「三人ともどうしたの? すごーく話に夢中になってたみたいだけど……」
なんとも言えない空気をエミリアが次元を割って出てくるように登場した。そのことに内心驚くライトとスバルだが、当の本人は苦笑いしながら会話の輪に入っていた。
精霊との歓談は終わったようで、周囲を浮遊していた光の姿はない。代わりに宙を遊泳していたパックが細い肩の上に着地する。
「定位置定位置。ふぅー……やっぱりここが落ち着くね。我が家が一番」
「旅行先から帰ってきた御父さんかよ。疲れてるのに運転お疲れ様です」
「娘を狼の毒牙から守るために目を光らせてるからね。毒牙は近づけないよ」
「俺をじっと見て毒牙って何回も言うなよ。それにライトだって……ライト?」
何度も呼びかけてもライトから返事はない。その異変に気づいたスバルはライトの顔を覗き込み眉をの溝を深めた。
スバルの視線にハッとするライトは動揺に目を揺らしていて、躊躇いながら唇を震わせる。
エミリアとパック、スバルが顔を見合わせると様子のおかしいライトへ再び視線を浴びせると、ライトは俯いて口ごもりながら聞いた。
「父親って……子供のことを気にかけたり、守ったりするのか……?」
疑問だったのだ。パックとスバルが話すたびに出てきては自身の常識を砕く父親像。それを耳にするたびに、ライトは胸が痛くなるのを感じたのだ。
パックとエミリアは目を合わせると小首を傾げてそれが普通だと物語る。
「──ぁ、すまんライト。そりゃそうだよな、この手の話あんまし好きじゃないの忘れてたわ」
「どうしてスバルが慌てるのかわかんないけど、ボクはリアのためだったら、たとえ世界でも相手にするよ?」
「パックったら……私のことを大事って思ってくれるのは嬉しいけど、そんなおっかないこと言わないの」
「そう、なんだ……」
吐息混じりに言ったライトは後ろに振り返ると、腰に手をやって頭を揺らす衝撃に耐えるよう項垂れた。
もし父親が、自分も母さんも捨てずにいたらどうなっていたのだろうか。ごくごく普通な家庭になっていたのかもしれないし、置いていくくらいだから不仲だったかもしれない。
だが、置いてかれて今の自分がいる。そう思えば気が休まったり、苦しかったりと忙しい心情。
少し折り合いをつけたいため、ライトは自身を気遣うユニコーンの手に髪の毛を委ねることにした。
自主的に話から一時退出したライトを除き、二人と一匹はというと、
「あーエ、エミリアたん? 昨日のことだけどさ」
「えっと、そうね。なんだか気恥ずかしい……体調とか、大丈夫? スバルもそうだけど、ライトも……」
「昨日と比べれば俺ら大型新人はだいぶ回復した。そして今、エミリアたんの声を聞くまで色々と危なかったけどな。その、なんだ、色々とごめ……」
謝罪を口に仕掛けて止まる。出かけた言葉を呑み込み、スバルは言い直した。
「色々、ありがとう。いっぱいいっぱいだった頭が、ちょっとはマシになったと思う。ライトも方もだいぶ良く見えるだろ?」
「うん。顔色もいいし、今のライトも砕けそうな感じしないわ。スバルも、また擦り切れそうになったらいつでも言って。お姉さんが優しく慰めてあげるから」
胸に手を当てて揶揄うようにウィンクをするエミリア。
失礼ながら聞き耳を立ててみた感じ、スバルの罪悪感を軽くするための思いやりをひしひしと伝わる。なんだか本心っぽく聞こえるのも、きっと言葉の受け取り違いのはず。
そろそろ戻ろうと、ライトが振り向こうとした。
その後ろ、エミリアは人差し指を頬に当てて、
「でも、ライトったらいつ吹っ切れたのかしら」
「あーそれはライトがレムに……」
「だー!? わー!? 聞こえない聞こえなーい!! 別に誰かに慰められたとかそういうのじゃなーい!!」
「お前隠す気ねぇだろ!?」
スバルが何か言っているが知ったことではない。この場で明言されることを回避することが何より大事なのだ。レムも昨日のことは忘れると言った。
事情報告とはいえスバルに話してしまったことは伏せるがこのままでは時間の問題だ。今度余計なことを言うなら口を縫い合わすことも視野に入れなければ。
「絶対物騒なこと考えてるよねライトさん!?」
「え!? 言ってない!?」
「思ったんだな!?」
「ふ、二人とも落ち着いて? まずは、そう深呼吸! お姉さんと一緒に深呼吸しましょ? 今日はお仕事頑張らなきゃだし」
手は出していないものの両者一触即発の構えのまま拮抗する二人は慌てるエミリアの声に聞く耳を立てるほど冷静ではなかった。
ほとほと困るエミリアを見かねたパックは短い両手を二人にかざして、
「ちょっと二人とも、少しは落ち着きにゃさいな」
「冷た──ッ!」「冷たい!」
首筋に氷柱の表面を押し当てられたスバルとライトはその場を大きく退いた。
心臓がキュッと引き締まったかと思えば残存する冷気を首に感じて手を押し当てる。冷たさが手のひらにも伝わり、体温で霜が溶けたことで僅かに手が湿った。
「うんうん、二人とも元気だねー」
「こらパック。うっかり二人が氷ついちゃって風邪を引いたりでもしたら危ないでしょ」
「いやエミリアたん……あの調子が続いたら風邪どころかスリープするから。こんな時間に寝ちまうから」
「それもそうよね。変な時間に寝ちゃったもんね」
「そうそう、こんなときはエミリアたんの膝枕を──ってちがーう! 死んじまうわ! パックに凍死させられちまうわ! 大体加減とかしたんだよな!? ちょっと手を滑らせたら危うくとかそんな展開ないよな!?」
「うんうん」と一人頷くエミリアにノリツッコミすると唾が出るくらいに主犯のパックに言葉を投げ当てるスバル。
言葉を投げつけられた本人はというと、
「……えへっ」
「えへってなんだよ!?」「えへってなに!?」
片目を閉じて舌を出すパックは誤魔化す。
叫びにも似た声が奇跡的に重なるほど、今のパックの誤魔化しには全くと言っていいほど説得力のかけらもなかった。
もしも氷柱に当たる時間が長ければと思うとそれだけで鳥肌が立つ。
上がってしまった息を肩を上下しながら肺に空気を送り込んで気を取り直す。そしてスバルとライトはそっと一息入れた。
「んまぁご安心なされ。俺みたいな引きこもり予備軍は基本、日中寝てて夜中起きてるスタイルだから。最近がちと健全すぎたな」
「でた引きこもりの常套句。どうせ『夜の眷属だったこの俺が朝に起きるとは珍しい』みたいなこと言ってたんでしょ?」
「ぐほぁ! やめて、ここにきてレムラムに言ってしまった俺の古傷を抉るのマジでタンマ」
大きく体を仰け反らせたスバルが胸を抑えた。
冗談で言ってみたのだが、スバルは本当に恥ずかしげもなくあんなことを言っていたらしい。彼の空気を読まない性質もどうにかならないのかと思うのだが、これも良いと思うライトもいた。
不名誉な肩書に気になったようで銀髪の髪を揺らすエミリアが、
「ねぇ、たまに言ってる……ひきこもりってなに?」
「日夜自宅を守るために、常に情報の海で世界情勢や世界経済といった知識を蓄え続ける文明の守護者……上級者は部屋から出ることなく、画面越しに恋人と記念日も過ごすね」
「それは……まさか昴はやってないでしょ?」
「やってねぇわ……予備軍だぞ?」
一歩距離を置いたライトにスバルは震え声で訂正したものの、彼の語った異様な内容にエミリアでさえも引き気味に愛想笑い。
そんなエミリアの反応を見ながらスバルはふと思った。
「そういやあの氷柱……魔法なんだよな? エミリアたんって魔法が使える魔法使いなの?」
「えっと、私は厳密には魔法使いとは違うの。私とパックの契約、ライトとユニコーンもそうだけど精霊使いだから。使うのは魔法じゃなくて精霊術。ライトもそれは知ってるでしょ?」
首を捻り、エミリアはユニコーンとおそらく契約しているライトを見る。話題が自分に振られたことに気づいたライトは肩に乗るユニコーンと顔を見合わせると、
「え、いや知らないんだけど……魔法使いと精霊使いって、違うんだ」
「君たちがどうして出会って契約したのかはわからないけど、多分争いとかが無縁なところで暮らしてたんじゃないかな? それなら、ライトが知らないのも仕方のないことだよ」
「そうなのかな……? 多分そうかもだけど……」
言い淀むライトは再び肩に座るユニコーンを見る。
こんなふうに可愛い仕草をしているとはいえ、ロズワールとの戦い。前回のループでもあった彼との戦いでは明らかに戦い慣れしている動きだった。
ライト自身戦いから無縁な生活をしていたのは確かだが、ユニコーンの技術は知らないことも多い。
「じゃあ、魔法使いと精霊使いの違いってなんなんですかー?」
場の空気が停滞しかけたそのときスバルが手を挙げて質問を投げると、パックは自分の腹あたりの毛を撫でつけながら、
「魔法使いは、自分のマナを使って魔法を使う。逆に精霊使いは大気中のマナを使って術を使う。起こせる内容は同じでも、過程がけっこう違うんだよ」
「マナ……自分のと外のマナを使うことにどんな違いがあるんですか、先生」
説明を聞いたライトは顎に乗せた指を離してさらなる質問を投げると、子猫は気をよくしたように笑顔になる。
「ずばり、ゲートを用いるかどうかだね。魔法使いの資質は個人のゲートの大きさと数に左右されるけど、精霊使いはあんまり関係ないんだ。体の外のマナを使うからね」
「なるほど。ゲートを通じて外からマナを取り入れて、で中に貯めたマナをゲートを通して魔法を使うのが魔法使いで……」
「そして魔法使いのゲートの過程を無視して、外のマナを直接使うことができるのが精霊使い……か」
理解はできた。ただ、これだと明らかに燃費が良すぎると言うよりは燃費を度外視したものになる。
横を見てみれば怪訝そうに眉をひそめるスバルがいて、どうやらこのアドバンテージに気づいたようだと知った。
「精霊使い強すぎね? 魔法使いは燃料が内部貯蔵なのに、精霊使いは燃料外部委託で使い放題って、バランス云々とかの前に勝負にもなんねぇよ」
「理解が早いねスバル。でも、そんな都合よくはならないのさ。大気に満ちてるマナは無限じゃないし……」
「あ、そうか……」
上向きにした手のひらに拳を打ちつけたライトが頷くと、「どういうことよ」と頭をかくスバル。
「ろうそくで例えると……マナが酸素で、マナを行使して使う精霊使いがろうそくの火。周りの空気を燃焼すればそこの周りは真空状態になる……だから無限じゃない」
「あったまいい! 火とろうそくねぇ」
「それもそうなんだけど……」
言葉を切るパックがエミリアを見上げる。その視線に少女は頷き、話を引き継ぐ。
「精霊使いの扱える術の強さは、契約する精霊の力に依存するの。精霊と契約できる素質も稀だし、強力な精霊はもっと少ない。だから、どっちが優れてるかは……難しいかも」
「ほーん……でも、強力な精霊と契約してたらかなり良い感じーなんだろ? エミリアたんもライトも、実はかなり凄腕? ユニコーンはどうかわかんねぇけど、パックって実はかなりすごい?」
「まぁ、上から数えた方が早いのは否定しないかなー。ユニコーンもまだ若いけど、かなり有望株だね。ボクほどではないけどね? ボクほどでは」
「お前、和やかに見えて言うこと言うし、後輩に対して評価するのも躊躇ないよな。ボクほどってなんだよ」
あんまりな評価にライトの肩にいるユニコーンの反応はというと、
「…………(ぼけー)」
のんびりと遊んでいる蝶々を眺めていた。
あまり気にしていないのは本人の器によるものなのか、強さに無頓着なのか。あまり力を誇示する生来ではないらしい。
ユニコーンと打って変わって、パックは褒められ慣れしていないのかだいぶ嬉しげに照れ笑いしている大精霊だ。
「そーいや、パックって何の精霊? 盗品蔵だとばかすかと氷出してたけど……俺の記憶だと、そもそも氷って属性がなかった気が」
いつぞやの風呂場の魔法講義を思い出したスバルが苦い顔で物語る。
ロズワールから教わったのは火水風土に加え陽と陰の六属性。どこにも氷とつく属性なんてないのは明らかだ。
そのスバルの疑問に照れ笑いするパックに変わり、エミリアが応じる。
「私も得意なのは氷なんだけど、これって実は火のマナなの。火は主に熱量に関わるマナだから、熱いのも冷たいのも大局的には火に分類されちゃうみたい」
「エミリアは火なんだ。魔法かぁ……俺にも使えるのかなユニコーン?」
「────! (こくりっ)」
問いかけてみればおもむろに肩の上で立ち上がるユニコーンが力強く頷かれ、ライトの表情は光が差したように明るくなる。
これなら、ユニコーンの足を引っ張らずに済んで頼りきりの生活にならなくて済むはずだ。
ただ、どうやって魔法を使えばいいのかがわからない。大体マナと言っても目に見えなくてイメージも掴めない。
とりあえず手から何か出してみようとライトは試みる。
「なんかこいなんかこいぃ…………だめだぁ。ほんとに使えるのか?」
意気消沈とばかりに項垂れるライトが傍に飛ぶユニコーンに疑心を抱き始める。それでもユニコーンはウズウズと期待していて、ますます残念な気持ちを抱かざるを得ない。
横を見てみれば手のひらを見つめては握ってやる気を漲らせるスバルがいた。
パックは二人の仕草を見ると耳をぴくぴくさせて頷く。
「ふむふむ……君たち、ひょっとして魔法使いたいの?」
「できんの!?」「え!? できるのか!?」
目の前を一筋の光明がぶち抜いた。再燃する魔法への憧れはスバルとライトの中で燃え盛り、止められなくなっていたのだ。
すかさずスバルはエミリアにお構いなしで肩に乗っているパックに詰め寄った。
「だったら俺ねぇ! 隕石の雨を降らせるようなチョーウルトラな魔法を……」
「──できないよ?」
「ズコーッ!」
スバルが盛大に転けた。しかしながら起きるのもまた早いのがスバルなのだが。
するとエミリアの方から離れたパックがコホンと一つ咳をして気を取り直すと、好奇心を叩き折られたスバルに小さな手を額につける。
「魔法も精霊術も、まずは基礎が大事だもん。魔法は一日にしてならず、ってね」
「一石一丁とはいかないんだな何事も。ユニコーンの力を借りるだけじゃなくて自分でも魔法を使えるようになりたいんだけど……」
楽して強くなったり、楽して生きたりできないのは、どこも同じらしい。気勢をバッサリと切り落とされた一同は大いにがっくりとしてしまうが、パックは「でも」とふわりとエミリアの細い肩に舞い戻って、
「体験ぐらいならさせてあげられるかな?」
「ってーと?」「というと?」
「ようするに魔法が使いたいわけだから、ボクかリアが補助すればいいんだよ。ユニコーンも教え慣れていないみたいだし、一緒にやってみようよ」
促されるとユニコーンは子猫の元に柔らかに飛び立つと柔らかい毛に包まれた手にポムっと握手した。
「じゃあ具体的な説明なんだけど、スバルかライトのマナを使って、その所有者を介して魔法を使用する。ボクたちからすれば使うマナが大気中のマナからか二人のどちらかのマナを使うかの違いだし、魔法自体はゲートから出るよ。どう?」
「ちょっとパック。あんまり……」
「お願いだパック! 俺に、いや俺たちに魔法を教えてくれ! もう俺はユニコーンにおんぶに抱っこされるんじゃなくて、自分の足で助け合えるようになりたい。自分にその可能性があるなら、俺は俺を──魔法を使える俺を信じたい」
エミリアの声にライトは差し込み、自身の胸の辺りを右手で握りしめた。
ここで可能性を捨てるとなってしまえば、それは自分すらも否定して停滞するのと同じ。それに、何もできずにただ地面に這いつくばることなんて二度と御免なのだから。
「俺もやるぜ。これは俺が男に生まれて、男として生きていくためにやるんだ! だからエミリアたんには悪いけど、止めないでくれ」
スバルもまた拳を握りしめて猛々しく吠えた。
たとえ使える魔法がサポートだとしても戦力には加えられれば生存確率もぐーんと上がる。何よりエミリアや他のみんなを守れる可能性が上がるかもしれない。
二人から溢れる気概に、エミリアは止めることを諦めたように首を振って、
「わかった。でも、危ないと思ったら、絶対に、ぜっったいに、すぐ止めるからね」
と、念を押して二人の挑戦を見届ける決意を胸に抱いた。
彼女の忠告をしかと受け止め、ライトとスバルはパックに向き直って一歩前に。
「……。じゃあ何したらいい? 手始めにベア子を生贄に捧げればいいのか?」
「って何でそうなるのさ。違うでしょ昴」
「ベティーと仲良しみたいでボクも嬉しいよ。そうだね、まずは二人の属性を調べてみようか。でも、たいていの精霊使いはその精霊の属性によって決まってるからライトの方は見るだけでもわかるんだ。けど、例外もあるから一応ね。じゃあ始めるよ?」
パックの提案を聞いて委ねるライトだったが、その隣には一瞬にして表情を殺すスバルがいた。
パックとエミリアが揃って驚き、その反応に口を抑えるユニコーンもいる傍ら、スバルが油切れの人形のように首を動かす。
「ダイジョウブデース。オレノゾクセイハキットヒーデスカラー」
「どうして、急に片言?」
「エミリア、気にしないであげて」
エミリアの質問にライトは首を横に振ってスバルを庇った。
パックはエミリアの肩から浮かび上がると、両者の眼前に止まって尻尾と手を伸ばす。
「二人とも調べるから顔よせてねー。みょんみょんみょんみょん」
「それ、とある魔術の変態貴族もやってたんだけど絶対必要な過程なの!?」
パックの長い尻尾と小さな手がスバルとライトの額に触れて、摩訶不思議な音を口にするパックが眼前で揺れる。視界の端に緑の目を持つユニコーンに詰め寄られたのだが、不可抗力のため診察中のライトは冷や汗を流して、
「大丈夫だから。俺のパートナー精霊はユニコーンだよ」
と早口になりながらも唱えた。
尚も気配を色濃くするユニコーンがいるのは変わらないのだが、揺れる目をライトは隣にずらす。
そこには両手を合わせて祈るスバルがいて、
「いや、ポジティブに捉えよう。今思えばロズワールのあの態度は不自然だったんじゃないか? そう、そうに違いない。彼奴はライトの才能にだって特に何も言わなかったんだから、俺たちに……いや俺の才能に嫉妬した。嫉妬してたんだよ。だから余計に怖がらせて眠れる才能という名の蕾を先に摘もうという魂胆で……」
「へぇ、珍しいね。スバルは『陰』まっしぐらだ」
「さらば俺の魔法使いライフ──!」
次元も突破した運命を違う相手からの折り紙もつけられて大いに落胆するデバフ特化のナツキ・スバル。
彼の輝かしい未来は息吹さえも降りかかることなく閉ざされてしまったのだった。
「敵の装甲を薄くした! このまま畳み掛けろ!! とでもやればいいのか、ふへは」
「ちなみに才能もないね。ゲートも小さいし……でも数はちょっとだけマシかな? でも開ききってないのもあるし風通し悪そうだね」
「んなもん知っとるわ! じゃあ才能を数値化するとどうなるんでしょうかね? ライトのも合わせて言ってくれ。こうなりゃヤケだ」
「ライトの方はこれまたびっくりの『陽』だね。しかもスバルと同じ直行具合。すでにゲートは使われてる形跡もあって、風通しも申し分ないし数もあるね。死ぬ気で頑張れば一流はいけると思うよ。スバルは二十年、魔法の修行打ち込めば、超二流くらいにはなれるかも」
「半生かけて一流未満かぁ……俺の魔法才能はきっとライトに吸われたんだな。俺は、この道やめるよ……」
天を瞬きもせず仰ぎ見るスバルの目から一筋の涙と共に諦めが流れ落ちていった。
これにはエミリアも呆れ顔するしかなく、ユニコーンも彼の不貞腐れ方に手を頭に当てた。
才能を約束された身からしても、ライトは諦めるのは早計なのではないだろうかと気にはするものの、口に出そうとはしなかった。
百聞は一見にしかず。その言葉があるように、スバルが心を奮い立たせた。
「でも魔法の体験学習はやってみたいからお願いしますよ。どうしたらいい?」
「陰属性だから、リアはちょっと無理だね。簡単なのだとシャマクとかかな」
「確か目くらましの魔法よね。私も、あんまり見たことないかも」
ねこだましみたいな魔法なのだろうか。聞きに行きたいのも山々なのだがパックとエミリアが魔法トークを続行中で話に入る隙もなくて、ライトはポツンと置いてかれるユニコーンを眺めた。
そこに割って入るのがスバルクオリティーなのだが。
「二人だけの世界ずるいぃ。っていうか本題は俺らの魔法っしょ? 俺に的中してる陰属性の……シャマクだっけか、使えんのか?」
「だねぇ。確かに知らない魔法は怖いかもね。じゃ──シャマク」
「──へ?」「なに……っ?」
スバルの不満を隠さない言い草に一理あると頷いたパックが縦に腕を切るのと同時に短く詠唱。
刹那、突如黒いカーテンが二人の視界を覆った。
動揺に瞬きを一つ。この瞬間に目の前が黒に染め上げられたのだ。
先ほどのスバルの小さな驚嘆の声を聞いたっきり、鳥の楽しげなさえずりも自分の声さえも耳には届かない。
ただ、意識を集中。耳に情報は一切入らないのは変わらないのに、不思議となにがあるのかだけが頭を駆け巡って、ライトの体は染み付いた動きを再現した。一歩後ろに下がった。
「はいおしまい」
ふと声が入ってきて本当の視界と音が舞い戻ってきたことに気づいたライトは、先ほど勝手に後退りした訳を探して横を見やった。
手を前に伸ばして庭の水路に落ちかける一歩手前のスバルが目を幾度となく瞬いていて、心配するエミリアが駆け寄っていた。
「ほんのちょっとだったのにすごい汗、……スバル、大丈夫? 手、握る?」
「だ、大丈夫! まー地味だけど効果はかなり強めじゃねぇか?」
「そうでもないよ。実際ライトには見えていたらしいし、スバルが歩いていたのを後ろにちょいって避けてたよ。ボクもちょっとだけ自信あったんだけどねー。格下相手じゃないと実力差で弾かれるはずだし」
「いや、見えたっていうか……感じたみたいな。ちょっとだけどんな風になるのかわかって勝手に動いたような……」
先の出来事を回想しても、ほとんど無意識下の行動だったようでどうしてわかったのかわからなかった。
どっちつかずなライトの言葉を聞いたパックは毛深い手を口に近づけて、
「なにそれ、ボク知らない。ライトって恐ろしい子」
オーバーと言えるくらいに尻尾を抱えて引いた。
「なんでさ!?」
「まぁそれはボクの冗談で、ライトはほんのちょっとだけ勘がよかったんじゃにゃいかな? でも、ボクもほんとなら君たちを、一生の半分くらい暗闇の中にできるけどね。もういっちょいっとくー?」
そう言って腕を回してやる気を見せるパックにスバルは芝生を強く踏んだ。
「いかねぇしやらねぇよ! 発想怖いし、一日で心細さにグロッキーになるわあんなん!」
あの感覚を掴めたとしても真っ暗になった景色はモノクロの中に出てきた影みたいな虚で、ライトの鼓動は焦りで警笛を早鳴らせていた。
首を振って紫煙を頭を振って追い出したライトは深く吐息する。
「じゃあ魔法をやるとして、どっちからやるんだ? 俺か昴のどっちが最初?」
「うーん、ユニコーンがどんな精霊術使うのかも見てみたいし、ライトからにしようかな」
「今までの路線どうなった!? ここは陰魔法見せたから俺からぁとかじゃなくて、後輩の力みたさに自分の私情挟むとか、パック先生ひどいー!」
シンク先生さん ☆9評価ありがとうございます! ほんとうに励みになって、執筆の活力になります!
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