Magic game 作:暁楓
一週間が経った。
アースラとの通信が繋がり、アースラへ行くこともできるとティーダさんに教えてもらって、早速アースラへ向かうことにした。
そして現在、すでに目の前にはアースラの転送ポートへと繋がっているゲートが存在している。
「……本当に、一週間お世話になりました」
「いやいや、こっちもティアナのそばにいてもらったりして助かったよ」
見送りに来てもらった、一週間お世話になったティーダさんとティアナに頭を下げる。
「綾さん、海斗さん、才さん。また来てね!」
「ああ」
「おう。また来るぜ」
「……うん」
「アリシアちゃんも!」
そう言ってティアナは海斗の背中……海斗に背負われているアリシアに視線を向けた。
「今度はうちに来て、いっぱい遊ぼ!」
「……ぅー」
アリシアはもぞもぞと小さく身体をよじった。
一週間の間に、アリシアは目を覚ました。しかし筋肉の衰退や硬直の影響で動くことができず、会話もままならないのが現状だ。ただ、念話は可能であるため、意志疎通はできる。
ティアナはアリシアから念話を受け取ったのか、嬉しそうな顔をした。
「うん! 元気でね!」
「……では、俺達はこれで」
「ああ。元気でな」
最後にもう一度礼をして、俺達はゲートをくぐった。
◇
「……さて、今度もなにか弁明があるのかしら?」
「……ないです」
アースラに乗り込み、アリシアを医務室のベッドに寝かせた後、会議室にて待っていたのはリンディさんからの説教だった。俺と海斗と才、三人並んでリンディさんの前に並ばされている。なお、これまでの経緯については、説教タイムに入る前に一通り説明した。
まあ、当然だろう。勝手に時の庭園に乗り込むという危険行為をした上に、何より、十二個ものジュエルシードを持ち出すということをしたのだから。普通に窃盗である。
「結果的に回収したジュエルシードが十八個になっているとは言え……今回のあなた達の行動はあまりに容認できないことです。それはもうわかりますね?」
「はい……」
「うぃ……」
「……はい」
「……あなた達の身柄を、こちらで拘束。罰としてしばらくの間、無償奉仕活動をしていただきます。よろしいですね?」
うへ……と海斗が呟いたが、リンディに睨まれて背筋を伸ばした。
「わかりました……では早速、何をすればよろしいでしょうか?」
「基本はアースラ内の清掃や、お茶係の仕事をやってもらいます。あと、あなた達が連れてきたアリシア・テスタロッサ。彼女のお世話もお願いね」
「了解しました」
と、ここで、リンディさんの表情が柔らかくなった。
「……それでは、まずは友人達に会って来なさい。まだ会っていないでしょう?」
「……ありがとうございます!」
海斗は礼をするとすぐに部屋を出て行った。才も話はここまでだと理解して、部屋を出て行く。
俺も才に続いて出ようと動き出すと、そこでリンディさんに止められた。
「待って。綾さんにはまだ話があるわ」
「え? あ、はい。わかりました。……じゃあ、才。またな」
「うん」
才が出て行き、扉が閉まる音を聞いてから、リンディさんが口を開いた。
「……ホントにとんでもないことをしでかすわね、あなたは」
「いきなり本人の前で愚痴ですか。いや、反論はしませんしできませんけど」
「勝手な言動は控えるようにと言って、あなたは頷かなかった?」
「全部否定はされてなかったですし、様々なことを合理的に考えた結果なので」
「様々ってなによ」
「俺様々です」
「反省文。五十枚」
「ごめんなさい」
笑顔の上に血管マーク。怖いね。
「全く……でも、全員無事で何よりだわ」
「俺としては、そこにプレシアも加えたかったんですけどね」
「そうね……」
場がしんみりとする。
だが、本題はこれではないだろう。ぶっちゃけ、こんな話はどうでもいい内容だ。
なので、俺から切り出すことにした。
「……そろそろ、本題に入ってもらえます? 俺も早く仲間と会いたいな〜なんて思ってたりしてるので」
「そうね……じゃ、本題に入りましょうか」
先程とは打って変わって、リンディさんの表情が険しくなった。
「話というのは他でもないわ。あなた達がアルハザードへ行き、そこでアリシアを蘇生させて帰ってきたということよ」
「やっぱり、そこで見てきた技術を吐け……ってことですかね」
「簡単に言えばそういうことね。プレシア女史は元々管理局勤めだったの。プレシアが管理局を辞めたのは研究事故の責任ってことになってるけど、その事故でアリシアが亡くなったのよ。管理局上層部には、そのことを知っている人もいるわ」
それも予想はついてる。
ティーダさんが気を利かせてくれたことや、才がアリシアをフルネームで話さなかったことが幸いして一週間の間にそういうお偉方が来ることはなかったが、バレるのも時間の問題だろう。
「来るとしたら後何日後ぐらいですかね?」
「そう遠くない話だと思うわよ? もう報告書を出すもの。あなた達のこと、報告書で誤魔化せる範囲を大きく飛び抜けているわ」
「アリシアが生き返ったことは書いてないですよね?」
「書いてないけど、虚数空間に飛び込んだ三人が戻ってきたなんて知られたら、タネを訊かれるわよ」
確かにそうだ。
「ま、うまく言い逃れるように努力してみます」
「返事が軽いわね。勝算でもあるの?」
「さあ」
溜め息つかれた。素直に答えただけなのに。
「まあ、こちらでもできる限りのことはしてみます」
「了解です。……じゃ、そろそろいいですかね?」
「ええ。呼び止めちゃってごめんなさいね」
「いえいえ。そちらこそお疲れ様です」
「疲れさせられた原因は誰だったかしら」
「誰ですかねー。そんな人」
「……そろそろ怒るわよ?」
「失礼しました」
そろそろまずいと思った俺は、早足で部屋を出た。
◇
「綾ーーーっ! ホンマに、ホンマによかったぁーーー!!」
「綾さん、お帰りなさい! グスッ……」
食堂にいるというみんなの元へ行き、竹太刀と由衣が俺を見つけるや否や俺は二人の突撃をもらった。
二人とも涙目であるのをみて、心配かけてしまったなと思った。
「まさか、こうして戻って来るとはな」
「しかもチップを大量に手に入れて、アリシアも蘇生してきたっていうんだからすごいねぇ」
「氷室、由樹……」
「じゃ、僕はお暇するよ。君が帰ってきたと聞いて、確認のために来ただけだからね」
「俺も同じだ。帰らせてもらうぜ……綾」
氷室が去り際に俺に話しかけてきた。
「今回はお前の策がうまくいったみたいだが、次の戦いはこうは行かねえ。今回の結果に、浮かれない方がいいぜ?」
「わかってる。ちゃんと策は考えるさ」
「言うねえ……じゃ、俺はその策をじっくり見させてもらうぜ?」
そう言って、氷室は食堂を後にした。それによって、ここにいるのが俺達のチーム四人だけになった。
誰もいないことを再度確認した後で、俺は竹太刀と由衣に話しかける。
「二人とも……そろそろいいか?」
「ん、もう大丈夫や」
「はい……私も、もう平気です」
「さて……これからのことについて、少し話をしたい」
「あの……私も、一つ話が……」
由衣がおずおずと言った。そのことによって、俺達の視線が由衣に集まる。
「どうした?」
「あの……以前、私が他の転生者に襲われて、フェイトちゃんに助けてもらった話はしましたよね?」
「ああー、由衣ちゃんそんな話していたなー。それがどうしたんだ?」
確かにそんな話あったな。確か、由衣はリンディさん達には「ジュエルシードの思念体に襲われた」って言ったんだっけ。
「それで……事件終了後、フェイトちゃんと話す機会ができたんです。それでまずはお礼をして、それから口裏を合わせてもらおうとしていたんです。でも、実際会って、まずお礼をした時に……」
――あの時、
……え?
「えっと、由衣ちゃん。その時、他に人は……?」
「いませんでした。いない時を狙っていたので……」
「わいもその話は聞いた。考えられるのは一つや。失格者は身体をだけでなく、人々の記憶からも存在を消される」
「……意味はあるのか?」
「たった一ヶ月の内に百人近い人が消えるなんてもん現実にしたら、警察沙汰になるやろ。……まあ、そないなことよりも奴の考えとしては、わいらに精神的苦痛を与えるつもりちゃうかな」
「精神的苦痛……?」
「考えてみい。仲間である海斗が消されて、自分以外の全員が海斗の存在を覚えとらんなんてこと。そないな矛盾した世界で生かされたら、かなりの苦痛になるんとちゃうか? 由衣ちゃんがそいつのこと覚えとるのも、それが理由とちゃうか」
「……………」
「……ま、わからんことを考えてもしゃーないわ。とりあえず事実としては、失格者は転生者以外の人の記憶からも消去される……という報告や。はっきり言って、今までと大して変わりはない。失敗できへん理由が一個増えた程度や。わいらは生きる。そして、こないなことしよる神に反逆する。やろ?」
「……そうだな……そのためにも、今後の策だ」
そうだ。存在が消される……それでもやることは変わらない。俺達は、神に勝たなくてはならない。
「まず、俺と海斗はしばらくの間地球には戻れない……竹太刀は、由衣のことを頼むぞ」
「了解や」
「それで……竹太刀にはこれを預けとく」
言って、俺が差し出したのは夜天の書の写本と、一つの包みだった。
「え、あのっ、綾さん、これって……!」
「アルハザードから持ち出した、夜天の書の写本だ……これは俺が地球に戻ってくるまで、俺の部屋に隠しておいてくれ……そして、この包みには俺が考えた指令に対する対策が書いてある。指令の目標は恐らく守護騎士との勝負で勝つこと……だが、必ず戦闘で勝つ必要はないはずだ。戦闘以外で勝つ方法が書いてある。指令が来て、内容を確認してから開けてくれ。一応、俺からも連絡を入れる」
勝負が戦闘である必要がないと言える理由は、俺達のステータスだ。Sクラスの魔力と戦闘技術を持つ守護騎士……対して、俺達転生者はデフォルトでの限界がB+だ。差が大きすぎる。さすがに、絶対不可能な内容にはしないはずだ。
「了解っと……そや、夜天の書の……なんかのが多いし面倒やな。夜天の写本でええか? これ、綾が地球に来れんかったらどないすんのや?」
「……なんとかして、地球に行く。だから、それまで待っててくれ」
「ん、了解や」
「じゃあ竹太刀……俺達が動けない間、頼むぞ」
「任しとき」
仲間に出来る限りのことを託し、俺達は解散した。
◇
解散してから、早速艦内の清掃をしていると、同じく清掃をしていた才と出くわした。
「……うまくいきそうかい?」
その言葉に、モップを動かす手が一旦止まった。
「……見てたのか?」
「ちょっとね……」
……清掃を再開する。
「お前は、仲間を作らなくていいのか? 俺達が十二月までに解放されるとは考えにくいぞ」
「だろうね……でも、その時はその時だよ」
「……………」
静かになり、二人して付近の清掃をし続ける。
何か話そうかと思ったが、話の内容がないため、やめて別の所の掃除に向かおうかと思った。
その時に、才が再び話しかけてきた。
「そう言えば」
「?」
「これ……結局食べなかったよね」
才が取り出したのは、アルハザードにいた時に才が唯一持っていたあの食糧だった。
「ああ、それね。すっかり忘れてた」
「どうせだし、食べる? 生還記念に」
「いいね。じゃあ、そうするか」
才が袋を開け、差し出された一本を受け取る。
「じゃあ……」
「俺達の、アルハザードからの生還を祝して……」
グラスで乾杯するように、菓子を重ね、それから口へ放り込む。
ボソボソとした食感の、メープル味だった。
これで第一章完結です。
これまでのキャラと、第一章終了時のスターチップ増減をまとめてみました。
・朝霧 綾
3(初期)+1(緊急指令報酬)+2(緊急指令報酬)+16(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)−3(願いを叶えた代償)=16
・藤木 海斗
3(初期)+1(緊急指令報酬)+2(緊急指令報酬)+16(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=19
・藤木 由衣、坂本 竹太刀
3(初期)+1(緊急指令報酬)+2(緊急指令報酬)+8(チームメンバーの緊急指令達成報酬)−3(指令期間終了)=11
・佐崎 拓也
3(初期)−3(願いを叶えた代償)+1(緊急指令報酬)+2(緊急指令報酬)……以後不明
・天翔 才
3(初期)−3(願いを叶えた代償)+3(緊急指令報酬)+5(緊急指令報酬)+3(指令報酬)−3(指令期間終了)=8
・烏間 氷室
3(初期)+3(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=3
・高田、末崎
3(初期)−3(願いを叶えた代償)+3(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=0
・滝川 由樹、相川 マリア
3(初期)+4(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=4
・田鴫
3(初期)−3(願いを叶えた代償)+4(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=1
・城崎
3(初期)−2(願いを叶えた代償)+4(緊急指令報酬)−3(指令期間終了)=2
増減がほとんど書かれてない氷室達については緊急指令分を簡略、その上ある程度適当につけました。できるだけ数に違いが出るようにしてみました。次章の彼らは上記の個数からスタートします。
綾が一回消費したため、何気に海斗が一番所持数が多い件。
さて、今回の後書きでは書くべきことが多いです。
伏線もだいぶ残したと思います。わざとですが、書くべきところが多くなると後が大変ですね。長々と残して風化しないようにしたいです。
一応回収もしました。転生者が消滅すると世界の記憶からも消去される……第十話はそのための伏線でした。伏線と呼べるかどうか微妙かもしれませんけど。
この後数話程度閑話を挟んで、いよいよ『第二章 騎士討伐編』に突入です。
『騎士討伐編』というタイトルに衝撃を受けた読者様がいるようですが、他にも『騎士決闘編』とか『騎士激闘編』なんてのも投稿前後に考えました。しかしそれだと戦ってるのが転生者ではなく守護騎士になるのでは? なんて思って『討伐』にしてみました。実際に討伐はまず無理です。というか討伐されます。
前回の後書きで予告をやると書いてしまったので、以下は予告です。前回ので十分予告になってるとは思うけどなぁ……。
――ようこそ、『Magic game』へ。
転生者達による『魔法少女リリカルなのは』攻略ゲームは第一期のファーストゲームを終え、いよいよ本格的な戦いとなる第二期、A's編へ。
闇の書を巡る物語……転生者に立ちはだかるのは、四人の騎士達。
彼らがどのようにして強大な相手に立ち向かうのか……お楽しみください。
……そうそう。面白いアイテムを手に入れた方がいましたね。
彼には、特別な指令を与えることにしましょう……。
フフフ……。
◇
――俺達は、負け組だ。自分でそうわかってる。
だが……だからと言って、他人の操り人形にされてなにも思わない訳がない。俺達にも意地がある。
神への反逆を目指す俺達に立ちはだかるのは、四人の騎士。
力の差は、鼠と猫。
だが、窮鼠が猫を噛むように、力無き者でも騎士に牙を向く――!
「俺達は……勝つ――!」
Magic game
第二章 騎士討伐編
開始っ……!