Magic game   作:暁楓

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第二十九話

「……またあなたね」

 

「悪いのは襲撃者です。俺は悪くありません」

 

「……まあ、それはわかっているけれど」

 

 はぁ、とリンディさんが溜め息をついた。

 ここはアースラの医務室。ここで俺と竹太刀は手当てを受けていた。

 やはり、俺の肋骨は折られていた。これで二度目だよ、肋骨。ちなみに竹太刀は軽い捻挫で済んだらしい。

 

「とにかく、あなた方が無事で何よりでした」

 

「ええ。ありがとうございます」

 

「綾が無事でよかったぜ」

 

「ほう、わいのことは無事でなくともええと?」

 

「え? あ、いや!?」

 

「……………」

 

 他にも才や海斗など、結構な人数がいるため、医務室はいつぞやのように騒がしかったりする。なのはもここで寝てるんだから、もう少し静かにしろよ……。

 呆れつつも、俺はベッドから起き上がり、ジャンバーを身につけ、帰る支度をする。

 実は由衣とアリシアにはまだ連絡を入れてなかったため、俺達の状況が知らないままである。かつ、夕飯もまだだ。早く戻らんと。

 

「待て、綾。帰るのか?」

 

「ああ。晩飯まだだったからな。早く帰って作んねーと」

 

「由衣とアリシアなら、アースラに連れてきてやる。君に、会わせたい人がいる」

 

「話の内容は十割方アルハザードだろうが、俺が話せる内容はもう何もない。つーか、才と海斗がいただろうが」

 

「もう二人は会わせた。後はお前だけだ。いいから来い」

 

 今日は帰れなさそうだ。

 まあ、食費が浮くんだしいいか。鯖味噌は今度にしよう。

 クロノが言う会わせたい人ってのは……あの人か。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 クロノがノックし、開いた扉を通る。

 

「失礼します。グレアム提督、朝霧綾を連れてきました」

 

「ああ、ご苦労」

 

 部屋の主である、初老に差し掛かったくらいであろう男性は、クロノに労いの言葉を与えた後、後ろをついてきた俺に微笑みかけた。俺はそれを受けて軽く会釈をする。

 ギル・グレアム。猫の使い魔を二人従えていて、はやてごと闇の書の永久封印を目論んでいる人物……だったな。

 そういや猫の使い魔で思い出したが、その使い魔の妨害にも警戒しなけりゃならないんだよな……今まで襲われなかったのは偶然か、休暇中の守護騎士は監視対象外だったのか……ともかく、これから先守護騎士らとの接触をした場合、本気で奴らへの警戒をしなければ。闇の書封印のために人を殺す覚悟があるんだから、冗談抜きで命の危機になりかねない。

 

「さて、立ち話もなんだ。どうぞ座りなさい」

 

「あぁ、はい。それでは」

 

 グレアム提督に促され、向かいのソファに座る。

 

「襲撃を受けて怪我をしたと聞いたのだが、大丈夫かね?」

 

「まあ、ここに来て、話をすることくらい難なくできる程度には大丈夫ですよ」

 

「そうか。それはよかった」

 

「で、話とは?」

 

 さっさと切り出す。早く終わらせて、怪しまれたり敵として意識されないようにしたい。

 

「君のことはクロノや君の友達から聞いたよ。あのアルハザードへの渡航に成功し、しかもそこから生還してきたということを」

 

「……その話は、俺もしないといけないんですかね? すでに海斗や才から聞いてるみたいですし、それ以前にも管理局の少将が来て話をしたというのが、そちらの耳に入ってそうなのですが」

 

「ああ。確かにコード少将が君と話をしたというのは私の耳にも入っているし、さっき言った二人から当時の様子も聞いた。ただ、私としては、コード少将と話した、見てきたものを最も客観的に話せるであろう君の話も聞いてみたいんだ」

 

「当事者何人に何度訊いたところで、答えは変わりませんよ。俺達はアルハザードの技術の『結果』しか見ていません。アルハザードの技術は持ち出していないし、その技術すら使えたものじゃありません。海斗はともかく、才はこれにほぼ近い答えだったのでしょう?」

 

「……驚いたな。その通りだよ。なぜわかったんだ?」

 

「あいつは、完全な天才ですから……もういいですかね? 話すべきことは話しましたし、家族がここに来るってことで色々やらなきゃならないと思うんで」

 

「ああ、そうか。ただ最後にこれだけは聞いて欲しい。君は、たくさんの友達や君を信頼する人に支えられているはずだ。その友達や、自分を信頼してくれる人の事を決して裏切ってはいけない。このことを、君は誓えるかね?」

 

「無理です。というか、嫌です」

 

「綾!?」

 

 横で立っていたクロノが驚きの声を発したが、それは無視。

 目の前のグレアム提督も、今の回答に難色を示した。

 

「なぜだね? 理由を聞かせてもらえるかな?」

 

「誓いっていうのは、神だとかその偶像だとかに宣言することというのが大義ですが、神や偶像がそれに応えたりすることがない以上、結局のところは一人で勝手な口約束をするようなものであり、そんなのは簡単に破れたり屁理屈でねじ曲げられてしまうんですよ。俺としては、人同士でする約束とか契約といったものの方が好きですかね。それなら守りますよ」

 

「……なるほど。そういうことか……なら、私にそう約束できるかね?」

 

「あなたも、それを守ることができると言うのなら。俺は、自分にできない約束をするもさせるもしない主義なので。……では、失礼しました」

 

 礼をして、クロノと共に退室した。

 

「綾、君はグレアム提督に警戒していたように見えたんだが、理由を聞かせてもらっても構わないか?」

 

 扉が閉じてから、クロノは俺にそう尋ねてきた。

 

「初対面の人に警戒しない理由なんてないだろ?」

 

 俺はそう答えた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 襲撃者が何者だ、とかなのはの家の近くに捜査本部を置く、という話は原作そのままなのでカットするとして、翌日。

 現在、捜査本部となるマンションへの引っ越し作業が行われていた。

 

「海斗ー、竹太刀はバイトでいないんだし、頑張れよー」

 

「海斗さん、頑張ってねー!」

 

 俺と、車椅子に乗っているアリシアが応援した。

 重そうな機材を重そうに運んでいる海斗がこっちを向いた。

 

「お前なぁ、ちったぁやってくれよ!」

 

「だって俺怪我人だから」

 

「だああっ、畜生! 確かにそうだけどその当たり前って顔がムカつく!!」

 

「でも、綾さんいないと私動けないよ?」

 

「あれ、由衣ちゃんは?」

 

「由衣ならフェイトの方だ。久々の再開に喜んでるぞ」

 

 ちなみにアリシアとフェイトの再開は昨日のうちにもうやっている。

 回想に入ると長くなるのでやめるが、二人とも再開に喜んだ。その後、フェイトがアリシアをどう呼ぶのかで色々手間取った。主に名前で呼ぶか姉さんと呼ぶか。たまに『お姉ちゃん』というオーダーをアリシアが出してフェイトがうろたえていたりもした。……結局は『姉さん』で決定されたが。

 

「畜生、なんで俺ばっか……」

 

「まあ、頑張れよ」

 

「他人事だと思って……!」

 

 なお、俺達がここにいたり、海斗がこうして引っ越し作業を手伝っているのはこれから俺達もここに住むからだ。

 理由はアリシアとフェイトを一緒にさせたいという俺やリンディさんの計らいとか、襲撃を受けた俺達の保護も兼ねている。後、一応俺と海斗は処罰を受けてる身だし。

 なお、事件対処でここで暮らす間は金額的には食事代を一部負担するだけでいいらしい。電気代とかはアースラ側が払ってくれるとか。やったね。

 ちなみに才は家が近所らしく、住み込みにすることを断った。ただ毎日マンションに通ってスタッフの手伝いはするらしい。

 

「じゃ、アリシア。そろそろまたフェイトの元に行ってみるか?」

 

「はーい!」

 

 海斗にはこのまま頑張ってもらうことにして、俺は車椅子を押していった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「こんにちはー」

 

「来たよー」

 

 フェイトと話をしていると、アリサとすずかがやってきた。

 

「ああ、お前らか」

 

「あれ、綾さん? なんでここにいるんですか?」

 

 アリサが俺の顔を見てそう訊いてきた。なんでってそりゃ……

 

「こいつの家族が来てるのに、連れてこない訳がないだろ?」

 

「ああ、そうでした。……フェイト、はじめまして……っていうのも変かな?」

 

 納得したアリサはフェイトへと視線を移す。

 すずかも続いてフェイトの方を向いた。

 

「ビデオメールで何度も会ってるからね」

 

「うん。……でも、会えて嬉しいよ。アリサ、すずか」

 

「そりゃあね! しっかし、生で見るとほんとそっくりよねー」

 

「ほんと。双子って言われても納得しちゃいそうだよ」

 

「うん、まあね……」

 

「そっくりさんなのだー♪」

 

 そっくりである理由が理由なために言葉を濁すフェイトと、理由を知らないがために嬉しそうに言うアリシア。まあこの差は当然か。

 さて、アリシアのことは由衣に任せて、俺も荷解きぐらいは手伝った方がいいだろうか……。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「ん、メール? 氷室から……由衣、アリシアを頼む」

 

「あ、はい」

 

(内容は……『話がある。家に来い』……一体何をする気なんだか……)

 

 とにかく、聞くだけ聞いてみることにしよう。借りもいくらかあることだし。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 俺達『反逆者』、氷室達『インテリ不良』、由樹ら『連合軍』の拠点の住所は互いに公開しあっている。

 『インテリ不良』の拠点はなのはの家に一番近いということで末崎の家(それでも数百メートルという距離があるが)。俺達とは違ってそれぞれチームメンバーの家が離れている彼らは、日中は拠点で生活。夜解散してそれぞれの自宅で睡眠という生活スタイルを取っているそうだ。ベッド一つしかないからな。俺も三戸五人暮らしの時海斗にベッド譲ってソファで寝てたし。

 それは置いといて、俺は氷室達の拠点、すなわち末崎家に来ていた。

 テーブルを挟んで向き合う俺と氷室。高田と末崎は氷室の指示で雑用仕事をして、用がない時は離れた場所から様子を見るといった感じだ。

 

「よく来たな。ま、とりあえずは茶でも飲みな」

 

「安心しろ。ちゃんと自分のペースで飲む。で、話ってなんだ? 言っておくが、借りがあるとは言えチームを変えるつもりはないぞ」

 

 しれっと返してから訊くと、氷室は「わかってるよ」と言って手をブラブラとさせた。

 

「安心しろ。むしろ今回の場合はチームを変えない方がよかったりするかもだぜ」

 

「あん?」

 

「以前、お前んとこに和也ってガキがいたよな?」

 

「ああ……いたよ。全く見ないけど」

 

 そう、全く見ない。とにかくこの半年近くであいつが俺達の前に現れていなかった。失格者の中に名前がないし、何よりなのは達の話にたまに出てくるから、今も生きてるはずだけど。

 でも、なんでいきなりそいつの話に?

 

「ああ、お前らがそのガキを見ねえのはよ、俺がたまたまそいつとばったり出くわした時に、お前らのチップの持ち数を軽く教えてやったんだよ。そしたらチップ数ゼロになってたそいつが勝手にキレだしてな。「あんなトロい奴らに俺様が負けるなんてあり得ねえ」とか言ってどっか行っちまった訳なんだよ」

 

「何やってんだかあいつは……」

 

 ほとんど自業自得じゃんか。しかもチップ数ゼロってことはジュエルシードの入手数を増やすこともしくじってこの指令に強制参加させられてんのか。

 

「……で、その和也がどうしたんだ?」

 

「実はそいつよ、十月の中頃に蒐集の被害に遭ってんだ」

 

 ……なんだと?

 

海鳴市(このまち)でか?」

 

「ああ。なんで知ってんのかって言われたら、見た奴がいんだよ。こいつも抜かれてんだ」

 

 言って、氷室が後ろに親指を向け、それに合わせて高田がペコペコと頭を下げた。

 

「わざわざ高田や和也を襲う意味は? 二人とも魔力の値は決して高くない。埋まるページの量にも高が知れてるぞ」

 

「近場に餌がありゃ、まずそれにがっつくのが常識ってもんじゃねーの。魔法生物と比べたら簡単に潰して蒐集もできるだろ」

 

「……俺達転生者を狙ってるってことか」

 

「そういうことになる」

 

「……………」

 

 確かに、ザフィーラが俺達に襲いかかったことからしても、前からそういう動きがあっても不思議じゃない。むしろ、守護騎士らがこの餌場を知ったら、管理局という敵が来る前に食い尽くそうという動きをするだろう。

 

「俺は高田からその情報を仕入れてから極秘で調査を続けた。そして結果として、奴らのこの街での蒐集活動の周期性を見つけたんだよ」

 

「……だが、もう管理局が来た今、守護騎士がこの街での活動をやめる可能性が高いぞ」

 

「いいや、まだ間に合う。奴らは一対一の戦闘では負けはないという確信があるだろうし、なのはとフェイトが実質戦闘不能の状態。むしろこのチャンスに一気に蒐集を仕掛けて取り尽くそうとするはずだ。転生者の大半は、目立つ魔法で仕留めるまでもないような奴ばかりだろうしな」

 

 ばっさりと言ったな。しかも強く言い返せない。

 なんせ、ザフィーラにボコボコにされてたアルフにボコボコにされる始末だからな、俺……。そして昨日にはザフィーラにほぼ一方的にやられてたし。

 

「一応お前はクリアしてる身なんだし、この情報を知りたくないならそれでもいいぜ? ただ、神を討つ奴が、シグナムにもザフィーラにも負けっぱなしっつーのはどうかと思うなぁ」

 

 ……やむをえんな。第一、俺だって奴らに負けっぱなしにはなりたくない。

 俺はテーブルに手を置き、身を少し乗り出した。

 

「……条件を言え。内容次第でその情報を買ってやる!」

 

「……まっ、お互い利益が最大になるようにしてやるよ」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、彼は口角を吊り上げた。




 次回、勝負が開幕します。

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