Magic game   作:暁楓

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第三十話

 リンディらアースラスタッフが現地入りした、翌日の深夜。

 今日も蒐集活動を行うべく、ビルの屋上にヴォルケンリッターが集まっていた。

 

「やっと三百頁を超えたわ。先日の魔導師を逃したのは痛いけど、なんとかここまでこれたわね」

 

 闇の書の文字が書かれている頁と書かれていない頁の境目を確認してシャマルは報告する。

 本来、原作ではなのはからの蒐集で三百頁を超すことになるのだが、海鳴市に魔導師――転生者が多く存在し、そこから蒐集していた。しかも大半が魔力強化の願いを叶えてもらっているため、蒐集の量もそれほど悪くもなかったのである。

 シャマルの報告を聞いて、ヴィータは「よしっ」と呟いた。

 

「やっと半分まで来たな」

 

「だが、先日管理局が来た以上、この街での蒐集活動も潮時だろう」

 

 ザフィーラが言った。シグナムもそれに頷く。

 

「負けはないだろうが、今日でここでの蒐集は終わりにする。いいな」

 

「了解。今日は、シグナムとザフィーラだったわね」

 

「じゃ、あたしとシャマルは他の世界に行ってくる。二人ともしくじんなよ」

 

「当然だ。では、行くぞ!」

 

 シグナムの号令で、四人は空へと飛び立った。四人の魔力光が空に軌跡を描く。

 

 その姿を、遠くから見届ける人影があった。

 その人影は携帯を取り出すと、どこかへと繋げる。

 

「氷室さん、僕です……」

 

 

 

   ◇

 

 

 

「おう。じゃあな」

 

 ピッ、と。氷室は電話を切った。

 

「……本当にシグナムとザフィーラが来るんだろうな。両方違った場合にはさすがに俺でもキレるぞ」

 

「問題ねえよ。俺のデータに狂いはねえ」

 

 深夜。俺、氷室、末崎の三人は道端でたむろっていた。

 氷室の情報を買う条件は、勝負の際に俺が氷室とタッグを組むこと。しかし、このデスゲームにおけるチームとは別である。

 早い話が、氷室はチーム戦の勝負で勝てば、俺も氷室も同時に二人に勝ったことになるのではないか考えたのだった。

 確かに理論的には問題ないし、チームを変えずに済むことから俺もその条件を承諾。シグナム、ザフィーラと勝負ができるという日を選び、今ここに至る。

 末崎は俺が来てもらうように頼んだ。発見されやすいよう魔力を垂れ流してもらう他にも、いくらか頼みたいこともある。

 また、俺と氷室はそれぞれ腰に俺が用意したポーチを着け、長杖を展開している他、俺の腰には短剣型のデバイスが据えられている。末崎のものなのだが、氷室が以前見た俺の刺突術から見越して貸し出してくれた。

 

「……それにしてもこのポーチ、(くせ)ぇんだけど。何入ってんだよ」

 

 氷室は眉間に皺を寄せて、自分の腰に着けているポーチを見た。

 臭いと言ったそれから発せられるにおいはかなりのもので、俺にも届いている。末崎の元にも届いているようで、鼻を押さえている。

 

「通販で買った世界一臭い缶詰め、シュールストレミングの汁だ」

 

「おいおい、マジかよ? てか、こんな臭ぇもんで何するつもりなんだよ?」

 

「俺がシグナムの相手をしている間氷室にはザフィーラを引きつけてもらうんだけど、その時にザフィーラの顔面に浴びせてくれ」

 

 沈黙が流れた。

 

「……………。……え、何? 聞き間違えた気がするからもう一度言ってくんねーか?」

 

 二回ほど目を瞬いてから、氷室が言った。

 

「安心しろ、聞き間違いじゃない。ザフィーラの顔面に世界一臭い汁をぶっかけろと言った」

 

 俺はいつもの顔で、なんともなさそうに言ってやった。

 氷室の顔が引きつり始めた。

 

「あー、あのさ。シュールストレミングだったか……それの汁って体に着いちまったら数週間においが取れないってテレビで聞いたことがあるぞ?」

 

「ああ、知ってる」

 

「……えーと、服に着いちまったらもうそれは捨てる他ないなんて聞いたこともあるぜ?」

 

「ああ。俺も缶開ける時に一着お釈迦になった」

 

「え? お前、俺に死ねって言ってんの?」

 

「解釈は自由だ」

 

 まあそう解釈してもしょうがないだろうな。

 においがこびりついた結果、仲間はともかく主から「臭い」なんて言われたら、そのショックは計り知れないだろう。その結果、もしくはそれを想像して殺意を覚えるのは、まあ十分ありえる。

 

「俺の策に乗るんだろ。気合いでなんとかしろ」

 

「お前、本当にその策で勝てるんだろうな?」

 

「お前が落とされることなく、俺が先にシグナムに勝てたらな」

 

「おい、来たぞ!」

 

 末崎が空に指差して叫んだ。

 指差した方向を見ると、空から二人の人影がやってきた。人影はこちらに降りてきて、暗くてよく見えなかった姿が街灯の明かりに照らされて露わになる。

 シグナムと、ザフィーラだった。

 シグナムは俺の姿を見て、驚きの表情を見せた。

 だが、すぐに凛とした表情に戻る。

 

「魔力を垂れ流している者がいると思って来てみたら、まさかお前がいたとはな……朝霧」

 

「そうですね。だいたい、二ヶ月振りになりますか……シグナムさん」

 

「知り合いなのか、シグナム」

 

「剣道で知り合った仲だ……朝霧」

 

 ザフィーラに簡単に答えた後、シグナムは俺に声をかけてきた。

 

「こうして私達の姿に驚かないこと、魔力を垂れ流しにしていること、そしてその手にしているデバイス……お前達は魔導師であり、時空管理局と繋がっている……そう見て、間違いないな?」

 

「否定はしませんよ。第一、そこの守護獣ザフィーラともやり合いましたし」

 

 シグナムがザフィーラを見た。ザフィーラは静かに頷く。

 

「ということは、お前達は囮で、近くに局員が潜んでいるのか」

 

「いいえ。俺達が勝手にやってるんですよ。管理局は俺達がこうしてあなた達と会ってることなんて知りません」

 

「……なぜだ?」

 

「単純戦力であなた方闇の書の守護騎士に対抗でき得る主力の二人が先日叩きのめされて、管理局が動くにはちょっと厳しい状態なので。でも、それでもすぐに動きたい理由があるんですよ」

 

「理由だと?」

 

「この街でも蒐集活動をしているらしいですね? 後ろにいる人の連れが被害に遭ったそうですよ。というか、それ以前にも俺が襲われましたし」

 

「……ああ、そうだ」

 

「正直、不安なんですよ。家族とも言える小さな子も魔力持ちなんで、襲われるかもって思うと。俺自身も、狙われるのは嫌ですし……なので」

 

 そこで一旦言葉を止め、深呼吸するように息を吸う。緊張感を抑え、言葉を言い放つ。

 

「勝負しませんか?」

 

「何……?」

 

「ルールは……これです」

 

 俺はあるものを二人に投げ渡した。

 

「……バッジ?」

 

 シグナムは受けとったものを見て言った。

 

「そのバッジを、服のどこかに付けてください。どこに付けても構いません」

 

 言って、俺はバッジを取り出してジャンパーの下の服に付けた。氷室は左腕の袖に付けた。

 それを見て、シグナムとザフィーラは二人とも左胸の辺りに付けた。

 

「勝負では俺と氷室、シグナムさんとザフィーラの二対二で、このバッジを取り合ってもらいます。相手チームのバッジ二つを奪うか破壊したチームの勝ち。自分のバッジを奪われた、もしくは破壊された人はその時点で勝負に干渉できないものとします。制限時間は無制限。強いて言えば管理局が嗅ぎ付けて来るまでですかね……あー、あと、俺達は飛べないので、飛行制限をお願いします。俺達が手を伸ばしてバッジに届く程度に。跳躍は問題ないので」

 

「……ルールはわかったが、勝敗の対価も教えてもらおう。それなりの対価がなければ、わざわざ敵に合わせるつもりはない」

 

「わかってますよ。あなた方は魔力が欲しいんですよね? なら、俺達三人の魔力は勿論として、他にも管理局に属していない俺達の知り合いをできるだけ集めて、その人達全員から蒐集できるようにする……というのでどうでしょう」

 

「……お前達が勝った場合には?」

 

「これから先、この街で蒐集活動をするのはやめると約束していただきます」

 

「自首しろ、とは言わないのだな」

 

「こう言っては何ですけど、たかだかバッジの取り合いで逮捕は嫌でしょう?」

 

 ……さあ来い。シグナムらにとって条件は悪くないはずだ。乗って来い……!

 沈黙が流れる。シグナムとザフィーラとで念話で相談でもしてるんだろうか。

 

「……いいだろう、朝霧。お前の勝負に乗ってやる」

 

「……ありがとうございます。じゃ、結界を張ってもらえますか」

 

「わかった。……ザフィーラ」

 

「心得た」

 

 ザフィーラの足元に魔法陣が展開され、そしてここを中心として空間が切り取られる。

 

「試合開始の合図は公平に、末崎がコイントスでやってもらいます。投げられたコインが地面に落ちた瞬間、勝負開始です」

 

「え? 俺!?」

 

 いきなり振られて、末崎が驚きを露わにした。

 

「ここは公平にするべきなんだからやってくれ。タイミングは任せる。ほら、コイン。道の端でやれよ」

 

 コインを末崎に手渡す。末崎はぶつくさ言いながら間に立ち、コイントスの準備をした。

 末崎がトスの準備をしたのに合わせて、四人全員が構える。

 

『氷室、開始直後に散るぞ。逃げることに集中しろよ』

 

『了解』

 

 氷室に念話を入れ、開始直後の準備をする。

 背中に手を回し、相手に見えないようにポーチをいじる。

 

「じゃ、じゃあ……いくぞ!」

 

 緊張した面持ちで、ピーン……と高くコインを弾いた。

 末崎が弾いたのに合わせ、ジュッ! とポーチ内の細工を動かした。

 ジジジッ……と小さくポーチ内で道具の作動音が俺の耳に届く。

 ……そして。

 

 ――キンッ

 

「勝負……開始ぃぃぃぃっ!!」

 

 耳に届いた小さな金属音。それにいち早く動き、両チームの間にポーチの中身の一つを放り込んだ。

 

 導火線が辿り着き、閃光の花が両者の間に咲き乱れた。




 なんか氷室に死亡フラグ的なものが。氷室頑張って。
 世界一臭い缶詰の逸話はテレビで聞いたことがあるのを載せただけです。
 あと、綾がシグナムに敬語なのは剣道の時に敬語で話したからです。描写はされてませんけど。
 相手は烈火の将と盾の守護獣。綾はどこまで仕掛けられるんですかね。そして勝てますかね? 自分でも不安です。
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