『コンコンコン』
部屋にノックの音が何度か響く。隣のスバルの表情が変わる。急速に込み上げてきた焦燥感が彼を襲い、冷汗が出て恐怖で呼吸が浅くなる。
フェルトとロム爺がノックの音について話している中、ライトがスバルの異変に気付き方に手を置く。
度重なる怯えに心配になり、声をかけるが…
「お、おい昴。ほんとに大丈夫か?椅子に座っt「開けるな!」え?」
後ろを振り向くと、フェルトがドアノブに手をかけようとしていた。
「殺されるぞ」
「は」「え?」
スバルの一言でライトとフェルトの動きが止まる。が、フェルトはドアノブに手をかけ扉を開けてしまう。
スバルが現実を受け止めるように、目を閉じ、拳を強く握る。
一体、彼に恐怖で怯えさせる正体は何なんだ。
ライトがその様子を見ながら、わけもわからず扉の向こうにいる者に怯えるスバルの背をさすり、固唾を呑む。
「殺すとか、そんなおっかないこといきなりしないわよ」
徽章を返す相手の、『銀髪』で『白いローブ』を着た『超絶美少女』が今ではあまり聞きなじみのないことを言い、仏頂面でドアの陰から出てくる。
ライトが記憶の棚から探していた人物と特徴が合致することがわかり、スバルに安堵したような笑みを向けて、
「ほら昴。大丈夫じゃないか。お前の探してた人来たぞ」
「えっ?」
スバルの顔が扉の向こうにいる、銀髪で白いローブを着た超絶美少女に向け、拍子抜けしたような顔になっていった。
「よかった、いてくれて。…今度は逃がさないから」
銀髪の少女がフェルトを見て言う。それをスバルが困惑した顔で見ていると隣から声をかけられ、そちらに顔を向ける。
苦笑いのライトが言葉を紡ぎ、
「殺されるとか言ってて驚いたけど。大丈夫だったじゃないか」
「あ、あぁ。ほんとにな。今日調子悪いんかなぁあはは。」
「ほんとしつこい女だなあんた。いいかげん諦めろっつうのに」
フェルトがそう言い銀髪の少女から距離を取る。距離を取る彼女の表情は悔しげで、忌々しさに唇をゆがめる。
「残念だけど諦められないものだから。おとなしくすれば、痛い思いはさせないわ」
彼女の言葉はかなり冷たい。その瞬間、室内の気温が急速に下がり始め、彼女の周りから六本の氷の柱が出現する。
「(うわぁー。この世界って魔法があるんだぁー。俺にも使えるかな?)」
一人魔法に目を輝かせていると隣から周りに聞こえないくらいの声で言うスバルがいた。隣にいるライトには聞こえていたが。
「俺がいなかったらこんだけ早くたどり着くのか…」
「うん?」
「私からの要求は一つ。徽章を返して。あれは大切なものなの」
ライトが聞こえた言葉に怪訝そうにすると、彼女の声が聞こえ意識を向ける。紫の双眸が強くなる。
「むぅ...ただの魔法使い相手ならわしも引いたりせんが、この相手はまずい」
「なんだよロム爺!ケンカやる前から負け認めんのか?」
「え?普通の魔法使いじゃないんですか?でもなんで…」
二人の疑問に答えるようロム爺が、強い警戒とそれを上回る畏敬を込めて告げる。
「お嬢ちゃん、あんたエルフじゃろ」
唇を震わせて問いかけるロム爺にスバルとライトが反応する。片方は反応してしまったが正しい。
ロム爺の言葉に一呼吸おいて彼女が、
「正しくは違う。私がエルフなのは、半分だけだから」
「ハーフエルフ。それも銀髪?まさか...」
「他人の空似よ。私だって迷惑してるもの」
ハーフエルフ。世界観によってその扱いが異なる。人間とエルフの特徴を中途半端に持っている。それ故その双方から迫害されている。とライトはゲームの知識で知っていた。が、どうやら違う原因らしい。
「兄ちゃんたち。さてはまんまとあたしをはめたな?」
「「え?/は?いや俺は何も...」」
彼女に指をさされ、二人は誤解が生じていることに気づく。二人の声が被り弁明するが
「持ち主に返すとかおかしなことぬかしやがるから怪しいとは思ってたんだ!」
「どういうこと?あなたたち仲間じゃないの?」
銀髪の少女がライトたちのほうに顔を向ける。ライトが言葉を探していると、フェルトと銀髪の少女の微妙にすれ違ったやり取りを見て笑ったスバルが手をたたく。
「なんだよてめえ!何笑ってるんだ!」
「んまあまあ、いいじゃないか。フェルトは徽章を返してやれよ。そんでサテr...君は早くここから出てく。もう、盗られたりしないようにな」
「何で親身になってくれてるの?私すごーく釈然としないんだけど」
「納得いかねえのはあたしも一緒だよ。兄ちゃん!あんた何なんだよ?」
注意を向けるためスバルがうやむやにしようとするが失敗。
そんな彼を見て、また空ぶってしまったなと思うライトが少し茶化してみようと彼の肩を持ち、
「逆に火を焚きつけてしまうことになったね昴」
「いやぁ俺としたことが。見事に失敗しっぱ、い」
スバルの語尾が途切れる。どうしたのかとライトが首を傾げていると、
「パック!防げ!」
その瞬間、ガラスを割るような音が室内を響き渡らせる。
突然の大声に驚きスバルの視線を追う。銀髪の少女の背後に氷の障壁が、彼女の白いうなじを完璧にその凶刃から守り通していたところだった。
「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ♪」
彼女の髪の中からマスコットキャラクターのような猫が出てきた。グッジョブと言わんばかりに親指を立てている。
「ナイスパック。まだ五時前勤務時間内で助かった。あんがとよ!」
スバルも続けざまにサムズアップする。彼の手から、星のような何かが見えたような気がした。
「精霊。精霊ね。フフフ ステキ」
凶刃を振るったものが降り立ち顔を上げていく。その人物は
「精霊はまだ、おなかを割ってみたことないから」
貧民街でぶつかりかけ、また会おうと言い別れた
「ウフ♡」
エルザ・グランヒルテだった。