Magic game   作:暁楓

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 話が飛びやすいのは、主要視点が綾や転生者ばかりだから。
 なのは達の描写がよくカットされるMagic game、無印編も終盤戦。第十四話をどうぞ。


第十四話

 結果を先に言おう。

 フェイトが三つ、アルフが一つ、つまり計四つかっさらって逃げていかれた。

 詳しく言うなら、封印直後フェイトはなのはの提案に乗っ取って三つ取っていったのだが、アルフがなのはの取り分も横取り。だが一つ取ったところでこれ以上はクロノらの妨害がかかると読んだのか、残り二つは諦めて逃走していった。

 結果としてなのはの取り分は二つ。しかし転生者(おれたち)の分六つに加えてなのは自身も原作でも出ていた火の鳥のジュエルシードを回収したりして合計十二個。原作と同じになった。ある意味すげぇ。

 ちなみに封印直後にフェイトが動いたということがあったということでなのはとフェイトの会話、及びプレシアの次元跳躍攻撃は丸々カットされる形に。プレシアの方は狙ってやったことだが、二人の会話がカットされてしまったことについては原因である俺も悪かったと思ってる。後悔はしてないが。

 

 で、現在。三人が戻ってきて場所は会議室。

 会議室にいるのは俺になのは、ユーノ、クロノ、そしてリンディさん。俺がいるのは今回の指示の責任者としてリンディさんに連れてこられたから。さすがに他の転生者達は別の場所で待機させている。

 

「すみません……逃げられた上に、ジュエルシード六つのうち四つを相手に奪われました」

 

「ええ。でも、全員が無事で何よりだわ」

 

 クロノの報告にリンディさんは柔らかく返す。だが俺はその言葉に安心できない。

 なぜなら……

 

『さて、逃げられた上にジュエルシードを奪われたけど、何か弁明はあるかしら?』

 

 ……目の前の会話と平行してリンディさんが俺におっかない念話を送ってくるからである。

 

『確かに相手の速さを見誤ったのは俺の落ち度です。しかし、俺は確保するには『有利』だとは言いましたが、『絶対に』確保できると言った覚えはありませんよ』

 

『……屁理屈は度を過ぎると愛想を尽かされるわよ。注意した方がいいわね』

 

『おお、愛想尽かされるなんて怖い怖い。注意しておきますよ』

 

 なお、この会話の間にも目の前の話はどんどん進んでいて、気づいた時にはクロノがプレシアについて説明していた。

 リンディさんは二つを確実に両立させてるんだろうなぁ……一体どういう風にやってるんだろう。今度コツを教えてもらおうかな。

 その後の話で、なのはは一旦帰宅することになった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 翌日。

 なのはは一時帰宅だが、俺はアースラにいた。具体的にはいつもの通り医務室。

 

「ところで、腕の方はもう大丈夫なの? あと肋骨」

 

「肋骨、ついでなんですね。……まあすでに繋がってはいますし、あとはリハビリって感じなんですかね」

 

 言っての通り、左腕はすでに繋がってはいる。ただ負担をかけられる状態ではないため、まだ療養中である。

 

「そう……ところで、由衣さんと竹太刀さん、でしたっけ。二人の様子を見に行かなくて大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫でしょう。竹太刀がしっかり者なので……というか、気になるんだったらアースラに搭乗させればよかったんじゃないですか。確認する必要がなくなるし、俺達の生活費が丸々浮くしで一石二鳥です」

 

「さらっとそっちの欲を言ったわね……まさか怪我をしたのは、それも考えて?」

 

「狙って怪我をするほどMじゃないです。しかしタダで朝昼晩三食は本当においしいですありがとうございました」

 

「……一応言っておくけど、あれは税金で賄われているんだけど」

 

 やれやれと頭を抱えるここの艦長。お疲れさんです。原因俺。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「ん、電話?」

 

 相手は……竹太刀?

 

「……もしもし?」

 

『あー、綾、聞こえるかー?』

 

「どうした? 和也が戻ってきたとか?」

 

『あー、それといい勝負かもなー。……由衣ちゃんがアルフ発見してもーた。アリサちゃんより先に』

 

「ブッ」

 

 まさかそうなるとは。

 別に計画に支障はないと思うが、ちょっと驚いた。

 

『今家に連れて手当てしとるけど、どないする?』

 

「他にやってることは?」

 

『ああ、由衣ちゃんがなのはちゃん呼んだ。もうすぐ来ると思うで』

 

「なるほどね……ちょっと待ってろ。リンディさんに指示を仰ぐ。……リンディさん」

 

「どうしたの?」

 

「アルフが保護されたらしいです。怪我をしているらしく、現在竹太刀と由衣が家で手当てをしているとのことです」

 

「あら……わかったわ。事情聴取にクロノを向かわせましょう。家への案内は……」

 

「海斗が。俺が行くと、会った瞬間私怨で殴られそうです」

 

 話が纏まったところで、再び携帯に耳を当てる。

 

「……ということだ」

 

『わからへんわ。説明して』

 

「こっちの人が今から行くから、逃げられんようにしとけってことだ。包帯でもきつめに縛っとけ」

 

『いや、逃げる気配ないねんけど』

 

「いいから。そういうことだからな? じゃ、切るぞ」

 

『ん、ほんならな〜』

 

 ピッ。

 

「……という訳で」

 

「ええ。それじゃ、私は二人を呼びに行くわね」

 

 言って、リンディさんは医務室から出て行った。

 

「……いよいよかな?」

 

 そう言って部屋の隅で立ち上がったのは、才である。話に入って来てなかっただけで最初っからいた。

 

「……ああ、明日が正念場だな……」

 

 プランは……もう完成している。リンディさんに怒られるだけではほぼ確実に済むことはないだろうが。

 ……だが、そのプランのために欲しい人物が、一人いる。

 

「……才」

 

 俺はその人物……才に、声をかけた。

 

「何……?」

 

「……明日、これから言うプランに手を貸してくれないか……?」

 

「いいよ」

 

 彼の返事は早かった。まるで、前から来ることがわかっていたかのように。

 

「手伝いなら、喜んで」

 

 

 

   ◇

 

 

 

 さらにその翌日。

 

 普段は転生者達の話し声で騒がしいか、本のページを捲る音しか聞こえないほど静かかの両極である医務室。そこには今、魔法陣の展開音とぶつぶつと呪文を呟く二人の声が聞こえる。

 

「……〜……〜〜」

 

 小さく魔法の呪文を唱えているのは、量産の長杖型のデバイスを持った綾と海斗だった。灰色の魔力光を発する綾と、赤い魔力光を出す海斗。そして二人の前には、才の姿もあった。

 先に綾の詠唱が終わり、彼に変化が起きる。

 綾の身体が光に包まれ、その光から解放されると綾の背が若干高くなり、身に纏っているものが管理局武装隊のバリアジャケットになった。

 遅れて、海斗もやっと詠唱が済み、綾と全く同じ姿になる。

 二人が唱えていたのは変身魔法。それによって武装隊員に化けたのである。

 

「……じゃあ、才。俺達は行くよ」

 

「……うん。こっちの方は任せて」

 

 互いに頷き合って、それから綾と海斗は医務室を飛び出し、駆け足で去っていった。

 

「……………」

 

 才も、医務室から出て歩き出した。

 目指すは、直になのはやフェイトが来る場所……ブリッジであった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 武装隊員に変装し時の庭園に潜り込んだ俺達は、そのまま武装隊の最後尾をついていた。

 

『なあ、綾』

 

『なんだ? できれば黙って後ろをついて行くようにしたいんだけど』

 

『ごめん。でも、どうすんだ? このままプレシアの元に行っても、電撃食らってアースラに連れ戻されるぜ?』

 

『対策は考えてあるさ……俺がうまくやるから、お前はやられるフリしてよけるか防御しろ』

 

『わかった』

 

 そうして話し合っているうちに、プレシアがいる部屋の扉の前に辿り着いた。

 先頭を行く隊員が開け、次々と中へ。俺と海斗も部屋の中へと入る。

 

『海斗、うまく隊員の中に入り込め』

 

『うぃーっす』

 

 海斗に指示を出し、俺も隊員の列の中へ。

 先頭の隊員が隠し通路を発見し、俺達も続いて中へと入る。

 その先にあるのは、フェイトに瓜二つの少女、アリシアの遺体……それが入った培養槽。

 

『綾……』

 

『……海斗、来るぞ。構えろ』

 

 海斗に警告し、俺もいつでも動けるように構えておく。

 直後、プレシアがアリシアを守るように、隊員達に立ちはだかるように転移されてきた。

 

「私のアリシアに触らないでっ!!」

 

 ヒステリック気味に怒鳴るプレシアが魔力弾を放つ。

 プレシアの出現とほぼ同時に動いていた俺は、呆気にとられていた隊員を引き倒し、防御魔法で防ぐ。

 

「ぐっ……!!」

 

 ガァンッ! と鈍い音。翳した左腕にじわりと伝わる強い衝撃。削られる魔力。

 引き倒された隊員他、ようやく状況に追いついた隊員達が杖を手に一斉に魔法射撃を行う。

 その間に俺は少し後退。海斗が寄ってくる。

 

『綾! 無茶すんな!』

 

『大丈夫だ……それより防御魔法を準備しろ。来るぞ!』

 

 念話で返事をしつつ、魔法陣を展開。一つはデバイスを介して発動待機させ、もう一つの発動を急ぐ。間に合うか……!?

 

「うるさいわね……」

 

「……っ! エリアプロテクション! 間に合えっ……!」

 

 プレシアが魔法陣を展開。俺は全体防御の魔法を発動する。

 エリアプロテクションは、特定範囲に防御加護を与える魔法。ただ、加護であって完全に防御ができる訳ではなく、俺の魔力の少なさも相まって気休め程度にしか効力は発揮しないが、少しでも全員の怪我を抑えられれば……。

 プレシアの魔法発動により、雷が落ちてきた。エリアプロテクションは間に合ったが紫の雷はそんなものなどなかったかのように容赦なく俺達に降り注ぐ。

 

「ぐああああぁぁぁっ!!!」

 

「ぐあぁっ!! ぐっ……!」

 

 前方の隊員達の悲鳴が響く。

 気を抜いたらすぐに意識が飛びそうだ。辛うじて意識を保っていられているのは俺の防御加護だけでなく、海斗が防御魔法で防いでいるからだ。

 雷の奔流の中、魔法発動待機中のデバイスを握り締める。

 

「ミラージュハイド……発動っ……!」

 

 デバイスに発動待機させていた魔法を発動し、俺と海斗の姿が消えた。

 雷がやみ、見えなくなった姿で海斗を連れて急いで玉座の間まで後退する。隊員達はすぐに転移されていった。

 

『おい綾、大丈夫か!?』

 

『大丈夫だ……って言いたいけど、なかなかつらいな……意識が刈り取られずに済んだのが幸いだよ……』

 

 しゃがみ込み、入り口の陰からこっそりと様子を伺う。ミラージュハイドで姿が見えないとは言え、堂々と身を乗り出す気はなかった。

 通路は暗いためほとんど見えない。だが、プレシアの話し声はなんとか聞こえる。アースラと通信中なのだろう。

 

『綾、これからどうするんだ?』

 

『ちょっと小休止……いや、すぐに行こう。プレシアは時の庭園の最深部に直接転移する。なら、傀儡兵が出てくるより早く少しでもプレシアの元へ急ぐべきだ』

 

『……訊いた俺が言うのも何だけどよ、無理すんじゃねえぞ?』

 

『わかってるっ』

 

 勢いをつけて立ち上がる。電撃の影響が残っているのか若干ふらついたが、なんとか踏ん張りをきかせる。

 

『……行くぞ!』

 

『おう!』

 

 俺達は走り出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 時の庭園への突入前、なのはは才に呼ばれた。

 今日まで彼と話したことはほとんどない。自己紹介をしあって、ほぼそれきりだった。そんな彼が念話で話がしたいと言ってきたのだ。それで今、才と二人で個室にいる。

 

「えと……才くん、話って何かな。できれば急がないと……」

 

「……ごめん、なのは。長くするつもりはないから……今、ジュエルシードはどうしてる?」

 

「え? ジュエルシードは……今レイジングハートの中だけど」

 

「そっか……じゃあ、時の庭園に行っている間、ジュエルシードをこっちに預けてくれないか?」

 

「へ?」

 

 どうして? そう尋ねる前に、才の方から答えがやってきた。

 

「決戦の後にプレシアから攻撃が来たということは、プレシアはなのはとフェイトの戦いを監視していたことになって、当然、君がジュエルシードを持っていることも確認しているはず……君が時の庭園にやってきたら、プレシアはジュエルシードを手に入れるために君を狙う可能性がある……今から狙われないようにするのは難しいけど、ジュエルシードを別のデバイスに移して、奪われることがないようにはするべきだと思う……」

 

「あ、そっか」

 

 大体話の内容は掴めた。

 早い話、ジュエルシードを奪われないようにしたいということのようだ。確かにその通りだ。奪われてプレシアに利用されたら、さらに大変なことになりかねない。

 今アースラの人達はプレシアへの対応に忙しい。だから一旦才が預かり、落ち着いたところでアースラの方へと受け渡すつもりなのだろう。才がデバイス持ちであることは、彼がジュエルシードを受け渡すところで確認している。

 

「うん、わかったよ。才くんに預けるね」

 

「……うん」

 

 才は待機状態のデバイスを取り出した。真っ白なクリスタル状だった。

 なのははそれに待機状態のレイジングハートを重ねた。チカチカとデバイス同士が光り、やがてその光がやんだ。

 

《転送完了しました》

 

「……じゃあ、気をつけて……」

 

「うん! ありがとね、才くん!」

 

 なのはは話で遅れた分を取り戻すためか、駆け足で部屋を退室、転送ポートの方へと走っていった。

 ……なのはが急いでいたからか、見送る才の呟きがとても小さかったからか、それとも、両方か。

 

「……ごめんね」

 

 なのはの耳に、その呟きが聞こえることはなかった。

 才は小さくそう呟いた後、魔法陣を展開し、姿を消した。

 誰も見えなくなった通路に、走る音だけが鳴った。


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