Magic game 作:暁楓
反逆者達の前に不穏な影が迫る。
第三話お楽しみください。
「ん……くぁっ……」
もぞもぞ、のそりと布団から這い出る。
目に映ったのは見慣れない部屋。昨日奴に用意された俺だけの自宅を見て、夢じゃないと改めて自覚する。
(今何時だ……)
眠気の残る目で時計を探す。いくらか視線を巡らせ、壁にかけられた五時三十六分を示す時計を見つけた。
(早い……じゃないや。大体予定通りか……)
これからは俺が自分を含む三人分の飯を作らねばならないため、朝は早く起きなければならない。
飯できたら二人を起こして三人で朝食取って、食い終わったら食器洗って洗濯もして、掃除もこまめにやるか。この世界の調査に探索……俺達が最もやるべきことが最後になってる気がするが気にしない。俺が母さんみたいなことやる感じになってはいるが気にしてはいけない。
(……まずは飯作っか)
料理はともかく、自分の家の掃除くらいは海斗にもやらせよう。
◇
朝食を三人で取り(主食は米、おかずは味噌汁に鮭の塩焼き、ほうれん草のゴマ和え)、食器を片付け、洗濯して(三人分纏めてやった)、掃除も一応やって、やることをやりきった後、俺は今度はパソコンを弄っていた。ネットは繋がっていた。
「どうよ?」
海斗が訊いてきた。由衣もいる。食事のみならず、そのうち寝るのも俺の家になるんじゃないだろうかこの二人。構わないけど。
海斗の質問に対して、俺は顔に難色を示した。
「……やっぱり厳しいな。完全に無理って訳じゃないけど、運に任せて出せるような額じゃない」
俺達がパソコンで見てるのは原作キャラが通う、私立聖祥大学付属小学校のホームページ。その中の学費について見ているんだが……はっきり言って高い。
奴のゲームに向けて、原作キャラに関わりやすくするため由衣を聖祥小学校に通わせようと思ったのだが、これはキツい。俺と海斗が年齢偽ってバイトで稼いでもだ。完全に無理ではないって言ったけど、冗談抜きでキツい。
その上、編入しても必ずなのは達と同じクラスになれるという保証はない。そこは完全な運任せだ。クラスになれなければ必然的にエンカウント率が圧倒的に低く、場合によっては関わることが困難になる。そんなギャンブル性の高いところに大金を注ぎ込む余裕はない。
「どうする? 由衣ちゃんが聖祥に行って同い年を活用してなのは達との接点を作るって計画。最初っから転けてんじゃん」
……返す言葉もない。
「……どこか市立の学校にしよう。どの道由衣は年齢的に学校に通わせなくちゃいけない。給食費とか色々出す必要が出てくるし、俺達はバイトはするぞ」
「おう。……ところで、無印ではなのは側とフェイト側、どっちにつくつもりなんだ?」
「指令の内容にもよるけど、管理局と接点を繋いで、味方につけたいところ。だからなのは側についた方がいいと思っての聖祥への編入計画なんだが……」
「ばっちり潰れたと……」
そうなんだよなぁ。
まあ、指令の内容がフェイト側の方が有利になるようなものであれば、やるべきことも変わってくるし、まだなのはと接触する時じゃないけど……。
「あ、あの……」
「ん? 由衣ちゃん、どうした?」
「えっと……私となのはちゃんが、その、友達になる方法なんですけど……」
「……あるのか?」
「あの……なのはちゃん達、塾に通ってるから……私もそこに通えば……」
「「……………」」
……それだーーーっ!
◇
なのはと接点を繋ぐなら、塾で繋げばいい。由衣のそのアドバイスのおかげで市立の学校で問題なくなり、午後に近くの学校への編入手続きを行った。
それにしても、手続きがかなり緊張した。俺の身体年齢が十四歳であるため、話し合いの時には怪訝そうな顔をされた。
どうにかして手続きが終わり、俺と由衣は帰路につく。ちなみに海斗は自宅待機。
「はぁー。これでなんとかなったか」
「お疲れ様です……学校かぁ……」
後半そう呟いた由衣の表情は暗い。前の学校ではいい思い出がないのだろう。
俺は由衣を安心させるべく、彼女の頭に手を置き、優しく撫でた。
「大丈夫さ。俺達がいるし」
「……はいっ」
由衣は嬉しそうに微笑んだ。その顔はとても可愛らしいものだった。
――そんな俺達の前に、一つの影が立ちふさがった。
「……お前ら、転生者だろ」
「……転生者? なんだそれは。悪いけど俺達は帰りを急いでるから」
知らないという風に答えつつ、いつでも動けるようにかつ相手に気づかれないように身構える。
立ちふさがったのは見たところ十二歳くらいか? 見るからにデバイスであることを伺わせる短剣、金髪、オッドアイ……ではないのは、自重ではなくチップで叶え損ねたからなんじゃないだろうか。
明らかに俺達に威嚇の姿勢を示している。本来なら意味のない行為。――ルールを把握してない転生者だ。
「とぼけんな。多少ガキっぽくなってもお前の顔は覚えてるぜ。あの時、最初に神に意見した奴だろ? そんでもってお前と一緒にいるってことは、そいつも転生者なんだろ?」
「……だからどうした?」
「お前、スターチップ一個も使ってなかったよなぁ。使わないんだったら、チップを俺に寄越せよ。全部だ」
説明読んでない奴ってこうも恐ろしくなるんだな。説明はちゃんとしっかり読むようにしないとな。
「断る。というか、ルール説明ぐらい読めよ。スターチップの譲渡や売買、強奪とかは禁止。違反した場合は即失格にされるんだぞ」
「はっ! そんなハッタリ効くかよ! 神は指令に従い、チップを集めて願いを叶えてもらう。これしか言ってねえ。そんなルールがあるなら、神がちゃんと説明するじゃねーか!」
言わないところに罠があるってのがわかんねーのかこいつは。
「まあいい。どっちにしろ敵は少ない方がいいんだ……二人ともぶっ殺して、それから奪ってやる!」
「危ない思考だな……」
短剣を上段に構えて突進してくる。ぶっ殺すという言葉からして、非殺傷設定なんてないんだろう。
……だが。
(……甘い)
握りが甘い。構えが甘い。それに遅い。
こんなの、スポーツだけは一流の、海斗の剣道に比べたら圧倒的に弱い。
短剣を簡単によけ、足を払ってあっさり倒す。
短剣を握る右手を踏みつけ、頭を地面に押さえつけ、殴る態勢を取る。
「誰をぶっ殺して何を奪うって? ガキ」
「ぐっ……!」
さて、こいつ警察に突き出そうかな。あ、警察署までの道のりがわからん。とりあえずなんか適当なもので縛って――
「きゃあっ!?」
「っ!?」
突然の由衣の悲鳴。振り向くと、由衣を抱えるようにして拘束し、首もとにナイフを突きつけるもう一人の少年がいた。
(野郎……グルだったか!)
迂闊だった。相手が一人と思って油断してしまった。
「クククッ……どうする? 殴るのか? 下手に動けばそのガキの命はねえぞ……?」
「クズが……!」
「お前も負け組だろ? とっとと離せよ。そしてチップを渡しな」
「……………」
ゆっくりと離れて立ち上がり、ポケットからスターチップを取り出す。区別がつかないチップを、普段しっかり持っておくように、俺から指示を出していた。
そのスターチップを、その場に放り投げる。
「へへっ……お前も、さっさとスターチップを渡しな……」
「で、でも……それはルール違反で……」
「由衣! ……今は身を守ることを考えろ」
「綾さん。でも……」
由衣は少し躊躇して、それからポケットからチップを取り出して俺同様に投げた。
「へへへっ……それでいいんだよ。……まだ動くなよ。人質がどうなっても知らねえからなぁ」
短剣持ちは地面に散らばった俺のチップを拾い上げる。ナイフ持ちも、由衣を人質に取ったまま由衣のチップを拾っていった。
「ったく……痛かったじゃねえかこの野郎!!」
「ぐっ!!」
「綾さん!」
短剣持ちの突然の一閃に、反射的に盾にした両腕が斬られ、鮮血が噴き出した。幸い、傷は浅い。
「てめぇはぶっ殺してやる……手足切り落として、メッタ刺しにしてぶっ殺してやる。そうやって他の参加者どもも殺して、俺がオリ主になってやるんだよぉっ!!」
「くっ……!」
狂人の刃が振り下ろされる。……ここまでか……!
ジュッ……。
「え……?」
「は……?」
互いに呆けた声を出した。肉を斬るのとは明らかに違う、蒸発するような音。そして短剣は、俺が触れるはずだった部分から先が
「な、何が起きた……?」
刃がなくなった剣を持って狼狽える少年。
俺も訳がわからなくなっているところに、もう一人の絶叫が響いた。
「うわあああああっ!?」
「っ!?」
絶叫の方に振り向くと、先に仰向けに倒れた由衣が見えた。
すぐに、由衣の元へ走る。
「由衣っ!」
「いたたっ……一体、何が……」
「……っ!」
走っている途中に『異常』に気づいた俺は、由衣の頭を胸板に押し付け、彼女の視界を封じる。
「わぷっ! り、綾さん!?」
「後ろを見るな……!」
……由衣の後ろには、由衣を抱えていた片腕と、胴体の大部分を失った少年の姿があった。削げた腹から、赤い筋肉や内蔵がはっきりと見える。俺でも下手に気を抜いたら胃の中身をぶちまけてしまいそうな程の吐き気と不快感が襲ってくる。不思議なことに、血は落ちてこない。
「な……何だよっ、何だよこれぇっ!?」
痛覚が潰されてるのか、意識はあるらしい。
少年が狼狽えていると、そいつの身体が青白く発光し始めた。
「な、何だ!? たっ、助け――」
少年が言い切ることは叶わなかった。言い切る前に少年は、光の粒子となって跡形もなく弾けてしまった。残ったのは、いつの間にか取り落としていた由衣のスターチップのみ。
「な、何だよ……何なんだよぉ……!」
狼狽える金髪少年の身体も、青白く発光し始めていた。
「……言ったろ。チップの強奪はルール違反で即失格だって」
「は……? 何言ってんだよ? そんなルールあるわけ――」
「ルール説明はメールで、開封済みとして表示されている。そこにちゃんと記されていた」
「……何だよ。なんでお前はそんなに知ってんだよ……」
「……警告はした。聞かなかったお前が悪い」
「ふざけんな――!」
刃のない短剣を持って殴りかかってきた。が、触れる直前にその腕が蒸発するような音を発して霧散した。
「ああああっ、う、腕がぁっ……!」
そんなやり取りの間にも、少年は光に包まれていく。
「た、助けて……助けてくれよぉ……!」
縋るように伸ばした手が、俺の腕に触れる前に霧散する。
「いやだ……いやだぁぁぁっ……!」
悲痛な声に対して無情に、パキンッ……と小さく音を立てて少年は光の粒子となって弾けた。
カラン……。俺のスターチップが地面と小さな音を立てた。
沈黙が流れる。そこでようやく、由衣が震えているのに気がついた。
「由衣……?」
「……綾さん……さっきの人達は……?」
「……消えた。失格者として、光の粒子みたいなのになって消された。多分、奴の仕業だ」
「……失格者って……みんなそうなるんですか……?」
「それは――」
自分で声が震えているのがわかった。一旦言葉を呑み込んで、言い直す。
「わからない。でも、可能性は高い」
「―――――」
由衣がよりはっきりと震えた。次には嗚咽を漏らし、俺にしがみついてきた。
「……嫌だ。死にたくっ、ひっく、死にたくないよ……綾さんや……海斗さんとまだまだ一緒にいたいよっ……」
泣きつく由衣を、俺は強く抱き締める。
「大丈夫だ……二人とも俺が守ってやる……!」
俺が二人を、海斗と由衣を守る。
それが、リーダーである俺の使命。
このふざけたデスゲームから二人を守り、そして止めてみせる……!
もう……失うことがないように……!
◇
服を破って両腕の応急処置を行い、泣き疲れて寝てしまった由衣を背負って帰宅。
由衣をベッドで寝かせ、ちゃんとした手当てをした後海斗を呼んで今日起きたことを説明した。
「つまり失格になったら……スターチップを払えなくなったら俺達死んじまうってのか!?」
「ああ……ほぼ間違いない。それと声がデカい。もうちょい抑えろ」
「あ、わりぃ」
寝ている由衣に気づいて海斗が声を抑えたのを確認してから、次の言葉を紡ぐ。
「それと、その失格者は願いを叶えてもらったにしては大して強くなってるように見えなかった。叶えてもらった内容にもよるけど……チップ一個の期待値は低そうだったぜ」
「マジかよ……一個からでもいいって話、ほとんど詐欺じゃね?」
……元はと言えば、俺が質問したからなんだよな、それ。
チップとの交換は何個からかと訊いて、奴は一個からでいいと答えた。もし俺があんな質問をしなければ、こんなことにもならなかった気がする。……まあ、たらればを言うのはただの言い訳に過ぎない。無駄だ。
「……とにかく俺達が生きるためにも、スターチップを集めなければならない。幸いチームルールで、俺達で指令を達成すれば由衣の安全も確保できる」
「だよな。由衣ちゃんを危険な目に遭わすのは俺も反対だぜ」
「最優先事項は俺達自身の安全確保。神への謀反はその次だ」
謀反する以前に俺達が生きていなければ意味がない。
まずは生きるためにも、力を蓄えるためにもスターチップを収集が必要だ。十分量を集めて、謀反はそれから。
具体的にいくつ集めればいいのか知ることができればいいんだが……まあ、たらればを言うのは以下略。
「まあ、話はここまでにして、そろそろ飯を作るか。ちょうどいい時間になったら由衣を起こしてくれ」
「お前、その腕で大丈夫なのか? 料理の時に下手したら、傷口開くんじゃね?」
「……………」
その日の夕食は急遽買ったコンビニ弁当になった。
◇
プルルルル。プルルルル。
差出人:管理者
件名:指令1
内容:
次の指令を指定期間内に実行、達成せよ。
指令内容:ジュエルシードを3個以上入手せよ。入手と判定される条件は、所有時間12時間以上、もしくは緊急指令等で管理者から入手承認を得た場合に限定する。なお、同シリアルのジュエルシードの複数回入手はカウントされない。
期間:PT事件終了(時の庭園崩壊)まで
報酬:入手したジュエルシードと同数のスターチップ
――午前零時。指令が携帯に届いた。
連日投稿三度目です。
あらかじめ書きためているので、まだ少しだけ連日投稿できます。
次回からいよいよ指令開始。転生者に課せられたのは願いを叶える種の収集。果たして、綾達はどう攻略するのか。
ではでは。