Magic game   作:暁楓

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 前回の後書き通り、これから綾の出番がごっそりなくなります。
 代わりに、才やその他のチームの人達の頑張りを書いていこうと思います。


第三十五話

 どうしてこうなった、という台詞を考えた人は凄いなと才は思った。

 なぜ彼がそう思ったか。簡単だ。今、自分自身がどうしてこうなったと考えているからだ。

 

「あぅ、えっと……才、どうしよう。緊張してきちゃった」

 

 隣にはアースラで半年ほどの付き合いになる金髪の少女が狼狽えていた。

 ここは、私立聖祥大学付属小学校。なのはの通う学校。

 才とフェイトがいる場所は教室の扉の前。二人ともここの生徒の指定制服に身に付けている。

 今日から、才はフェイトと共にこの学校の生徒なのである。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 アースラスタッフの引っ越しの日に遡る。

 引っ越し作業が終わり、フェイト達が翠屋制服を受け取り、綾が氷室と取引を行っている頃。

 海斗や竹太刀とともに才がマンションでクロノとエイミィの話を聞いていた頃、マンションにあるものが届いていた。

 その届け物を受け取ったエイミィが戻ってきた。

 

「才くん才くん! はい、これ」

 

「……これは?」

 

「開けてみて?」

 

 言われるまま開けてみると、そこには白い制服が入っていた。

 

「……これは?」

 

 一つ前の言葉とは違うニュアンスで才が尋ねた。

 

「聖祥小学校の制服。休み明けから、フェイトちゃんと一緒に小学三年生ね」

 

「……………え?」

 

 表情を一切変えないまま、才は制服とエイミィの顔を交互に見た。

 

「才くん、両親がいない関係で学校に行ってないんだったよね? リンディ提督が親代わりになって手続きしたから。やっぱ学校に行ける方がいいでしょ?」

 

 そうだ。才はリンディ達にそう説明した。なので学校に通っておらず、半年間アースラに住み込んで無償奉仕活動も可能となっていたのである。

 

「……………えっと」

 

「一応、なのはとフェイトの護衛もある」

 

 クロノも入ってきた。

 

「なのはもフェイトも、現在デバイスが修理段階で丸腰状態だ。数日間とは言え、襲われる可能性も否定できない。他にも何かあった時を考えて、君を護衛として行かせた方がいいということになってな」

 

「……藤木さんは? あの子も襲われる可能性が否定できないんじゃないの?」

 

「あの子にはあの子で護衛を付ける方針で決まった」

 

「……………了解」

 

 どっちにしろ、手続きがもう終わってるのだから拒否は無理か。と才は諦め、頷くしかなかった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 で、休み明けの転校初日の今日、今、ここに至る訳だ。

 

「才くん、フェイトさん。どうぞー」

 

「……行くよ」

 

「え、あ……う、うん」

 

 教室から担任の声がかかり、まずは才が先鋒として教室に入る。オドオドしながらも、フェイトも後に続き、二人とも教壇の上へ。

 

「ではお二人とも、自己紹介をどうぞ」

 

「……天翔才です。よろしくお願いします」

 

「フ、フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」

 

 そして礼。教室中から拍手が鳴り響いた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 フェイトにとって緊張と困惑の連続である転校初日、その午前の部も終え、昼休み。

 なのは達、所謂聖祥の三人組はフェイトを屋上へと案内し、昼食とした。

 

「フェイトちゃんのそのお弁当、誰が作ったの? リンディさん?」

 

「ううん、今日は竹太刀さんが。姉さんの介護の関係で綾さん達が住み込んでるんだ」

 

 すずかの質問に簡単に説明しておく。

 本当は綾が担当する予定だったのだが、その綾が昨日の夜に大怪我。やむなく竹太刀が担当することになったのであるが、ちょっとそのことについて少し悩んでもいた。

 

(無茶をさせないためにユーノやリンディ提督に賛成したけど、一切禁止はやりすぎたかな……回復魔法はダメだけど、治癒補助ぐらいはよかったかも)

 

 綾のあまりの無茶に対して怒った勢いの判断に、今更ながら少し反省していた。

 実はフェイト、一度だけだがアースラで綾の手料理を食べたことがある。手料理……というよりはスイーツなのだが、それはとても美味しく、彼の料理の腕がかなりのものだと知り、自分が学校に通えるとわかってから彼の弁当が楽しみだった点もあった。

 まあ、完全に回復させたりしたら、ユーノが言ったようにまた無茶しそうだから、反省したと言っても治癒補助止まりなのであるが。

 

「あー、竹太刀さんも綾さんも料理上手なんだよねー。この前なんて綾さんが翠屋でお父さんの新作の隠し味を見抜いたりしてー」

 

「あぁ、そんな話あったわねー。私んちに来た時に由衣が持ってきたあのお菓子、あれも綾さんの手作りなんだっけ」

 

「あれ、美味しかったよねー」

 

(……やっぱり、ちょっとリンディ提督にお願いしてみようかな)

 

 三人の会話に少し罪悪感を持ったフェイトは、治癒補助だけでも頼むよう交渉してみようと思った。

 

「……それにしても……」

 

 アリサは一旦その話題を打ち切って、フェイトと一緒に連れてきたある人物をジト目で見た。

 才である。フェイトが誘い、こうして同じく食事をしているのだが……

 

「……あんた、会話には参加せず、弁当はおにぎりで、右利きのはずなのになぜか左手でペンを持って、一体何書いてるの?」

 

 才の状況を事細かに解説した後にアリサが尋ねた。

 才はアリサが言った通りのことを黙々と行っていた。ノートの上に紙を乗せ、その紙になにやら書いている。

 

「才くん、何書いてるの?」

 

 試しになのはが才の背後に回り込んで、彼の書いているものを覗き込んだ。

 ……すぐに戻ってきた。しかも涙目。

 

「アリサちゃん! 才くんが全くわからない言葉を書いてる! 読めない!」

 

「ええ? どれどれ……」

 

 次にアリサが向かい、すずかもその後に続いた。

 一瞬で、アリサの眉間に濃い皺ができた。

 

「……え? えっと、なにこれ?」

 

「……えっと、何かの暗号、かな?」

 

 気になったのでフェイトも覗いてみることにした。

 

(……え?)

 

 その紙面に、首を傾げる他なかった。

 紙面には、バラバラな箇所に、日本語でも英語でも、ましてやミッド語でもない文字が単語単語で書かれていた。右上には何か線が引かれている。しかしフェイトには、何かを書いているということした理解できない。

 

「……えっと……これ何語?」

 

「……ロシア語」

 

「ロシア語!? 普通英語じゃないの!?」

 

「わ、私英語もあまりわからないんだけど……」

 

 才の回答に、アリサがツッコんだ。なのははアリサの台詞に少し顔が引きつっている。というか、まず小学三年生なのでなのはの意見が普通なのであるが。

 才はその空白だらけの文(?)が書き終わったらしく、事前に持ってきていた同じような紙数枚に重ね、その数枚の隅を纏めて折り、そして後ろにいるアリサに差し出した。

 

「?」

 

「……読んでみる?」

 

「え? えっと……い、いいわよ。読んでやろうじゃない!」

 

 アリサは強がって紙束を受け取った。

 心配だったのか、すずかがこっそり訊いた。

 

「アリサちゃん……ロシア語なんて読めるの?」

 

「よ、読めないわよ! でも、なんか馬鹿にされてる気がしてならないの!」

 

「馬鹿にしてはいないと思うけどなぁ……」

 

「……読み方がわかれば合格」

 

 才がボソッと呟くように言った。

 それにより、アリサの闘争心に火がついた。

 

「上等よ! 読んでみせるわ!」

 

 アリサは言って、紙をパラパラと捲った。

 紙には全てバラバラな箇所に単語が書かれている。右上にはさっきみたのは縦の直線だったのが、斜めだったり、曲線だったりしている。そしてこの謎の文と図は裏にもあるのだ。しかし裏の場合には、図の位置が左右逆になっている。

 

「う、うぅ〜……」

 

 アリサが唸る。すずかも困り顔で、なのはに至っては頭から煙が出そうになっていた。

 そんな中、フェイトは淡々と頭の中で紙束を整理していた。

 読み方がわかれば合格、と言っていたのだから、これは発想の問題だろう。だとすれば、ただ読むだけではわからない。

 

(読み方に法則性が? それとも何かを隠すとか……)

 

「……今日は、いい天気だね」

 

「え?」

 

「ここで天気の話!? もっと別のタイミングないの!?」

 

「日差しが強い」

 

(日差し? 紙と、日差し……………あ、ひょっとして)

 

「アリサ、それ、貸してくれる?」

 

「え? いいわよ。はい」

 

 閃いたフェイトは、アリサから紙束を受け取り、軽く角を揃える。そして、太陽の光に翳してみた。

 すると、光によって紙が透け、単語は一つの文に、線は一つの図形になったではないか。

 

「「「おぉ〜!」」」

 

「……合格」

 

 三人の感嘆声。続いて、才の合格の一声が発せられた。

 

「すごーい! すごいよフェイトちゃん!」

 

(あれ……でもこれ……)

 

 喜ぶなのはに微笑み返しながらも、フェイトは完成したそれに疑問を持った。ロシア語ということで文は読めないが、図形は別だ。

 図形……というか、設計図のようであるそれ。それに描かれている薬莢のようなものに見覚えがあった。

 

『あの、才。これって……』

 

『……念話ってことは、気づいたんだね。それは僕のデバイス用の、ベルカカートリッジシステムの搭載と運用理論……』

 

 やはり、とフェイトは思った。薬莢型のこれは、カートリッジなのだ。

 

『カートリッジシステムの構造や設計を調べて、僕のデバイスに搭載するために必要なものを調べて計算した。必要な部品、必要な耐久力、増える重量、使用時の増加魔力やデバイスと術者にかかる反動……』

 

『あ、えっと、それが、この一枚分に?』

 

 と、ここで念話を聞いたなのはも会話に入ってきた。話が長くなりそうだったので無理やり割り込もうとしたのが窺える。

 

『それは有り得ない。合計で二十数枚分。それはその一部を思い出して書いた……』

 

『えっと、わざわざロシア語で、こんな風に書いた理由は……?』

 

 フェイトが気になったところを尋ねた。思い出して書いたというのはとんでもない話だが、それ以上にアースラスタッフには読めない言語で書く必要があるのだろうか。

 

『気分。書いてる途中で綾だったらすぐに読み方を気づかれそうだと思って、さらにレベルを落としたそれを君達に見せることにした』

 

『あー……そうなんだ』

 

 フェイトは詳しくツッコむのはやめた。やめるべきだと思った。気分でこんなロシア語の暗号を、しかも裏の場合は文字や線を反転させながら書いたのだ。もはや適いそうにない。

 そして、カートリッジシステムの運用理論ということで思ったことが一つできた。

 

『才、この理論、私達のデバイスでも使えるかな?』

 

『使えないよ。僕用の設計だから』

 

 バッサリ斬られた。

 

『その理論を元に二人のデバイスそれぞれのカートリッジシステム運用理論を作るのは可能かもしれない。けど、僕は他人のものまで責任はとれないから、技術部に相談した方がいいと思う。それもすでに技術部に渡してあるから……』

 

『うん、わかった。そうするよ』

 

『フェイトちゃん。私も、お願いしてみるの。今度は絶対、負けないように』

 

『うん。私達も、もっと強くなるために』

 

 二人の決意は固まった。

 二人のデバイスも、新たな力を自ら望み、二人と二機はより強さを得る。




 才の天才レベルは凄まじいです。具体的なレベルは物語の関係上ここでは教えられませんが、とりあえず超チート級であることは確かです。リアルチートです。
 才のデバイスにもカートリッジシステムを追加します。そう言えば才のデバイス名が明らかになってませんね。近いうちに才が戦闘に出るより前に出そうと思います。

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