Magic game 作:暁楓
なんか、書いてると一手一手が長くなるんだよね。説明とかで。
突きが来る。
左に回避。無駄は作るな。
反撃。回転を加えて後ろ首へ。
カンッ!
鞘で防がれた。
それも後ろを向かずにだ。後頭部にも目があるのかよ。
右薙ぎが来る。距離を取って回避。
剣を持つ右手とは逆の左手でポーチ内の着火道具を操作。当たり前だが止まってる暇なんてない。走りながらだ。
着火させた物を投擲。火薬を可能な限り詰め込んだプラスチックの箱が爆破。
「……っ!?」
爆風に怯む俺に対して、シグナムはものともせずに接近して来る。おい、爆風そっちにも仕事しろよ。って、ふざけたこと考えてる場合じゃ、ない。
回避――できない。爆風に踏ん張るため硬直している。間に合わない。
防御は? ――論外だ。プレシアの時の二の舞だぞ。ガス欠になる。
受けるしか、ない。
「動、けっ」
左膝を上げた。
踏ん張りが利かなくなって風に押される。そこにシグナムの唐竹が、来る。
シュッ、という爆風に流されそうな、想像以上に小さな音。
線に沿って、しかし実際より小さく割れる皮膚。
そして割れた箇所から噴き出す鮮血。遅れて伝わってくる痛覚からの信号。
「くっ――!」
「でああっ!!」
追撃の回し蹴り。これも防ぐ術がなく、甘んじて受けた。
無様に地面に転がる俺。
何回目だろう。数えてない。否、数える暇なんかない。そんな余裕があったら転がることすらない。多分。
「何度も言うが、そんな小道具でダメージを負うほど、我が甲冑は弱くない」
これほどの爆発が小道具扱いだ。正直、この言葉は効く。しかしこれが現実だ。
しかし、それ抜きにしてもシグナムへのダメージが軽微だ。理由は、炎熱を操る騎士にこの程度の火力では効かないとシグナム自身が言っていたけど。
「げほっ! ごほっ……」
咽せるな。そんな暇もないぞ。
……まだだ。まだ速く動く必要がある。他も強くする必要がある。
魔法陣展開。
強化魔法行使。
「ぅっ、ぶ……! お゛ぇ……っ」
何か気持ち悪いものが込み上げて、思わず吐く。
シグナムの、呆れた声が耳に届いた。
「……無理をするな。過剰強化は己の首を締めることになるぞ」
シグナムの言ってることは正しかった。
強化魔法には限界レベルというのがあるらしく、一つの強化値や合計の強化値が限界値を超えると
だが、それでも構わない。構っていられない。
「……まだまだぁぁぁっ!!」
加速強化×4の速度でシグナムへと迫り、突きを繰り出す。
かなりの速度で繰り出された攻撃は容易く流される。構わない。
ガガガッ、とブレーキをかけ、横薙ぎの斬撃。防がれる。
斬る。斬る。斬る斬る斬る斬る斬る。
しかし全てが防がれ、いなされ、かわされる。
「このっ……!」
「空牙っ!!」
「がっ!?」
最初に当てられたのと全く同じ箇所に剣圧が叩き込まれ、吹き飛ばされる。
「げっ、ごほっ!!」
斬撃の痛み、強化の負担などが重なって尋常じゃない痛みが襲いかかる。
痛みで起き上がれない。
「……今更だが、元々今回を持ってこの街での蒐集はやめるつもりだった。おそらくは朝霧が勝負を持ちかけるまでもなく、お前の仲間から蒐集することもなかっただろう」
シグナムの声が聞こえてきた。
氷室から聞いて、予想はできていた。勝負を飲むことができたのにも、それが理由となっていたはずだから。
「朝霧との勝負は心躍るものだが、お前が無理をして何かあれば、私が主に顔向けできないだけではない。私自身も、そのような勝負は望まない」
「……………」
「お前の仲間の魔力はいい。ここで引け! もう十分、ベルカの騎士には適わんとわかっただろう!」
「……ははっ」
俺は乾いた笑い声を上げた。
すでに傷だらけで、震える身体に力を入れる。
「何を言い出すかと黙って聞いてりゃ、引けだと? ふざけんな……あんたは相手が自分より強いからって退却一択しか選ばないのか? 違うだろうが。引けないとか引きたくないとか、そんな相手だってあるだろうが……!」
悲鳴を上げる身体を奮い立たせ、立ち上がる。
強化状態はそのままだから、吐き気は消えてない。また込み上げてくる。
「ぶっ、……第、一……よぉっ!!」
短剣で地面を鳴らす。短剣も、刀身にヒビが入って限界が見えてきていた。
「男が……同じ相手に負けっぱなしでいられるかよ!!」
面食らったような顔のシグナムに、剣先を突きつける。
「俺は騎士を名乗るつもりはねえが、あんたは騎士なんだろ? 騎士は、どんな相手であれきっちり勝負をするもんじゃねえのか……」
「……………」
シグナムは黙って、目を伏せた。
ややあって、フッと、シグナムが笑った。
「……そうだな。私は、お前の信念をいつの間にか踏みにじっていたのかもしれん」
レヴァンティンから、空薬莢が一つ排出され、そして刀身が炎を纏った。
「だが……お前をいつまでも無理させる訳にもいかん。この一撃で、墜とす」
「……やれるもんならな」
シグナムは中段の構え。
俺は片平突きの構え。
一撃で墜とすと言った以上、シグナムは本気だ。目立ったダメージもない状態で、本気を出されるのであれば直撃は本当に一撃で墜ちる。
今、付加させている強化魔法は
これ以上、新しく追加するのは身体が持たない。これでやるしかない。
剣を強く握り直す。ミシリ、という音はデバイスからではなく身体から直接鳴った。
(勝つ……絶対に勝つ!!)
踏み込む脚に力を入れる。ビキリ、と脚からの悲鳴が伝わる。
――構うものか!!
「ギッ……オオオオオオオオオオッッ!!!」
強化された速度でシグナムへと迫る。
自分で強化しておいて何だが、すごい速度だ。認識するのがやっとだ。
――それでもいい!!
「ッ!!」
俺が踏み込み出したのとほぼ同じタイミングで、シグナムの構えが上段へと変わった。
そのまま振るえば、俺の脳天に直撃するだろう。
――構わない!!
「紫電――!」
顔が
――上等!!
非殺傷とは言え、それは完璧な訳がないんだ。当たれば本気でまずいぞ。
――構うか!!
「――一閃ッ!!!」
(―――――今だッッ!!!)
「グブッ、ごぼっ!!」
身体が耐えられず、口から逆流した胃液と血液が吹き出る。
――目を逸らすな!!
炎を纏う剣が、縦に真っ直ぐ振り下ろされる。
――ここだ!!
振り下ろされる剣の、刀身の根元を、直接掴み止めた。
「何っ!?」
「捕まえたっ……!」
斬撃は、突きを除けば全て遠心力が威力に繋がる。勿論遠心力が全てではないが、それでも遠心力が最も働かない根元は最も威力が低い。
それでも斬撃は骨まで食い込んだ。ジュゥッ、と接触面が焼ける。激痛が走る。
――まだ、離しちゃダメだ!!
「くっ……!」
この一撃に全力を注いでいたシグナムは、踏み込みに力を入れていて足が動かない。防御しようにも、レヴァンティンを両手持ちだった状態で手を離し、防御するまでにこの場合では時間がかかりすぎる。
――取った!!
――ビリッ
布が、破ける音。
欠けたシグナムの甲冑のジャケット。
すでに俺の右手に剣はない。代わりにあるのは、その欠けた部分の布と……その布に針が刺さったバッジ。
――勝利の条件だ。
俺の勢いが強すぎて、シグナムを巻き込んで地面を転がる。
なんとか止まった時には、俺の上にシグナムが乗っているような形になっていた。
俺は、右手のバッジを見せ付けた。
「……俺の、勝ちだ」
「……ああ、私の負けだ」
暗い中、夜空の星と一緒に彼女の呆れたような笑みがうっすらと見えた。
少し遠くから打ち上げ花火の光が、そんな笑みを僅かに照らした。
おい、なんかシグナムルートに入りそうな感じに見えるのは気のせいか?
待て綾。お前の道はこっちじゃない。
という訳で、綾とシグナムの決着です。シグナムの敗因・バッジのことを忘れる。いや、マジです。
キリが良いのでここまで。氷室は放置しました。キレたザフィーラ相手に頑張ってるんじゃない?
次回で決着とします。次回でシグナムの出番もほぼ終わりだと思います。
あ、ザフィーラにはそれ以降もまだ出番がある予定です。
シグナム「っ!?」