Re:ゼロから始める異世界UC   作:リクライ

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闘いのその後、『幕間』
彼女たちは如何に。


幕間

 

 

 月明かりがこの場を照らす。

 

 

 スバルとライトに淡く輝く光で治療するエミリア。

 その光ーー癒しを司る水の波動を遠目に見ているラインハルト。

 しかし疑問に思う。

 失礼だが、スバルよりもライトは戦えるようには見えない。そんな者が、あの腸狩りをあそこまで一方的に追い詰めることができるのか、と。

 

「よし、これで大丈夫」

 

 瞑目し、思索に耽るラインハルトの耳に、今まで彼らに治療を施していた少女の声を拾う。

 傷がないかを確認し、壁に寄りかからせたライトの顔にかかる前髪を払い、治療を終えた二人に満足気な顔を浮かべる。

 

「治療は完了。特に深い傷もなかったから楽だったわ。でも…」

 

「どうかなさいましたか?エミリア様」

 

 少し疑念を抱くエミリアに早足で歩み寄り、ラインハルトが少女の顔を見た後、視線の先の、壁に寄りかかるライトに向ける。

 彼を注視する。すると、少しずつだが大気中のマナがライトに集まり、取り込まれているのがわかる。

 

「別に問題があるわけじゃないの。ただ、精霊使いでもないのに大気中のマナを使うのが不思議で。」

 

「そうなのですか」

 

 ライトを見るが先の指摘以外、特に変わったように見えない。彼の首にかかる物が月明かりに照らされ白金に光る。

 

 何かの横顔が彫られている。

 

 

「ところでエミリア様。彼、スバルとはどう言うご関係ですか?」

 

「行きずり?」

 

「ん?」

 

「ここで、ついさっき会ったのが初めてのはずなんだけど」

 

「ですが彼はあなたを捜していました。渡したいものがあると」

 

 「だから不思議なのよね」と言い、考えるように顎に指を添えるエミリア。

 彼らの今後について話そうと、ラインハルトの顔がエミリアに向く。

 

「彼らの身柄はどうしましょうか。よろしければ当家の方で、客人として扱いますが」

 

「ううん。こっちで連れ帰ります。そのほうが事情もはっきりするし」

 

 「それよりも」といい、エミリアの視線が部屋の隅の、いまだに意識の戻らない老人を介護している少女に向く。

 

「あの女の子やお爺さんはどうなるの?」

 

「職務上、見逃すことはできない部類であると考えます。ですが…」

 

 そこで言葉を止め、肩をすくめるラインハルト。

 

「あいにく自分は、今日は非番でして」

 

「フフッ。悪い騎士様ね」

 

 肯定と受け取り、エミリアは金髪の少女へと向かう。少女はその歩みに気付き、覚悟を決め、次の言葉を待つ。

 

「そのお爺さんは、あなたの家族?」

 

 予想外の言葉に眉をひそめる少女が、気を取り直すように鼻の下を指で擦りながら、

 

「そうみたいなもんだ。ロム爺はあたしにとって、たった一人…うん、爺ちゃんみてえなもんだな」

 

「そう。私の家族もひとりだけ。肝心な時に眠りこけてるし、起きてるときには絶対に言えないけど」

 

 二人の間に少しだけ沈黙が訪れる。ラインハルトはただ目を向けて、二人の話を聞いている。

 すると、フェルトが気に病んだのか、

 

「なあ」

 

 そういい彼女はエミリアの紫紺の目を見上げた。その赤い双眸に弱々しい光と少しだけ目の縁を濡らして。

 

「白いにーちゃんは、大丈夫なのか?」

 

「えぇ。擦り傷と服が汚れてるくらいで」

 

 懺悔するように言う。犠牲も厭わず少女を守った少年に、ライトに目を向けて、

 

「にーちゃんが、ライトがさ、助けてくれたんだ。あたしを」

 

 「うん」と相槌をし、その目を少女から逸らさないで、ゆっくりと金髪の少女の言葉を待つ。

 

「死ぬかもしれねえのにさ、ばかやろう」

 

 少女の声が震え、その語尾が弱まる。肩を震わせ、太ももの上で拳を握る。

 その目から涙がこぼれた。

 

「…いってくれたんだ。…嗤うなって。一生けんめい生きてるって。うれしかったんだ…」

 

 少女の顔が膝にむく。頬をゆっくりと伝い、それから膝に落ちた。決壊するように雫がこぼれ落ちてくる。

 

「あったとき、なんてっこえかけりゃいいんだよぉ。こんなっ、こんなあたしを、」

 

 少女の脳裏に、申し訳なさそうな顔をし、自身を投げる少年が甦える。

 涙が止まらずその目を拭うが、止まらない。

 しょうがないような顔をしてミーティアの使い方を教えてくれる少年。いつも兄ちゃんに振り回され怒るが、目尻を下げ薄く笑う少年。他人とは違う、守るものを見るように目を向ける少年。そして、

 姿が変わり、少女の夢を嗤った女に、立ち向かう少年が、

 

「…っ、ぅっ…ひっ…」

 

「わかってないなぁ」

 

「え?」

 

 少女が、突然の軽蔑に意表を突かれ、月明かりに照らされている銀髪の少女を、涙で星のように煌めく目で見る。

 

「っ...なにっいって」

 

「ごめんって言われるより、ありがとうって言ってくれた方が相手は満足するの」

 

 やさしい眼差しと微笑みを浮かべて、白く照らされる少年に目を向ける。

 

「謝ってほしいんじゃなくて、してあげたくて、したことなんだから。ね?」

 

 赤い瞳を見開き、光が宿る。その目にはもう迷いはない。

 

「そう、だな。うん、そうだよな」

 

 目頭を乱雑に拭い、調子を整えるために深く呼吸する。赤い双眸がまっすぐと少女を見て、啖呵を切った。

 

「あたし言ってやるよ。助けてくれて、ありがとうってな!」

 

「ふふっ。そうね」

 

 少女の頬の赤みがます。小恥ずかしくなり、顔を逸らしながら、さりげなく見ると、

 

「もっと、きつく来るかと思ってた。やさしいんだな。…その、ありがとな」

 

「そう、ね。さっきまでのままなら、そうだったかもしれないけど。毒気抜かれちゃった。だから、さっきの顔に免じてあげる」

 

 仕方ないと、苦笑いして肩をすくめるエミリア。

 

「命を助けてらったんだ恩知らずなマネはできねえ。盗ったもんは返す」

 

 視線を下げ、先ほどの助言への感謝を込めながら懐を探り目的の徽章を取り出し、銀髪の少女に渡す。

 

「大事なもんなら今度から取られねえようにちゃんと隠せよ」

 

「あなたにその忠告されるのってヘンテコな気分ね」

 

 取り出したそれを手のひらに乗せ、少女はエミリアに盗品を返す。

 月明かりが雲に隠れ、一瞬。赤い煌めきがラインハルトの瞳をよぎる。その煌めきには見覚えがあり、重要な何かだと思い、記憶の棚を探る。

 そして、それを見つけ、

 

「ーーえ」

 

「ラインハルト…?」

 

 

 徽章を握る少女の手首を、横から掴み取っていた。 

 

 

「い...痛いっつうの、放して…」

 

 弱々しく抵抗する少女。

 だが、彼女の手を握るラインハルトの力は弱まる気配がない。加減してるとはいえ、小柄な少女に解けるような拘束ではない。

 

「なんてことだ!君の名前は?」

 

「ふぇ…フェルトだ…」

 

 腕を引かれ、痛みに顔を歪める少女。

 ラインハルトの問答は終わらない。

 

「家名は?年齢はいくつだい?」

 

「家名なんて大層なもんは持っちゃいねえよ。年は、多分十五ぐらい。誕生日が分からねえから。っつか放せよ!」

 

 話しているうちに少しばかり調子を取り戻し、乱暴な口調で少女が暴れる。もう片方の手で拘束する手を外そうとするが、溶接しているかのように外れない。

 少女から目を離さないでエミリアに、

 

「エミリア様、先程のお約束は守れなくなりました。彼女の身柄は、自分が預からせていただきます」

 

「理由を聞いても? 徽章盗難での罪と言うなら…」

 

「それも決して小さくない罪ですが…今こうして目の前の光景を見過ごすことの罪深さと

比べれば、些細な事にすぎません」

 

 戸惑い、眉をひそめるエミリア。そんな彼女の困惑を仕方のないものだと割り切るり、フェルトに目を向けて、

 

「付いてきてもらいたい。すまないが、拒否権は与えられない」

 

「ふざけ…助けたからってあんま調子乗んな……っ?」

 

 ラインハルトの言葉に応戦しようと抗おうとするが、不意に少女の体勢が崩れる。少女は恨めしげにラインハルトを睨み、その奥へと視線を移し、

 

「にい、ちゃ」

 

 最後に二人の少年に言い切るまもなく、全身の力が抜けた。

 意識の失った少女を支え横抱きにし、持ち上げるラインハルト。

 

「また騎士様らしくないやり方...」

 

「加減は心得ております」

 

「エミリア様、また近いうちに呼び出しがあるかと思われます。ご理解を。」

 

 横抱きにされる意識のない少女の手から徽章を取り出し、エミリアへと差し出す。

 それに埋め込まれている赤い宝珠が再び赤く煌めく。

 

「スバルと、ライトのこと、どうかよろしくお願いします」

 

 

 

 雲に隠れていた月が、この場にいる全員を照らす。何かを予期するかのように。

 

 

「落ち着いて月が見られるのは今日が最後かもしれないな」

 

 

 




ここで一区切りです。
次回、第二章へと続きます。
引き続き見て下さると嬉しいです。
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