Magic game   作:暁楓

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 神への反逆を試みる者達が、デスゲームの舞台へと降り立つ。
 Magic game、第二話です。


第二話

 

 

 

 どれだけ頭が良くても、学年主席でも、なんでもできるって訳じゃない。

 それを思い知った時、自分の非力さを、自分の無能さを呪い、そして自覚した。

 

 俺は、クズなんだって。

 

 

   ◇

 

 

 

 居城の廊下に入ると光に包まれ、次の瞬間どこかの森の中にいた。

 

「うおっ? おいおい、さっきまで廊下歩いてたよな?」

 

「……転移させられたんだろうな。つまりここが俺達の舞台……」

 

「リリカルなのはの世界ってことですね……きゃっ!?」

 

 ドシャッ。誰かが、というか確実に由衣が転んだ音がした。

 

「おい由衣、大丈――」

 

 振り返って助けようとして……俺の動きは止まった。

 

「いたた……だ、大丈夫です。ちょっと躓いただけで……」

 

 目の前にいたのは、丸メガネをかけた小さい女の子だった。大体十歳前後。

 おかしい。俺達がさっき会った由衣は中学生ぐらいはあったはずだ。

 

「えっと……由衣ちゃんってそんなにちっちゃかったっけ……?」

 

「うっ! ひ、酷いです! 確かに私は元から小柄ですけど、今言うことないじゃないですか!」

 

「いや、その……ホントに由衣ちゃんが縮んでるんだけど」

 

「へ? ……へえええっ!?」

 

 ようやく由衣は気づいたらしい。自分の体を見て驚いている。

 

「ええ!? なんで!? っというか、海斗さんも綾さんもなんだか少し幼くなったような……」

 

「へ、マジ?」

 

「……マジだ。携帯のプロフィールを見ろ」

 

 そう言った俺はすでに、指定した画面を開いていた。

 

「身体年齢十四歳……魔力ランクC……住所も確定している」

 

「本当だ……俺は十四歳……げっ、魔力ランクDのしかもマイナスじゃねえか」

 

「えっと、私は……九歳!? しかも魔力ランクB+……!」

 

 規定範囲内であれば年齢や魔力はランダムみたいだ。俺も海斗もあまり歳が変わらなかったのは運が良かったか……。

 

 ……ゲームはすでに始まっている。指令が来る前にやるべきことをやらないと……。

 

「とりあえずここから動こう。住所が確定しているから、住居も用意されてるはずだ。まずは自分の済む場所を確認、そして生活の準備だ」

 

「お、おお」

 

「あれ、でも……住所はわかりましたけど、私達この場所がわからないですよ……?」

 

 ……開始早々壁にぶち当たった。

 そうだよ、この住所がどこなのか俺達知らねえじゃないか。どうやって行くんだよ。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「? メール着信?」

 

「俺もだ」

 

「私も……」

 

 差出人は管理者……奴か。

 

 

 

差出人:管理者

 

件名:ナビアプリ追加

 

内容:

 ナビゲーションアプリを追加した。

 行きたい場所の住所を入力することで、ナビゲーションマップが表示される。

 ナビゲーションアプリは待ち受け画面に表示。

 

 

 

 メールを閉じて待ち受け画面に戻ると、確かにアプリが追加されていた。アプリを開くと、住所入力の画面が切り替わる。

 試しに俺の新しい住所を入力するとマップが表示された。赤い線が道を通っており、どうやら道筋を表しているらしい。

 

「……そういうことらしい。まずは自分の住居に行ってみようぜ」

 

「おう、そうだな」

 

「ここで……一旦お別れになりますね……」

 

「大丈夫だよ、由衣ちゃん。なんかあったら連絡してくれ。すぐに駆けつけるからな」

 

 自分の住居へ向かうため、俺達はここで一時解散となった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 だがしかし。

 

「……なあ」

 

「……なんだ」

 

 海斗の声に短く返す。

 

「一時……解散だったよな?」

 

「ああ、確かにそんな感じだったな」

 

「あはは……一旦お別れって、私が言いましたね」

 

 森を抜けるまでは別に良かった。特に不思議とは思わなかった。

 その後も途中までは、まあ一緒の道ってことも十分あると思っていた。

 

「結局、三人揃ってお隣同士ってオチどう思う?」

 

「……………」

 

「す、すみません……」

 

 そう、海斗の言う通り俺達の住居は三つ並んで建っていた。

 どうやら指令の時どころか、日常生活もチームになりそうだ。

 

「……あの城から出る前にチームを結成したからかもな。確かにこれなら合流も楽で助かる」

 

「綾! 頼む! お隣なんだから飯作ってくれ!」

 

「そう言うと思っていたよ」

 

 早速海斗から拝まれた。こいつとことん脳筋だから、料理もドベなんだよなぁ。

 

「わかったよ。由衣も飯の時はうちに来るか? 食費は馬鹿にならないんだ。三人分纏めて作る方が費用も抑えやすくて何かといい」

 

「は、はい! お世話になりますっ」

 

「まずは自分の家に入って、家の中を調べてみるか。服とか用意されてれば助かるけどな」

 

 そう言って、俺は真ん中の『朝霧』と書かれたプレートのある家へと入った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 予想通りというか、なんというか、家の中にはまさに何もなかった。

 いや、一般的な家具や調理器具は揃ってはいた。だがそれだけ。衣類も食材も空っぽ、新築直後の家同然の有り様だった。

 

「新築買うと、こんな感じなんだなぁ」

 

 食材と衣類の確認だけしてこっちにやって来た海斗は現在、リビングのソファにふんぞり返っていた。

 俺はそんな親友を気にせずに、ソファの下を覗き込む。

 

「綾さん、何やってるんですか?」

 

 海斗と同じく、簡単に点検してこっちにやってきた由衣は、そんな俺に質問してきた。

 

「盗聴器の存在有無の確認」

 

「ブッ!!」

 

 おい海斗、人の家に唾かけてんじゃねえ。

 

「まあ、そんな機械使わなくても監視できるだろうけどな」

 

「マジかよ」

 

「マジだ」

 

 とりあえず一通り調べてみて、怪しいものは見つからなかった。

 

「で、これからどうすんだよ?」

 

「買い物だな。生活に必要な食料と衣服を買いに行くぞ」

 

 ぐぎゅる。と由衣の方からそんな音が聞こえてきた。

 現在、十二時二十七分である。

 

「……と思ったけどそれより先に昼飯だな。コンビニ弁当でいいか?」

 

「あぅ……す、すみません……」

 

「えぇー? せっかく俺達それぞれに百万あるんだし、パーッと外食しようぜ?」

 

「したければお前だけでしろ。そして勝手に軍資金尽きろ」

 

 アホなことを主張する海斗を簡単に切り捨てる。

 

「んだよ、なんか今日の綾は厳しーなー」

 

「手持ちの金百万。これで一年どころか、数年間生活しなきゃいけねえんだぞ。食費、衣類代、電気・水道・ガス代、その他諸々。お前がアホみたいに金使って、金欠状態になるのはご免だぜ?」

 

「うぐっ……わかったよ」

 

 がっくりと肩を落とす海斗。諦めろ。仕方ないことだ。

 

「道覚えるために、みんなで行こうぜ。それから必要なものを買いに行くぞ。支払いは俺が纏めてやってやるから」

 

「あ、はい」

 

 由衣も賛成したし……よし、じゃあ行くか!

 

「あれ、もう行くの? ちょっ、待てよおい!」

 

 さっさと来いよ海斗。置いてくぞ?

 

 

 

   ◇

 

 

 

 俺達の家は駅前の通りに近かったため、そこの商店街を通ることにした。

 海斗と由衣があちこちせわしなく視線を巡らせるのを片目で見ながら、俺は観光気分の二人とは別の理由であちこち視線を巡らせる。探している対象はなかなか見つからない。

 

「ん!? おい、あれって翠屋じゃねーか!?」

 

「えっと……あ、本当ですー!」

 

「お前ら……もう少し声抑えろ。恥ずかしいじゃないか」

 

 海斗の声がデカいせいで通行人の注目の的になってしまった。マジでやめてくれ。

 

「いや、だって翠屋だぜ? リリカルなのは知ってる奴にとって実際に見れて感動しない方がおかしいだろ!?」

 

「俺の場合はお前に無理やり見せられたんだ。しかも六週も。だから感動はしねえ……ん?」

 

 ため息をついて翠屋に視線を向けた俺だったが、直後俺は翠屋に注目することとなった。いや、正確には翠屋の客として来ている人達に、だ。

 

 ……やっぱり海斗は、こういう時に役に立つ。なんせ思考が一般人そのままだからな。

 

「ん、どうした? ……ははーん、さては行きたくなったな? ならば――」

 

「行かねえぞ。コンビニはすぐそこだ。ほら、由衣も」

 

「は、はいっ」

 

 コンビニで俺は鮭の塩焼き弁当、海斗は豚肉生姜焼き弁当、由衣はおにぎり二個、そしてそれぞれジュースを買い、近くのベンチで昼食とした。

 

「なあー……なんで翠屋に行かなかったんだ? あそこは喫茶店なんだからケーキ以外にも普通にあるんだぜ?」

 

「お前なぁ……気づかなかったのか? あそこにいた客の半数以上が、『参加者』だったんだぞ」

 

「え、わかったんですか?」

 

 口元にご飯粒をつけた由衣が訊いてきた。

 いつご飯粒に気づくかなと思いつつ、鮭の身をほぐす。

 

「遠かったけど見た感じ、年齢が明らかに十代前半の奴ばかりだった。考えは海斗と同じ、なのはの家の経営してる店だからってところだろ。ついでに言ったら、多分参加者達はみんなケーキ買ってくぜ。それもたくさん」

 

「お前、エスパーか?」

 

「お前も翠屋行ったら、ケーキ買うつもりだったろ」

 

「……………」

 

 目を剃らされた。

 

 まあ親に保護され、金に困ることがあまりない高校生がいきなり百万持ったなら基本的にはこんな感じなんだろう。高校生はしっかりしているようで無計画(・・・・・・・・・・・・・・)だ。

 そりゃ、生活費を出しているのは大抵親だ。高校生から一人暮らしをすることはまずない。だから生活費のやりくりというのを知らず、大金を一気に持たされたら簡単に使ってしまう。

 俺の場合はまあ、ちょっと特殊だし、一人暮らしに慣れてるからなんとか二人を先導していってるけど。

 

 それにしても翠屋にいた参加者達は大抵一つの席に一人……相席している奴らも会話をする様子は一切見えなかった……ただ偶然会話してなかっただけかもしれないけど、あの様子だとチームを組んでないか、ルールそのものを見てない可能性が高いな。

 ルールを確認してない奴らで恐ろしいのは、ルールを知らない故にスターチップを強奪しようと目論む野郎の可能性があることだ。ルール上そういう奴は失格になるが、俺達のスターチップを狙って、海斗や由衣に危害を加えられる危険性がある……対策を考えとかないと。

 他にも、考えるべきことがたくさん――

 

「綾さん?」

 

 呼ばれて気がつくと、二人はすでに食事を終えていた。

 

「ん、おっとわりぃ。考えすぎてた。すぐに食うよ」

 

「急いでくれよ。次は買い物だろ?」

 

「……ああ、そうそう。晩飯はどうする? できればみんなの意見に応えたい」

 

「綾は料理もうまいからな! 俺は肉があればなんでもいい!」

 

「あ、私、ハンバーグがいいかな……」

 

「じゃ、ハンバーグで。よかったな海斗。お前の意見が反映できて」

 

「え、全員の意見を反映させるんじゃなかったの?」

 

 さて、午後からは買い物だ。

 まずは服と下着を買って、食材や調味料も買って……あ、先に料理本も買わなくっちゃな。

 ああ……海斗にラノベをある程度なら買わせてやろうかな? あまり金がかからない程度に、三シリーズまで。由衣にも、何か自由に買わせてやるか。

 

 ……荷物が重くなりそうだなぁ……。今日は最低限の量に抑えられるよう頑張ろう。




 今はこんなゆっくり速度ですが、急展開は十分あります。だって、主人公達では関われない場所もありますし。

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