Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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早速新天地にて執事の仕事を始めようとするライトとスバル達。
しかしそこで働くには使用人服が必要なため、二人は選ぶのだが……


第十話 ここが新天地

 

 

 二人の執事生活は怒涛の勢いで火蓋が切られた。

 スバルとライトは衣裳部屋でハンガーにかけられている服を見て驚く。どの服も一流が作ったような意匠が凝られていて、二人が着るであろう給仕服や、エミリアが公の場で着るだろうドレス。ロズワールが客人を相手にする時に着るような衣服もかけられていた。

 ライトは自分で選ぶと言って離れ、スバルはラムに手渡された使用人服に袖を通している。白のシャツに黒の上着とズボンは、スバルの執事の格好と合致する。だが問題なのは、

 

「おーいラムちー、とりあえず着てみたんだけど……」

 

「それじゃあ、ちょっとあんまり……他に合うのなかったの?スバル」

 

「女物ならなぜかあったんだが」

 

 スバルの姿は酷いものだった。

 肩がダボダボであれば腕の長さは袖に負けてキョンシーのようになっている。足の方も同様に負けていて、中学生上がりたてで身長が足りない、まるで服がそこにいるような様になってしまっている。

 その似合わなっぷりに鏡を見たスバルがほとほと困り果てた目でエミリアを見るのだが、彼女の指摘通り探したのだ。だがなぜかわからないのだが、ラムに冗談で渡された女性陣の着る給仕服を鏡で照らし合わせてみれば合致してしまうのだ。

 

「申し訳ございません、お客様。改めスバルくん」

 

「無様ですねお客様。改めバルス」

 

「ぐわぁーっ目がぁって、姉様? 俺の名前が天空の城破壊魔法になってるんですがこれいかに。あとナチュラルに煽るのやめろよ」

 

「その呼び方に何か物言いつけたいところだけど。レム、この無様なバルス「おいっ」を見て気づくことは?」

 

 初対面の場では必ず一度は触れられるスバルの鉄板ネタだ。もっともラムとレムにそれがわかるかと言えばわからないだろう。もどかしさに堪えつつも、スバルは罵倒まじりに妹に自身の姿を評価させようとするラムに引き攣る笑みをしてみせる。

 するとレムは、考えるように指を顎に添えて可愛らしく首を傾げて見せると、答えが決まったのか体の角度が戻って目を一度瞬く。

 

「肩周りがおかしいのと足が短いことと、目つきが怖いことですか?」

 

「どうにもならない部分が二箇所出てきたな! そろそろライトも選び終えて着替えてくるだろ? その無様っぷりに俺が姉妹に受けた鬱憤を晴らして……」

 

「俺をストレス解消サンドバッグみたいな言い方するのやめてよ。まぁ着てみたけど……こんな感じになった」

 

 スバルとエミリア、メイド姉妹の会話を聞きながら試着室で着替えていたライトが半月の目でスバルを見ながら出てくる。

 彼が袖を通した使用人服は、私服同様に白を基調としたものとなっている。黒のシャツにグレーの斜線が入っている黒のネクタイが付けられていて、その上に白のベスト付きを着て、白いスーツを羽織るというスリーピーススーツとなっている。

 彼の着こなし様は、スバルと比べるとちょっとだけ袖が長いこと以外異常はなく、体格も少しばかり良いのか様になっている。鏡を見ながら白いスーツを纏う自身を見るライトは、肉体労働の多いバイトをしていたことが功を奏していたと少しばかり安堵した。

 

「なーぁんでライトはそんなに似合うんだよ。つぅかこれまた白いなぁ」

 

「いいでしょこれ。まあさすがピッタリとまではいかないけど」

 

「んまぁそんな時の通過儀礼なんだが……」

 

 そういうと長い袖を片方の手でキュッと出して右手が顕になれば、それを顎に添えて、鋭い目にギラついた光を宿らせライトを横目で睨む。

 勝ち誇ったような笑みをスバルが浮かべれば、得意げに鼻を鳴らして、

 

「その服でカレーうどん食べるのは、汁が目立つからやめておいたほうがいいぜ」

 

「かれーうどんってなに?スバル」

 

「ちょっとエミリアたんっ俺が今親切心からくる御忠告をライトに話している真っ最中なんだよぉ。でも可愛いエミリアたんだから説明させて頂くとだな、カレーうどんっていうのはこうなんていうか……そう! 小麦粉をモミモミしてサクサクっと切った糸状のやつがうどんの麺なんだ。でそれに、香辛料を使う調理法でできた食べ物をうどんにぶっかけることでできるのがカ・レ・ー・う・ど・ん。エミリアたんも一回食ってみればわかるさ。それを食べてしまえば……」

 

「うん、なに言ってるかわからなかったけど、美味しい食べ物だってことはわかったから」

 

 カレーうどんという聞きなれない単語に、疑問を隠せないエミリアがスバルに聞いたのだが、彼の怒涛の解説には苦笑いを隠せなかったようだ。

 すると瞑目して故郷の食べ物に想い馳せながら一通り喋り終えたスバルが、エミリアの眉を寄せて困るような表情に気づく。

 

「わかってなくて困り顔になるエミリアたんもマジE・M・C! あっE・M・Cってのはエミリアたんマジキュートの略で……うぉっと脱線したな。さぁライト、俺はどうしようもない二箇所の部分を罵倒され現在傷心中だ。ちょっとお前も罵倒されて、同じ目にあえッ!」

 

「罵倒されにって……おっと押すなよスバル。…えぇとレムちゃんラムちゃんどうかな? 似合ってるかな?」

 

 スバルに背中を叩かれライトが強制的にレムとラムの前に立たされる。二人に見やすいようライトは全身を一回転させ、軽くポージングを取ってみせた。メイド姉妹が揃った動きで指を顎に当て、首を傾げて考えれば結論が出たようだ。

 レムとラムが軽く礼をすると、

 

「失礼します、お客様改めライトくん、まるで服に選ばれているかのように似合っています。スバルくんより」

 

「失礼するわ、お客様改めトライ、作業するのに不便なこと以外には、特に何もないわ。無様ねバルス」

 

「ねぇねぇ、ライトと俺で対応の差が激烈なんだけどどう言うことなの? ひどくないエミリアたん?」

 

 思った以上に褒められてしまい照れが隠せなくて、ライトは鼻の下を人差し指で擦ってしまう。

 だが、そんな同僚の褒めから遠回しにディスられたスバルは黙っていられなかったようで、隣のエミリアに共感の意を求めようとする。

 しかし、

 

「でもライトが似合うのは本当のことだから仕方ないんじゃ……」

 

 否定もしてくれない。

 エミリアが頬をかいてスバルに目を向けるのは彼からすれば可愛いとも思えたし、慈悲もないんだとも思った。

 この絶望的な状況でスバルにできることと言えば、顔を押さえて悶え苦しむようにヘドバンをするくらいで、致し方ない。

 

「俺の心が叫びたがってんだけどどうすりゃいいかなッ!?」

 

 手を大っぴらに広げてこの場のみんなに助けを求めるスバルなのだが、ここにすかさず追撃をかまされる。

 

「こんな貧相な格好で働かせてしまえば、ロズワール様の品位が疑われてしまうわ。上着だけでも直してしまいましょう。レムお願い」

 

「それじゃあ私は王選の勉強があるから、二人ともサボらずに、お仕事がんばってね」

 

「んーふふふ……はぁもうだめだあおしまいだ」

 

 誰も助けの手を差し伸べてくれず、悲嘆に暮れれば彼の膝に衝撃がくる。これはスバルが力なく膝をついたのだと理解すれば、手を床について項垂れる。

 だがそんなスバルにも助けが来た。

 

「ほら、昴起きろ。好きになった女の子の前でなにやってんのさ」

 

「いやっこれは別にっ好きとかそういうんじゃなくてこれはこういうアレでっ!あとハンカチあんがと」

 

「はぁ昴って忙しいよな。まぁ調子戻ったし大丈…あー! 鼻かむな! もう……あとで洗って返せよ?」

 

 この状況。

 側から見ればなんだかんだと言って世話焼きなおやっさんがずっこけでハーフボイルドな弟子を支え諭しているようにしか見えない。おかしなな会話さえなければだが。

 ライトのハンカチをスバルが涙と鼻水つきハンカチへと変えさせれば、ライトと同じように立ち上がる。

 ライトが膝についた埃を払って出口で立って待つエミリアに、

 

「ごめんね足引き止めちゃって。──先ほどの件、承りました。エミリア様。ってね」

 

 かしこまった口調で、アニメやドラマなどで見た執事の動きを真似てみせた。

 空気が静寂に包まれて、恥ずかしくなって耳が熱くなるのを感じていると、ライトの周りで拍手が上がる。顔を上げてみれば驚いた顔でこちらを見るエミリアがいた。

 

「もうっ様になっちゃって」

 

「ライト本当に初めてか? そう言う感じにしか見えないぞ? ってなわけこの波に俺も乗ってくぜ? ──任されましたエミリアたん。ってな」

 

 格好のつかない宣言と共に喉を低く震わせて見せるスバル。

 シーンと誰も言葉を発さずに先ほどのライトの時とは異なる静寂が支配して、何か反応してほしいと心底不安に思うスバルだった。

 この困った空気を破るのは青髪の少女だったのだが、

 

「採寸します。そこに背筋を伸ばして立ってください。両手、肩の高さで伸ばして……」

 

 

 

 なにも触れてくれなかった……。

 

 

 

「ノーリアクションが一番傷つく! こんなときはエミリアたんの太ももで癒されたーい」

 

「こんなときって、おかしなスバル。がんばってね」

 

 そう言って衣裳部屋から出ていくエミリア。

 彼女に手を振って見送れば、レムがメジャーを手にしてスバルの背後へと立つ。それに気づくとスバルは先ほどの言ってたことを思い出して両腕をあげた。

 

「ほいほい、了解。お願いします」

 

 スバルの言葉を後に、背後から小さな体を伸ばして彼の腕と背中周りに紐をかけるレム。触れる柔らかな感触と、服の上からでも感じてしまう息遣いに、ふいを突かれたスバルは「はぁん」と言って体をこわばらせた。

 

「ぐふっ」

 

「あまり変な声を出さないでください、スバルくん。不愉快です」

 

「今のは不・可・抗・力ぅ。笑うんじゃねぇライト、お前もやられてみやがれ。色々とこそばゆいんだよっ」

 

 

 その後はスバルが鼻息を荒くし、目をガン開きして耐えていたこと以外は特になにもなく、採寸は終了した。

 

 

 

 

「ここが貴賓室」

 

 寒い季節になってもこの暖炉があれば、落ち着いて会話ができそうだ。

 

 

「ここが浴室」

 

 ローマのテルマエのような大浴場で、床が大理石でできていた。よく磨かれていることから二人が今まで努力してきたことがわかる。

 

 

「ここが厨房」

 

 中世のヨーロッパや牛乳を注ぐ女に出てきそうな厨房だ。大中小様々な鍋が机の下や棚に置いてある。こんなに必要なのか?

 

 

「そしてここがお手洗い」

 

 ……これまでの部屋は広かった。ということはトイレの方はとても清潔になっているのだろうか。

 

「これだけの豪邸。トイレもさぞかしでかいんだろうな」

 

 そう言いスバルが扉を開けて、中を確認しようとすると彼の目の前に広がったのは豪勢なトイレ。

 などではなく、

 

「にーちゃステキ最高の毛並みなのよぉ、あ゛っ」

 

 部屋いっぱいに広がる本棚と、ベッドの上でパックの毛並みを堪能するベアトリスだった。

 気配に気づき、ゆっくりと縦ロールの視線がスバルたちへと向く。スバルは廊下に立つラムを振り返り、ラムが首を振るのを視認した。

 そこを割って入るのがライトなのだが、彼の存在にベッドの足元の小さな存在が手を振る。

 

「ユニコーン楽しんでるか?」

 

「……っ」

 

 本を床に置き、読書をするユニコーンだ。立ち上がって飛ぶことも忘れた彼が、ライトの足元へといくと両手をあげてジャンプする。

 どうしたのかと疑問に思って屈んで、彼を手に乗せるためライトが手を差し伸べると小さな手が人差し指を掴んで連れて行く。

 腰にキツイ体制で、痛いながらもユニコーンの仕草にやはり心安らぐライトは困り笑いを浮かべてついていった。

 スバルと未だ視線で空中戦を繰り広げるベアトリスの側、ベッドの近くまで着けば、ユニコーンが座って隣をベシベシと叩く。

 

「どうしたんだよユニコーン、ん? あぁ座れって言ってるのか。いや、わかったから。そんな首取れそうに振るなよ」

 

 最初はその動きをおかしく思うのだが、意味を読み取るとなんと健気で愛らしい精霊なんだとニヤケが止まらなくなる。

 ベッドの足を背もたれにライトが「よいしょ」と言い座れば、足を踏み外しながらもユニコーンは膝をよじ登って来た。

 胡座をかいているため、股に側に積まれていた手頃なサイズの本を乗せると、そこにちんまりと座る。

 

「はいはい、この本を持って開けばいいんだな?」

 

「(うなづく)」

 

 見上げてくるユニコーンとそれを受け止めるライトの間では温かい空気が漂っている。

 ベアトリスとスバルはというと、

 

「誰にも言わないから安心しろ、人はその感触の前に──」

 

「バカなこと言ってないで出て行くのよッ!!」

 

「オワァア──ッ!!」

 

 不可視の力によって、スバルがぶっ飛んで廊下の壁へと激突。後頭部を打ち付けて目を回すスバルを尻目に、激しい音を立てて扉が閉まった。

 ライトを残して。

 

「あっ昴。閉じちゃった……あぁごめんな次のページいくよ」

 

「お前も出ていくかしら」

 

「いやぁ、でもユニコーンが……」

 

 股に乗せた本の上に座るユニコーンを見れば、ベアトリスへと小さな顔を向けて首を左右に振った。

 その様子に少女は仕方がないと眉の端を下げて見つめていた。

 

「人間」

 

「ん?どうしたんだベアトリスちゃん」

 

「ユーちゃとは、……どこで会ったのかしら」

 

「それが……わかんないんだ。でもユニコーンはこのネックレスから出たんだからきっと誰かに──」

 

『──の望みは──』

 

 頭に誰かの声が雑音に混じって流れる。それは何かに解放されたような声。聞けば嫌悪を感じる声。

 そんな声がライトの脳内で鳴り響く。

 頭が痛い。切り裂かれる。弾け飛ぶ。砕かれる。かき混ぜられる。ねじ込まれるような痛みが危険信号として吐き出される。

 痛みで頭を覆うライトを少女は黙って見ていた。小さく誰にも聞こえない声で唇を震わせる。

 

「ユーちゃはもう……そのひ──」

 

「ここだぁッ!!」

 

「──ひゃんっ!?」

 

「すごいね、スバル」

 

 突然扉が大きな音を立てて開けば、息を弾ませるスバルが登場。

 少女の悲鳴と灰色の猫の賞賛が上がった。再び吹き飛ばされないようにするためか、スバルは即座に書庫の中に転がり込む。

 

「また正解を引きやがったのよ」

 

「ふふーん、言っただろ? 俺はゲームマスター泣かせのフラグクラッシャーだ」

 

 扉を開けただけで一体なにをそう盛り上がっているのかよくわからない。

 親指を自信満々に己ヘと向けて腰に手をやるスバルにライトは心中そう思う。

 

 ──またよくわからないこと言ってるな

 

「言ってる意味がわからないのよ」

 

 偶然にも内容が一致したベアトリスが可愛らしい顔を歪めてお調子者のスバルに言い放った。

 少女のわからないという言葉に感化されたのか、彼が手を弱々しく広げて困ったような顔をする。

 

「俺も誰だかわからねぇよ。ロズっちの妹?」

 

「あれの妹なんて願い下げかしらフンっ」

 

「ベティーはロズワールのお屋敷にある禁書庫の司書さんだよ」

 

 スバルの疑問に不機嫌に答えると頬を膨らませて顔を背けるベアトリス。

 ユニコーンに本のページを捲ってあげながら聞き耳を立てていると、わかりやすく少女のことについて説明するパックに、理解の吐息をライトが漏らす。

 するとスバルの後ろからおそらく彼に追いついたであろうラムが、息切れもなくパックの言葉に紡ぐ。

 

「ロズワール様は王国最高の魔術師。人目に触れさせられない本もたくさんあります。ベアトリス様の契約でここを守ってるんです」

 

「ホーン、お城お抱えの魔法使い様ってわけか。才能に溢れたやつっていうのはどうしてあんなに個性的なやつばっかなんだろうな」

 

「それは、大っぴらにやる人が目立っているだけで、実は氷山の一角っていう可能性もなきにしもあらずだよ昴」

 

 スバルの疑問にライトがそう答える。

 ユニコーンは床に下ろして別れの挨拶を言ってきたので、こうして戻ってきたわけなのだ。それでも名残惜しいので、ユニコーンに手を振りながら離れているのだが。

 

「わかったらさっさと消えるのよ」

 

「ユニコーンをよろしくね。ベアトリスちゃん」

 

「言われなくともユーちゃの面倒を見るかしら。いいからさっさと出ていくのよ」

 

 そう言って扉が閉まったのだが気のせいだろうか。扉が閉まる直前、ベアトリスの表情が

 

 

 

 ひどく寂しそうに見えた。

 

 





【挿絵表示】

できましたー!
ライトくんのイメージですッ
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