Magic game   作:暁楓

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第十一話

 アースラで療養を始めてから、五日経った。

 転生者が由衣を襲った事件については、由衣は『ジュエルシードの思念体』が襲ってきて、先にやってきたフェイトがそれを撃退・封印した、という説明をしたらしい。確かに、転生者云々を抜いても魔導師に襲われたというのは説明としては面倒なことになる分、その方が納得がいくだろう。あとでフェイトちゃんに口裏合わせてもらわないとなー、と由衣が呟いていたが。

 で、五日経ってジュエルシードの収集率は著しいものになっていた。

 それというのも、陸にあるジュエルシードは全て一度は人の手によって回収済みだったのである。管理局の登場に伴って、ぞろぞろとジュエルシードを持つ、もしくはそのチームにいる転生者が現れてきた。実は俺達がアースラに乗り込んだ日に来た人もいたりする。フェイトも、転生者からジュエルシードを強奪しているようだ。

 で、やってきたのは、烏間(からすま)氷室(ひむろ)率いる三人チーム『インテリ不良』。

 滝川(たきかわ)由樹(よしき)率いるチーム『連合軍』。

 この二チームがアースラにやってきた。どの人もスターチップを使わず、もしくは緊急指令によって現在生存圏に入っていて、この指令についてはもう関わるつもりのない人達ばかりだ。

 ……もう一人、アースラにやってきた例外を除いて……。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「やあ、綾! 調子はどうだい? ラーメン持ってきたけど、味噌と醤油、どっちがいい?」

 

「……じゃあ、味噌で」

 

「了解っと。じゃあ俺は醤油の方を頂くよ」

 

 昼食時になって、背が高くてやせ細った男、烏間氷室がやってきた。彼に続いて二人の男も入ってくる。

 氷室は療養中の俺に代わって食事を持ってきてくれたりと、それだけ見れば世話好きな印象も受ける。しかし、実際にはチーム名で『インテリ不良』と名乗っている通り、不良のチームメイトの頭。自らも元の世界では不良として腐っていたらしい。

 対面した時には俺にチームを切って氷室のチームに来るよう言ってきた。しかし理由を付けてきっぱり断ってからそれきり勧誘がない。てっきりしつこく迫るものかと思ったからそこは意外だった。

 他の二人は『インテリ不良』のメンバー、高田と末崎(すえざき)だ。末崎はグラサンをしているためそれで見分けている。彼らは氷室曰わく『動くこと以外には役に立たない』らしい。ちなみに三人の年齢は氷室、高田、末崎の順に十五、十三、十五である。

 ちなみにここは医務室だが、俺がここにいるためか、ここが転生者の溜まり場になってしまっている。クロノが頭を抱えてたな。

 

「あれ、氷室、俺の分は?」

 

「ん? ……お前はもう治ったんだろ? だったら自分で取りにいけよ」

 

「なんで綾と俺とで態度に差があるんだよっ……!」

 

 氷室に冷たく突き放された海斗はプルプルと拳を震わせた。

 氷室の言う通り、海斗の怪我はすでに完治している。怪我の度合いが俺よりまだマシだったし。降りていないのは、

 

「綾が完治した時に同時に降りれば問題ないだろ?」

 

 と言って無理やり居座ったのである。まあ俺も友人がいる方が助かると言って許してもらったのだ。

 

「差なんて当然じゃないか。療養中の実力者と元気いっぱいのドベとでは」

 

「ぬぐぐぐぐ……ッ!」

 

「抑えろ海斗。それと氷室、海斗は基本は確かにドベだが、スポーツに限っては俺以上だぞ。スポーツ以外はドベだが」

 

「お前はどっちの味方なんだよ!!」

 

「よくキレるなぁ海斗は」

 

 新たに人が入ってきた。ボサボサで赤く染めた髪を生やした少年、滝川由樹(十二)だ。カレーライスを二つ乗せたトレーを持っている。

 

「ほら、海斗。カレー持ってきてやったぜ。食いなよ」

 

「おお! ……いや待て。由樹、お前、このカレーに手加えてないよな?」

 

 海斗は由樹が差し出したカレーライスに喜んだがすぐに警戒し出し、差し出した本人にそう訊いた。

 

「何言ってんだよ。食い物や料理した人に失礼なことはしてないって」

 

「……そう、だよな。うん、そうだよな! 悪い由樹、疑いすぎてた。じゃ、いただきまーす!」

 

 海斗は疑っていた海斗に謝って、それからカレーを食べ始める。

 が。

 

「かれえええええっ!!」

 

 海斗大絶叫。カレーを除けてからのた打ち回った。

 それを見て由樹は大笑い。

 

「ギャハハハハッ!! 管理局名物『激辛カレーライス』の辛さSSSランク、本物なんだな!!」

 

 ……見ての通り、由樹は悪戯好きなのである。特に海斗はあっさり引っかかってはそのリアクションが面白いのだそうだ。以前くれと言われた。当然断った。

 

(というか海斗も引っかかりすぎだろ……)

 

 警戒してもあっさり引っかかってるし。ラーメンをズルズルと啜りながら未だにのた打ち回る友人を見てそう思った。

 

「あら、まーた由樹の悪戯? 彼も大変よねぇ」

 

 いつの間にかもう一人やってきていた。相川(あいかわ)マリア(年齢は教えてくれなかった。多分十三か四)である。名前から察することができるだろうが、日本人と外人のハーフ。髪の色が染めたようなくすんだ金髪なのが悩みらしい。

 現在アースラにいる転生者の中では唯一の女性である。由衣? あいつは地球だ。

 彼女は由樹と連合を組む前はコンビで『エレガンス』のリーダーであったそうだ。そんな彼女が由樹にリーダーを譲っているのは、彼に相応の実力があるからであろう。

 ちなみに『連合軍』の残るメンバー二人は田鴫(たしぎ)城崎(しろさき)というのだが、二人ともここにはいない。

 

「ほら、あなたが頼んでた魔法の術式資料、持ってきてあげたわよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 マリアが差し出した本を受け取る。そしてその本を片っ端から読み始める。

 マリアが言った通りこの本は魔法の術式を記した資料本だ。ずらりとその計算式とミッド語の解説が書かれているが、難しすぎる訳ではない。

 実は療養している間、俺達転生者は暇潰しとしてクロノから魔法を教えてもらっていた。簡易検査で魔法を使える資質を確認されてから、量産型のストレージの杖をもらい、クロノから教授してもらったりこうして自分で勉強したりしている。ミッド語についてもクロノやエイミィなどから教えてもらった。

 なのでミッド語はわかるし術式も理解できる。海斗とか一部はまだわからないようだが、そこは理解の速さの違いというものだろう。

 マリアは他に持ってきた本を近くの机に置いといた。そこにはすでに何冊も本が積まれている。全て魔法関係の資料本だ。

 

 パタン……。

 

 部屋の隅で、本を閉じる音が聞こえた。

 音を立てた主は立ち上がると、静かに本が積まれた机へと向かっていく。

 少年だった。俺達よりも確実に幼い。多分なのはと同じ九歳か、このゲームの中では最年少となる八歳。

 日に焼けたのか地肌なのか、褐色の肌で、髪の毛も焼けたような茶髪。

 

「……………」

 

 彼は持っていた本を机に置き、新たに積まれた本を一冊手に取る。

 そして部屋の隅に戻ると、床の上に座って本を読み始めた。

 ……彼は、(さい)というらしい。

 苗字は知らない。彼は名前も含め、必要以上に語ろうとしない。

 彼は、アースラに来た転生者の中では唯一のソロだ。デバイスを保有し、そして現時点でおそらく唯一、ジュエルシードを三つ(・・)入手を承認されている人物だ。

 なぜ、三つ入手したとわかるのか。簡単だ。彼は三つジュエルシードを出したからだ。

 俺達を含め、他のチームは一つが限界だったのにも関わらず、彼はソロで三つ手に入れている。実力を持っているということは、目に見えて明らかであった。

 当然氷室や、すでに四人埋まっている由樹も勧誘に乗り出した。しかし、才は何に対しても沈黙を貫くため、どうしようもなかった。

 

「やっぱ、お前も気になるか? あいつのこと」

 

「……………」

 

 氷室の問いには反応せず、じっと本を読む才を見つめる。

 

(ただ気になるのは……あいつが時折俺達を観察するようにこっちを見てくることだ……)

 

 それに気づいているのは、この中に何人いるだろうか。

 本当に極稀に、一瞬だけなのだから、気づくことは難しい。俺も、気づいたことは本当に偶然だった……。

 

(……よし)

 

 訊いてみよう。身体も随分治ったし、話しかけるなら今だ。

 

「……なあ、才」

 

「……………。……何?」

 

 反応した。本から顔を上げて、こちらを見て。

 それだけのことでこの場にいるほとんどが驚きの声を上げた。今まで、反応なんてしなかったのだから。

 

「……いくらか、俺の質問に答えてくれないか?」

 

「……いいよ」

 

 ざわめきが生じる。俺も驚いた。今まで反応しなかった彼が急に素直な対応をすることに、不信感を覚えずにはいられなかった。

 

『……おい、おい朝霧!』

 

 グラサンの男――末崎が念話で声をかけてきた。念話なのに、声量を抑えている。

 

『何でかは知らんがやっと反応したんだ! ここは慎重に、まずは名前から――』

 

 末崎の言葉は、それ以上聞く気にはならなかった。元より、話す内容の確認ばかりをしていて、話は半分以上聞いていなかったが。

 それでも俺が最初に尋ねた内容は末崎の考えの正反対であるというのは、確かだった。

 

 

 

 

 

 ――どうして、アースラにやってきた?

 

 

 

 

 

「……………」

 

 返ってきたのは、沈黙だった。

 俺は、言葉を続ける。

 

「お前がここに来る目的がわからない。俺や海斗のように怪我を治すためや、氷室達のようにただ見物客として来た訳でもない。指令は目標個数の入手は達成しているみたいだから、これ以上危険に巻き込まれる理由はないはずだろ?」

 

「こ、コラ! 朝霧! 話には手順ってもんが――」

 

「まあまあまあ!」

 

 怒り出す末崎だが、それは氷室によって取り押さえられた。

 

「な、何すん――」

 

 抵抗する末崎を押さえつけ、氷室は声を潜めて悟す。

 

「落ち着きなって。ボンクラな交渉術は効かないって考えたんだろ。それに、どうやらあの才って子供は元から綾と話をするつもりだったみたいなんだ。だまって見ようぜ」

 

「……………」

 

 才は静かに、本を閉じた。

 ややあって、小さく呟くように答えた。

 

「……人を、探してた」

 

「……人? このゲームに巻き込まれた友達か?」

 

「いや……違う」

 

 本をそばに置き、才は立ち上がった。静かに、俺の元へと近寄る。

 

「……一つ、勝負しないか?」

 

「勝負?」

 

「ルールは君に任せる。君が決めたゲームで、一つ勝負したいんだ」

 

「……それに……勝たなきゃ聞けないのか?」

 

「勝負さえしてくれればいい……勝っても負けても話すよ……勝負中に話してもいい……」

 

「俺が負けた場合には……?」

 

「何もないよ……僕はただ勝負がしたいだけ……」

 

 意図が読めない……何をしたいんだ……?

 ……だが、リスクもなくこいつを知れるなら……!

 

「……わかった。じゃあ、勝負しようぜ。……海斗、頼んどいた新品二つくれ」

 

「二つ? お、おう」

 

 海斗から投げられた二つの箱。その二つを右手に納め、うち一つを才へと投げる。才は難なくキャッチ。

 キャッチしたものを見て、才はその正体を確認する。

 

「トランプ……」

 

 そう、トランプ。管理世界にも存在するらしい、ギャンブルでは定番のカード。

 

「ゲームやルールは俺が決めていいんだよな? ならこいつでやろうぜ。……変則式ギャンブル、『五十四の二倍ポーカー』で……!」

 

 口角を吊り上げ、俺は才に挑戦状を叩きつけた。

 




 たくさんキャラが増えました。使うのはせいぜいリーダーもしくはリーダー経験あり(つまりマリア)の人達のみかと。多すぎても困るし。
 それと……やっと、ずっと書きたかったギャンブル頭脳戦が書けます。VSフェイト&アルフもある意味ギャンブルですが……。
 ギャンブルバトル……この作品で何回できるか謎ですが、何度かは書きます。もう一度書きますけど、バトルもある意味ギャンブルです。

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