Magic game   作:暁楓

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第二十八話

 あらゆる電気が落ちた、竹太刀が利用するバイト先までの道に沿って走る。

 

『竹太刀、お前今どこにいる?』

 

『いつもの道にある、スーパーの中や。運良く扉が開いたままやったからな』

 

『そこに、何か使えそうなものはあるか?』

 

『火を着ければ火力になる油とか小麦粉なんてのは勿論あるけど……結界ん中にあるこれって、使えるんか?』

 

『魔法が原子組成を変えることはないだろ。小麦粉と点火道具できるだけ集めろ』

 

『了解。他に使えそうなもんあったら探すわ……ところで、綾は道走ってて大丈夫なん? 襲われるんとちゃうか?』

 

『大丈夫……だと思いたいな』

 

『確証はないんやね。まあ早く来てな』

 

『わかってるっ』

 

 十字路を左折。国道に入り、広い道の先にスーパーがある。あそこだな。

 

「早く行って……………っ!」

 

 何か、来る。

 青い服と褐色の肌のそれは、俺目掛けて急降下して、手甲を着けた腕を腹へ――

 

「――っ!!」

 

 左腕で遮り、加えて灰色の壁を作る。

 防御壁は呆気なく砕け、左腕突き飛ばし、拳が腹に食い込む。

 刹那、俺と襲撃者の距離が一気に開き、止まると同時に背中に強い衝撃。

 

「――っ、がはっ!!」

 

 肺から空気が押し出される。

 げほ、げほっ、と咽せながら、こちらに近付いてくる襲撃者を見る。

 

「……ったく、冗談キツいぜ」

 

「魔導師か。……お前に恨みはないが、ここで闇の書の糧となってもらう」

 

「んなもん、嫌に決まってんだろ」

 

 杖を展開。右手で持ち、左手は殴られた腹を押さえる。

 

(肋骨またやられたかもな……二度も獣人に殴られて骨折とか俺だけじゃないか?)

 

 全く嬉しくない史上初だが。

 ザフィーラとの戦闘勝負ってことになるんだろうが、勝つことは考えない方がいいな。状況云々以前に、ガチの戦闘で勝てる訳がない。

 とすれば、やるべきなのは救援が来るまでとにかく逃走し続けること。

 

「目ぇ伏せろぉぉぉっ!!」

 

「っ!」

 

 竹太刀の怒号。ザフィーラの周囲に点火された球状を見て、すぐに腕で目隠しをする。

 直後に、鮮やかな火が花を咲かせた。

 

「あつつっ、綾、逃げるで! 花火をあっただけ、ぎょうさん持ってきた!」

 

「でかした……逃げるぞ!」

 

 不意打ちの目くらましとしては効いたようで、動かないザフィーラを置いて走り出した。

 道をまっすぐ、急いで走る。この世界において逃走で重要なのは距離だ。隠れても探知魔法で一発。道を複雑に曲がって撒いても空を飛べば意味がない。

 

「くそっ……ここでザフィーラが来るとはな……」

 

「どないする!? ここで勝てるんか!?」

 

「勝てる訳ないだろど阿呆! ただガチの戦闘やってあいつらに勝てるなんざ十年経っても無理だろうが!」

 

「じゃあ、どないすんねん!」

 

「逃げる!」

 

「ラジャッ!! で、具体的には!?」

 

「油貸せ!」

 

「バッグの中や!」

 

 肩からぶら下がってるバッグを漁る。花火やライター、小麦粉らと一緒にサラダ油が小さいもので三本ほど入っていた。

 

「袋はあるか?」

 

「ああ!? んなもんあらへんわ!」

 

「じゃあ、いい」

 

 油を一本個取り出し、逃走時に一旦しまっていた杖を再び展開する。

 

「……何するん?」

 

「冬だから、だるま作ろうと思って」

 

「火だるまはやめい」

 

「よくわかったな」

 

 後ろを見て、すでにザフィーラが追いかけてきているのを確認して油ボトルを投擲。

 魔力弾を発射し、ボトルを破裂させる。魔力弾による攻撃も兼ねたが、防御壁で防がれる。だが、油は一部一部には着いたはず。

 ライターと打ち上げ花火を用意。

 

「喜べ竹太刀。やっぱりひょっとしたら勝ちになるかもしれないぞ」

 

「勝ちにはなるかもやけどやめて! んなことしたら後で殺されるわ!」

 

「知るか!」

 

「知れぇぇぇぇっ!!」

 

 着火。砲口をザフィーラへ。

 ジジジジッ……と導火線が短くなっていき、筒に辿り着いた瞬間バシュンッ!! という音が響く。

 

「やりおったぁぁぁっ!!」

 

 竹太刀、うるさい。

 火の弾丸は真っ直ぐ飛んでいき、ザフィーラに直撃して花を咲かせ……直撃?

 

「むんっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 火の直撃を受けたはずのザフィーラが、一カ所も火が着くことなく(・・・・・・・・・・・・)、俺達に急接近、竹太刀を蹴り飛ばし、俺の顔面を捕らえ、ずっと奥の壁に叩きつけた。

 頭から叩きつけられた。ヤバいくらいクラクラする。

 

(でもなんでだ? 油がかからなかったのか?)

 

 いや、よく見ると一部濡れている。確かにかかっている。

 じゃあ、なんで油の上に火がかかったのに着火しなかった?

 

(いや、まずそんなことよりだ!)

 

 足でザフィーラの腹を蹴り押し、作用反作用の法則で抜けようとする。しかしザフィーラの握力から抜け出せない……というか、顔が痛い。

 どうすればいい? 答え自体は簡単だ。作用の力を強くすればいい。かつ、怯ませて相手の握力を弱めれば脱出率は上がる。

 

(吹っ飛べ……!)

 

 杖をザフィーラの顔面に向け、砲撃をぶち込む。

 爆風が巻き起こり、数十センチ先の様子も見えない程の煙が舞う。

 ――だが。

 

(……っ!?)

 

 離れない。怯んだような気配もない。

 煙が晴れる。

 

 ――無傷だった。

 

(一体なんで……っ、ああ、そうか、そういうことだったか畜生!)

 

 合点がいった。なぜ無傷なのか。なぜかかった油に着火しなかったのか。

 

『フィールド型の防御魔法で……防いでやがったな!』

 

「……よくわかったな。その通りだ」

 

 なら納得だ。盾の守護獣と呼ばれる程なら、俺の砲撃程度ならそれで十分防げるし、油についても、油の上に耐火性のある魔力でコーティングすれば火は着かない。

 

(どうする!? 竹太刀が持っていた火薬道具は効かない、竹太刀はデバイスすら持ってない! そもそも威力不足じゃ切り抜けないし何よりあいつはダウン中だ!)

 

 まずい、まずい。対策がない。いや、あるはずだ。だがそれが考えつかない。

 

「では……魔力をいただくぞ」

 

 ザフィーラが空いてる方の拳を握り締めたのを見て、ヤバいという脳内アラートより一層やかましくなる。これは、まずい――!

 

「おぉぉらぁぁああああっっ!!!」

 

「っ!」

 

 横から、馬鹿でかい声。

 ザフィーラはその声に反応。俺を離し、やってきた男の跳び蹴りを回避する。ザフィーラの手から解放され、俺は地面にへたり込む。

 

「……む!」

 

 ザフィーラが上に反応。後ろへ跳び、上から来た砲撃を回避した。

 上から、少年が降りてきた。

 

「……大丈夫かい?」

 

「綾! 大丈夫か!?」

 

 駆けつけてくれたのは、才と海斗の二人だった。

 

「……ああ。助かった」

 

 俺は安堵の息をつく。

 海斗が気合いを入れるように自分の手の平を拳で叩いた。

 

「うっし! こっからは俺達が相手だ!」

 

 が、俺と才にそこまでの気合いはなかった。

 

「残念だけど……時間切れ」

 

「ああ。時間切れだな」

 

「へ?」

 

「む……」

 

 ザフィーラが反応を示した。しかしそれはこちらに対するものじゃない。つまり、念話だ。

 ふむ、と少し思考したザフィーラが俺達に声をかけてきた。

 

「仲間の救援に向かうことになった。今回は見逃そう」

 

「あーそうかい。だったらとっとと行っちまえ」

 

「え? おい……」

 

「次は、お前達全員から魔力をいただく」

 

「痛ぇしっぺ返し食らわしてやる」

 

 ザフィーラは返すこともなく飛び去っていった。

 

「おい、いいのか? ザフィーラはまだ攻略できてないんだろ?」

 

「戦闘で俺達が勝つのは無理だ。ここは退かせよう」

 

「うん……その方が、僕にとってもありがたい……」

 

 言うと、才は魔法陣を形成した。

 

「それは……?」

 

「……戦闘における勝負が無理なのは、実力だけの話じゃない……そもそも、守護騎士は物語上、負けて捕まることはできない……」

 

 言われてみれば、そうだ。守護騎士が捕まるようなことは事実上不可能。つまり、戦闘による勝負では相手を撃墜までさせる必要はない。

 となると……。

 

「つまり……相手の目的を完全妨害して、僕達の介入という理由によって撤退させたとなれば、すなわち勝利となる……」

 

「えーっと、つまり……」

 

「この戦いにおける守護騎士らの目的……なのはからの蒐集の妨害か」

 

「正解……」

 

 魔法陣をしまった才が、今度はどこかのやや上に杖を向けた。

 

「座標捕捉……砲撃の術式を一部改正……誘爆機能カット……代わりに威力、貫通性能を強化……」

 

 また魔法陣が敷かれる。言葉から察するに、やはり砲撃だろう。杖の先端に魔力が集束されていく。

 そして、この射線上には……。

 

「……海斗。才が砲撃を撃ったら、すぐにその射線を辿れ」

 

「え? おう……ん?」

 

 海斗が何かに気づいた。

 視線を辿ると、馬鹿でかい集束された魔力の塊があった。いや、今もなお集束されている。その集束されている魔力の塊は、桜色に輝いている。

 

「あれって……なのはのスターライトブレイカーじゃねえか?」

 

「……そろそろ、撃つよ」

 

 才が、静かに宣言した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 はやてとの電話も終え、湖の騎士ことシャマルは蒐集作業に乗り出すところだった。

 蒐集対象は、ヴィータが撃墜状態に追いやったなのはと、ザフィーラが追い詰めた綾と竹太刀の、計三人。先に蒐集の量に期待でき、かつ今放とうとしている集束砲の妨害もできるなのは、続いて綾や竹太刀という予定だ。

 

「お願いね、クラールヴィント」

 

 旅の鏡を発動し、なのはの背後へと座標を繋げる。

 離れた空間を繋いだ旅の鏡へ手を伸ばし、リンカーコア摘出用の魔法でなのはを貫こうと――

 

《主! 砲撃反応を捕捉! こちらに向かっています!》

 

「え!?」

 

 クラールヴィントの警告に驚き、動きが止まった。

 その動きの止まったシャマルの目の前を、壁を砕いて一本の魔力が、才の砲撃が貫いていった。

 

「っ! そんな、まさか捕捉されてる!?」

 

 シャマルは慌てて広域の探索魔法を発動する。

 すると、こちらに向かってくる魔力反応をキャッチした。綾の指示で砲撃を追いかけている海斗である。

 

『シグナム大変! 捕捉されちゃった! こっちに人が来てる!』

 

『集束砲の発射も近い……ここは引き上げよう。惜しいものを逃すことになるが、仕方ない』

 

『わかったわ!』

 

 集束砲を発射されれば結界が破壊され、さらに多くの管理局員がやってくる可能性が高い。深追いはリスクが高かった。

 実は先程の砲撃以降の妨害は来ないということに気づかぬまま、蒐集を諦めてシャマルは撤退した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「……シャマル攻略……」

 

「……お前にはホントに頭が上がらねえよ。来て早々に一人攻略なんて」

 

 守護騎士達の撤退後、才の元に届いたメールを見て溜め息をついた。

 時期や能力も関係あるだろうが、俺のようにまどろっこしいやり方をせず、たった一発で一人攻略してみせた才は、さすがとしか言いようがない。

 こいつには、本当に適わない。俺が本当に彼と肩を並べることができるというのだろうか。そこまで追いつけるのだろうか。

 

(いや……追いつかなきゃならない……追いついて、さらには追い越すぐらいにならないと、神に適うことはできない……)

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「……携帯、鳴ってるよ」

 

「ん、ああ……もしもし」

 

『綾、無事か!?』

 

 電話に出ると、相手はクロノだった。

 

「ああ、無事……肋骨折られて無事って言えるのか?」

 

『そうか……そっちは何があったんだ?』

 

「才と海斗が来るまで、襲撃者に襲われてた。それでちょいとやられた。竹太刀も……」

 

「ああ、わいは平気やでー」

 

 いつの間にか竹太刀が来ていた。肩に手を置いて首を鳴らしている。

 

「……竹太刀は平気だそうだ。一応検査を頼む」

 

『わかった。今なのはをアースラに搬送しているから、それが終わったらすぐそっちに向かう』

 

「了解」

 

 電話を切り、溜め息をつく。

 

「ボロクソにされてばっかだなぁ、俺……」

 

 そう、呟いた。

 アースラ局員が来て、転送されたのは、それから数分後のことだった。

 

 

 

 才、シャマルに勝利。




 獣人にボコられることに定評のある綾さん。これで二度目だよ。
 これ書いてる時に戦闘による勝負の判定どうしようか実際困りました。そういや昏倒させちゃダメだよな……まずありえないけど。
 影が薄いとよく言われるザフィーラですが、今作ではそこそこ出番が取れそうです。シャマルも同じく。シグナムも予定が既にできています。
 ……実を言うとヴィータが一番今後の予定がなかったり。

ヴィータ「っ!?」

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