Magic game 作:暁楓
神に言語解読能力を頼んだのが午前の一時近く。それから十時間後……すなわち、午前十一時。
医療施設から少し離れた、医療施設と引けを取らない程の大きな建物。いくつか見た部屋の作りからして、多分政府関係の施設の、ある一室。
「見つけた……!」
目の前にあるのは、筒と言うよりは柱と言うべきかもしれない巨大な装置。
天井と接面しているその装置は、内側にコンソールが存在していて一人でも転移が可能な作りになっている。
プレシアが言っていた通りの外見、そして何より、部屋の前にあったプレートには『転移ポート』という文字。
間違いなく、これが俺達が探していた、脱出に必要な装置だった。
「……あぁ」
安心感で力が抜け、その場に座り込んでしまう。
不眠不休の上、飲まず食わずで動き続けた……正直、もう限界が近かった。
「……でも、俺が動かないとっ……」
持てるだけの力を振り絞り、立ち上がる。
十二時になったらアリシアが眠る民家に集合ということになっている。今から行って、待つついでに休めば大丈夫だろう。
「とにかく、まずは戻るか……」
場所をしっかり脳に記憶させ、一時この場から立ち去る。
◇
動力となるジュエルシードを三つ入れ、装置を起動させる。
装置の中にはすでに海斗、才、海斗に背負われているアリシアが乗っている。
起動を確認した俺も、装置の中へ。
コンソールを起動。俺だけが理解できる言語に従って操作する。
「……ところで、どこへ行くの?」
「さあ……………あ、ミッドチルダの座標なんてのがあった。これにしよう。ここから抜けられれば、あとは次元通信でどうにでもなる」
「それなんだけど」
「ん?」
「次元震の影響で、しばらくは無理なんじゃない?」
「あ」
手の動きが止まる。そういや、そんなのあったっけ……?
「……海斗、時の庭園が崩壊してから次元震ってどのくらい続くんだっけ?」
「正確には余波じゃね? 確か一週間ぐらいじゃなかったかなー。そんな重要視されないとこなんて正確には覚えてないけど」
「……大丈夫だろ。ミッドに行けば、管理局に拾ってもらえるはずだ」
「そうかな……」
「そうだと信じろ」
信じるしかないんだ。
決定のコマンドを押した。
◇
なんだろう。身体が暖かい。
自分は横になってるようだ。もっと言うなら、布団に包まれているような感覚がする。
「ん……」
「あ、起きたかい?」
目を開けると、青年がこちらを覗き込んでいた。
……えっと。
「……あなたは?」
「俺の名前は、ティーダ・ランスター。管理局員だよ」
……ランスターって、ティアナの苗字だよな? 兄妹か? ティーダって人がいた気がしないでもない。
……そこまで詳しく見ていた訳じゃないからな……。
「あ、お腹空いてるよね? 何か作ってくるよ」
言ってティーダさんが立ち去る前に、素早く起き上がって彼の肩を掴んだ。
「その前に……状況説明をお願いしますっ……!」
「わ、わかった……わかったから! 手を離してくれ! 結構痛い!」
◇
必要な情報を纏めると、以下のようになるらしかった。
まず、俺達は転移装置によって無事にミッドチルダに着地することに成功したらしい。しかし、俺は転移直後に体力の限界で気を失った……というか寝た。
ティーダさんが来たのは、転移反応と共に強力な魔力反応――ジュエルシードの反応をキャッチしたからだ。現場に急行し、俺達四人を保護。ジュエルシード十八個(三個は動力源として置き去りだ)は封印処理をして本局へ、アリシアは才から事情を聞いた後に病院へ、そして寝ていた俺は、身体自体に問題はないとしてここ――ランスター家へ。
才はアリシアの元についているらしい。海斗は、ついさっき来た。
あと、アースラとの通信は昨日の次元震の余波によって今は繋がらない状態らしい。だがティーダさんによって連絡が取れるようになったら教えてもらうことになった。
……とまあ、ざっとこんなところか。
「……状況はわかりました。助けていただき、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。困った時は、お互い様さ……さて、ちょうど夕食時だし、何か作るよ。ちょっと待っててね」
そう言って今度こそティーダさんは立ち去った。外はもう暗くなっている。
「……ふぅ」
溜め息を吐いて横になる。
首を動かして視線を巡らせると、机の上に本が置かれているのを見つけた。
……夜天の書の、写本だった。
アルハザードから持ち出した、大いなる魔導書の模造品……見た目は闇の書と何一つ変わりがない。管理局員であるティーダさんなら、闇の書ぐらい知っていてもおかしくはないはずだ。なのに、訊かれることはなかった。
気を利かせてくれたのだろうか。それとも、才からすでに聞いているのか……前者のような気がする。
……そういや、才はどこまで話したんだろうか。転移されてから後の話しか聞いてないため、俺達がアルハザードから脱出してきたこととかを彼が知っているかどうかまでは判別できない。アリシアのことも少し心配だ。アリシア本人を知る者は少ないだろう――ティーダさんも知らない様だった――が、テスタロッサの苗字が危ない。説明したのが才だから、アリシアの苗字は伏せているだろうけど『かつて故人であった人が生きている』というのが伝われば騒がれかねない。
……いっか。それは後で。
「……腹減ったな」
アルハザードにいる間、四食分抜いてきたのだから、もう腹の減りが異常だ。……そう思ったら、喉も渇いてきた。夕食では、失礼にならない程度に、たくさん食おう。
それから、ティーダさんから夕食ができたという知らせが来るまでの間、ゆっくりと過ごした。
◇
ティーダさんに呼ばれてリビングまで案内してもらい、そこでティアナと自己紹介しあった後、俺、海斗、ティーダさん、ティアナ、そして病院から帰ってきた才の五人で夕食となった。
夕食のハンバーグを食べている途中、ティーダさんからこんな提案があった。
「ねえ君達、もしよかったら、アースラとの連絡がついてそこに行けるまでの間、ここに泊まっていくかい?」
「え……いいんですか?」
「住む場所はないんだろう? だったら、構わないよ。それに……俺が忙しくって、ティアナはよく一人で家にいることが多いんだ。寂しくないかとか、ちょっと不安でね……」
つまり、ティーダが忙しい間、俺達が代わりにそばにいてやってほしい、ということだった。
「わかりました。色々と助けていただいてますし、少しでも恩返しがしたいところですし……できることなら、なんでもします」
「本当かい!? ありがとう!」
夕食を取って、食器を片付けた後、暇潰しとして俺は手品を披露することにした。今は、ティアナの引いたカードを当てようとしているところだ。ちなみに、カードは虚数空間の迷宮で使ったものだが、二つで足りない分を補完することで一組のトランプになっている。
「……ラスト。一番上のカードを引いてみてくれ。最初に選んだカードが来てるはずだ」
「……わぁ!」
ティアナは引いたカードを見て驚いている。引いたカードは、最初に引いて書いてもらった『ティアナ』と書かれたカードだったのだから。
「すごいすごい! 綾さん、どんな魔法を使ったの!?」
「確かにマジックだが、魔法という意味じゃなくて、手品って奴さ」
「しかしすごいな。あんなに細かくシャッフルして、よくわかるんだな」
「ま、綾の頭脳は天才級だからねぇ」
天才も何も、今回のはカードの位置を記憶していただけなんだが。
カードマジックというのは、基本的にはカードを記憶しているだけだと聞いたことがある。あとは法則性とか、ガンカードなんてのもある。中には、相手の反応からカードを絞り込むなんてやり方もあるそうだが、俺にはそこまでの技術はない。
時計を見る。夜の九時を回っていた。
「……もうそろそろ、寝ましょうか。夜更かしは子供にはいけないですし、俺も疲れが抜けきってないですし」
「ああ、そっか……じゃ、そうしようか」
俺の言葉にティーダは頷いたが、手品に惹かれていたティアナは反対した。
「えー? もっと手品見たいなぁ……」
「一週間ぐらいここにいるから、手品はいくらでもやれるよ。……それにあんまりやると手品が尽きちまうな」
「は〜い……」
「部屋を案内するよ。綾は、さっき使っていた俺の部屋のベッドでいいかな?」
「ええ、構いません」
「じゃあ、あと二人にそれぞれ部屋に案内するから、ついてきて」
ティーダの案内に二人がついていき、俺も道を引き返すようにしてティーダの部屋へと向かう。
こうして、また一夜明ける。
地味に第三期キャラが出てきてたり。ティーダさんいい人だよティーダさん。
次回で『第一章 願望機争奪編』は終わりになります。多分。嘘つきと言われたくないので多分で留めます。
それから閑話を挟んで、いよいよ激闘、転生者にとって地獄の第二期へ。
ひとまずここで章タイトルを公開。次回の後書きには次章予告を載せます。
――神によるデスゲームは、さらなる激闘の舞台へ……。
――次章、『第二章 騎士討伐編』
……あれ、もうこれが次章予告になってね?