Magic game   作:暁楓

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第十五話

 ミラージュハイドで姿を隠していたためか、傀儡兵に見つかることなく進んでいき、最深部の入り口まで辿り着いた。

 入り口から顔を覗かせると、プレシアとアリシアの存在が確認できる。

 なお、今は周囲に傀儡兵の気配はないし、プレシアにも見つからないように隠れているため魔力を消費しないようミラージュハイドは解除している。

 

「……で、どうするんだ? 俺達でプレシアを止めるのか?」

 

「それができたらどれだけ苦労しないことか……ちょっと待ってろ」

 

『管理局員、聞こえますか? 応答願います』

 

 意識を集中し、すでに時の庭園に突入しているであろう管理局員の誰かに念話を送る。プレシアに聞かれたらまずいため、範囲には気をつける。

 

『聞こえますか? 応答願います』

 

『こちら時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン』

 

 ……こいつに当たったのか。

 まあ、いいのか。原作通りになるし。

 

『クロノ、お前か』

 

『その声……綾か!? 見ないと思ったら、なんで時の庭園内にいる!?』

 

『そこについてツッコむのは後にしてくれ。現在俺と海斗はプレシアの後をつけている。随分下まで降りた……最下層まで来たんじゃないかと思う。プレシアの他に、アリシアの遺体が入ったカプセルとジュエルシード九つを確認。後、つけている途中でエレベーターらしきものを確認。周辺に多数の傀儡兵がいることから、何か重要施設に繋がってると見た』

 

『……情報提供には感謝するが、勝手な行動をしたことには変わりない。アースラに帰還後、相応の罰は覚悟しておけよ』

 

『情報提供と、武装隊員へのフォローを減刑材料にしてくれ』

 

『……艦長にはそう伝えておく。いいか、プレシア女史に気づかれることのないようにな』

 

『善処はしてるよ。じゃ、できるだけ早く来てくれ』

 

 念話を閉じ、溜め息をつく。

 後は、必要な人が来るまで待ちか。

 早く来ないかな……範囲には気をつけたとはいえ、聞かれた可能性もゼロとは……っ!?

 

「海斗、伏せろ!」

 

「へ? うおおおおっ!?」

 

 俺達の背中を預かっていた壁が吹き飛んだ。

 壁が崩落するより先に走り、壁から退避。入り口をくぐる。

 ……あ。

 

「羽虫が紛れ込んでいたわね」

 

「やべ……」

 

 いきなりバレてしまった。杖がこちらに向けられている。これなら、ミラージュハイド解かずに継続させた方が良かったか。

 自分の迂闊さに溜め息を吐き、自分の杖を構える。杖、というよりは構えは棒術だが。

 海斗も、俺に倣って杖を構えた。

 

「いいか、あくまで時間稼ぎだ。保身以上のことを追求するなよ」

 

「へっ、了解っ」

 

「――散るぞ!」

 

 左右に分かれる。直後、俺達がいた場所に雷が落ちた。

 走りながら、魔力弾を精製。しかし時間稼ぎという目的の上、何より残り魔力の少なさから弾殻のみの威力のないものを、二発。

 

「シュートッ!」

 

「フン……」

 

 発射した形だけの魔力弾を、プレシアはそんなこともつゆ知らずにシールドを張って防ぐ。

 プレシアは撃ち込まれた魔力弾の軽さに気がついたか、訝しげな表情を一瞬したが、その一瞬だけで気にした様子はなかった。

 

(まあ、そういうもんだろうな。プレシアのような大魔導師にとって見れば、こいつもさっきの局員の射撃も同じようなもんだろ)

 

 プレシアからすれば、局員達での一斉射撃も、俺のカス弾に等しく弱い、ということだ。加えて病魔に侵され、気が立っている状態……気にしようとする気もなくなっているはずだ。だからこそ、このカス弾が使える。

 防御魔法を発動するということは相手の攻撃への対応に集中するため、他の行動を取っていられなくなる。言ってみれば、その分時間を稼げる。頻繁に撃っていたら感づかれ、防ぐことすらやめられてしまうかもしれないが、時間をある程度置きながら、あと偶に本物を混ぜながら撃てば、時間稼ぎをよりやっていけるはず。

 

「っと!」

 

 走っているところから急停止し、走る方向を転換。プレシアがコースを読んで落とした雷を回避する。

 海斗は俺以上に少ない魔力を先の防御で使ってしまい、その上射撃技能がとても低い。防御も牽制もできない以上、俺が引き受けるしかない。

 プレシアも走るだけの海斗より俺が厄介と思ったのか、俺に攻撃を集中させる。

 かわし、撃ち、防ぎ、掠め、撃ち、弾き、流し、反撃。

 緊急停止や急な方向転換、緊急時限定の防御魔法など、あらゆる方法でプレシアの猛攻を凌ぎ、注意を引きつける。

 魔力は、反撃の分はまだ良かった。本物の魔力弾を混ぜても、そこまで大きく消費するものではない。

 しかし、防御での削られ方が半端じゃなかった。防いだ回数はせいぜい二回程だったというのに、それで魔力がほとんど底をついてしまった。

 

「はっ、はっ……うぁっ!?」

 

 走りながらもプレシアの攻撃に意識を割きすぎたせいか、つい足元が疎かになって転んでしまった。

 プレシアはその隙を見逃すまいと、地面に倒れた俺杖を向ける。

 

「もらったわ」

 

「動くなっ!」

 

 ありったけの声での叫びに、プレシアは一瞬動きを止めた。

 その一瞬を逃さず、言葉を紡ぐ。

 

「今魔法陣を展開してみろ。お前の後ろにあるものがどうなってもいいって言うならな」

 

「後ろ……っ!!」

 

 プレシアがはっとして振り向くがもう遅い。

 プレシアの後ろにあるもの――アリシアのカプセルに、海斗は杖を突きつけていた。海斗は魔法陣を展開し、杖の先端には魔力が集束している。

 

「あんたが下手な行動をとるなら、海斗の砲撃でそのカプセルと中身を吹っ飛ばすぜ」

 

 言っておくが、海斗にそんな大火力砲撃は撃てない。少なくとも、現状では。

 海斗に指示をして用意させた、形だけ、見た目だけの砲撃である。勿論威力なんて欠片もない。そもそも、次元震に耐えられるように補強なりカプセルを強化ガラスのものに変えるなりしているだろうから、並みの砲撃でもガラスを砕けるのか微妙なところ。

 だがそれは関係なく、アリシアに砲撃を向けられたということでプレシアの表情が怒りに染まる。

 

「貴様っ……!」

 

「だから動くなって。……計画の成功率を上げたいなら、俺の指示を聞いてくれ」

 

「……?」

 

 小声で言った内容に疑問を抱いたのか、プレシアの動きが止まった。

 クロノは……まだ来ないようだが、念のため話が聞かれないように念話で話しかける。

 

『実は今あんたの手元にある以外のジュエルシードを持った奴がこっちに来る手筈になっている』

 

『あの白い魔導師が……?』

 

『いや、俺の協力者だ。なのはからちょいと拝借したそれを持ってくる。それで二十一個全て揃う』

 

『あなた、何が目的なの?』

 

『アルハザードへの切符、俺達にも買わせてくれよ』

 

『……………』

 

 笑ってみせると、プレシアからは何も言わなくなった。

 ややあって、念話が入ってきた。

 

『……それで、何をすればいいの?』

 

 ……よし。

 けどどうすれば、か……元々プレシアが勝手に落ちるところに介入して、その場で二十一個揃えるつもりだったからな……クロノも直に来ちまうし……そうだ。

 

『海斗、作戦変更だ。魔法陣しまえ』

 

『え? おう』

 

 海斗が魔法陣を消したところで、俺はプレシアに念話を送る。

 

『海斗に砲撃準備をやめさせた。俺と海斗をバインドで縛って人質にしておいてくれ、もうすぐクロノ……管理局の執務官も来ちまう』

 

『そういえばあなた、誰かに念話繋げてたみたいだったわね……まあいいわ』

 

 プレシアは指示通り俺と海斗にバインドをかける。ちなみに俺はカプセルから少々離れていたため、近くに寄ってからバインドをかけられた。

 俺はこの状況を利用し、人質になってプレシアと一緒に落ちることにした。

 プレシアが俺の頼みを聞いたのは、プレシア自身身体の限界がわかっているからだろう。同じアルハザードへ行こうとするなら、自分の目的を俺達に手伝わせればいいと考えたのだろう。うまくいった。

 

 暫し待っていると、クロノが天井をぶち破ってここに辿り着いた。

 

「プレシア・テスタロッサ! あなたの身柄を拘束する!」

 

『あなたを人質にするけど、いいわね?』

 

『人質にしろと言ったからな』

 

『その通りね』

 

 プレシアは俺に杖を突きつける。

 

「動かないで。それ以上近づくなら、この二人の命はないわ」

 

「なっ……、綾、海斗!」

 

「……すまんクロノ。あの後すぐバレて捕まっちまった」

 

「くっ……!」

 

 クロノが苦い顔をする。

 ……近い内にフェイトも来るだろうな。フェイトが来る前には才が来て、準備完了になってほしいものだが。とにかく、フェイトとプレシアの話が終わるより前には来てほしい。

 早く来ないものかと思っていると、プレシアが突然咳き込んだ。押さえた手の隙間から、血が零れ落ちる。

 

『プレシア!』

 

『私のことはどうでもいいわ……それより、ジュエルシードはまだなの……?』

 

『それは……』

 

 思わず言い淀むが、そこに待ちに待った念話がかけられた。

 

『綾』

 

『! 才か!?』

 

『うん。通路が崩れててどうしようかと考えてたところで別の場所でクロノが天井を破ったから……それでなんとか辿り着いた。……今、ミラージュハイドで姿を隠してる』

 

 ……よし、準備は完了か。後は、うまく俺達が虚数空間へと落ちれば。

 

「母さん!」

 

 フェイトとアルフがやってきた。……物語も、終盤だ。

 プレシアが鬱陶しそうにフェイトを見る。

 

「……今更、何をしにきたの? 消えなさい。もう貴女に用はないわ」

 

「……貴女に、言いたい事があって来ました。私はアリシア・テスタロッサではありません。貴女が作った只の人形かもしれません。……だけど私は、フェイト・テスタロッサは貴女に育ててもらった貴女の娘です」

 

「だから、何? 今さら貴女を娘と思えと言うの?」

 

「貴女が、それを望むなら。それを望むなら……私は世界中の誰からもどんな出来事からも貴女を守る。私は貴女の娘だからじゃない。貴女が私の母さんだから」

 

「くだらないわ」

 

 プレシアはその一言でフェイトを一蹴した。

 そしてプレシアは俺に念話をかけてきた。

 

『ジュエルシードは? いつまで待たせるつもりなの?』

 

『さっき来たさ。準備はできてる。あんたのタイミングで、俺達を落としてくれ』

 

『わかったわ。やっと……この陰鬱な時間から解放されるのね』

 

 計画の発動ができると知るや否や、プレシアは魔法陣を展開。床が揺れ始める。

 クロノが焦りだした。

 

「! 待て、プレシア! 関係のない人を巻き込むな!!」

 

「知ったことじゃないわ! 私は向かう……アルハザードへ! そして、全てを取り戻す! 過去も、未来も、そして……たった一つの幸福も……!!」

 

 遂に床が崩壊し、俺達は虚数空間へと身を投げ出された。

 

「綾ーっ!! 海斗ーっ!!」

 

「母さんっ!!」

 

「くっ……!」

 

 バインドにかけられたまま、重力に従って落ちていく。

 途中でバインドから解放されようとも、俺も海斗も飛行魔法は使えないし、そもそもバインドが解けた時には虚数空間の影響下。結局使えない。

 だがまだバインドされているということはまだ、魔法は使える。少なくとも、念じれば通る。

 

『才、来いっ!!』

 

 念じて間もなく、バインドが消え失せた。

 バインドの消滅とほぼ同時に、ミラージュハイドの恩恵が取り払われた才が姿を現す。

 デバイスからジュエルシード十二個を排出し、プレシアが持つ九個と合わせて二十一個揃える。

 

「ジュエルシード……シリアルⅠからシリアルⅩⅩⅠまで全て確認……起動……」

 

 ジュエルシードは、願いを歪めて叶える宝石の種。

 しかし今は問題なくいけるということは、神頼みにしてもほとんど確信はあった。

 

(さあ起きろジュエルシード。俺達のために……アルハザードへの道を作り出せ!!)

 

 二十一個の光に、俺達全員が包まれた。




 いよいよクライマックス。無印最後の大勝負が始まります。
 綾の運命は。プレシアの悲願は。次回をお楽しみください。

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