかった。でも良かった……本当に──本当に無事で」
フェルトの小柄な体を心から安堵して微笑みを浮かべるライトが抱きしめ頭を撫でる。突然のことで戸惑いもするし嫌われるだろう。だが、それを気にするよりもライトはこの場でフェルトが無事生きて、生きていてくれていることが嬉しかったのだ。
「ぇ──この状況でなに言ってやがんだ兄ちゃんッ! 気持ちわりーし放せ!」
腕の中でジタバタと暴れるフェルトが声を荒げながら両手でライトを突き飛ばした。その力は左腕を掴み突き放した拒絶の込められたものとは違うものがこもっているような気がした。
そんな気恥ずかしい空間もこの状況ではかえって邪魔となる。スバルが両者の肩を掴み自身の顔としっかりと合わせ、その鋭い目を向けた。
「時間がねぇフェルト、来翔。今から言うことを黙って聞け」
「なんでアタシが……」
「聞けよ! いいか? 俺が今から時間を稼ぐ。どうにか隙作ってみせっから、その間にお前らは全力で逃げろ」
「──は?」
何が起こったらどうしてそうなる。それが、ライトの小さく放った一文字に込められていた。
ライトが震える手をスバルに向かわせるも行き場がなく、握りしめて唇を噛み締めることに。彼とは対照的に口を開けたまま固まっていたフェルトは感情のまま、彼の灰色のジャージの襟を掴み掛かって赤い双眸をより強いものへと変えた。
「なんだそりゃ、アタシにケツまくって逃げろってのか!?」
「聞けって言っただろうがッ」
フェルトが掴み掛かろうとするも、スバルの驚くべき剣幕に身を引いてしまう。
声だけなら彼女も引きはしない。それ以上にスバルの目がいつもの冗談から来る目ではなく、この場の全てをひっくり返してでも言い従えようとする傲慢で真剣味を帯びたものだったからだ。
フェルトとライトが食い下がるのを確認したスバルが一呼吸おいて指を立てる。
「いいか? お前は十七、そっちは十五。でもって十八の俺。それで俺より年下ってことに多分なるんだ。したら生きる確率が高いとこを選ぶのは当たり前だ、当たり前なんだよ!」
「なんだよそれ、ふざけんな! さっきまでぶるってた癖に!」
「さっきはさっき! 今は今! 来翔のおかげでぶるってた膝が元通りになったんだからそれでよし!」
無謀にもライトが飛び出したことをスバルは言っているのだろう。まだ反論したがるフェルトの額を押して黙らせ、屈伸しながら起立。彼が手を伸ばすのは床に転がっているロム爺から手を離れた釘付き棍棒だ。
彼を挟んで見えるのはエルザと銀髪の少女の戦闘。動きに一切の淀みが見えないエルザに一体どうしようと言うのか。勘繰るライトの目に重なるのは、よほど重い武器なのか床を擦りながら肩へと担ぐスバルで、目が合う。
「逃げるまでに来翔はフェルトを護衛。その後はなんでもいい。俺のこと忘れて逃げてもいい。でも、お前らがそんな奴じゃねぇって信じてるからよ」
握り拳を胸へとぶつけるスバルがライトへ笑いかける。その拳には今ままで感じたこともない彼からの真摯な思いと信頼。この短い時間で築いたすべての人との関係が胸へと伝わり送り込まれる。
こんなのは柄でもないと、鼻をさするスバルがライトたちに背中を見せて床を踏み締めた。
「援軍来るまで耐え切って見せる。終わったら大円団と洒落込もうじゃねぇか。だから……あいつ完膚なきまでぶっ倒して、ハッピーエンドだッ」
例え助けを呼んだとして、間に合う保証なぞどこにも存在しないと言うのにーーどうしてだろうか。今、スバルのその真っ直ぐな思いにライトは応えたくなった。
その思いも時間は置き去りにして進む。スバルが音も立てずにエルザへと忍び寄り、肩で担ぐ棍棒に渾身の一撃を溜めていた。
正面、少女の氷の弾幕の中でナイフを振い切って落とし、エルザの視界が完全にスバルを死角に入れた瞬間、回避しようもない棍棒を振り下ろす。
「んだらあぁぁァァアーーッ!!」
雄叫びをあげ、ライトの想像を超えるスピードを棍棒に乗せたスバルがまっすぐにエルザの後頭部を捉えて空気を破って──
「──狙いは上々。でも、殺気が出過ぎていて見え見えなのが残念」
「殺気か! それの引っ込め方は知らねぇ!」
真後ろのからの打撃に対し、体を屈めバックステップでエルザは棍棒を床へ対象を移させ逃げおおせた。
標的がスバルへと移り、エルザがナイフを棍棒に食い込ませる中彼が牙を剥いて叫ぶ。
「今だ! 行けよフェルト! 来翔ぉぉオーーッ!」
「行こう兄ちゃんッ」
「──っ、わかった!」
弾かれるようにライトの体がその場から走り出し、フェルトの手を左手で掴み速度を上げる。
風に乗るようなフェルトに追いつかれないように手を掴んで走るライトの視界は部屋が伸びているようにも見えた。だが火事場の馬鹿力とも取れるこの速さは、足の関節という関節から悲鳴を上げさせるのに十分な負荷がのしかかっていた。
「行かせると思う?」
フェルトたちの疾走を阻もうとするのは先ほどからスバルに邪魔をされ苦肉の策としてナイフを懐から取り出そうとするエルザ。
それを踏んでいたスバルが咄嗟に目についたテーブルを蹴り上げナイフの進路を妨害ようとするも、
「行かせてほしいなってのがこっちの気持ち……おわッ──!!」
ライトへ使った搦め手をここでも使うエルザが、スバルのガラ空きとなった足へとしなやかな足を入り込ませ大外刈りの要領で刈る。
さすがと言うべきプロフェッショナルな身のこなし。さっきの行動はスバルの意識を足から外すブラフのため、あえて見え見えな仕草をエルザは選択したのだ。
あえなく床へと背中をぶつけ肺の空気が空になるスバル。その視界に飛び込んだのはすでに懐からナイフを持ち出し、投擲の動作に移していたエルザで、
「ダメだ……避けろフェルト、来翔ーーッ!!」
ライトの背中にかかるは喉が張り裂けそうなぐらいに叫ぶスバルの悲痛な声。鼓膜を震わせその意図を聞き入れたライトはスバルの言ったことを全うしようと左手に込める力を増した。
「昴……フェルトちゃ──フェルト! 行けーッ!!!」
敬称もつけない彼の声に驚く間も無く、来翔によって小柄な体が掴まれる左腕から切り離され盗品蔵の外へと投げ出されて息を呑むフェルト。
飛んでいく彼女は顔全体がこわばり、まるで痛みに抱え込むように硬直していて、心中で謝罪するライトが彼女へと見せるのは苦し紛れの微笑みだった。
次にバトンを渡したライトのできることとすれば、襲いかかる脅威が少女に掛からないようにこの身を盾にするのみ。
ライトが振り向き、手と足を伸ばす。目に飛び込んでくるのは重要な臓器が込められている部位に吸い込まれるように飛び込むナイフ。
──ごめん昴、約束守れなさそうだ。
時間が遅く、さらに鈍く伸ばされる中、後悔が心を渦巻く。
ここまでの記憶が、この世界に来る前の記憶も、コマ写しに流れてくる。
ただひたすらに夢へと、家族のために懸命だったフェルト。身を挺して我先にエルザへと立ち向かったり、フェルトを見る目がたまに孫を見るそれになったりと少し親しみのあるロム爺。心折れずに、ただ銀髪の少女のために、ときにはフェルトのために命を張ることができるスバル。
そしてーー母と俺を捨てた父。気づいた時には一緒だった白金のネックレス。
「来翔!!」「ライト!!」
悲痛な叫びに挟まれる中、視界が赤く染まるのを最後にライトは決意を抱いたまま意識を失った。
*
こんなはずじゃなかった。
激情に駆られて拳を床に叩きつけてしまい、骨が軋んでささくれた木材に皮膚を裂かれ床をわずかに赤で濡らす。この事態に納得ができずにただ己の選択に悔いるスバル。自身のとった選択が、また一人の命、この世界でたった一人の同郷でスバルの目的に信じて協力してくれたライトが今消えようとしている。
こんなはずじゃなかった。こんなのは単なる言い訳にしかならない。こうなる事態は想像できていたはずなのに、何を粋がって自信満々に勝利を語っていたのか大言壮語も甚だしい。行き場のない怒りを目の前のエルザにも向けられずただこうして手を床に叩きつけることしかできない自身が憎い。
大切な要素を重視するがあまり、二人を逃してしまったことがこの事態を招いたのだとしたらスバルの心は大きく削ぎ落とされてしまう。
頭を下げ、顔を悲痛に歪めるスバルに後悔の念が絶えない。
この長いようで短い時間ももう終わってしまう。ナイフがライトの胴体を穿ち血を噴射させ、彼の両手が力無く垂れ下がって仰向けに倒れる。そしてその場に命の赤い源がライトの体を湿らせ泥で汚れてしまった白い上着を紅で滲ませた。
──それが本来ならば、起こりえた未来だったのだろう。
響音。湿った繊維が裂けるような音でも、肉そのものが刃を拒むように勢いで押し込むたびに鈍い摩擦音でもない。
強固な何かが突き進む刃を強制的に向きを変えさせ跳ね飛ばす跳音が、部屋を反響してこの場にいる全員の鼓膜を劈いた。地を見るスバルの目が好奇心で身勝手に上がる。
ナイフを投擲し血で染まるライトを頬を赤らめて興奮に舌で唇を湿らすエルザはいない。あのエルザでさえもこの異常な音に固まらざるを得なかったようだ。事実両手をエルザに向け氷の礫を放とうとする偽サテラでさえも目を見開き顔を固めて驚愕に染まっている。
「──は?」
ありえない現象、そしてついさっきとはガラリと変わったこの場の雰囲気にスバルの喉が小さく震えた。
目が上がっていくその道のりで、フェルトを庇い致命傷を負ったと思われるライトの足元までに床を赤く湿らせるようなものもなければ鉄臭いものもない。そこに何かが、この盗品蔵の入り口を赤い光で反射させているのだ。
状況はスバルたちを待たずに進行していく。
盗品蔵の中も窓から見える外からも、淡くさまざまに光る粒子がある一つのところに集合していく。それに到達したモノたちがそれぞれの持つ光を別のもの、赫へと変えていく。それは元の色が淡く赤に発光していた粒子も同様で、それぞれが変光しその光をより眩いものとした。
スバルの背後からも粒子が吸い込まれ、つられて目が動く。
そこにいたのはライトだ。足を床から離して遊泳するように宙を漂う彼を中心に薄く、されど赤い障壁が煌々と入り口を照らす。その周囲には惑星の周りを回る薄い輪が幾何学模様で施されて、その輪が二つ赤い膜を縦横無尽に回転していた。
バリアとも言えるその光が本来貫くはずだったナイフを弾き、壁や床へとそらして突き刺したのだ。
見るものによっては畏怖すらも感じるだろうこの光景。目を見開きまともに見ているスバルは鳥肌を抑えられないでいた。
ライトはこの場所にスバル同様初めて来たはずだ。だというのに偽サテラが放つ魔法とも違うこの異世界でも浮くような力。それは銀髪の少女でもこの現象を後ろで見ているフェルトの表情を見てもわかるものだ。
「秘められた真の力ってか……?」
「今度は何を見せてくれるというの?」
スバルが次の言葉を言わせることなく、この現象に心躍らせたエルザがククリナイフ片手で接近した。
その速さはパックや偽サテラ、はたやロム爺との戦いでも見たことのない絶する速度で、今まで手を抜かれていたことに顔が引き攣ってしまう。
「──しっ」
鋭い呼気を放ち、光に包まれながらも四肢を投げ出しライトのひけらかした胴へ一閃。
走る銀色が赤い表面へと通り過ぎたことを空気に感じさせないで容赦のなく襲いかかった。赤い光にスッとナイフが入りかけそして、
「は?」
短い声が切り掛かった女から発せられる。腕は振り抜かれてはいたものの、その軌道には鉄の光など途切れたように存在しなかった。エルザの手に握る、先端の重みで斧のように獲物を断ち切る武器の先は持ち手から何もかもが失っており、なき別れとなった刃先が放物線を描いて床へと刺さり落ちた。
一眼その亡骸を見たエルザが無駄だと判断し飛び退き、スバルとエミリアから離れたところで現象に目を凝らす。
「一体何が起きてるの?」
「俺に聞かれても──」
夕陽が落ち、盗品蔵にわずかな月明かりが入り始めた時更なる変化が訪れる。
その変化に気づいたスバルが偽サテラに返答する間も無くライトを凝視。赤い輪が遠心力で線となって飛び出したかと思えば吸い込まれるようにバリアの内側へ。
そうしてライトを包む赤い光る繭が幾何学模様を映し出し、下から上へと這うように白い横線が波打つと光が消えた。
内側から顔を出し生命が流れ込むように黒い髪が僅かに逆立ち光沢のある皚々とした白へと染まり、柔らかに閉ざされていた目が開けば起動するように光瞬いて黒から鮮緑へ。
白い上着の襟は後方に流れるように靡いてゆらめいている。
赤い光がライトの体を迸り室内に星が煌めくような音を鳴り響かせ、粒子が立ち上り始めた。
その星の砂が赤い線の領域をこじ開け躍動が吹鳴し、たなびく襟にも赤い粒子がまとわりついた。
そして涙を流すように目の下が赤くなって、髪に黄金が入り混じった。
場の全員が息を呑むのをスバル自身にも聞こえた。その変化ーー変身を終えたライトが床に降り立ち、この惨劇の発端であり命刈る者に向ける双眸が鋭く輝いた。
敵を見据え、ライトが右手を背中へと伸ばし風を切って出現するのはスーパーロボットと星の戦争ぐらいでしか見ない光剣。
剣の軌跡が残るまま左手を広げてエルザを見据える。本当の戦いが始まるまでもう僅かしかないことをスバルは重い腰を上げながら理解した。
「あなた、何者?」
舌なめずりをしまだ見ぬ相手に興奮を覚え、呟いたエルザがククリナイフを向け、
刹那、赫耀が黒影へと肉迫した──