Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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エミリアからの申し出を断るに断れない状況。そんな中、ライトとスバルはある決断をする。
「ここで働かせてください」


第九話 ここで働かせてください

 

 

 エミリアの衝撃的な告白から出た二人のこれからすべき行動は、誠意の土下座だった。

 床に膝をつけて、踵に尻を落ち着かせる。手は太ももに置いて綺麗な正座へとなれば、謝罪を向けるべき正面のエミリアに、視線を上げる。

 突然の二人の行動に動揺を隠せず眉を心配そうに上げる彼女はそのままに、手を床について額を近づければ視界がそれでいっぱいとなって、

 

「マジ、すんませんでした」「本当にすみませんでした」

 

「やめて二人ともっ、顔あげて!」

 

 手を忙しなく動かして頼み込むエミリアだが、二人は顔を上げようとはしない。それだけ事の重大さを知ったライトとスバルは謝罪の念でいっぱいだったのだ。

 あわあわするエミリアの前で首を垂れて平伏する二人の状況は、まさにカオスここに極まれり状態だ。

 

「あはーぁ、私は面白いからこのまま見ていたいけーぇどね? 事態を説明したいから顔を上げて、席にご着席してもらえなーぁいかい?」

 

 顔を上げると、面白くて笑っているのかわからないが嫌に圧を感じる表情をしたロズワールがいて、二人の顔が強張ればそそくさと元いた席へと座る。

 座れば申し訳なさそうに眉をひそめるエミリアがあるものを手にして、それをテーブルの上に置く。

 

「その、二人とも驚かせちゃってごめんね。こんなに黙ってるつもりなんてなかったんだけど」

 

「それって……」

 

「あの徽章じゃねえか」

 

 テーブルに置かれたものを見た。

 紺色で逆三角形のそれには金のモールドが施されており、赤い宝珠に竜のような顔が喰らい付いているようなものだ。スバルが命を賭しても返したかったものがそれなのだと分かったライトだが、ふと疑問に思ったのだ。

 

 ──そんな大事なもの、なんで失くしたんだ?

 

「これは王選参加者の資格。ルグニカ王国の王座に座るのに相応しい人物かどうか、それを確かめる試金石なの」

 

「……様はつけなくていいんだよね。それじゃあ、なんでエミリアは、王様になるために必要で大切な徽章を失くしたんだ?」

 

「え」

 

 口を開いたまま、一瞬時が止まったようにエミリアが固まる。やっと思考が追いついたのか口をぱくぱくさせると、手をパタつかせる。その様は周りの人から見ても滑稽に映った。

 

 

「な、失くしてなんかいないわっ手癖の悪い子に取られちゃっただけで「「同じじゃないか/じゃねえか!」」およよー」

 

「およよーなんて口に出すやつあんまいねぇよ。っていうかマジでそれ無くすとどうなっちゃうの? 役所で再発行とかできんの?」

 

 彼女の能天気さにはほとほと呆れてしまって頭を抱えたくなる。

 二人のツッコミで意気消沈してしまったエミリアはそのままに、スバルが腕を組んで白いクロスに置かれる徽章を眺める。

 役所で発行なんて、未来の国を任される王がこの有様では発行拒否なんてこともあり得るだろう。そんなライトの心中が聞こえたのだろうか。ロズワールは手を大っぴらに広げれば、

 

「んまあ『失くしました』じゃ済まないのは間違い無いだろうねーぇ」

 

 大袈裟に演技がかった声をあげれば、ロズワールは乱れた袖を整えて続けて答える。

 

「小さな徽章ひとつ守りきれない人間に国を任せられないって思われればそれでおーぉしまい」

 

「盗んだのはフェルトちゃんで、それを盗ませたのはエルザさん。これってエミリアが王様になるのを妨害するためにやったって言うことですか?」

 

「そーぅだろうねぇ。王選から脱落させるのに、徽章を奪うなんて簡単に思いつくしねーぇ」

 

 ライトの中で、昨日と今の出来事が腑に落ちる。なぜ徽章をめぐってこの事件が起きたのか。そしてなぜこの屋敷で丁重にもてなされるのか。その理由がようやくと。

 

「改めて考えると、俺たちってばマジいい仕事したなぁライト! これはすげぇ報酬が期待できるぜ!」

 

「俺たちって、別に報酬のために頑張っていたとかじゃ無いでしょ。俺は、あそこにいた人が無事でいてくれることが何よりの報酬なんだ」

 

「ぐわぁーなんという真っ直ぐさっ」

 

 功績に有頂天な様子で、手をワキワキさせて報酬に胸膨らませるスバルだったが、あまりに謙虚すぎるライトの物言いには自身のがめつさに目を覆いたくなったようだ。

 そのライトの言葉がとても信じられないというようにエミリアが、目を見開いて、

 

「いいのっ遠慮しなくて。スバルとライトは私にとってすごく恩人。だからなんでも言って」

 

「へ?」「え?」

 

「私にできることなら、なんでもする。ううん、なんでもさせて。スバルたちが私にしてくれたのはそれぐらい意味のあることなんだもの」

 

 胸に手を当てて真剣な顔つきで見つめ返されて二人は言葉を失う。

 だが、ライトは何かに思いついたようで、顎に指を添えた後に瞳だけをエミリアに向ける。

 

「じゃあエミリアは何か渡せるものとかはあるのか?この場合金品とかでもいいんだ」

 

「えぇーとぉ…………ない、です……」

 

 ため息。

 それはほんの一秒程度。だがエミリアの気持ちを固めるには十分な時間だった。

 なんと後先を考えないエミリアだろうか。ライト達に負い目を感じさせないためにしようとする配慮があるのは感じ取れるのだ。だがそのフォローが下手くそすぎるあまりにエミリア自身が勘定に入っていないのだ。

 これにはライトも机に肘をついて視界に映る前髪を額に押さえつけて、呆れる。頭をあげて掻けば、彼は膝に軽く手を叩く。

 

「分かった。じゃあ軽くお説教。まずはこう行った交渉をするときに大事なのは自分の利益をできる範囲で守り抜くことが大前提。それを踏まえて、君の今言ったことは大袈裟に言うと、王選の権利も相手に委ねると言うことなってしまうんだ。それに王候補は君以外にももちろんいるんだろ?ならそこでも心理戦は付き纏うんだ。時に協力する時もあれば、時に競争し、時に裏切られる。まずは少し疑うことが大事なの。今ここでエミリアの癖が分かった。君は性格が真っ直ぐでとてもいい子だと思う。だが素直すぎるのは騙されやすいという欠点も持ってしまうんだ。それに自分のことが勘定に入っていない。もっと自分を大切にしてくれ。これは君に契約しているパックからしても迷惑だしとても嫌なことこの上ないんじゃないか?」

 

 嵐のように、機関銃のようにライトの口から言葉という銃弾の雨がエミリアへと降り注いでいく。尖った耳が下がっていき、顔がしょぼしょぼになっていくエミリアをとてもかわいそうに思うが、これは彼女の今後の王選の手札にも関わるため、ライトは心を少し鬼にしなければならなかった。

 ライト自身もこれほど口が回るのかと驚きながらも、パックに今のエミリアについての問いを投げかけた。

 

「んー? そうだねぇー、いじっぱりで素直なのも可愛いと思うけど、ボクはボクの娘が馬鹿な子だと思いたくないなぁ」

 

「うぅ……ご、ごめんなさいぃ……」

 

「ライトの説教……あれで軽くなのか? 朝にあれが来たと思うと流石の俺も起き上がれなくなりそうだな。……で? エミリアたんは、俺と同じく素寒貧の一文なし。そしてその後ろ盾がお前の訳で?」

 

 話題が上座でこの状況をレフェリーとして見ていたロズワールへと変わる。

 手を組んでそれに顎を乗せる彼の仕草は薄寒いものを感じさせる。片目が閉じられ青色の目がスバルの方へと向かう。

 

「周りが見えてるねーぇ、君。たーぁしかに、私財としては一文無しにも等しいエミリア様より、パトロンであるわーぁたしに求めるのは道理だ」

 

「思うんだけどさエミリアたん、もっと人を選んだ方が良くね?」

 

「仕方ないの。王国で頼れる人なんて私にはいないし、そもそも私に協力してくれる物好きな変人なんてロズワールぐらいしか……」

 

「なるへそ。消去法ねぇ」

 

「二人してパトロン目の前に怖いもの知らずだーぁね」

 

 説教も終えて一息つくライトだった。息を吐いて新鮮な空気を吸い込めば、思考が晴れていく。

 だが、

 

「……ん?」

 

「どうしたんだライト?」

 

 一抹の疑問が再び顔を出す。

 盗品蔵での一件でエミリアは来た。そう、来たはいいのだが、王選を控えている彼女に付き人の一人や二人いないのはおかしい。

 疑問に声を漏らしたライトが、スバルの声に眉を寄せるという答えで返せば心のままに口を開く。

 

「いや、エミリアって王候補の一人なのは分かったんだけど……そんな重要な人がなんで一人で盗品蔵にきたのかなって思ってさ? 普通なら護衛の一つや二つついてそうなものだと思うんだけど」

 

「初めてのことだろーぉね。ラムが一緒だったはずだーぁけどさ」

 

 苦笑いにしてラムへと話題を変えるロズワール。ライトとスバルがそちらへ向けると髪の毛をレムと同じ分け方に整えていた。その姿は瓜二つなのでこの世界が白黒の世界だったら見分けがつかないだろう。要するに髪色でわかるためバレバレなのである。

 

「なんだ? その『誤魔化せたわ、しめしめ』みたいな顔。こんな感じで? 主人の命令が守れなかった事実がここに露見せり。そこんとこ屋敷の主人さん的にどうな訳?」

 

 当人の意思はこんな有様だが言質を取ることはできた。

 そして指ピンっと立ててロズワールへと標的を定めるスバルがしてやったりと言った顔をする。指されたロズワールは観念するように両手を力なく振った。

 

「確かに一理あるねーぇ。それに加えて君たちはエミリア様の窮地を救った恩人でもあーぁるから、それを踏まえて」

 

 ロズワールが手を組んでテーブルに肘をつける。目を閉じて口元が見えないその表情はわからなく、ただ静寂がこの部屋を満たす。

 

「聞かせてもらおうか」

 

 彼から圧迫感が展開された。

 背筋が伸びる感覚と共に、ロズワールのその様子は屋敷の主人に相応しい風格があるとライトは今更ながら納得した。

 

「君は、いや君らは私になーぁにを望むのかな? 現状、私はそれを断れない。徽章の紛失、その事実を隠蔽するためならなんでも支払おう。褒美は思いのまま、なーぁんでも言ってくれたまーぁえ」

 

「ニェッヘッヘッ、さすがは貴族様太っ腹ッ! そしてロズっち! 男として生まれたからには二言はねぇな」

 

「すごい言葉だーぁね。確かに、男が言い訳など格好が悪い。二言はないよーぉ」

 

 二人の男の矜持を聞きながらライトは考える。

 食客として扱ってもらうのも一つの手であるだろうが、メイドらしい人はレムとラム以外どこにも居なかった。他人に苦労をかけながら生活するのはライトとしても不本意。

 なら報酬としてある程度のお金を要求したとも考えてみる。このままお金と共に外に放り出されたとして、生きていける気がしない。少なくともユニコーンがいる時点で敵の心配はあまりかけなくてもいいだろうが、この国で仕事先が見つかるかどうかが不明なのだ。身分不明のライトは下手したら汚い仕事の切り捨てられる人材として扱われる可能性もある。

 

「何がいいんだろう……俺にもここには多少なりとも恩はあるから……あ」

 

 ライトがそう考えると、ある名案を思いつく。外での生活に危険性があるのならここで暮らす。そして、その願いを叶えさせてくれた恩を返すためにできる最善の策が浮上した。

 顔をスバルに向ける。自信満々の彼の顔にはもはや迷い無し。彼がこちらを振り向くと、星が落ちるようなウインクで心意気を示す。

 

「思いついたみてぇだなライト」

 

「うん、俺は……」

 

「まぁ皆まで言うな。なんなら声揃えて言うか?」

 

 沈黙が支配する。

 その空気を破るように、テーブルに手をかけて二人が勢いよく椅子から立ち上がって、高々に宣言する。

 

 

 

「俺をここで、雇ってください!」「俺をここで、雇ってくれっ」

 

 

 

 辺りが唖然とした空気に包まれて誰も口を開こうとしない。辺りを見れば心底嫌そうな顔をしたベアトリスがいてライトは苦笑いを浮かべそうになる。

 その雰囲気を。

 

「へくちっ」

 

 ラムの可愛らしいくしゃみが破った……

 

 

 

 

 長い朝食も終わって食器が片付き、スバルとライトの進退の件も決着がついた。

 もう何もないことがわかればいち早く席を立つのは巻き毛の少女、ベアトリスだ。離れるところを見れば彼女が言を発する前にライトが近づいていく。

 

「ベアトリスちゃん。さっきの話だったけどユニコーンのことよろしくお願いね」

 

 いちいち見上げるのも辛いだろうと目線を合わせるとライトの肩にいたユニコーンがベアトリスの頭へと跳躍。ベアトリスが落ちそうになる彼を手で支えようとするが、気抜けするユニコーンの着地音と共に少女の頭にある小さな王冠の隣に腰を落ち着かせた。

 ライトを見上げてその小さな手を振るユニコーンに頬が緩みかけてしまいそうになるが、そこは我慢。

 

「別に、これくらいどうってことないかしら。ユーちゃのことはベティーがしっかり面倒見るのよ」

 

 今までのスバルへの態度では想像もつかないような、自信満々な表情をライトへと見せつけるベアトリス。

 なんだか背伸びしている姉を見ているようで心和やかになるライトだが、聞きなれない名前に疑問の雲が湧き立つ。

 

「ゆーちゃ、って……」

 

「ユーちゃはユーちゃなのよ」

 

 頭に乗る者、ユニコーンを目で伝えると微笑みかけるベアトリスは、見かけと同じ可愛げのある少女にしか見えない。

 ユーちゃの正体がユニコーンの愛称ということを知ればライトは腑に落ちたようで、小さく両手を軽く叩いた。すると彼女がライトの後ろの方に忌々しそうな視線を向ける。その先にいたのはエミリアとスバルで、スバルが何かとちょっかいをかける様は好きな子と接している時の小学生みたいだという感想を抱いた。

 

「もういいかしら、そろそろ出ないとあの馬鹿がこっちに来そうったらありゃしないのよ」

 

「あーうん、分かった。ユニコーンもパックもゆっくりして行っててぇ……あーぁあ」

 

 そろそろ禁書庫へ行くのだとわかれば、同行者の一人であるパックがいないことに気づいて、名前を呼びながら彼のいるところへと目を向ける。

 だがそこにいたのは、

 

「甘っ、うまっ、うにゃっ」

 

 灰色小猫がパン耳に砂糖をまぶして揚げたラスクのようなデザートを齧っていた。一心不乱にその小さい口で食べていく様は、まるでハムスターが餌を頬袋に入れているようで可愛いのではあるが、惨状が惨状だ。

 

「甘いの食べて気分舞い上がるのもわかるけど、あーぁあこんな散らかしちゃって。髭にまでついてるじゃないか。ちょっと止まってろよ?」

 

「んーふふ、くすぐったいよぉ」

 

 両手でパックの顔を包めば優しく毛についたクッキーの食べカスをとっていく。

 目をギュッと瞑って尻尾がフルフルと揺れるパック仕草はなんとも愛らしい。触っていく過程でどうしても彼の毛並みに触れてしまうのは致し方ないことだが、スバルの言う通りこの感覚はクセになりそうで、ライトは拭き終わってもなかなか手を離せずにいた。このまま触っているのも悪いと思って、少し名残惜しいが手を彼から遠ざける。

 

「……取れたな。取るついでに毛並み触ってみたけどすごいな。フワッフワすぎて指の感覚が抜けないよ」

 

「うん、ありがとうねライト。じゃぁベティー行こうか」

 

「早く行くのよ♪ にーちゃ「お、もう行くのか?」……あの馬鹿をやり過ごせると思ったらこれなのよ。ベティーはにーちゃたちと禁書庫へ戻るのよ。お前はそっちのと話すといいかしら」

 

 雰囲気で察したと言うのだろうか。空気を読まないで定評のあるスバルも、なぜかこう言う時に限っては敏感だ。

 すまし顔のベアトリスの顔に苛立ちが滲み出しているが、その少女に唐突に罵倒されたスバルもまた盛大に嫌な顔をして見せる。

 

「人のこと馬鹿呼ばわりとはいい度胸してるな? ロリっ子ぉ……」

 

「行くかしらぁにーちゃ、ユーちゃ」

 

「あ゛! 無視すんじゃねぇ「昴」なんだよライトぉ今あのロリを俺のトークで可愛がってやろうとしてたとこなんだぜ?」

 

 無視されたスバルがこれまた目が釣り上がるのだが、肩を叩かれて意識が強制的に斜め後ろの方へ行く。

 親指を立ててライトが後ろを刺してみれば、青髪と桃髪のメイドがこちらをみていることにスバルがようやく気づいた。

 レムの方は表情に出ないためわからないものの、その分ラムの方がわかりやすい。腕を組みこちらを見る視線は蔑みと哀れみが含まれていて、いつまでも来ないスバル達に苛立ちが隠せていない。

 冷や汗を浮かべたライトが、

 

「いや、嫌がることしちゃだめだろ。そんなことするから嫌われてるんじゃないのか?それと早く行こう。メイド姉妹が俺たちのこと呼んでたから」

 

「おぉ、女の子を待たせるのはまずいな。早速行こうぜライト」

 

「あぁ。……ん?」

 

 そそくさとメイド姉妹へと向かうスバルを見送ると、我関せずと言わんばかりに顔を向けないベアトリスがライトを横目で見ていることに気づいた。ユニコーンとパックは何かしているようだがよくわからない。

 急がないと怒られそうなので、ライトが小走りしながらも顔を少女に向けて、手を振る。

 

「じゃあ俺はこれで、ゆっくり楽しんでいってよユニコーン!」

 

 




現在、主人公ライトくんの設定資料を描いています。投稿が遅れると思いますので気長にお待ち下さい。
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