Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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第三十五話 ビーム、ときどき鉄球

 

 

「じゃあまずはユニコーンね? 君はどんな精霊術を使うんだい?」

 

「──っ(ピカッ)」

 

 小さいものクラブ(仮称)が設営されると早速パックがユニコーンの隣で髭を跳ねさせ尋ねた。

 ユニコーンはバイザーをより強く瞬かせると右手に重厚感のある灰色の連射火器を装備。それを空目掛けて狙いを定め、ユニコーンがトリガーを軽く引く。

 四つの銃口が軽い音を立ててわずかに回転すると、一つの緑光が発射。大空に弾丸の如く飛び出した。

 そんな光景に登ってきた陽光を手で遮りながら見るスバルが眉を寄せると小難しい顔に。

 

「あれが、ユニコーンの精霊術か……うん、地味だな」

 

「地味、ね。じゃあ喰らってみるか、昴。多分肉が剥がれる」

 

「やめろよな!? 間接的にグロいこと言うのもそうだがシャレになんねぇよ。バカにしてなんだけど、俺が想像してたのはもっとこう、ごん太レーザー! みたいなのだったからよ」

 

「いや、それは……」

 

 愛想笑いして、和気藹々とガッツポーズをするユニコーンにライトは目を逸らした。

 ユニコーンがロズワール戦で見せたマグナムを使わないのは、屋敷にいる人たちを気遣ってのことだろう。実際それを放ったとき、空気を叩きつけるような音を立てていたのだから。

 

「ユニコーンは陽魔法の『ジワルド』を使うみたいだね。ボクが見たことあるのは白い光の玉だけど、ちょっとだけ違うのかな?」

 

 長い尻尾を靡かせながらユニコーンを伴ってライトの元に降りてくるパックが首元の毛を弄る。

 あの緑色の光はジワルドという陽魔法に属する魔法らしいが、ロズワールの言ったことがライトには気がかりだった。

 

「魔術論とか言ってたけど、ロズワールさんの言ってたことってなんなんだろ……?」

 

「どうしたんだいライト。ひょっとしてユニコーンの使った不思議な武器がわかったの?」

 

「私にも教えて! 初めて見たあれって本当はどんな精霊術なの?」

 

「え!? あ、いやぁ……」

 

 途端に子猫と少女に詰め寄られてしまいライトは半歩後ろに逃げるものの比例して詰め寄られる。

 あんまり似ていないような気もしたのだが前言撤回。この一匹と一人は同じタイミングで興味を示すのは似てる。

 

「いや、地味は撤回するわ。よく見ればガトリングってヤベェだろ……」

 

「「ガトリング?」」

 

 助け舟を出したスバルの言葉にエミリアとパックの興味がライトから移った。

 

「ようするに、あの緑の光が毎秒に連続して撃てる魔法? みたいなやつ。多分だが、触るとむちゃくちゃ痛いはず……あれがビームなら」

 

「あれをいっぱい? うわー、ユニコーンって意外と恐ろしい精霊術使えるんだね、お兄さん驚いちゃったよ。でもこうしちゃいられない。気になることもあるけど時間も有限有限。次はライトだね」

 

 ふわふわと降りてくるパックはライトへと向かった。

 重さを感じさせずにライトの頭へ乗ると、パックは黒い髪を確かめるように触る。

 

「ユニコーンがたまにライトの頭に座るのもわかった気がするよ。君なかなかに座り心地のいい髪の毛してるんだね」

 

「座った感想を言われるとは思わなかったよ。じゃあこれからどうすればいい?」

 

「そうだね。ユニコーンとライトの補助はボクがやるから。とりあえず……リアとスバルはなるべく遠くに離れてて」

 

 スバルとエミリアがどうして離れなければならないのかわからず、「どうして?」とライトは頭を揺らす。

 するとパックがにこやかに笑って髭を弄びながら、

 

「それはね? まさかな展開でマナが暴走して、ライトが弾けちゃうかもしれないんだ」

 

「……え、は? パック、ユニコーン……? ほんとうに大丈夫だよね?」

 

「っ(こくっ)」

 

「大丈夫大丈夫。ユニコーンもついてくれるし大丈夫だよ。きっと、多分ね」

 

「大丈夫なんだよね!?」

 

 甚だ不安になる状況のもと、顔を青ざめるライトを置いて事態は進行する。

 極め付けはエミリアが悲壮な顔で「無茶しちゃ、ダメだからね」と不穏な一言と、「まぁ骨は拾ってやるから頑張れ」と途端に他人事のように言い残したむかつくスバルの一言。ほんとうに不安。

 

「これから発動させるのは陽魔法の『アクラ』だ。使うと身体能力が強化されるんだけど、陽魔法自体使える人が少ないんだ。ボクも使えるとは身勝手に言えないからユニコーンをサポートする」

 

「わかった。やってみる……!」

 

「そんな気張らなくてもいいよ。肩の力を抜いてー」

 

 パックがライトの頭に手を置き、もう片方の手をユニコーンの方に触れる。ライトは一抹の不安を覚えるが力強く頷いてみせる。

 不安要素満載ではあるが、ここは腹を括らざるを得ない。

 瞳を閉じて、ライトは自身の体に意識を向けた。体の内を流れる血液とは異なるモノを感じる。

 ──それは大河のように荒れ狂う奔流が、徐々に落ち着きを取り戻してせせらぎを誇る。この無形の巡りこそがマナなのだろう。

 

「ユニコーンとライトは意識を集中して、息を合わせるんだ。君たちの、ライトのマナはボクを通じて君の意思で動く。イメージは、湯船に浸かるイメージがいいだろうね」

 

「イメージ。お風呂に入って、体が湯船に覆われる……イメージ」

 

 パックの助言をよく噛み砕いて、体の中を流れる無形の行き場を路線を変える。

 身体中に備わったマナの出入り口──ゲートをイメージ。行き先を変えられたエネルギーが内側から外に流れ出て、使われていないはずの水路に開通させる。

 内側から出たエネルギーはライトの思考によって肌を伝い、細胞レベルにまで浸透させて作り替えていって温度をあげた。

 

「いい調子。もう目を開けてもいいよ」

 

 意識に割り込んできたパックの不意の呟きにライトの瞼が揺れ動く。

 調子を変えないように、そのままの姿勢でライトはゆっくりと目を開けるも光が網膜に染みた細めてしまう。

 だんだんと慣れてくると、自分の体の変化がありありと目に飛び込んだ。

 

「あったかい……これが」

 

「そう、これが君の陽魔法──アクラ。でもすごいねライト。初めてにしてはなかなかのセンスしてるよ」

 

 パックが短い手を下に指して、ライトは促されるままに自身の手を見る。

 イメージが崩れることはなく、魔法の持続を確認すると体を白い光が覆っていた。

 パックがもう頭から離れていることから補助輪を外して、ライトは自転車を漕いでいるようなもの。

 どことなく目も良くなっている気がして、庭の奥の方を見てみれば木から葉が落ちるのが鮮明に見えてライトは感嘆をこぼした。

 

「ライトの周りを薄く覆ってるやつがアクラっていうのか?」

 

 悠々とライトに歩み寄ってくるスバルが片眉をあげる。身体中を舐め回すように見ると顎に指を当ててライトの姿を吟味。

 熱心に見つめられてしまいむず痒さを感じているとパックが目の前に舞い降りてきて、

 

「そうだね。じゃあライト、ちょっとだけ庭を走ってみてよ」

 

「走る? うん、わかっ──たあ!? はやい……くッ」

 

 髪の毛を引っ張られる感覚と共にライトの視界が伸びて驚愕の声が弾ける。

 普段の走りとは明らかに早い加速に体を支え、ライトはリズムを取り戻しながら走りを調節する。

 これがアクラ。平時とのギャップに体がおかしくなりそうになるものの調子を取り戻したと思えば、体をびっくりしているらしく膝関節がキリキリと痛みを発している。

 

「痛いけどっ……なんとか耐えれる。まだ身体強化の、アクラに慣れてない……」

 

「早いね。──が見たのってこういう動き?」

 

「んーん。もっ──くて、なんかキュッてしてた」

 

 遠くからパックとエミリアの話し声が聞こえてライトの足運びが緩やかになった。

 何か話をしているのは口の動きでもわかるが、耳にまで意識はしていなかったようで聞こえない。

 

「あれ、あいつの髪の毛……おーい! ライト! ちょっと戻ってきてくれ!」

 

「わかったー! ちょっと待ってて!」

 

 手を大きく振るスバルの呼び止めに返答したライトはすぐさま足を二人と一匹の方に向ける。

 だんだん意識をしなくても体を覆うアクラの効果は持続しているのだが、どういうわけか体の熱が上がっている気さえした。身体中を高回転に廻すマナが自分では何かに後押しされているみたいに。

 

「っと……はぁ疲れた。どうしたんだ昴、呼び戻して」

 

「いや、なんか……ライトの髪の毛が俺の見間違えじゃなきゃ……目もちげぇ」

 

「ほんとうね。ライトの髪と目、変になってる」

 

「変? ユニコーンちょっとどうなってる……ってあれ? いない」

 

 スバルとエミリアに困惑の目を向けられて頭の上にいるはずのユニコーンに助けを求めた。手を伸ばしても手のひらサイズの感触はどこにもなく、ライトの手は空を払ってしまう。

 スバルが踏み外しかけた水路を思い出し、ライトはそこに駆け寄った。四つん這いになって、水面に映る自分の顔を覗き込む。

 映されたライトの顔は二回目のループのように驚愕する暇もない呆けた顔。髪は光を透き通らせる穢れのない白髪と反射する光を受けて輝く翡翠色の瞳を伴って。

 

「あのときと同じ……でも、どうして」

 

 目の前の現実を理性が否定していても、強化された視力で刺激された本能がそれを打ち砕く。

 触っても髪はライトの指の間をスルリと手触りの良い絹のように抜けて、顔をペタペタと触っても水面の向こうにいる自分はやはり同じ動きをした。

 

「パック……髪と目の、俺のこれ、どういうことなの!?」

 

「落ち着いて。ライトのそれ、ユニコーンと関係があるんじゃにゃいかな?」

 

「ユニコーンと? そういえば……いや、そんな──」

 

 パックに言われ、ライトは今までのループであった記憶を棚からひっくり返して探す。

 盗品蔵で身に起きたのはエルザの腕から軋む音が聞こえるくらい握力とフェルトと共に逃げたときの走力の馬鹿力。

 勉強会で起こったユニコーンの飛び込みの後の体の変化。

 そしてレムの岩をも砕くほどの拳を腹に受けても貫かれることはなかった。これはユニコーンがぶつかった後影も形もなかったことによる驚愕で隙を見せたライトの失態だ。

 ロズワールに立ち向かったときも、異常なほどに体の機能が増した。

 どれも紐を手繰り寄せていけばユニコーンが顕現していないときに起こったことだ。 

 

「まさか……」

 

 パズルのピースがハマったような音が頭の中に響いて、ライトが立ち上がるとネックレスに注意を向ける。

 白金の色は曇りない白──光を浴びるたびに柔らかな輝きを宿していて、ライトの気づきと同時に煌きだし、

 

「ライトの体からユニコーンが出てきた!?」

 

「それにライトの髪がスバルと同じに、戻ってる。パック、これって……」

 

「リアが驚くのも無理ないけど。……大丈夫かい? ライト。体はどこもなんともないかい?」

 

 あんぐりと口が開くエミリアをなだめ終え、近づいてくるパックが呟きながらライトの額に手を当てて瞑目。

 状況を把握できず顔をパックとエミリアで右往左往させるスバルと珍しく動揺を露わにして冷や汗を浮かべるエミリアがいた。

 静寂を乗せた風が庭園に送り込まれて数秒。十秒かもしれないし数分かもしれない。それくらい今の状況がライトには緊迫した状況に感じた。

 

「うん、大丈夫みたいだね。ライトの心は、ちゃんとライトのままだ」

 

「ほんとのほんとに、ちゃんとライトなの? パック」

 

「どうしたんだよエミリアたんにパックも。もしかしても、もしかしなくても乗り移ったみたいのってかなりやばい?」

 

 問いかけにパックが頷くと、スバルの表情が引き攣って恐る恐るユニコーンの方へ視線が流れる。

 

「これはでも大丈夫。ユニコーンのそれは、ボクの知ってるやつとは違うらしいからね」

 

「そうか、ライトの体に何事もなければそれでいいんだ。ちなみに普通だと……」

 

「憑依されると精霊の人格と体の所有者の人格が入れ替わっちゃうんだよ。多分ユニコーンのやったことはライトの人格を表とした『融合』なんだと思う」

 

「融合、か」

 

 パックの言葉を受けて、ライトとユニコーンの視線が交差する。

 するとパックが手のひらを合わせて毛の音を響かせると、ユニコーンの手を連れてライトに近づけさせた。

 

「ユニコーン、もう一度さっきの融合やってみて」

 

「……? ──っ(こくっ)」

 

 一時は疑問に思うユニコーンだったが力強く頷くとライトの胸へ目掛けて飛来する。

 ぶつかるといった感触はなく、ユニコーンの体はライトに溶け入るように光を伴って中へと進んだ。

 水面を覗かなくても、体の中。心理の中にもう一つの意識があるのが感じて、融合が完了したのだと感じる。

 スバルとエミリアが再び融合した白髪緑目のライトの姿に感嘆する一方、パックは落ち着いた口調で、

 

「その状態のライトなら、多分ユニコーンの力が使えるはず。ボクは融合の経験はないけど、ユニコーンに問いかけてみればイメージが送られるはずだ」

 

「問いかけるって……」

 

『こんな感じだよ?』

 

『え!?』

 

 脳内に直接響く声にライトは心臓を掴まれたような衝撃に襲われてしまい、体を大きく跳ねさせる。

 この感覚を掴み止めてみせたライトは瞳を閉じて平静を取り戻し、ユニコーンのイメージを手繰り寄せた。

 左肘にエネルギーを偏らせるイメージが送られ、言う通りにしたライトは右手を集約したエネルギーに伸ばして、

 

「──はッ」

 

 勢いよく後ろへと振り抜いた。

 目を開けてライトは手にとった己のエネルギーを横向きにし、見た。手中に収められたマナの柄から解き放たれ、光の刃が瞬く。

 持っているそれをライトが怪訝に見つめていると、エミリアたちがライトへと駆け寄ってきた。

 

「それだああッ!! ライト、それだよそれ! その剣でエルザを倒してたんだっ!」

 

「そうよ! その光る棒でおっかない女の人をギッタンギッタンにしてたっ」

 

「俺が? そうか……あのとき、ユニコーンが憑依いや、融合して代わりに戦ってたのか」

 

 二人がライトの右手に握られるそれを指さして子供のようにはしゃいでいる。その傍ら、ライトは心の中に寄り添うユニコーンをなでるように胸あたりに手を当てた。

 手を当てた場所がほのかに暖かさを発しるとライトは笑みを浮かべた。

 

 『ありがとう、ユニコーン』

 

 胸を撫で下ろしてライトはみんなを守ってくれたユニコーンに感謝し、新たな決意を抱いた。

 いつまでもユニコーンに任せきりにするのではなく、共に二人で戦う。

 ライトは目を開けて、右手に持つ光剣を眺めた。

 朝日に照らされた刻にも関わらず一筋の光が力強く伸びている。剣というにはあまりに純粋なエネルギーの塊は淡く揺らいで、粒子が散るたびに淡紅色の輝きが剣の輪郭を際立たせた。

 

「ギッタンギッタンなんてきょうび聞かねぇな……。んでもやっぱすげぇなそれ、切れんのか? エルザのククリナイフは鍔迫ってたけど溶けはしてなかったし……」

 

「わかんないな……触ってみてもこう……生暖かい感じがするだけなんだ」

 

 あたりを注意して振ってみても重さは感じられなくて、剣を持ってると言う実感が湧かない。チグハグな感覚をライトは気持ち悪がりながら芝生へと差し向ける。

 燃えはしないが代わりに粒子が草木を無茶苦茶にして伐採。体から離したら消えるかもしれないが、投擲すれば芝でも刈れるかもしれない。危ないことこの上ない活用法なのは間違いないだろう。

 

「まぁ切れはするわな。あ、そだエミリアたん」

 

 草の有り様を見て眉を寄せ思案するスバルが奇策を思いついたように目を明るくさせると、「どうしたの?」と近づくエミリア。

 

「ついでにパックにも頼みたいんだが……氷って出せるか? これくらいの」

 

「わかったわ。それくらいのおっきい氷を出せばいいのね。パックやりましょ」

 

「リアがそう言うならボクもやらないといけないね。まったくスバルは猫使いが荒いにゃ」

 

 だらだらと文句を垂れるパックはエミリアの肩に着陸。息ぴったりにエミリアと両手を前にする大気中のマナが応えて周囲の温度を下げ、氷の結晶を作り出す。

 青白い光の中は極寒を極めていて、結晶をより大きなものへと成長させた。

 

「うんしょっと。これでいい?」「これでいいかい?」

 

 エミリアとパックの合図とともに宙を浮く結晶の周りを取り巻く零度は消え去る。すると、これまでにないほどの大きさの氷の塊は重力に従って地面へと吸い込まれ突き刺さった。

 氷塊によって地面は軋みをあげ、草をも伴いながら周囲をわずかながら凍てつかせると、ライトがおもむろに歩き出す。

 

「ありがとうエミリア、パック。これで試せそう」

 

 感謝を口にしたライトは右手にもつ光の剣を前に差し出し、柄を両手で掴んで上段に構える。

 そのライトの行動に疑問を抱いたのか、ライトから少し離れたところに集まって、

 

「どういたしまして。でも何をするの?」

 

「ちょっと──切ってみる。セヤッ!!」

 

 短い気合を叫ぶのと同時に、ライトは手に持つそれを宝石めがけて斜めに振り下ろす。光の残像が半円を描きながら空気を裂き、唸らせると氷が甲高い音を鳴り響せた。

 各々が見守るなか、緊張に耐えきれなくなったかのように氷の塊に線が走り、

 

「予想はしてたさ。でもこれは強すぎねぇか……?」

 

「これはすごいねぇ」

 

「びっくりぃ」

 

 重々しい音を立てて地面へとずれ落ちた。

 断面をライトは確認してみれば鏡のように自身の顔を反射していた。触ってみればわずかに水気を感じたものの、すぐさま凍てついて反射を曇らせる。

 この剣は溶かし切ると言うよりは単純に切れ味がとても良い剣なのだろうか。草を切ったときもそうだが、燃えるようなことはなかった。

 力を抜く意識をするとライトの持つ刃は短くなり、消えた。 

 

「消えた。でもなんだか使いにくいかもしれない。光をもってる感じで、ユニコーンには悪いけど気持ち悪い感覚。……どれだけマナを送れるかで切れ味が変わるのかな?」

 

「なるほどなぁ。けどよ、剣以外にも他の魔法とか使えるんだろ? どんなのあるんだ? 俺見たいぃ」

 

「ちょっと待ってて……って、ユニコーン」

 

 もう一度意識を深くにまで沈めてユニコーンのイメージを引き出す。それはロズワールとの戦いで見た轟音と共に放つ魔法で、これにはライトも冷や汗を流した。

 いよいよ我慢できなくなったのか、ユニコーンが本領を見せようと中で躍起になっている。かといってやらなかったら後で怒るかもしれないし、今日が呪術師を探すのなら機嫌は取らないといけない。

 不本意ではあるが、ライトは渋々頷くとイメージの通りに動き出した。右手を銃の形に組んで前に突き出して庭の向こうに向ける。右の二の腕に左手を添えて構えを完全なものにした。

 

「──みんな離れて」

 

 声の調子を落としたライトの一声に一同は有無を言わず、背後へ回った。

 総員の退避を確認したライトは心でトリガーを引き、指先が痺れるのを感じる。マナが集い、膨大なエネルギーが指端に収束していく。眩い白光が球場に膨れ上がり、青い閃光が極限にまで達していることを伝えて──

 

「あのーパックさん。ライトのあれって、あのままだとかなりやばいやつだよな……?」

 

「う、うん……これはかなりやばいね」

 

 極限を迎えたはずのエネルギーが抑えを効かずにさらに膨張。収束が荒く、見かけが膨れているがかなりまずい。

 トリガーを引いてしまったライトはスバルとパックの呟きに焦燥を駆られて慌てふためく。

 

「思ってたのと違う! これみんなどうしたらいい!?」

 

「どうするったって……」

 

「早く上に向けて──っ!!」

 

 異常事態にしどろもどろになるのを抑えて悲鳴に近い叫びをしたエミリアに命令され、限界ギリギリとなったエネルギーを上にライトが向けた。

 破壊の闘値が振り切った──次の瞬間、世界を揺るがす一撃が放たれた。

 

「ドゥオ──ッ!?」「きゃっ!?」「うわぁ……」

 

 発射と同時に空間が揺らぎ、巨大な槍のごとき蒼白い光は鼓膜を破るほどの炸裂音と共に空へと臨んだ。

 巻き起こる風圧でスバルが汚い叫びを、エミリアは短い悲鳴をあげ、パックは空に向かっていった光線を見て空いた口が塞がらない。

 

「衝撃が……え」

 

 目を開けて、空へと旅立って行ったであろう光輝をライトは目で追おうとする。大空に刺す止まることを知らない光は天高く登っていくところで勢いは未だ健在。

 足元を見ると先ほどいた場所と少しずれており、その威力による反動が見てとれた。

 しばらくすると勢いを失ったエネルギー体は点滅し、ついに燃え尽きた。

 

「これ、どうすれば……」

 

「わわわわわ、ひ光がバーンってなってキーンってなったぁ」

 

「リアが見たことない顔してる。これは……うん、ライト」

 

 パックが弱々しく飛んでくるとライトの肩をちょんと触る。

 

「これはぁ、ボクは使用を控えることを強く薦めるよ」

 

「うん、時と場合による」

 

「フリじゃねぇからな!? 絶対使うなよライト!」

 

 いかにも真剣と言いたげなライトの言葉にスバルが助走をつけて頭を引っ叩いた。

 

「あれ、私なにを……」

 

「エミリアたんがショックでトリップしてた!? ほんとにやめろよ当たったらシャレになんねぇ」

 

「えぇっあ、当てないよ。………これは危険すぎるな。もし……人に当てたりでもしたら」

 

 この魔法をもし人に向かって打ったときをシミュレーション。想像とはいえ、当たった部位は円状に欠損し、血が流れないほど断面が炭化。

 人一人が使う魔法としては過剰攻撃なんじゃないかと思えば封印案件になるのも頷ける。

 冷や汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべてるライトに周りの皆も愛想笑いせざる負えない。

 少し体が疲れた気がする。あれだけのエネルギーをぶっ放したのだからマナが減るのも納得がいくが、ユニコーンの魔法──精霊術を行使しているのなら大気中のマナを使っているはずなのに。

 

「──ん?」

 

 パックの言っていた理論に合わないマナの消費に眉間の皺を深くするライトは慌ただしい音を耳にした。

 動揺を隠しきれていない足音は段々と屋敷の入口へと近づいていき、

 

 

 

「待ちなさいレム──!」

 

 

 

 聞き迫る声を背にし、青髪の少女が屋敷から飛び出した。メイド服とは決して相容れない棘付き鉄球を手にして。

 

「レムちゃん!? ちょっと待っ──」

 

 焦燥の滲む青く澄んだ瞳に素っ頓狂な声を出して足をすくませる白髪のライトが映る。

 レムの目が揺れ、足元にブレーキがかかるも物騒な武器はすでに手の中から離れ、鎖を引き連れてライトの顔に吸い寄せられた。

 手を出せばいいのか。だが、ループの一つにあったレムとの戦い。繰り出された鉄球は壁をも砕くほどの破壊力を誇っていたことを記憶にしている。

 ならばこの場は、よけ──

 

「──ッ! (ガゴーンッ)」

 

 体から勢いよく何かが抜け出たのと同時に、重厚なモノがぶつかる低音が間近でライトの耳を劈いた。

 驚愕に言葉が出ず、ライトが目を開けて白いものが視界の端を飛んでいくのを見た。それは芝生へと激突したそれは土埃の中から身を軋ませてゆっくりと起こすユニコーンだった。

 

「ユニコーン、大丈夫か!?」

 

 走り、駆け寄り、ライトは両手でユニコーンを土から掬い上げる。頭を手のひらに預けたユニコーンは眼光を点滅させて目を回した。

 

「──ぇ、ユニコーン様! レムが先走ったばかりに……も、申し訳ありませんライトくん。急に大きな音がして、この屋敷に何者かが襲撃したと……ほんとうに、申し訳ありませんライトくん」

 

「誰だって、あんな音を聞いたら慌てる。だからそんな必死になんなくて良いから……。俺こそ、ほんとにごめん」

 

 おもんばかる声が背中にかかるのを感じながら、ライトは緩徐に膝を地面から離す。

 遅れて、桃髪を揺らす少女が息を弾ませてしどろもどろになる妹の元に走り寄った。

 

「レム、頭を冷やしなさい。素直さはレムの美点だけど、早とちりしすぎるのは悪い癖よ」

 

「申し訳ありません……姉様。ライトくんも」

 

 平静を取り戻させられたレムは、手を煩わせた姉である姉様に、我知らず傷つけてしまったライトとユニコーンに深く頭を下げた。

 スバルもエミリアも突然すぎる出来事に何も言えず、優雅さを寂滅させて背中を小さくしたレムを見送る。

 

「待ってくれ……!」

 

「──っ」

 

 絞り出したような声にレムが息を呑んで足を止める。離れていくレムを呼び止めたのはライトだ。

 

「その……こんなことになって、今言うかって思うかもしれないけど。昨日はほんとうに助かった。俺なんかのために……だから──ありがとう、レム」

 

 微笑むライトは振り返るレムに右手を差し出す。

 

「いえ、レムはただ……」

 

 「ただ……」と言ったっきりレムは迷うように口ごもってしまう。手をもじもじとして差し出されるライトの手に視線を行ったり来たり。

 握手はなく、繋がることのないライトの右手は行き先に迷い、結局ライトの首横に置くことで微妙な空気が誤魔化されることになった。

 

「──ぁ」

 

「その……ユニコーンがぶっ飛ばされたのはびっくりしたけど、気にしてないから。これ、本当のこと」

 

「本当の、こと」

 

「そう。だからこれからもよろしく、レム」

 

 頭を下げ、そして上げたライトはレムに笑みを見せる。

 分け隔てないライトの態度に、レムはスカートの両端を摘むと、

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。ライトくん」

 

 言い切り、レムはそこでくるりとライトに背を向けて屋敷の玄関へ。

 少しだけレムがさっきまで抱えていたものが軽くなったような気がしてホッとするライトは息を吐く。その隣で足音がして、何かと思って振り向くと同じくレムの背を見送るラムがいた。

 そっと息づくラムはライトを見上げるとレムと同じようにして、

 

「レムに重ねて、ラムも謝罪するわ」

 

「いやそんなもう済んだことだしさ。それにラムは何も……」

 

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、丁寧な所作で頭を下げたラムが「そう」と一言。

 ライトに向けた頭のてっぺんを上げたラムは、心労を息で吐いて捨てると自身の桃髪を手で払う。

 

「で、ラムの愛する妹に泣きついたポンコツ精霊使いが、どうしてさっきのバカみたいな音を?」

 

「それは、俺が試しに魔法を打ってみたら暴発しちゃって……──泣きついた?」

 

 ラムのなめらかに出てきた言葉に、ライトは一瞬固まり体も固まった。こんな公衆の面前で──スバルたちがいる目の前で早々に打ち明けるとは思わなかったからだ。

 ライトの腑抜け顔に、ラムがスナップの効かせて「ハッ」と笑う。

 

「レムの胸に泣きつくのは、後にも先にも姉であるラムの特権。そんな姿、死んでも見せないでしょうけど。本来なら今すぐにでも目の前のケダモノをズタズタにするところだわ」

 

 後退り、すぐさま膝と手をつく体制に入りかけたライトだったが、「けれど」とラムが呟いた。

 

「あのときのトライは、ラムたちから見ても見るに耐えない有様。あの子がよその人に気をかけることなんてあまりないことよ。あの子も少し変わり始めてる。きっと……いい方向に。だから今回のことは大目に見てあげるわ」

 

「そう、か……」

 

「だからこそ。今はあの子を刺激しないでちょうだい。まだ心の折り合いがついていないと思うから」

 

 目を据えたラムの忠告をしかと受け止めたライトは一つ頷いて「わかった」と返す。

 視線を落としたライトの先の掌で頭を振ったユニコーンが飛翔し顔の横に。大丈夫かと目線を送ってみれば、暴発した魔法をイメージとして送ってしまったことによる事故を反省しているのか非を認めてはいた。

 大丈夫そうで一安心したライトは肩を撫で下ろすと状況を今まで口を挟まなかったスバル一向に近づこうとした。

 近づこうとしたのだ。

 

「トライ、まだ話は終わっていないわ」

 

「え」

 

「これはトライが魔法を使わなかったら起こらなかったあなたのポンコツ具合が原因。ラムの気苦労の代価として、ラムの仕事の半分を押しつ……いいえ、手伝ってもらうわ」

 

「間に合ってないし言い直せてないでしょ!? ちょっと待ってって……!?」

 

「問答無用よ。さぁ、最初は野菜の皮剥きを七割手伝ってもらうわ」

 

「五割じゃないの!?」

 

 逃げようとしてもすでにユニコーンとの融合は解けているライトでは首根っこを掴まれて引きずられる始末。

 助けの目を彷徨わせるライトが愛想笑いするエミリアとスバルに縋り付かせた。その返礼が、

 

「大丈夫よ。私、ぜっったい誰にも言わないから」

 

「まぁ……がんばれ、な!」

 

 なにが『大丈夫』と『な!』だ。

 キレのいいサムズアップに続くスバルのウィンク。

 助けの手は誰も差し伸べてくれないことが頭ではなく、心で理解してしまったライトは自分を屋敷へと引きずるおそるべきラムの馬鹿力ならぬ姉力にされるがままだ。

 

「重いわね。立ってることくらい自分でしたらどうなの、このポンコツ精霊使い」

 

「え? おわっ力つよ……え、投げるの!? やめ、どわああぁぁあ──ッ!?」

 

 恨み言を言った後、ラムがライトの体を両手で持ち上げたと思えば屋敷の入り口へと投げ入れた。

 

「行っちゃった……大丈夫かしら、ライト。ケガしてないといいんだけど……」

 

「ライトなら大丈夫さエミリアたん。って、それよりも!」

 

 グルンと顔をパックへ向けたスバルは気を取り直して、黒い目をキラキラと輝かせた。

 その瞳に当てられたパックは「あー」とどこか納得したように頷く。

 

「次はスバルの番だね」

 

「待ってましたあ!! ここでライトにも負けない俺の超ウルトラスーパーなチート魔法が発現しッ、『マジック・ザ・スバル伝説』が始まるのだッ!!!!」

 

 その後のことだが、パックのサポートの元でスバルが魔法を使ったところ、シャマクが暴発する事故が起こり、またもや屋敷の襲撃者をぶち転がそうとレムが暴走した。

 そしてラムとライトが二人がかりで止め、ライトだけレムから不可抗力なのは致し方ないとはいえ、猛烈なビンタを頬に食らったのだった。

 

 

 

「イッッタ──ッ!?」

 

 

 




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