Magic game   作:暁楓

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第十六話

 気がつくと、辺りは真っ黒だった。

 俺はその真っ黒な空間に立っていた。黒くても暗闇という訳ではなく、自分の姿ははっきりと見える。そしてすぐそばに同じくはっきりと海斗と才の姿もあった。

 プレシアとアリシアの姿は、ない。ついでにジュエルシードも一つ残らず消え失せている。

 ……予想通りだ。

 

「……えっと……どうなってるんだ? これ……」

 

「……………」

 

 海斗はこの異質な空間にオロオロしている。対して才は落ち着き払った様子だ。やはり予想通りらしい。

 

「……海斗、落ち着いて聞いてくれ」

 

「お、おう?」

 

「これからもうすぐ、神から緊急指令が来る。成功条件は恐らくプレシア、アリシア、ジュエルシードを回収した上での迷路からの脱出といった感じだ」

 

 懐から携帯を取り出し、メールボックスを開く。

 

「そもそも俺は最初から、ジュエルシードを二十一個どころか三つもの数を十二時間も持ち続けることはできないって考えてた。ジュエルシードを求める奴が多すぎるし、フェイトや時空管理局のように俺達じゃ勝ち目もない相手だっている。実質的にその方法は使えない」

 

 だから、と言葉を繋ぎ、俺は海斗に携帯を見せる。

 それは、今回の指令のルールだった。

 

「これに書かれてある『緊急指令等で管理者から入手承認を得た場合』……実質的に、俺達はこれでジュエルシードを入手した扱いにする、もしくはそれ相応のスターチップを手に入れる他はなかったんだ」

 

「それで……どうしてこの空間で、お前がそんな指令の予想になったんだ?」

 

「神は俺達の様子を窺いながら、リアルタイムで緊急指令を作り上げている。俺はそれを逆利用して、緊急指令になるような状況を作り出したんだ。ジュエルシードを二十一個集め、アルハザードへの道を作れと願う。そうすると奴は緊急指令になるような道を作り、道にジュエルシードをばらまき、プレシアとアリシアを同様に置いておく。そしてここ――スタート地点に俺達を置く。これで準備は完了さ。後はメールで指令を送り、開始させるまで」

 

 すなわちここは、ジュエルシードによって作られた道ではなく、正確には神によって作られた迷宮ということになる。

 ジュエルシードが暴走しないという確信もこれによるものだった。そもそもジュエルシードの効果ではないのだから。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「……来たか」

 

 携帯を持っていた俺が、そのままメールを開く。

 

 

 

差出人:管理者

 

件名:緊急指令

 

内容:迷宮から脱出せよ。出口はアルハザードへ繋がっている。なお、迷宮内にジュエルシード、プレシア・テスタロッサ、アリシア・テスタロッサをそれぞれ配置。制限時間は二十分。

 

成功条件・報酬:制限時間内に迷宮から脱出。脱出の際に所持していたジュエルシードの個数分のスターチップを配布(プレシア、アリシアは報酬には関係ない)。

 

失敗条件・罰:制限時間内の迷宮脱出に失敗。脱出不能になる。

 

 

 

「報酬の最大が二十一個の代償に、失敗は実質即失格か。極端だな」

 

「って、呑気にしている場合か!? これもう始まってるんだよな!?」

 

「だろうな。まあ落ち着け」

 

 俺は手を前に突き出して周囲を歩いてみる。

 すると途中で手が壁のようなものに触れる。横に伸びているようだ。壁を伝いながら少し歩いてみる。

 

「こっちに道があるみたいだな……才、そっちはどうだ?」

 

 振り返って訊く。俺と全く同じことを才が向こう側でやっていた。

 

「こっちにも道があるみたい……二つに別れているようだね……」

 

「二つか……」

 

 海斗の元へ戻り、少し悩む。

 道と壁の識別が不可能な空間で人数を分けて探索というのは危険だが……制限時間ははっきりいって少ない。固まって動いたら、二つのうちのどちらかは行けず終いになる危険性が高い。それはチップの獲得数が少なくなることや、プレシアやアリシアの救出ができなくなる可能性があるだけではない。脱出に失敗する可能性にもなる。

 

「……二手に別れよう」

 

「そうだね。僕と綾で別れれば、各ルートの攻略はできそう……けど、連絡手段はどうするつもり? ここは虚数空間内だから魔法は使えないよ?」

 

「あるぜ。海斗」

 

「何のためにと思ったら、これのためだったのか……」

 

 海斗が取り出したのは、トランプとマジックペン。それぞれ二つずつ。

 

「別れ道になったら、トランプに矢印を書いて進む方向に合わせて置いてくれ。全部調べきったり、残り時間が少なくなっても出口を発見できなかったら引き返して、これを道標にもう片方と合流。スタート地点はこれを目印にするぞ」

 

 言って俺は自分のデバイスを立てかけた。

 

「わかった……じゃ、気をつけて……」

 

「ああ……あ、才。もう一つ話がある」

 

「……何?」

 

「海斗を連れていけ」

 

「え?」

 

 海斗が声を上げた。

 

「ここで魔法が使えない以上、お前が人を背負うのは無理がある。そっちのルートにプレシアもしくはアリシアがいる可能性を考えて、海斗を連れて行った方がいいと思う。……報酬には関係ないとは言え、救える命は救いたいんだ。目的のために救える命を見捨てるというのは、間違ってると思っているから」

 

「……いいの? 左腕は……」

 

「俺は大丈夫だ。左腕は治ってる」

 

「……わかった」

 

 才は小さく頷いた。

 俺は海斗に向き直る。

 

「そういうことだ。海斗、才のサポートを頼む」

 

「まあ、いいけど……綾は大丈夫か?」

 

「何度も言わせるな。左腕は治ってるさ」

 

「……無茶、すんなよ! お前は誰かのためなら真っ先に、自分を捨てる性格なんだからな!」

 

「わかってるっ」

 

 互いに拳を突き出し、互いの拳を合わせた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「これで十二個目……」

 

 地面に落ちていたジュエルシードを回収する。

 今宣言した通り、俺は十二個目のジュエルシードを回収。今の所発見したのはジュエルシードのみで、出口もプレシア、アリシアも発見できていない。

 

(そろそろ十分になるか……でも、もう一ルートは調べておくか……)

 

 迷路自体はそこまで複雑ではない。しかし、道を目視できないのが問題だった。どうしても壁づたいに慎重に移動せざるを得ず、結果としてタイムロスに繋がってしまっている。

 来た道を引き返す。頭の中で歩いてきたた道の地図を描き、それに従って道を進んでいく。やがて地面にトランプが置かれた場所に辿り着く。

 

(確か、左が元来た道で、右がまだ見てなかったよな)

 

 身をかがめ、トランプの矢印の向きを右に変更する。そして壁を伝いながらトランプの向きへと歩を進めた。

 いくらか進んでいくと、手が角を捉えた。

 

「!」

 

 曲がり角を確認し、ついでに周辺を確認する。

 ……どうやら、ここは曲がり角一つのようだ。トランプを一枚取り出して矢印を書き込み、地面に置く。

 そしてまた壁づたいに進んでいくと、その先にあるものを発見した。

 

「!」

 

 発見したのは、アリシアの遺体だった。カプセルから出され、裸体のまま横たわっている。

 裸体のままなのはさすがにまずいため、俺の上着を着せる。五歳児にはあまりにもブカブカだが、ないよりはマシだ。

 念の為にその先を調べるが、行き止まりだった。俺の記憶では、もうスタート地点からのルートは全て調べた。こっち側はこれで全てになる。

 

「才の方に出口とジュエルシード九つ、そしてプレシアか……俺の采配もなかなか良かったみたいだな……っと」

 

 アリシアを抱きかかえる。五歳児であるためとても軽い。

 残り時間は……八分かそこらか。ひょっとしたらもっと少ないかもしれない。急がないと……!

 壁が見えない空間の中、俺は走り出した。

 道は全て記憶している……歩幅を利用して距離もわかるし、曲がる箇所にはトランプを配置しているから問題はない。

 そんなに長い迷路ではなく、初めて通る時のように慎重になる必要がないため、スタート地点までは二分とかからずに辿り着いた。デバイスを回収し、そのまま走る。

 走っていくと、トランプを発見。トランプの前で一旦立ち止まる。

 

「っと……右だな……」

 

 道を確認し、また走る。

 トランプを見つける度に立ち止まり、才が書き残した支持を信じて走る。

 右へ、左へ、時にそのまま真っ直ぐ。

 推定残り時間、約四分。

 何度目かの曲がり角を曲がった時、探し求めた姿を見つけた。

 

「海斗! 才!」

 

「綾! よかったぁ……!」

 

 白い渦の両側に立つ俺の親友と追いつくべき存在。

 俺を見るや気を失ったプレシアを背負う海斗は安堵した表情を浮かべ、才も小さく笑顔を見せた。

 

「時間がないけど、報告だけはするよ。……見ての通り、プレシアと出口を見つけた。後、こっちで見つけたジュエルシード九つは、全部彼にあげようと思ってたんだけど……」

 

「俺が出口まで来れたのはこいつのおかげだからな。五個やった。いいだろ?」

 

「……ああ。それだけでは済まないくらいなんだがな」

 

「いいよ……これ以上もらったら、君達の分がなくなる……綾は?」

 

「俺はジュエルシード十二個、そして見ての通りアリシアを見つけてきた」

 

「……全部回収できたんだね……じゃあ、行こう。時間がない」

 

「……ああ!」

 

 俺達は足を揃え、出口である白い渦へ足を踏み出した。

 また再び、俺達は光に包まれた。




 迷宮攻略。アルハザードへ向かいます。
 まず一言。すいません。全話の後書きで大層なこと言っておきながらこんなショボさです。ええ。
 内容もあっさりです。でも、壁が見えないだけの迷路だからしょうがないと言いたいです。
 あっさりしちゃってますけど、現実では難しいと思いますよ? もっと言えば、才がいなければ攻略は無理だったと思いますよ? 壁の輪郭が見えない迷路はかなりやばいと思います。なので投稿直前になって仕掛けを追加しようかと思って、やめました。でもあっさりしすぎてるように見えるのは、綾と才が天才だからと言い訳させていただきます。
 あと最後の推定残り時間ですが、実際にはもっと短いです。メールが届いてからすでにスタートしてましたから、残り二分ぐらいでしょう。危機一髪でした。
 次回かその次辺りで、この第一章も終わりでしょう。最後までそして次章もお付き合いしていただけたら幸いです。
 では。
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