Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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 料理の最中に語られるのは、小鳥遊家の歪み。


第十二話 来翔の歪み

 

 

 黒からだんだんと白へ変わるようにライトの意識が覚醒していく。

 昨晩の明かりの消し方に迷ったライトは、光源の仕組みを調べてみることにしたのだ。よく見てみればつまむ部品があり、捻ることで消すことができたため睡眠の質が下がることは防がれたことで朝まで熟睡。

 鳥のさえずりが聞こえて目を覚ます。カーテンから光が差し込んで部屋がわずかに照らされていて、寝ぼけ眼を擦ったライトは微睡の中再び枕へと誘われる。だが…

 

「んー眠い…………『──ッ!!!!』うわっ!!」

 

 耳を劈く爽快な音楽が部屋中を飛び交って、枕から頭が跳ね起きた。

 一気に眠気が飛んで意識がはっきりすると、急いでサイドテーブルの上に寝かされたスマホのアラームを消す。

 

「はぁーびっくりした。アラーム鳴る前に起きるなんて幸先がいいな。……いや全然だな」

 

 アラームが鳴らなければ睡魔に身を任せてしまうところだったと、一日のスタートダッシュがうまく決まったことを撤回する。

 ライトはベッドから起き上がって椅子の上に置いた白い使用人服を着用し、黒いシャツに袖を通しネクタイを軽く締め、その上にベストを着用。白ズボンを履いて丈があってることを確認すれば、昨晩試しにパーカーと着て不評だった白スーツを羽織る。ボタンを閉めてネクタイをしっかりと締め、背筋が伸びる感覚とともに新しい朝を迎えた。

 

 この屋敷の始まりはまず朝食を作ることから始まる。階段を早足で降りていけば、メイド姉妹が部屋から出て厨房に行く姿を確認し、こちらも我先にと目的地へ。

 そうしてたどり着くと食堂の扉の前にスバルがいて、ライトの来訪を待ち望んでいた彼が手を振ってくるのだが、

 

「おっす、ライト。なんか随分と気合い入ってんだな」

 

 七つの願い玉で出てくる、某主人公の様な動きで挨拶をするスバル。だが、食堂前にやってきたライトの姿に何か言いたいことがある模様で、彼はニヤリと一つ笑う。

 そんなことに気づかない等の本人ライトは、歩いて行く。堅苦しい仕事着も相待って、なんだか手足の動きが逆になりそうだ。

 

「お、おはよう。今日から本格的な業務が始まるよ。でも……なんで昴は執事服着てないんだ?」

 

「そりゃ、朝飯はレムりんとラムちーが作ってくれてるんだからな」

 

「──え」

 

 ピシリッと謎の音とともにライトの表情が固まる。聞いていた話と違うのだ。絶対に合っているはず。今日の初仕事は朝ごはんを作るところから始まるはず。決して姉妹の仕事内容と誤解したわけじゃない。

 そんな思いとは裏腹に後ろから転がる音がして、スバルはこちらの肩から覗き込むようにした。首が軋む音を立てながらライトが振り向くと、そこには朝ごはんを乗せた台車を押してきたレムとラムがいた。

 

「あら、トライの仕事は朝食をとってからのはずだけれど。レムレム、トライったらまさか」

 

「そうですね、姉様。ライトくんは姉様の話をきちんと聞いていなかったようです」

 

「え? 最初は朝ごはんを作るところからって……え?」

 

 どうやら初日からスタートダッシュを決めに決めすぎて逆にお手つきとなっていたようだ。

 後ろにいるスバルに振り返って助けを求めて見ようとするライト。だが、そこにいたのは同郷でもあり同僚がするようなことじゃなく、こちらの失敗を嘲笑。沸々と湧き上がる何かが出てきそうになるものの、ここは頭を冷やし、己の失敗を次に活かそう。

 

「認めたくないけど、これが──若さゆえの過ちっていうことかな」

 

「トライが物思いに浸っている間に、バルスは食堂に引っ張って行きなさい」

 

「人使いが荒いこって……ほれスルー仲間、行くぞー」

 

「過ちを気に病むことはない……」

 

 瞑目しぶつぶつと何かを繰り広げるライト。スバルはひきづりながら彼を運ぶも、食事が始まるまでその言葉が止むことはなかった。

 

 

 

 

 なんだか朝食を取る前まで恥ずかしいことを連発していたような気がする。その間エミリアからこちらを苦笑いで何か言っていたような気もするけどたぶん気のせい。そう、これは多分なのだ。

 顎を指で擦りながら前回の反省を生かして今度こそ貢献しようと意気込むライト。ようやく着くと、そこには執事服のような人、ではなくきちんと丈が合うように直されたものを着たスバルがいた。ライトとは違いこの屋敷の使用人に揃ったような色の執事服。落ち着きがあり、着こなす彼の姿は厳かな立ち振る舞いをしていればきっと働きなれたものに見えるだろう。だろうと言っているのだから違うのだが。

 

「おっすーライト! どうよ、ニュー俺の姿! これが俗に言うナツキ・スバル、ロズワール邸の姿ってな」

 

 どこぞのリージョンフォームみたいなことを言うスバルからは全くと言って品性を感じない。これは、間違った感覚なのだろうか。

 眉を顰めて、絶対に執事がやらないだろうポーズを取るスバルをライトが見ていると、横からレムとラムが歩いてきた。

 はしゃぐスバルとその彼のテンションに全く追いつけていないライトを見て、ラムは一息。

 

「外見だけ取り繕っていても、バルスの品性が捻り曲がっているのが浮き彫りになるだけね。幸先が思いやられるわ」

 

「やっぱり俺の感覚が間違っているんじゃないんだな。馬子にも衣装って感じで、今の昴は本当に滑稽に見えてるんだ。よかったー」

 

「全然よくねぇよ。開始そうそうの感想が二人の罵倒とか、鬱憤が俺のワークエフィシャンシーに火を焚べるだけだぜ?」

 

「そう。訳のわからないことを言い放つバルスに羞恥心のないこともはっきりしたところで……」

 

 あっちの世界でも中々言わないだろう単語をこれまたキメ顔で告げるスバル。それもバッサリ切り落としてスルーするラムは後ろに続くレムと共に厨房の扉の前に止まる。

 振り返りこちらを見る二人からはこれからの作業であたりかハズレかを見定めレウような気がしてライトは人しれず唾を飲んだ。

 

「始めるわよ、まず屋敷に並ぶ昼食を作っていくわ。バルスとトライには本格的に包丁を握ってもらうからそのつもりで」

 

「ふっふっふっ、やっとだ。やっと俺の秘めたる執事スキルが覚醒し、この屋敷の食卓に猛威を振る……

 

 

 わなかったぁぁーーっ!!!! ぐわーーっ!!」

 

 彼の指先に真新しい傷口を形成。傷はぱっくりとナイフに切り開かれており、そこから汎用人型決戦兵器もびっくりな血を噴射していた。

 血の出る左手を押さえるスバルを見るのが、隣であんぐりとするライトと、机の奥で椅子に座り黙々と芋を丸裸にしていたラムだ。

 

「反省のないことだわ。バルス、上達って言葉を知らないの?」

 

「これで何度目だ? 左手がボロボロだし、フラグクラッシャー改めレフトクラッシャーにした方がいいんじゃない?」

 

「ウルセェ、言い返せなかった当てつけか?俺ってば箸以外の調理器具を握ったことないドがつくほどの素人だぜ?そんなやつに姉様みたいな技量求められるなんて無理無理」

 

 言い訳をし切った指を口に咥え、鉄の味を感じながらスバルは膨れる。

 現在の時刻はお昼時より少し前。ラムとスバルと一緒に庭の手入れを終えて、屋敷に戻った三人は昼食を準備をするレムの手伝いをしていたのだが、

 

「俺はともかく、姉様まで皮剥き担当って実際どうなのよ。姉の威厳とかは」

 

「得意分野は任せて、長所を活かした仕事をするの。ラムの出番はここじゃないわ」

 

「事前に得意分野でも能力的に負けてるって聞いてるんですけど!?」

 

 ラムに抗議するスバルをそのままに、絆創膏を探してみながら聞いていると確かにと言った感想が出てくる。

 掃除洗濯料理に裁縫、家事全般が劣っているというのが聞いた話だ。だが蓋を開けてみれば、ラムの技量は達人の域にも達している包丁さばき。

 

「はいこれ絆創膏。貼ってやるから手出して」

 

「悪いなライト。んじゃ早速見せてもらおうか」

 

 傷口に絆創膏を貼り終えた男が人差し指を伸ばしてライトへ向ける。その動きとセリフに「え?」と口をこぼすライトなのだが、置かれた包丁を強制的に握らせれた。 

 

「お前も俺と同じ轍を踏めぇ。そしてその純白の服を真っ赤に染め上げるのだっ」

 

「そんなことなるわけないだろ? 昴みたいに、何も初めてじゃないんだからさ」

 

 目つきを鋭くして毒づくスバルを横目に、カゴに入った芋を手に取って右手に持つ包丁を当てる。隣で唾を飲む音が聞こえるが何を緊張しているだろうか。

 

「別にどうってことない。ただ包丁を芋に押し当てて動かすだけじゃん」

 

「お前っ簡単に言うけどそれムズイんだからな!」

 

 懐疑的な息が鼻を通って喉を震わせる。ライトのあんまりな返しに言い返したくなるスバルだが、彼の手先を見て魅せられる。

 それはもちろんだろう。スバルとライトの正面にいるラムと同じような手捌きで、手に持つ芋が丸裸になっていくのだから。

 

「うまいもんだな。鉛筆削りみたいだ」

 

「まあ感覚的にはそんな感じかな」

 

「鉛筆削りがどう言ったものかは知らないけど、いい出来よトライ。ラムの教えがうまかったのでしょうね」

 

「いや姉様なんもやってなかったけど!?」

 

「姉様、スバルくんライトくん。そろそろ準備は大丈夫ですか?」

 

 そう言いながら、皮剥き三人衆が目を剥きそうな勢いで作業を進めるレムがいる。彼女の手際はもはや尋常ではなく、調理という行動自体一種の演目のように感じられる。

 大鍋に材料を流し込みかき混ぜていたレムが振り返る。黙々と皮剥きをするラムと、それに負けない勢いで皮をひん剥いていくライト。そして絆創膏まみれになる左手と睨めっこするスバルを見てレムは何事もなかったように頷く。

 

「さすが姉様は皮剥きする姿も絵になります。ライトくんも姉様ほどではありませんがいい腕です。姉様ほどではありませんが」

 

「清々しいまでの身内贔屓だな! 姉様そんなに強調することあるか? んじゃそれに続いて俺の評価も頼むぜ? 誇張なく真っ当な評価をなっ」

 

「そのお野菜を作った畑の持ち主が可哀想です」

 

「グワーー心がズタズタにされるぅ。ナイフだけに、なっ!」

 

 ウインクをし自信満々にくだらないことを披露するスバルのまな板を三人は見て、そしてスルー。

 目の前に繰り広げられた惨状は悲惨そのもの。ジャガイモっぽい野菜が半分より小さいものになって、皮は残るという始末。極め付けにまな板にスバルの血が付着しており、さながら殺人現場だ。

 そんな感想もスバルの一声で吹き飛んだ。火を使って料理しているはずの厨房なのだが、妙に冷たい空気に包まれる。各々が作業に取り掛かる中、スバルだけが空間に取り残された。

 

「あのーなんか反応「バルスはナイフの扱いがなってないのよ」……」

 

「ナイフは固定して野菜の方を回すのよ。何を隠そう、ラムの得意料理は蒸かし芋よ」

 

「スルーして何マウント取って言い出してんだよ!? クッソ見てろ。俺の愛刀『流れ星』がお前らに目にもの見せてやるぜぇーッ!!」

 

 三人に負けてたまるわけにはいかない、その向上心がスバルの心を熱く燃え上がらせる。

 木製の柄を握りしめて気合いを注入。なんて事のないナイフだがその手に持つのは間違いなく血を分けた家族のようなもの。それならそのナイフは間違いなくスバルにとっての愛刀『流れ星』なのだ。

 

「うおおーー! おおお? どうしたんだライト?」

 

「いや、なんか……危なっかしいからちょっと教えようかなって」

 

「……このまま断ってもなぜだか俺の左手が犠牲になる。そんな予感がしなくもないんだよな。手間かけるぜライト?」

 

「後輩が後輩に教える。師匠として鼻が高いわ、トライ」

 

「姉様はなんもしてないだろ」

 

 そう言ってラムから視線を逸らしてスバルが手を注視する。

 カゴから芋っぽいものを取り出したライトはナイフを当てる。熱心に見られるのはあまり得意ではないので少しむず痒いながらも気を取りなおした。

 

「根菜はこう持つんだ。これで人差し指を切ることがなくなる。それで包丁の方は持ってる手の親指で皮と刃先を押さえながら剥くんだ。オーケー?」

 

「オーケィ!……あぁっとまずは根菜をこう持つんだな。んでもって親指で切る方と皮を押さえながらーーおおぉっ!!剥けたぜっ!サンキュウだライトっやっぱ持つべきものは友だなぁ」

 

 教え終えると意外にも吸収が早いようで、カゴの中にあるポテト的な何かを先ほどよりも数段は改善したスバルが減らしていく。少しは改善した彼を見て、ラムは鞭撻した者を見た。

 

「トライは新人教育に最適ね」

 

「同感だぜラムちー。お前って教えるの上手いよな。なんでだ?」

 

「母さんに教わったことを言ってるだけだよ? いつでも支えてやるんだーとか言って頑張ってたってけな」

 

 ナイフを振るい調子づくライトは次々と皮を剥いていく。

 小学生の時も中学の時も、よくキッチンで並んで教えてもらっていた。今思っても大変だったと思っている。二人になって以来、母の負担にならないように背中を追っていた。

 苦い思い出の中にも楽しい記憶はある。ただ印象的なものだけが心に刻まれるのであって、本当ならそれ以上に幸せな出来事だって起こっているのだ。

 ただライトの言い方には少しだけ含みがあった。明確にはわからないもののスバルはそれに近しいものを先の話で感じる。だからこそ、聞いてみたくなったのだろう。

 

 

 

「……父さんはどうしたんだ?──嫌い、なのか?」

 

「捨てられた」

 

 間も開けず、ライトはただ語った。

 今ここで一番聞かれたくないことを聞かれた。今まで感じていた彩られていた日常も何もかもが希釈していくのを感じる。

 嫌な思い出だ。みんな憐れむ目で見てくる。それが嫌で一人暮らしを選択したのかもしれない。ただ少しだけ、そんな目で自分を見る者がここにはいなかった。別な意味で浮いた存在だったと思っていたのだ。それがとても安心した。

 突然の作業中断にこの場の人物たちが一斉にライトの方を見る。手を固く握りしめる彼から何か得体の知れない雰囲気を感じて、固唾を飲むスバル。 

 

「父さんは、俺と母さんを捨てたんだ。急に、家からいなくなって──」

 

 周りの空気が変わるのに気づいてライトが自身の手を見やると、血が出るほど握り込んでいた。痛む手に気遣いながら無理やり笑みを作って、なんとかこの重い空気を変えようと試みる。

 

「もう過ぎたことなんだ。それからは母さんと一緒に、最初から居なかったことにして暮らしていて、それで……」 

 

「そのなんだ、……悪かった。思い出したくないこと聞いて」

 

 スバルの声を最後にこの場にいる全員が作業を再開。メイド姉妹は気遣ってかアイコンタクトをして変に空気を乱さないように尽くして。

 どんよりとした空気のまま昼食を作っていった………

 




 第一章を修正したり書き足したりしたものを投稿したので、よかったら見てください。
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