「ふーむ、これがミーティア。さすがのワシも見るのは初めてじゃが」
「割とデリケートな機械だからーーーーー」
スバルとライトの携帯を鑑定している巨漢は、巨人族のロム爺。スバルたちより少し離れたところで傷をさすって納得のいかない顔をしたライトがいる。それは遡ること....
「大ネズミに」
この盗品蔵には合言葉があるようだ。だが…
「ホウ酸団子ってどこで売ってんの?毒」
「スケルトンに」
「意外と掘るのって労力いるよな。落とし穴」
「われらが尊きドラゴンに」
「ファンタジー世界だから実際いるんだろうけど、まじクソッタレな気分」
スバルが、合言葉にしては無駄なことを言っていることに、ぷつぷつと疑問の泡が湧き立ち、思い切って聞いてみることにした。
「なぁ合言葉ってそんな長いもn「余計な枕詞つけんと合言葉も言えんのか!」うわっグッホォ!?」
目の前の扉が怒りのまま勢いよく開く。スバルは予知の如く後ろに飛びのいてノーダメージ。ライトは盗品蔵の入り口から人二人分近く飛ばされ、地面を無様に転がり、目を白黒させながら顔を上げる。
そこには顔を真っ赤にさせた、大柄で禿げ頭の老人がスバルを睨んでいた。
「大丈夫かよ兄ちゃん」
「あんま頭に血ぃ上らせてると血管切れるぜ?現代医学でもかなりの危険」
「体に悪いとわかっとるなら怒らせるんじゃないわ!なんじゃお前!今日は人払いせんといかんから入れんぞ!」
吹っ飛ばされたライトに手を貸すフェルト。そしてそんなことを無視して二人で言い合うスバルと巨漢のお爺さん。
「あー、悪い。コイツらアタシの客なんだ。入れてやってくれ、ロム爺。白い兄ちゃんも苦労してんだな」
ライトの体を起こし終えたフェルトだった。
彼女は肩を落とすロム爺を同情的な目で見て、そして何食わぬ顔で口笛を吹いているスバルに
「アンタ、性格悪いな。アンタの連れ飛んじまってケガしてるぞ。控えめに言って最悪だ。」
「わりぃ来翔!んでもなんかからかいたくなるんだよな。いじられてこそっていうかなん
て言うか。Mと発覚した次はSの才能もあったのか。うんオールラウンダーだな!」
「知らねーし知りたくもねー。上がるぞ、ロム爺」
「ーーーbっ壊されるとマジで死ななきゃいけないレベル。やり直し的な意味で」
だいぶ痛みが落ち着いたので椅子から立ち上がり会話の輪に入る。
近づいていくとスバルがこちらに気づき、キレのいい動きで、グッジョブとサムズアップをしてきた。こうなったのスバルの所為なんだけどなといいそうになるが、大人気ないと思い心の内に閉まって、
「さすがにそれは大げさなんじゃないか昴?確かに世界に一つしかないけど」
ライトとスバルが話してる中、ロム爺が緩やかにガラケーを開く。スマホから流れる音楽を背景にして。
どんな現実にも真正面から向き合い、人の悲しみを分かち合う優しさと、たとえ辛い道であっても希望を見出すような音が、奏でられている。
『帰れる場所がある音~~♪』
「しかしどこから鳴っておるんじゃこの音は?ん?この絵は...」
「白い兄ちゃんのミーティアさ。これすげぇんだぜ?どういう原理かしらねぇが、横に並んでる記号を押すと音がたっくさん鳴りやがる。」
音の原因について答えながらライトのスマホを、彼に教えられたようにスワイプしタップするフェルト。
そしてロム爺がスバルのガラケーの画面を見て声を漏らす。
「タイミング的にちょうどいいと思ってよ。フェルトの絵を待ち受けにしてみた」
「これは確かに恐れ入ったわい。もしもわしが取り扱うなら、聖金貨で十五いや二十枚は下らずにさばいて見せる。そっちのは計り知れん。おぬしの反応から察するにまだまだほかにも…」
ロム爺がガラケーから視線を外し、こちらを
見ていた。フェルトちゃんに『戻る』操作を教えるのを中断して、
「あぁ。まだあるよ」
ライトがロム爺に答える。が、ロム爺の声が唸る。
「ううん。じゃが...これまでにない額が付くのは違いない。が、それが二つとくる。これ
はお前さんらからすれば損が大きいのではないか?」
ロム爺から忠告される。盗品を売りさばく元締めからくる言葉とは思えないと、二人が思っていた。
しかしこうとも思う。今の自分には右も左もわからなければお金もない。そんななかで資金を確保することができれば、少しでも生活面で安心することができる。と。
そうライトが考えていると、スバルは少しの迷いも見せず答える。
「ああそれでいいぜ。このミーティアでフェルトが持ち込む徽章と交換する。来翔もいいよな?」
スバルの唐突な了承に、ライトはすこし躊躇する。しかし、お金がないことには始まらないと思い巡らし、下に向けていた顔をスバルに向け、
「…あぁ。大丈夫だ。問題ない」
「わかった。わしもなるたけ高く売り捌いて見せよう。これまでの機能から思うに…聖金貨四十いや、それ以上の額になるだろう。それだけの価値はある」
ロム爺からガラケーを手渡され、それを片手にガッツポーズをする。そんなスバルが早口で続けて、
「うっしゃあ!ってなわけで?交渉成立!んじゃあ話は終わりとしてこれからみんなで商談成立の祝いに一杯やりに行こうぜ」
徽章を受け取らずガラケー片手に足早で外に出ようとするスバルに、スマホを返してもらったライトが駆け寄る。
胸に込み上げてきた疑問を、目を糸のようにする彼に投げかける。
「なあ昴。どうしたんだよそんなに焦って。交渉が成立したんだから、何も慌てなくていいだろ?ここに来てからおかしいぞ?あの女性に会ったときとか血の匂いとか、物騒なこと言って。何かあったのか?」
スバルの肩を掴み、動きを止まらせる。まるで、痛みを覚えた子供のように心の内を明かさない彼を。
一時停止のように止まる彼に眉を下げながら言うライト。
そんな彼の後ろからも疑念の声が上がる。
「白い兄ちゃんの言うとおりだぜ?何そんな急いでんだ?」
ライトに掴まれて固まっていたスバルがぎこちない動きで振り返ると、それはまたぎこちない表情をした彼が言う。
「人生ってのは有限なんだ。一秒一秒大切に!無駄を極力省くことで「あーはいはいそういうのいいんで」ゲッ」
「ゲッて言った」と口に出しそうになったライトが口を閉じ心の中で反芻した。
彼の言葉を中断させたフェルトが疑いの目をスバルに向け、
「つうかさ、そもそも何で兄ちゃんはこの徽章を欲しがんだよ?この徽章は何だ?実は、こいつには見た目以上の価値があるんだろ?だからみんな欲しがるんだ。つまりこいつはミーティア以上の金になるってこった」
「そうなのか?すばr「来翔君はお口チャックで!」ちょっ!ふがんがふが」
スバルに徽章の価値を聞こうと彼の顔をライトが覗きながら言う。
するとスバルが食い気味に言葉を挟んでライトの口を左手で塞ぎ、右手で固定しながら、
「待てフェルト!お前その考えはマジで危ういぞ!聖金貨二十枚以上!その価値でってぇ…来翔?ちょ来翔いででででで!ぃってぇ!ちょっその価値で手を打っとけ!ぃ痛い痛い!ホントマジで痛いから!!」
「ぷはっ!ハァ…ハァ…。スゥー昴いきなり何するんだよ!」
スバルが目を見開きフェルトに物申す。が、逃れようと腕の中で暴れていたライトがスバルの手を嚙み千切らんとする。
なんとかその痛みに耐え、再び口を紡ごうとするスバルだが、本気で噛んできたライトを涙目で急ぎ放し、歯形がつく左手に息を吹きかける。
顔が赤くなったライトにスバルが尚焦ったまま弁明する。
「ほんとすまん必要があったからで!と、とにかくそれ以上は欲しがるな!エルz...お前に依頼した奴だって聖金貨二十枚が限界だ。それ以上は出してこない」
依頼人の名前を言いかけるが、かさねて述べていくフェルトに言い聞かせようとするスバル。
が、そんなスバルの言葉を一蹴するように彼女が鼻で笑い……核心に迫る。
「何であんたがそれ知ってるんだよ」
しまったとスバルが「あっ」と零す。『吐いた唾は呑めぬ』ということわざがあるように、後悔してももう遅い。
その反応を確かに目にし、フェルトが腰に手を置き、
「語るに落ちてるぜ、関係者だってな」
「えっ?いや俺たちは…」
ライトがフェルトに弁明しようと言葉を探す。
スバルに徽章を奪い取るという思考がよぎるが、その少女の後ろにいるロム爺を見て、その愚考を捨てる。
ライトは彼とは正反対でどうやってこの険悪の状況を取り持つかに思考を加速させていた。
スバルは外を確認すると更に焦り出し、その場を押しとおろうとライトの言葉に被せて、
「時間がないんだ。頼むフェルト」
「頼まれてもなぁ。あんたを交渉相手としては認めるよ。でも依頼人の意見を聞かなくちゃフェアじゃねえ」
腕を組み、これ以上は聞かないという意を伝えるフェルト。
そんな彼女にたじろぐように息を漏らすスバルに、ライトが彼の肩に手をかけながら、
「だろ?昴。少し依頼人が来るのを待ったほうがいいんじゃないのか?」
正論に次ぐ正論。
スバルは観念したように真っ直ぐな視線を、腕を組む彼女に本来の目的を言う。
「俺が…俺がそれを欲しがるのは、元の持ち主に返したいからだ」
「は?」
「俺はそれを持ち主に返したい!だからそれを欲しがってる。それだけだ!頼む!」
目を見開くフェルトに対し、スバルはそう言い切り勢いよく頭を下げる。
敵意を持って威嚇してくる赤い双眸に、二人の間の空気が重くなることを感じ、ライトが自分も頭を下げるべきかとあたふたしてると、
「フェルト。どうもこの小僧が嘘をついてるようには見えんが」
「ロム爺までほだされんなよ。冗談に決まってるだろ。持ち主に返す?ばかばかしい。つくならもっとましな嘘をつけよ。あたしは騙されねえ!」
なにかから振り切るように、フェルトが言葉を吐き捨てる。そんなロム爺は彼女の胸中を知っているのか、フェルトへ向ける表情は痛ましげだ。
この頑なな態度でフェルトが心変わりを禁じていることがわかる。
つまり交渉は、失敗してしまった。
『コンコンコン』
ノックの音が、この場にいる全員の意識を向かせた。