Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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双子に招かれるまま、ライトらは食堂へと脚を運ぶ。
その『朝食』は楽しいものになると思ったが…


第八話 ロズワール邸で朝食を

 

 

 朝食の場と双子に案内された食堂に二人は着いた。

 エミリアは着替えるために部屋に戻っていったので、扉の前にいるのはスバルとライトだけだ。

 扉を開けば、とても広い食堂があって客人用の椅子が並んでいる。その奥には、おそらくこの屋敷の主人が座る、他とは印象の異なる椅子が置かれていた。

 

「上から見てた感じあれなのよ。お前相当に頭が残念かしら」

 

 部屋に圧倒されていれば、挨拶代わりに隣から幼い女の子の罵倒が飛んできてライトは振り向く。幻想的な雰囲気を纏っている可憐な少女だ。

 外見から見れば、年は十一・二歳と言ったところだ。フリルがあしらわれているドレスが様になっていて、愛らしい顔立ちをしている。

 クリーム色の髪を長く伸ばして縦にドリルのように巻いているのがとても印象に残った。

 今この食堂にいるのはライトとスバルと露骨に嫌な顔をする少女だけ。少女の皮肉にスバルは盛大に目を釣り上げて、

 

「この爽やかーな早朝に、いきなり何を言いやがんだこのロリ!」

 

「ちょっと昴、会って早々それはあんまりじゃないか。フンっ「ぅイテッ」ごめんね?」

 

 庭園でスバルが愚痴っていたのは、この少女のことなのだろう。

 さすがに、言い過ぎなスバルにライトが近づけば、手のひらを開いて彼の右後頭部を引っ叩く。

 予想以上にいい音が鳴って、スバルがその場で頭をさすって膝をつく。

 

「お前よりもそっちのは頭が足りているようなのよ。うるさいのが二人いたらうっとしいったらありゃしないかしら。それと、何かしら? その単語。聞いたことないのに不快な感覚だけはするのよ」

 

「まあ普段そんな言葉を使えば、周りから冷ややかな視線を浴びせられる言葉だからね」

 

「二人してやめてぇ。俺のメンタルライフはもうゼロよ?」

 

 ライトと少女からの罵倒と正論でサンドイッチにされたスバルは満身創痍だった。

 ちなみにユニコーンはというとライトの上着のポケットに入ってモゾモゾと動いている。その動きにくすぐったさを感じていると、スバルが立ち上がって目の前のテーブルに目を向ける。

 

「なぁライト。お前テーブルマナーとかわかるか?」

 

「いや、全然。ごくごく一般家庭で育っていたと思うよ?」

 

「お前な……大抵そういう奴は謙虚にそう口にするんだよ。ホントは夕飯とかステーキ祭りだったんじゃねえのか?ウリウリぃ」

 

 にやけ顔で肘をライトにぐりぐりと押し当てるスバル。彼に肘で脇腹を押されながら、テーブルマナーを思い出す。

 動かない漫画家の話では、客人は下座に座ると言っていた。ならばライト達が座るのも下座なのだろうから、出入り口に近いところがそこだと考える。

 

「俺たちは……多分一番近いあの席に座ればいいんじゃないかな」

 

「ホーン、じゃあライトに続くわ。間違えてたらライトが言ったんだーって言ったるからな?」

 

「なんでさ」

 

 二人に蚊帳の外にされる少女はそのままにして言い合っていると、食堂の入り口が開かれ、

 

「失礼いたします、お客様。食事の配膳をさせていただきます」

 

「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳をさせてもらうわ」

 

 台車を押して、食堂に入ってきたのは双子のメイドだ。

 レムがパンやスープ、サラダといった西洋らしいの朝食メニューを食卓に並べ始め、ラムは手際良くお茶を注いで配膳していく。その一糸乱れぬ一連の動きを見ていたライトの腹が食糧を求める。

 恥ずかしさにお腹を抑えていると、スバルがニヤニヤしてこちらを見てきた。耳が熱くなるのを感じながら、彼を睨んでいると大きな声と共に一人の男が入ってきた。

 

「あはーぁ、お腹が減るのはいいじゃなーぁいの。いいことだーぁよぉ」

 

 長身の男が後ろで嬉しげにそうこぼした。

 ライトより頭半分は背が高く、濃紺の髪を長く伸ばしている。体つきはと言うと、細身でしなやかと言うより痩せすぎない程度という感じだ。

 瞳は左右で黄色と青色のオッドアイで、病的までに青白い肌を持っている。そして奇抜な衣装を見に纏い、メイクからピエロにしか見えなかった。

 

「飯の前の余興にいちいちピエロ雇ってんのか? 金持ちの考えはわからねぇな」

 

「何を考えているのかおおよそ想像がつくけど、ベティーは不干渉を貫かせてもらうのよ」

 

「つれねぇな、ベティー? 俺らの仲だろ?なっベティー?」

 

「馴れ馴れしいかしら。気安く呼ぶんじゃないのよっ!」

 

 親しげに話しかけるスバルに怒る少女。まるで兄が嫌いな妹の言い文句みたいだ。

 そんな様子で言い合う二人を交互に見ていると、再び扉が開いた。入ってきたのは着替えを終えたエミリアである。

 

「にーちゃ!」

 

 長いスカートを揺らしてベアトリスがが走り出す。

 するとライトのポケットからユニコーンが飛び出す。驚いて向かった先を見ればエミリアの髪の中から姿を見せたパックと手を繋いでいた。

 その彼らが顔を見合わせると何かを企んでいる様子で、

 

「や。ベティー四日ぶり。ちゃんと元気でお淑やかにしてたかな?こっちの子はユニコーン。ライトの契約精霊だよ」

 

 そう言って手を引かれるユニコーンが手を振ってアピールをするのだが、少女は彼のことは眼中にないのか真っ先にパックに抱きつく。

 その瞬間、ユニコーンの体がどこか灰色に見えてしまって、かわいそうに思ってしまう。

 

「にーちゃー!! にーちゃの帰りを心待ちにしてたのよ? 今日は一緒にいてくれるかしら?」

 

「うん大丈夫だよ。でも、久しぶりにゆっくりしたいところなんだけど、この子が……」

 

 抱きつかれるパックがその小さな手をユニコーンへと向ける。少女が彼の手の行き先を横目で追うと、ユニコーンが四肢をだらけさせて落胆している様子が見える。

 蚊帳の外にされる彼がひどく寂しそうに見えて同情の念が絶えないライトが、ユニコーンに手を伸ばそうか迷う。

 そんなユニコーンが、首を幼女に向けて並行移動のように少女の眼前に移動した。

 

「(つんつん)」

 

 柔らかそうな少女の頬をユニコーンはつついていじける。

 だがその感触を鬱陶しいと思ったのだろう。彼の小さな手を払い除ければ、眉に皺を寄せて口をへの字に歪ませた少女が睨む。

 

「なにかしらこの子。──ッ! あなた……」

 

 少女が目を見開きユニコーンを見たと思えば、パックを手放してユニコーンを両手で包む。愛おしそうに撫でられるユニコーンは気持ちよさそうに体を委ねていて、守るもの見るような目つきで少女が彼を見る。

 だが、少女はライトから後ろを向いて撫でていたので、彼から見ればもみくちゃにされているのだと勘違いしてしまった。そのため助けるために謝ろうとするのだが、

 

「ごめんユニコーンが。ほらこっちに「いいのよ」え?」

 

「私の書庫へ特別に招待してあげるかしら」

 

 その彼の言葉を遮れば、少女の蝶の瞳孔がこちらに向く。スバルに対する当たりが強いため唐突の許しに破顔するライト。

 ユニコーンを招待してくれるらしいが、またしてもわからずに呆けてしまう。いつまでもボーッとしている彼に少女が唇を動かして、

 

「ベアトリス」

 

「え?」

 

「私の名前なのよ、人間。特別に名前を呼ぶのを許すかしら」

 

「ありがとう。俺は来翔。ベアトリスちゃん、でいいかな?」

 

「いいかしら」

 

 依然名前を呼ばない少女、ベアトリスではあったが、その目つきはスバルへ向ける物とは違って柔らかい雰囲気がある。

 その二人のやりとりを見ていたスバルが、少女の名前を聞き入れた途端に楽しそうに目を細め、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「へぇベアトリスって言うのか。よろしく頼「お前は良くないかしら!」……はぁ!? このロリッ!」

 

 許されなかったようだ。

 

「珍しいわね、あの子があんなに懐くなんて。私おったまげちゃった」

 

「おったまげたなんて今日日聞かねえな。同じ精霊使いだからじゃねえの?」

 

「私にはそっけない子なんだけど……」

 

 眉をわずかにひそめて、どこか不服そうな視線をエミリアはライトとベアトリスに浴びせる。

 視線を浴びる当の本人は二人が話しているのを聞きながら、ベアトリスの頭の、王冠の隣に座っているユニコーンを見る。

 パックを手のひらに乗せながら走り回っている少女の頭に座っているユニコーンを。

 あれはどうやって座っているのだろう。ライトが疑問に思っていると、ユニコーンは背中からスラスターのようなものを使って姿勢を制御していることがわかった。ベアトリスの感じからして熱くはないようだ。

 

「んでよ。このいかにも怪しさ満点なピエロ、本当に誰なの?」

 

「あ、俺も思ってたんだ。この人がこの屋敷の?」

 

「うん、この人がそうなの……」

 

「どゆこと?」

 

 先ほどから頭の片隅に置いていたのだ。

 一目に見ただけで変な人とわかる風貌に、独特な喋り方。そしてエミリアから聞いた、会えばわかるという言葉。これだけあればなんとなくでもわかってしまった。

 この考えに落ち着いたライトがピエロの男に目をむけていると、

 

「君の想像通りだーぁよぉ」

 

 オッドアイがスバルの方へ向けば、口元を歪ませて笑みを送って、

 

「私がこの屋敷の当主、ロズワール・L・メイザースというわぁーけだよ、ナツキ・スバルくん」

 

 この道化姿の変態は清々しいくらいに名前を名乗った。

 続いてライトの方にも笑みを向けて、そのオッドアイが輝く。

 

「君も不思議なモノを連れているねぇーえ、タカナシ・ライトくん。君とは少し、面白い話ができそうだ」

 

 

 

 

 ──面白い?何を言っているんだこのピエロ。

 

 見え方によっては気味の悪い笑みにも見えるその顔をロズワールはライトへと向けて近づく。困惑して、足が詰まりながらもライトは後ずさってしまう。

 額から嫌な汗が伝って頬に、息が浅くなって不快感が溜まって吐きそうになる。

 だが、そんなライトの異常に気付いたのか、

 

「……ッ!!」

 

 白が二人の間に割って入った。

 四肢を広げ、全身でもって主人を守ろうとするユニコーンがロズワールに向けて嫌悪の目を向ける。

 

「主人のために守るか。すまないねーぇえ、君の嫌うことしーぃてしまって」

 

 手を広げて離れるロズワールの顔には、貼り付けたような笑みを浮かべている。そんな彼にまだ警戒が解けていないのかライトの周りを巡回したのちに肩に座る。

 

「……(ジー)」

 

「ユニコーンそんなに見ないんだ。ごめんなさい。えぇと、Lさん」

 

「気にしなくても大丈夫だーぁよ。こちらこそすまなかったねーぇえ。しかし、かーぁなりそっちで呼ぶのは珍しいけど理由を聞いても?」

 

「俺たちの故郷で、世界一の探偵の名前がLさんなんです。特に深い意味はないです。改めてよろしくお願いしますロズワールさん」

 

「構わなーぁいとも」

 

 そう言い二人が固い握手をする。ライトは依然として引き攣った笑みを浮かべているが、仲良くはなりたいのだ。

 ライトはロズワールから離れてスバルとエミリアの近くへと移動した。これは恐怖心から来るモノだったのだろうかと、ライト自身もわからない無意識の行動だった。

 

 ユニコーンは今もロズワールを見ている……。

 

 

 上座に座るロズワールを筆頭にそれぞれに用意された椅子へと座って朝食が始まった。

 ライトは手を合わせて瞑目し数秒止まる。そして目の前に置かれたテーブルに並んでいる料理を食べる。

 まずはサラダのようなモノをいただいて、その次にスープなるモノを口にする。

 

「んっ、美味しい……」

 

「普通以上にうめぇなこれ」

 

 ライトたちの感想である。

 仮称サラダを口に入れればシャキシャキとした新鮮な野菜が噛むたびに弾ける。トマトっぽい野菜も一緒に食べると甘酸っぱさと野菜の爽やかさが調和していて全体を完結。

 仮称スープをスプーンを口元に運びもう一度飲むと、ホッとするような温かさが体に染み渡り、だるさに効く。口の中で優しい旨みが広がり、じっくりと煮込まれたであろう野菜の甘みと深い風味が絶妙に溶け合っている。

 

「美味しい……スープなんて特にそうだ。この野菜とかよく煮込んでるからだけど、甘くて風味がある……じゃあパンも一緒に食べれば。……うまい、これすごい合うよ昴っ」

 

「うおぉそんな見るな、わかったから前向け前っ」

 

 料理のおいしさに興奮気味のライトがスバルに目を光らせて見つめる。目の中に星が見えるのは多分気のせいで、スバルが引き気味に、彼に言われた通りに食べる。

 パンをちぎってスープに染み込めば口に運ぶ。すると思わずスバルの顔が綻んで目が輝く。

 

「うめぇぜこれ!」

 

「ふふーぅん、高評価で私も気分がいいねーぇえ。こう見えてレムの料理はちょっとしたものだよ? あらまぁ」

 

 自慢げなロズワールだが料理に夢中になる二人には届かず、瞬く間に朝食が腹の中へと消えていく。食べ終えれば満足げにため息をついて、穏やかな笑みを浮かべた。

 こうして食べ終えれば幸福感に満ちて、綺麗に食べ終えたことに達成感を覚える。だが、食べているときに誰かに話しかけられたような気がするのだが気のせいだろうか。

 二人が周りの視線に気づいて周りを見渡すと、屋敷の住民たちに視線を浴びせられていた。

 

「すみません、あまりに美味しかったもので」

 

「いんやーぁいいとも。そんなに美味しく食べるところを見せられるのも悪くないものだーぁよ」

 

「私びっくらこいちゃった。食べ物がみるみる二人の口に入っていくんだもん」

 

「びっくらこいちゃったなんてきょうび聞かねえな。んと、この料理を作ったのって……」

 

「はい、お客様。当家の食卓はレムが預かっています。姉様は料理があまり得意ではないので」

 

 頬をかきながら双子のどちらかだと思ったスバルが視線を彷徨わせていると、青髪の少女、レムが一歩前に出て言う。

 その言葉を聞いたスバルがテーブルに肘をついてもう一方の手でビシッと指を刺す。したりげなその表情は全てを理解したような、そんな顔だった。

 

「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。んじゃぁお姉さまは掃除が得意な感じ?」

 

「はいそうです。姉様は掃除、洗濯を家事の中では得意としています」

 

「じゃあレムりんは料理系得意だけど掃除と洗濯は苦手か」

 

「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除洗濯も得意ですよ、姉様より」

 

「姉様の存在価値消えたな!?」

 

「違うよ昴。……お姉ちゃんを、支えているんだね」

 

 レムはお姉ちゃんを頑張って支えているんだ。負担にならないために、万能になるためには相当な努力と葛藤があっただろう。

 ライトも母を支えるために、バイトしてお金を稼いだり、家事の仕事も一緒に頑張っていたりしたため、そういった努力はよく共感できる。

 

「っ……はいお客様」

 

 ライトの言葉に少し視線が揺れるレム。だが、そんなことに、ライトは気づくことができなかった。

 

「本当に不思議だーぁねスバルくん、ライトくん。ルグニカ王国のメイザース辺境伯の邸宅まで来て、なーんにも事情を知らないっていうんだから。よく王国の入国審査を通って来れたもんだーぁね」

 

 言を発した者へと目がずれる。

 テーブルの上で手を組んで、笑っているロズワールだ。だが彼の纏う雰囲気が、こちらに向ける瞳が明らかに変わった。

 ここに来たモノを見定めるような吟味するような視線に、ライトは固唾を飲まざるおえなかった。

 

「まぁ、ある意味密入国みたいなもんだからなー俺ら」

 

「…………。ん? ミツニュウコク……──ぁ」

 

 思い返してみれば、気づいたらこのルグニカ王国にいたのだ。ライトは王国に入るには、入国審査が必要であることを知らないため、一人動きが固まり色素を失った。

 彼の頭によぎる最悪。盗品蔵の一件を乗り越えた先にあるのが牢獄生活なんて、どう言う現実なのだろうか。

 

「呆れた。あっさりとそんなこと喋って。怖い人たちに牢獄に押し込められて、ギッタンギッタンにされるんだから」

 

「ギッタンギッタンなんて今日日聞かねぇな」

 

「茶化さないの、ねえスバル。本当に大丈夫?スバルの周りってみんな……ライト?」

 

「どったのエミリアたん?ライトになんか……おいっライト大丈夫か!」

 

「ふぇぇええぇえぇぇぇ────」

 

 受け入れられない現実にライトの脳が耐えられなかったようだ。どこから出してるかわからない高音とともに体を背もたれに預けて目があらぬところに向いている。口から垂れている唾は魂が抜けているように見えて、間違いなく精神状態が危ういと警告していた。

 

「ライトっ戻ってきて! いい子だからっ」

 

「はっ……すみません何か書くものをくれませんか? 辞世の句を書いて逝きたいので……」

 

「うおぉお早まるなっライト! いくって意味があの世行きみたいになっちゃってるから! ちょっとエミリアたん、俺ライト直してるからその間に教えてくれッ」

 

 そういうとライトの肩を持って横揺れをさせるスバルだったが、一向にライトは戻って来ず瞳がグルグルを渦を巻いている。

 ラムが羽ペンとメモ用紙を持ってきてくれたと思えば、ライトが椅子から立ち上がって受け取ると床に置いて、しゃがんでスラスラと書いていく。

 

「教えて……えっと、今、この国ルグニカは戒厳令が敷かれた状態なの「オッケーってバカライト! 何書いてんだッ」ちょっと大丈夫なの?!」

 

「見知らぬ地、苦難乗り越え、今日の日に、檻に囚われ、さらば人生」

 

「ちょっ本当にっユニコーン! お前の主人助けろっ」

 

「ハハハハハハァ!グッフォオ゛ォっ!!」

 

 これまでの人生がコマ送りに放映されていく。最後にできた良い事といえば、フェルトを助けた事だからもう悔いはない。

 涙を流して悲壮に頭のおかしくなったライトだったが、白い線と見紛うスピードで腹に突っ込んだユニコーンによって、彼が仰向けで床に伸びた。

 

「…………」

 

「おおっ大丈夫かこれ!」

 

「ちょっとライト! 起きてっ「はっ」よかったぁ、もう大丈夫?」

 

 ゆすろうとしたエミリアだが、ライトが息を吹き返して状態を起こす。

 ライトが頭を抱えている様子からもう戻ったのだと安堵に額の汗を拭うスバルに、彼が瞬きを繰り返す。

 

「あれっスバルにエミリア。ユニコーンも」

 

「よし、ようやっと戻ったな。んじゃ続いて説明よろしくっ」

 

 頭にユニコーンが乗ってきて頭を撫でられる。彼の手から気遣われているのがわかるのだが、なぜ気遣われる状況になってしまったのかライトはわからない。

 片眉をあげて状況の理解に苦しんでいるライトはさておいて、エミリアが先ほどの説明につけ加えていく。

 

「うん、戒厳令が敷かれた状態なんだけど、他の国からの出入りがすごーく厳しい状態なの」

 

「戒厳令……ここの国は、何か重い事情でも抱えているんですか?」

 

「いつものライト、だな。硬い気もするが気にせんでおこう。んでもここの状況って、なんかまずいことになってんの?」

 

 調子が戻っていくライトが、沸々と湧き上がる疑問を口にすると、エミリアとスバルが元の椅子へと座っていく。続いて座っていくと、確認したロズワールが一息ついて、

 

「穏当な状態ではないねぇ。なーぁにせ今のルグニカは『王が不在』」

 

 ロズワールの言葉を受け止め、咀嚼して飲み込む。

 緊張で息が詰まりかければ、だるさの抜けない体も相まって貧血気味だ。嫌に冷たい汗をそのままにライトは周りに視線を巡らせる。

 レムにラム、エミリアやパックもベアトリスに動揺の兆しは見えないことからこのことはすでに周知の事実なのだろう。

 その警戒した様からこちらの心を察したロズワールが、安心させる笑みを浮かべる。

 

「そーぉんなに警戒しなくても心配ご無用。すーぅでに市井にまで知れ渡った厳然たる事実だーぁからね」

 

「さよけ。秘密を知られたからには生かして帰さん展開になるかと思ったぜ」

 

「脅かさないでくださいよ。俺たちまだここについて右も左も分からない状態なんですから」

 

「すまないねーぇえ。話を戻そうじゃーぁないの。王がお隠れになったのと同時期に城内で流行病が蔓延してねーぇえ。王とその子孫は根絶やし。現状、国の運営は賢人会によって行われ、新しい王の選出に向けて動いているところなーぁんだよ」

 

 この国の現状を丁寧に教えるロズワールに、だんだんと理解が追いついてくるライト。

 状況を理解したライトの答えが口が力なく開くと言う結果となるが、そこで彼の気持ちを代弁するように腕を組むスバルが瞑目する。

 

「なるほどだんだん分かってきたぜ? 王国は王不在な上に王選出のドタバタで混乱中。そこへ現れる謎の放浪者俺達……あれ…超怪しいなっ!! 俺たち!!」

 

「さーぁらに付け加えちゃうとエミリア様に接触して我がメイザース家と関係を持ったわけだーぁしね」

 

 そうなのだ。この王国は王不在でドタバタ大騒ぎ状態、他国とも鎖国状態とも言えるこの情勢に、スバルとライトは唐突にして現れた。

 それに加えてエミリアを助けたといったことになるのだが、喉に小骨が刺さったような違和感に気づく。

 

「……やっとわかりました。丁寧にありがとうございます。でも、エミリア『様』ですか?」

 

「俺も同じとこで思ったぜライト。なんでここの主人がエミリアたんに様付け?」

 

 屋敷で高い位に位置する主人が、なぜかエミリアのことを様付けで呼んでいたことに。

 

「当然のこーぉとだよ。自分より地位の高い方を継承で呼ぶのはねーぇえ」

 

 首がぎこちなく動く様はまるで油の切れた機械のようで、エミリアを見ると視線を泳がせて照れ隠しのように髪を触ったりしていた。

 スバルも同じことを思ってかエミリアに向ける動作がぎこちない。

 

「えっとエミリアたんってばつまり……」

 

「今の私の肩書はルグニカ王国四十二代目の王候補の一人。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾でね」

 

 告げられた言葉に、今までの彼女に対するスバルの無礼を思い出して、無性に天井のシミを数えたくなった。

 これからどうしようかと考えに浸ろうとした矢先に、

 

「スバル心の一首。好きな子が、国の未来を、任される、春の便りは、未だ遠くに」

 

 こちらが真剣に考えているにも関わらず、性懲りも無く無駄口を叩くスバルには呆れる。頭を抱えずにいられなかったライトがスバルの顔を覗き込んだ。

 

「それよりも、こちらの首が、飛んでいく、バカは言わずに、まずは謝れ」

 

 




星評価ありがとうございます!
頑張って書いていきます!
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