両面宿儺(偽) vs AFO vs ダークライ   作:甲乙兵長

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天晴だ、呪術廻戦。
生涯貴様を忘れることはないだろう――――


一発ネタです。リハビリ兼記念に仕上げました。
内容がクソヘビーなのでタイトルだけでもふざけようかと。



唯我独尊の鬼神

 

 

 ―――その生命に産声はなかった。

 

 『彼』はいつの間にか揺り籠に宿っていた。

 

 

 

 身に覚えのない妊娠に(母親)は恐怖したが、罪のない赤子を堕ろすのは良心が咎めた。

 躊躇しているうちに胎の仔は恐るべき早さで日ごと大きくなり、半年ほどで臨月にまで達してしまう。

 

 明らかに普通ではない。胎に宿る仔は本当に人なのか?

 

 言い尽くせぬ寒気を覚えつつも、ここまで大きくなって堕ろすには母子ともにリスクが高すぎる。かかった村の産婆によると、子供は“双子”らしい。

 異常はもうひとつ。

 悪阻(つわり)の気持ち悪さを遥かに上回る食欲。()()

 一日のうちに五度の食事は必須で、常に何かを食べていないと落ち着かないほど。だというのに女自身の体形は細く、腹の子供を除けばむしろ妊娠前より痩せているくらいだった。

 やせ細った手足で腹だけを大きくして、血走った眼で食事を口に詰め込むさまは、狂気に憑かれた餓鬼のよう。

 閉鎖された田舎の村落に女の存在は異常すぎた。家族以外、誰もが関わることを恐れ、止めてしまった。

 

 ある夜。

 

 魂切るような悲鳴、絶叫がとっぷり暮れた村落に響き渡った。

 

 駆けつけた家族が女の部屋に踏み入ると、そこには血の海が広がっていた。

 血の泡を噴き、壮絶な苦痛の表情をたたえたまま息絶えた女の姿。

 溢れた臓器が周辺に散らばり、肋骨が花のように咲いている。

 膨らんだ腹は、内側から突き破られていたのだ。

 

 ぴちゃ……ぴちゃ……。

 じゅる……じゅる……。

 

 すでに押し寄せた家族の精神の許容量を大きく逸脱する凄惨な事態であったが、現実はさらに追い打ちをかけた。

 破れた腹から伸びる、肉の管。

 奥まった部屋の暗がりへ続くそれがへその緒だとみなが気付く。

 闇の帳で、小さく蹲りながら生々しい音を奏でる存在(赤子)

 『彼』は産声もなく、母であった女の血だまりから一人離れ、へその緒の端をウィンナーのようにかじって食べていた。

 産まれたてなのに首が据わり、歯が生え揃っている。

 だけに留まらず―――『彼』には腕が()()、目が()()あった。

 肉をかじることを止め、のっそりと顔をあげた異形。

 ソレと目が合った瞬間、誰かの口から、二度目の悲鳴が噴出した。

 

 

 

 

 

 

 惨劇から数年。

 

 集落は一見平穏な日々を取り戻したかに見えた。

 しかし、例の女の家族の時間は『あの夜』で止まったまま。

 

 赤子は、女の父親が咄嗟に手にした木彫りの置物で頭を殴られ、死んだ。

 

 ()()()()、と。実の柔らかい果実を潰したような手応えだった。

 異常すぎる身なりに反して、赤子は相応に脆弱な命であった。

 しばらく、己の所業に呆然と立ち尽くしていた父親は、動かなくなった肉塊と娘の亡骸を敷いていた布団で簀巻きにして、裏手の山へ埋めた。

 父親も、手伝った祖父も、作業を見ているだけだった女の母も祖母も叔母も、誰ひとり口を開くことなく、黙々と埋葬は終わった。

 

 ……世間では、『超常』が徐々に蔓延りはじめているという。

 

 昨日の今日まで普通だった人々に突如現れた変化―――『異能』。

 それはフィクションで語られるような超能力だったり、異なる動植物の特徴などで身体が変質してしまったりする、人類を突発的に襲った異変。進化とも、突然変異とも、未知のウィルスだとも騒がれるそれは、少しずつ数を増やしながら、世界中で広がり続けている。

 荒唐無稽な出来事が大真面目にニュースに取り上げられた。

 『異能』の天啓は、家族に『あの夜』を思い起こさせるには十分だった。

 今になって思えば、赤子は『異能』を生まれ持つ子供だったのかもしれない。母親を無惨に殺し、自力で這い出てその肉を食らった。容姿だけでなく、生来の在り方があまりに現代の常識から逸脱しすぎていた。時代が時代なら、鬼子や忌み子とでも呼ばれ“産まれなかったこと”とし秘匿されてもおかしくない。

 だが、それでも……赤子だった。娘から産まれた孫には違いなかった。善悪も定かでない、情緒の未熟な無地の子供に違いなかった。

 

 数年越しに訪れる罪悪感。

 

 家族は誰も父親を責めなかった。何も。あとで追及しようとさえ。触れることを厭った。

 恐ろしい在り方を矯正できたとは思えない。思えないが、もしかしたら、生きてさえいたなら……と。未練がましく考える性分に苦笑してしまう。後悔あとに立たずであった。

 誰に断ることもなく、父親は親子を埋めた場所にやってきた。今さらだが、手を合わせたくなった。慚愧に背中をつつかれ、数年越しの懺悔のために。向き合うつもりになれた。たとえ自己満足に過ぎなくとも。

 

 ――――――――?

 

 地面に違和感。土を掘り返し均された形跡に、わずかな穴のようなものを見咎めた。モグラが突き抜けたような、中から溢れる形の土の盛り上がり。

 

 がさり、と明後日の茂みが揺れた。

 

 視線を向けた途端――父親は喉を締め付けられた。

 そう錯覚するほどの閉塞。息詰まり。

 人だ。背丈は小柄、子供らしい。年代は小学校高学年か中学入りたてくらい。まるで原始人かのように、腰に毛皮のようなものを巻いていて、かろうじて文明的な出で立ちだ。

 日の光が木々の梢に遮られた薄暗闇に浮かぶその輪郭は、人としては不自然な形をしていた。なぜなら、腕らしき部位が余分にある………。

 こちらをじっと見つめる、無感動な、昆虫じみた風情の()()()()()

 その右側は、甲羅のような角質、殻みたいなモノが覆っていて。

 『()()()』、()()()()()()()()()()()―――――

 

 気付けば、父親は逃げ出していた。

 

 地面の穴ぼこを見た瞬間、不吉な予感がしていた。でもすぐに否定した。深く考えたくなかったのだ。

 “何かが地中から這い出た跡みたいだ” などと。

 しかし、直視してしまった。直面させられてしまった。

 

 “『あの夜』の子供だ!”

 

 理屈はわからない。確かに呼吸は止まっていたのに。柔らかい頭を頭蓋ごと潰したのに。土に埋めたのに。それでも生きている―――怪物。

 焦燥に駆られるまま、父親は走って走って走り続けた。方角も何もわからない。どこへ向かってるとも知れない。ただ、止まってはならないという強迫観念。

 殺される。娘のように。いや、直接危害を加えた相手なら、なおさら容赦されないはず。忘れもしない。腹を割かれた凄惨な最期が頭の中をぐるぐると回っていた。

 酸素が足りない。手足が重い。振り返って確認することすら憚られた。首を回した先に、もう一度あの子供(バケモノ)を見たら、それだけで発狂してしまう気がしたから。

 ……そうして父親は、疲れて覚束ない足取りで無理やり勾配の激しい山を登り続け。

 

 すぐそばの急斜面に気付かず転げ落ち、頭を岩場へぶつけ死んだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――『彼』は腹の中で多大な栄養を要求していた。

 

 壮健に育つために。完全な形で肉付くために。

 本能がただそう成せと舵取るままに。

 母体からとことん養分を吸い上げた。だがそれでもまったく足りない。

 栄養の行き先が枝分かれしていたからだ。

 “余計なところ”へ贄が運ばれている――――

 結論づけた『彼』の判断は早かった。

 枝分かれの末端……双子の片割れに取りつき、未成熟な血肉同士を融け合わせた。

 ただでさえ『彼』に大半の栄養が割り振られている中で、小さな片割れに過ぎない『きょうだい』は成すすべなく取り込まれてしまった。

 その名残としてか、残された『彼』の身体には普通と倍する目と腕……その他いくつかの機能が付属した。

 養分を独り占めできるようになり、悠々と力を蓄えた彼は、頃合いを見計らって外に出た。

 乱暴な帝王切開で母体はショック死し、ごく当然の行為・権利とばかりに、死にたての温かい血肉を小さな口で貪った。

 その後、駆けつけた大人に頭を殴られ、右目と右前頭が陥没するという致命傷を負いあえなく死んでしまったが、脳の生きていた部分の細胞が少しずつ傷付いた部位を補完()し、四日かけて、再び活動できるまで回復を果たす。

 致命傷修復で失った多大なエネルギーを補うため手近な食糧……蛆や虫がたかる母体の冷たくなった屍肉を食らい、自力で土をかき分け地上へと脱した『彼』は野山の自然の中をひとり独力で生き続けた。

 そんな生活を数年。

 生後まもなくから一歳相当だった『彼』は常人よりずっと早く成長を遂げ、外見上はそれなりの少年姿へと変貌していた。

 

 それでも、特徴的な異形のカタチ(多目多腕)を見て、男はすぐに気付いたらしいが。

 

 滑落し、手足がおかしな方向に曲がった男の死体。子供に振り回された人形の成れ果てのようなさまをそばで見下ろし、『彼』はつまらなさげに口を開く。

 

「ふん。ひとり先走り勝手に終わったか。

 おおかた報復でもされるのだろうと恐れたのだろうが、無様な最期だ」

 

 子供の、ましてやこれまで一度も人間社会へ出たことのないはずの『彼』から発される、流暢な嘲りの言葉。

 それは『彼』が『彼』に“成る以前”からの経験による賜物だ。 

 いわゆる転生という現象に行き遭ったのだと結論付けられるがしかし、『彼』には『彼』以外の自己認識はかなり希薄である。生まれた頃より記憶にこびりつく前世の知識だけが有用に使い回されている状態だった。

 それはおそらく、この肉体に秘められたポテンシャル、ならびに()の強さに、既存の魂が上書きされたせいだろう。

 

「………両面宿灘、とはな」

 

 『呪術廻戦』というコミックに登場する創作のキャラクター。『呪いの王』の異名を持つ、目が二対、腕が四本ある平安頃に実在した史上最強の呪術師。

 『彼』は己が両面宿灘であることに疑問はない。だが同時に、『彼』は両面宿灘が紙面の上に描かれた登場人物(空想の産物)であることも理解している。主観と他観。核たる人格を形成する認識に入り交じる宿儺(オレ)雑味(オレ以外)

 なんとも不思議な気分だが……彼が彼である意識は変わらなかった。もとより別の生き方など知らないし知る必要もない。完全な太源(オリジナル)ではなくとも、天上天下唯我独尊な基本骨子に揺るぎはない。

 

「……そういうことか」

 

 亡骸の懐から拝借した情報端末(ガラパゴス携帯)で、ネットを通し現代の情報を探るうち、小骨のように感じていた違和感の正体が判明した。

 

「呪力が練れないからもしやと思えば案の定、ここは呪いも呪霊もない世界。

 かと思えば、代わりとばかりに超常だの異能だの……ククッ。生まれる世界(場所)を間違えたのではないか? 呪力なしで『御厨子(みづし)』が使えるのはこの異能の影響だな」

 

 『(カイ)』、と死体の腕の肘に不可視の斬撃を見舞うも、完全に断ち切ることができず半端に骨と肉が繋がっていた。イメージ通りに行かなかった様子に面白くなさそうな顔をして、残りを腕力で引きちぎる。

 亡骸の腕に歯を立て手羽先のように齧りつつ、ネットの海へ視線を落とす。生まれたて以来の人肉。野山を駆ける数年で虫も野鳥もイタチもタヌキも熊も等しく狩り食らってきたが、なぜか畜産動物でもない人の肉の味が一番舌に馴染む気がした。

 ワールドワイドなインターネット世情も知識に比べ幾分か古くさいが、電子の世界に放流される昨今の情勢はある程度把握できた。

 

 次々異能に目覚める者たち。異能を宿す次世代の子供。特に取り沙汰されたのは中国のとある地方で見目に象徴的な『光る赤子』が産まれたとのニュース。

 

僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)。個性至上主義の超人社会。その黎明期といったところか?

 作品(場所)も違えば時代(時系列)もズレているとは。お粗末なちぐはぐさだ。誰かの仕込みならの話だがな」

 

 『個性』がまだ『異能』であった時代。人種や宗教に代わる新たな線引き『超常』がヒトを切り分け、混沌を極めた始まりの時代。

 流し見するだけで嫌でも目につく陰謀論に終末論。異能者の排斥運動。遺伝子の病に罹った化物呼ばわり。異形型への過剰な虐待。人道を訴え、拒絶され、身を守るため力で抵抗する異能者(自称弱者)。不理解と不寛容真っ只中な坩堝。

 

 一言。

 

「くだらん」

 

 けれど好都合な風向きである。

 

「これだけ出鱈目な混乱なら逆に動きやすいというものだ。

 懸念すべきはおそらくすでに生まれているであろうAFO(阿呆)だが……」

 

 『御厨子(異能)』の切れ味の悪さからして、この身はまぎれもなく発展途上の未発達。思い描く鬼神(最強)のビジョンには程遠い。武装した特殊部隊にでも囲まれれば制圧されかねない出来栄えだ。

 ヒロアカ本編のラスボス。かの魔王も今は未完の器には違いない。今ならそこまで脅威ではないはずだ。時を経て個性を奪うほどにアレは手がつけられなくなっていく……。

 

「雑魚の、思考だな」

 

 どこぞの雷神(贅沢もの)の台詞を(そら)んじる。余計な知識が無駄な危機感を訴えている。魔王だろうが英雄だろうが自分の知ったことではなかった。

 

 邪魔なら排除する。

 不愉快なら()す。

 興が湧くなら(あそ)ぶ。

 気が向くときまで自由に捨て置けばいい。

 

「そうと決まれば、そろそろ手近な(さか)り場におもむくとしよう。山を彷徨くのも飽きた。

 が、その前に、そうだな――――」

 

 愚か者のやってきた方角、一応は己の産まれ故郷にあたる村落へ目を遣り、幼き鬼神は犬歯を剥いて嗤った。

 

 

 

腹ごしらえ(鏖殺)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

――×月△日。○○県県境にほど近い某所の小さな村落にて、村人が全滅する事件が起こる。

 

――どの遺体も激しく損壊・損失しており、現場に争った形跡や鋭い切創痕が遺体と建物問わず残されていたことから、当初は山から降りてきた羆の犯行と思われた。

 

――しかし、秘匿された現場証拠を鑑みるに、残された切り傷は鋭利な刃物を用いたものである可能性が高く、明らかに人為的な殺傷であったことがわかる。しかも大人の手足を切り落とすほど大振りな凶器だ。

 

――それでも事件として詳しく捜査されなかったのは、超常の発現によって世界的混乱に陥っている最中の社会情勢で、都心関連事案を優先した警察組織の捜査余力がまったくなく手が回らなかったためである。

 

――こうして、小さな村落で起こった悲劇は、ファイルの中の記録だけに留められ、人知れず埃をかぶり思い起こされることはなくなった。

 

 

 

 





もう一本だけあるんじゃ
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